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特別収容プロトコル: SCP-1631-1実例は工業用の鋸刃を使用して墓標から除去します。除去作業の間、該当区画は修復工事中という説明の下に、一般利用者の立ち入りを禁止します。SCP-1631を先制して発見した民間人は記憶処理されます。
説明: SCP-1631は、デンマーク国内の特定の墓標で、花のような結晶質の物体 (SCP-1631-1と指定) が成長する現象です。その不自然な色調にも拘らず、SCP-1631-1実例の組成は基質と同一であり、花崗岩や大理石などの墓石によく使用される材質から成っています。
観察された全ての事例で、SCP-1631-1実例は主に幼児期から約15歳までの児童の墓標にのみ影響を及ぼすことが示されています。
発見: SCP-1631は1989年、ある人物が、甥であるルナール・ヘルグソンの墓標として設けられた智天使像が損壊され、幾つかの奇妙な構造物が取り付けられたと報告した際に初めて発見されました。この事件は犯罪行為として全国的な注目を集めたため、問題の構造物の綿密な調査を行い、異常性を確証するにあたっては、財団非常時対応策3B6 (スケープゴーティング) を利用する必要がありました。
発見とその後の分類以来、SCP-1631の発生例は時間とともに減少しているように思われ、これは乳児死亡率の長期的な減少傾向に対応していると仮定されています。この異常現象を引き起こしている要因は未だ不明です。
補遺 1631.1: ハリー・ニールセン次席研究員へのインタビュー
回答者: ニールセン次席研究員
質問者: サイト管理官 ライカス
序: ニールセン研究員の3歳の息子が細菌性髄膜炎で死去した後、その墓石はSCP-1631事象の影響を受けた。
[記録開始]
ライカス: ハリー、私にはもう、ジョナサンのことは気の毒としか言いようがない。全く酷い話だ。サイト-72の皆が、君やソフィアと共に哀しんでいるのをどうか忘れないでくれ。
ニールセン: ありがとうございます、サー。光栄です。
ライカス: さて、話を軽く終わらせるつもりはないんだが、SCP-1631現象について何か新しい情報を伝えたいそうだね?
ニールセン: はい。僕自身は例のアノマリーをしばらく研究していませんが、エマ・ポールセンの事例では死後3年経つまで構造物が出現しなかったそうです。つまり、この現象を引き起こしているのが何者であれ、影響までの時間はまちまちです。だから、僕は墓地用の監視カメラを買い、ジョナサンの墓に向けていました。
ライカスが口をつぐむ。
ライカス: どうして - いや、いい、これは私が言うべき事じゃないな。それでは、このアノマリーの裏にいる何者かの正体を掴んだと思っていいのかい?
ニールセンはノートパソコンを取り出し、狭い墓地を映した動画ファイルを表示して再生ボタンを押す。
ニールセン: 現れるまで数日かかりましたが、この通り...
映像には、1人の若い女性が画面外からジョナサン・ニールセンの墓に歩み寄り、しゃがみ込んで墓石を調べる様子が映っている。彼女が碑文を読む際、その姿は一瞬"ちらつく"かのように消えた後、再び安定する。
女性が墓石に優しく触れると、多数のSCP-1631-1実例が大理石からゆっくりと成長し始める。女性は約1時間その場に立ち続けた後、足早に画面外へ出て行く。
ニールセン: 翌朝、墓地を確認すると、花のような構造物はありましたが、誰かが訪れた形跡は見つかりませんでした。足跡は残されておらず、警備員はその時間帯に誰かが出入りするのは見かけなかったと証言しています。
ライカス: 興味深い。どうやら我々の相手には実体があるようだ。夜間の映像だから理想的な映り方じゃないが、今ではこの容疑者に捜索範囲を狭めることができる... ありがとう、ハリー。これは収容チームが調査対象を絞り込むうえで大きな助けになるはずだ。
ニールセン: 実はその件ですが、僕も収容の取り組みに参加させていただけないでしょうか。
ライカス: それはあまり良い考えじゃないな。
ニールセン: しかし-
ライカス: 私はね、管理官として無情な真似はしたくない。もし、それで君の心が少しでも救われると考えたら、私としても君をこのプロジェクトに参加させたいさ。だが、これでは何の解決にもならない。子供を喪うのがどういう経験か、分かるふりをするつもりはない。ただ...
[ライカスは溜め息を吐く。]
ライカス: いいか、誰かに先立たれた最初の数日間は一番楽だ。なかなか薄れない衝撃を、まるで毛布のように抱き締めて、あらゆるものを寄せ付けまいとする。しかし、それは永遠には続かない。だから仕事に打ち込む。次から次へとプロジェクトに没頭することで、腰を下ろして愛する人に二度と会えないことを認めなければならない瞬間が迫り来るのを逃れようとする。それは決して上手くいかない。遅かれ早かれ、誰もがそれに追いつかれ、世界を粉々に砕かれるんだ。だから... ゆっくりでいい。家族と一緒に居てやれ。準備ができたら受け入れよう。
[記録終了]
結: ニールセンは忌引休暇に戻り、監視映像に捉えられた女性は暫定的にSCP-1631-2と指定された。
説明更新: SCP-1631-2は若い女性に似たヒト型実体であり、SCP-1631-1実例の生成を引き起こしていると考えられています。SCP-1631-1実例を生成する仕組みや、その具体的な動機は依然として不明です。機動部隊パイ-3の全隊員は、SCP-1631事象の半径1マイル以内にSCP-1631-2の特徴と合致する女性がいないか、警戒を怠らないことが求められます。
補遺 1631.2: 追加の映像記録
2020年10月13日、ニールセン研究員は3週間の忌引休暇を終えてサイト-72に復職しました。彼はサイト管理官ライカスに対して、同僚たちに定期的に送っていたメッセージとは裏腹に、実際には自宅に留まっておらず、直接の命令に反してSCP-1631-2の独自調査を進めていたと告白しました。
[記録開始]
[ニールセンは風化した鉄の門の外に立っている。頭上の看板には"Skagen Kirkegård"と記されている。]
ニールセン: よし、これでいい。こうしなきゃならない。
[ニールセンは墓地の外に立っている警備員に小さな札束を手渡し、入場する。彼は懐中電灯を掲げて、墓石が並ぶ中を北東に歩いていく。小雨でカメラの視界はぼやけている。数分後、彼はSCP-1631-2に似た女性が小さな石造りのベンチに腰掛けているのに遭遇する。彼女は足元にある小さな花崗岩のプラカードを見つめているようである。]
[ニールセンは立ち止まり、少しの間、小雨の中に立っている。どちらも口を利かない。]
SCP-1631-2: またアンタか。ここ何週間も前から尾けてたでしょ。私を... 捕まえて、立ち向かおうっての? 多分、何か子供と関係があるんだよね。
ニールセン: 僕の... 息子だ。3歳だった。細菌性髄膜炎。君は息子の墓石に花を添えた。
SCP-1631-2: ご愁傷様。でも生憎、無駄足だったね。私はアンタが求めてる答えを持ってない。
ニールセン: 答え?
[SCP-1631-2は頷く。]
SCP-1631-2: そう。アンタは説明を求めてここに来た。何故かを知りたかったんでしょ。ただの幼い子供よりも罪深く、死に値する奴らが世界中に沢山いるのに、何故自分の息子が死ななければいけなかったのか。もしかしたら墓場に目印を残す私のことを殺人犯だと思ったかもしれないね。とにかく、アンタは何かしらの幕引きを望んでた。でも私はそれを与えることはできない。毎日のように、善良な人たちに悲惨な事件が降りかかるし、その責めを負ってくれる怪しいモンスターは何処にもいない。私たちにできるのは、ただ彼らを忘れないことだけ。
ニールセン: ぼ... 僕は...
[ニールセンはSCP-1631-2の横のベンチに崩れ落ちる。カメラ視点が下降したことから、彼が顔を手に埋めていることが伺える。カメラは数分間この視点を維持する。]
ニールセン: これを解決できれば、どうにか全てを正せるような気がした。少なくとも、苦しみを和らげることができると... でも... ライカスは正しかった。真実から逃げているだけだった。そして今、僕の世界は砕かれたんだ。
SCP-1631-2: それでも世界は回る。いつかは先に進まなきゃならない。
[ニールセンは顔を上げ、SCP-1631-2に向き合う。]
ニールセン: 受け入れるしかないんだろうな。ありがとう、でも... 君は何者なんだ? つまり、何故こんな事をしている? 一体どうやって?
[SCP-1631-2は身振りで足元の墓標を指す。ニールセンは首を伸ばし、碑文を読む。]
ニールセン: "アンナ・ステファンスドッティル。我らの小さな天使、あまりにも早く去った"。君の娘か? 気の毒に。
SCP-1631-2: 違うよ、娘じゃない。この子は — ええと、説明が難しいんだけど... アンタの息子を例に挙げようか。もし息子が死ななかったらどうだったか想像したことはある? もしその機会さえあれば、どんな人間に育ったかを?
[ニールセンは答えない。]
SCP-1631-2: 私の母さんもそうだったと思う。でも母さんは他の人たちとは違った。ある種の力を持ってた。求めたことは現実になった。そして、母さんは何よりも強く、赤ちゃんが成長した姿を見たいと望んだ。そして、まぁ、こうして私がいるってわけ。
ニールセン: じゃあ、君は死んだのか? そして-
SCP-1631-2: 私はそもそも生きてなかったから、死ぬことはできないよ。早死にした可哀想な女の子はアンナであって、私はアンナの母さんの哀しみから創られた。真面目な話、私は誰でもない。自分の人生を生きる機会が無かった子供の理想像でしかない。母さんは、娘が誰かを喪った人に思いやりを持ち、そして何より、自分と同じ苦しみを味わう親がいなくなるように最善を尽くす人間になることを望んだ。
ニールセン: うーん。しかし、どうして花なんだ? 慰める手段は他に幾らでもあるのに。
SCP-1631-2: 誰だって花を贈られる資格があると思わない?
ニールセン: そうかもな。
[会話が途切れ、長い沈黙が続く。雨の勢いが弱まり始める。]
ニールセン: 君に言うべき事があるんだ。僕はただの一般人じゃない。財団という組織に勤めていて-
[SCP-1631-2がちらつき、少しの間見え隠れした後、息を切らした様子で再出現する。]
ニールセン: 大丈夫か?
SCP-1631-2: 平気。しばらく続いてる。始まったのは数ヶ月前。母さんが私を作る時に使ったものが無くなりかけてると思う。多分、母さんは死んだ。それか、乗り越えて先に進んだだけかもしれない。花を作るたびに少しずつ残り時間が減る。あと数週間か、数ヶ月で...
ニールセン: 何だい、君は消えてしまうのか? できる事は何も無いのか?
SCP-1631-2: 私に何ができる? 私は慎重な計画じゃなくて、メチャクチャに乱れた複雑な感情から生まれた。もし仮に母さんを見つけられたとして — 名前も知らないのに — 私を直せるかなんて分からないでしょ?
[SCP-1631-2は両手を弄り回す。]
SCP-1631-2: 何だろう、変な気分。私はこれまで何度も喪う側にいた。そのために作られた。なのに、こうして逆の立場で"死ぬ"かもしれない今は... どうすればいいか分からないんだ。私はいつも、亡くなった人たちを忘れないことがどんなに大切なことかを考えてる... というか、考えるようにできている。だけど、私が生きた人生はごく短い。周りの世界に大した足跡を残してこなかった。
ニールセン: 本当にそう思うか? いいかい、僕には他の親たちや、ここ何年もの間に君が話してきた人々の気持ちは分からないとも。でも、君とただここに座って交わしたこの会話は、僕にとっては間違いなく必要だった。そして君の花を見つけなければ、こうして話すことは無かっただろう。だから、君に助けられたのがたった1人だとしても、そこには何かしら価値があると思うんだ。僕は君を忘れない。
SCP-1631-2: そっか。この先どうなるとしても、少しは慰めかもね。
[2人は太陽が昇るまでベンチに座り続けている。]
[記録終了]
結: サイト管理官ライカスの勧告により、ニールセンは3週間の休職扱いとなり、財団心理学者との4回のカウンセリング・セッションの完了を復職条件として課された。
補遺-2020年10月13日: 発見・分類当時、SCP-1631は約3〜4週間おきに発生すると推定されました。SCP-1631事象の頻度は時間とともに減少しているように思われ、各事象間の不活性期間は1.5〜2ヶ月に伸びています。
現在の減少傾向が続けば、SCP-1631は来年の12月末までに活動を停止し、Neutralizedに分類されると思われます。
これ以上の収容の取り組みは不要と見做されています。