クレジット
SCP-1625-JP-1へ続く昇降機
アイテム番号: SCP-1625-JP
オブジェクトクラス: Euclid Keter(暫定)
特別収容プロトコル: SCP-1625-JPの収容手段が確立するまで、サイト-59は無期限に閉鎖されます。サイト周辺に防護フェンスを建造し、最低10名のセキュリティ担当者を配置して民間人の侵入を防いで下さい。セキュリティ担当者はサイト-59への勤務経験が無い者のみから選抜され、SCP-1625-JPに由来する異常影響を受けていないか随時チェックされます。
サイト-59の内部探査及びSCP-1625-JP-1の調査は、財団超ミーム研究部門が所有・管理する、ミームオートセキュリティシステムを搭載した自動調査ドローンによってのみ実施されます。調査結果は適切なクリアランスレベルを持つ担当者及びシトラ=アキュラ合同司令部の職員以外には開示されず、閲覧の際には適切な認識災害対抗ミームを摂取する必要があります。
現在、シトラ=アキュラ合同司令部との協力により、POI-1625に関するあらゆる関連情報の捜査が実施されています。
特別収容プロトコル: SCP-1625-JPの発生はSCP-1625-JP-1以外では確認されていないため、収容はSCP-1625-JP-1の閉鎖によって行われています。扉は常時セキュリティ担当者3名によって警備され、実験目的以外での侵入はいかなる場合も禁止されています。実験の際には2名以下のDクラス職員を使用し、必要な記録機器と食料等を所持させた上でSCP-1625-JP-1への進入を許可して下さい。
実験によって発生したSCP-1625-JP-2は、同サイトの人型オブジェクト専用大型収容室に纏めて収容されています。財団は現在7体のSCP-1625-JP-2を所持しています。収容室内の映像は常に監視カメラによって記録され、SCP-1625-JP-2の消失現象が発生した場合は、直ちにSCP-1625-JPの収容担当者へ報告を行って下さい。SCP-1625-JP-2の個体数が不足する場合、実験によって新たな個体を補充することが認められています。
現在、シトラ=アキュラ合同司令部との協力により、POI-1625に関するあらゆる関連情報の捜査が実施されています。
説明: SCP-1625-JPは、イングランド北西部マンチェスター郊外に位置するサイト-59内部、実験室-25(以下SCP-1625-JP-1)にて発生する異常現象と、関連するオブジェクト群の総称です。
人間がSCP-1625-JP-1内部に侵入してから約1〜48時間が経過すると、SCP-1625-JP-1の天井部分が不明な理由にて発光し始めます。光を浴びた人間は天井へ向けて浮遊し初め、天井に接触した時点で消失します。消失の時点で発光現象は収束します。消失から1〜5時間後、人間はSCP-1625-JP-2に変化した状態でSCP-1625-JP-1へと再出現します。消失及び再出現の詳細なプロセスの記録は、SCP-1625-JP-1の異常性質により成功しておらず、被験者がどこに移動しているのかも現在の所不明です。
SCP-1625-JP-1は以前はSCP-████等の認識災害性質を持つオブジェクトの実験場として使用されており、度重なる実験がSCP-1625-JPの発生に何らかの影響を与えたと推定されていますが、関連するオブジェクトの同定は、サイト創設以来の実験実施回数が膨大であることから困難と見られています。
SCP-1625-JP-2は人型の異常実体であり、その顔貌及び体型は被験者となった人間の面影を多分に残しているものの、凡そ一般的な人類とはかけ離れた容姿と精神構造を持っています。全てのSCP-1625-JP-2は人間であった時の記憶を完全に失っており、「カルキスト・ユデス」(POI-1625と指定)なる人物への崇拝と強い宗教的情熱を証言します。肉体の組織は約99%が元となった被験者と一致していますが、SK-BIO生物と共通するいくつかの特徴を有しています。
現在判明しているSCP-1625-JP-2の特徴及び関連する情報は以下の通りです。頭部触手の一部拡大写真
SCP-1625-JP-2の遺伝子構造は約1%が未知の配列に置き換わっており、99%は既存人類との一致を示します。全身の皮膚色素は青緑色に変化しており、また体毛は一切存在しません。皮膚は"非常に滑らか"と形容される質感であり、被験者が負っていた古傷や身体的障害は全て消失しています。このように、筋肉組織に顕著な変化が見られる一方で、骨格は概ね被験者のそれを維持しています。
内臓器はさらに既存人類との顕著な逸脱を遂げており、肺、心臓、脳幹以外の主要な内臓を欠いています。また被験者の元の性別に関わらず、生殖器及び排泄器官は失われています。
SCP-1625-JP-2の最大の特徴は、後頭部より発生している赤色の触手様器官です。表面には毛細血管が走っており、肉眼でも確認が可能です。これはSCP-1625-JP-2の意思によって任意に伸張することが可能であり、最大長は2メートル程度であると推定されています。SCP-1625-JP-2は触手で水や食料に触れることにより、必要な栄養素を吸収します。この性質により、SCP-1625-JP-2は消化器官を欠いているにも関わらず、問題なく生存が可能です。尚、2週間程度であれば水や食料無しでも生存できることが判明していますが、それ以上の期間については後述する消失現象により判明していません。この触手はSCP-1625-JP-2同士のコミュニケーションにも用いられることが判明しています(「精神構造」の項を参照)。
SCP-1625-JP-2の体細胞は高い自己再生能力を持ち、傷は人間の50~100倍程度の速度で治癒します。手足等が失われても、数時間かけて元通りに再生します。ただし頭部や心臓に致死的なダメージを受けた場合にはこの限りではなく、非異常性の手段により問題なく終了することが可能です。
SCP-1625-JP-2に変化した被験者は、人間であった頃の記憶の一切を失っていると考えられており、その精神性は通常人類のそれから大きな逸脱を見せます。DSMに基づく診断では、人間の高機能自閉症患者との幾つかの類似点が確認されており、他者への関心や攻撃性に乏しく、特に求められない限りは一日中一定の行動パターンを繰り返しています。
二足歩行に適した肉体を維持しているにも関わらず、SCP-1625-JP-2は四足で歩行することを好み、膝をつけず前屈みの姿勢のまま徘徊します。この徘徊行動は1〜3時間程度続けられます。他のSCP-1625-JP-2とのコミュニケーションを行わない場合、歩行を止めたSCP-1625-JP-2はその場にうつぶせに倒れ、3~15時間程度制止した姿勢を続けます。制止が終了すれば、SCP-1625-JP-2は再び徘徊を開始します。
SCP-1625-JP-2同士がコミュニケーションを行う場合、多くは二足歩行の体勢となって背中合わせに向き合い、後頭部の触手同士を絡み合わせます。外見上SCP-1625-JP-2は無表情を保ちますが、いくつかの精神評価では、この行動を行っている最中のSCP-1625-JP-2は"非常に興奮"していると推測されています。
全てのSCP-1625-JP-2は「カルキスト・ユデス」なる人物への尊敬と崇拝の念を明らかにしており、同人物を「崇高なる我らの母」と呼称しています。特筆すべきは、SCP-1625-JP-2群が所謂サーキシズムの教義や哲学大系について完全に無知であり、サーキック・カルト関係者が共通して畏敬する対象であるPOI-0452の存在も認知していないと見られる点です。
SCP-1625-JP-2に対する初期のインタビュー記録です。簡略化の為、SCP-1625-JP-2の非言語的な反応は省略されています。
対象: SCP-1625-JP-2-5
インタビュアー: ジャック・ヴォイド博士
<録音開始,20██/11/10>
ヴォイド博士: 私の幾つかの質問に答えて頂けるかな、SCP-1625-JP-2-5。
SCP-1625-JP-2-5: それが望みなら。
ヴォイド博士: 君は依然ジョン・ハーカーとして知られていたはずだが、人間だった頃の記憶はあるのか。
SCP-1625-JP-2-5: 私は肉。人ではない。私は罪である。
ヴォイド博士: 君は「カルキスト・ユデス」なる人物を崇拝しているそうだが、それは何者なのか。
SCP-1625-JP-2-5: 我らの母。母は我らの罪を赦し、我らの浅ましき肉を天に届ける。
ヴォイド博士: 質問の仕方を変えよう。君は彼女に会ったことがあるのかね。
SCP-1625-JP-2-5: 母はいつも我らの側にいる。
ヴォイド博士: 宗教的な観念を聞きたいわけではないんだ。そうだね、私も彼女に会いたいんだよ。彼女はどこにいるんだ?
SCP-1625-JP-2-5: [無言で天井を指差す]
ヴォイド博士: ......君たちにとって人間とは何かね、SCP-1625-JP-2-5。
SCP-1625-JP-2-5: 臆病な者。忌むべき者。人殺し。偽りを言う者。光のみが彼らの受くべき報い。
ヴォイド博士: あの光を浴びた君は、もうすぐ救われるのか?
SCP-1625-JP-2-5: 時が来れば、主の慈悲は我らの上に降り来る。
<インタビュー終了>
終了報告書: SCP-1625-JP-2の精神は宗教的かつ抽象的な観念に支配されており、具体性のある発言を引き出すことは困難と推測されます。Δタイプ精神評価プロトコルも併用すべきでしょう。薬物的措置も含めた対処が必要となるかも知れません。――ヴォイド博士
SCP-1625-JP-2は出現から1〜2週間以内に突如として消失します。この現象は昼夜の区別無く行われ、発生の前兆はありません。継続的な収容室の監視にも関わらず、この消失現象が起こるプロセスは現在の所不明です適切なクリアランスレベルを持つ職員は、映像記録1625-JPを参照して下さい。
ジュリア・クリーブランドの現存する唯一のポートレート
POI-1625「カルキスト・ユデス」なる人物は既知のサーキシズム関連団体では存在を確認されておらず、実在する人物であるのかも不明です。
現在判明している情報から、2000年代初頭にマンチェスターに存在したネオ-サーキシズムの一派とされる団体・GOI-0425"肉のユラヤリダ"の中心的指導者であったジュリア・クリーブランドとの関係が推測されていますが、確実な証拠はありません。GOI-0425は小規模な団体ながら、サーキシズム由来の異常アノマリーを幾つか所有していたと見られますが、2005年の内紛により分裂・崩壊し、クリーブランド氏は彼女に敵対するメンバーによって殺害されたと推定されています。
クリーブランド氏は(多くのネオ-サーカイトの例に漏れず)刹那的な享楽主義者として知られており、GOI-0425の主たる会合場所であった自宅地下に20~50代の男女を集め、"極めて不道徳な"行いに興じていたとサイト-59のGOI調査エージェントは報告しています。GOI-0425の崩壊は、2004年からアーウェル川近隣で発生していた連続行方不明事件の重要参考人として、マンチェスター市警がクリーブランド氏を逮捕しようとしていた最中に起こりました。
以下はGOI-0425の拠点跡地から回収された全物品のうち、特に重要度が高いと見られるもののリストです。
RMSIカメラの試作品を搭載した自動調査ドローンが、SCP-1625-JP-2収容房におけるSCP-1625-JP-2消失現象の記録に成功しました。これら映像記録が示す一連のプロセスは、肉眼による目視、ならびに通常の録画機器による記録では捕捉できておらず、SCP-1625-JPの認識災害的性質により隠蔽されていたと考えられています。
映像記録1625-JP - 20██/12/15
<記録開始>
[収容房内の記録開始から約5時間の間、映像に特筆すべき変化は見られない]
[05:05:00] 突如として天井が薄い桃色に発光し始める。
[05:05:08] 全SCP-1625-JP-2が光に気付き、天井を見上げる。
[05:05:24] 天井中央部付近から、非常にゆっくりとした速度で赤い糸のようなものが垂れ下がってくる。ズームにより確認したところ、SCP-1625-JP-2の触手に酷似した物体であると確認。
[05:06:11] 触手が床付近まで垂れて制止すると、全SCP-1625-JP-2が一斉に触手の方に接近する。
[05:06:17] 触手に群がったSCP-1625-JP-2群は、触手を掴もうとして他のSCP-1625-JP-2を殴る、蹴るなどして互いに激しく争い始める。この争いは約25分間続き、SCP-1625-JP-2は負傷と自己再生を繰り返している。
[後の調査により、当時収容されていたSCP-1625-JP-2の総個体数は7体であったが、本映像撮影の時点で12体のSCP-1625-JP-2が収容房内に存在していたことが明らかとなる。5体の出現現象が確認できていないことから、収容房には初めから12体のSCP-1625-JP-2が存在していたと断定される]
[05:31:33] 1体のSCP-1625-JP-2が触手を掴み、天井へと昇り始める。ドローンはSCP-1625-JP-2を追跡する。
[05:32:05] SCP-1625-JP-2は天井を通過し、薄桃色の光で満たされた未知の異常空間へと侵入する。ドローンの追跡は成功するも、不明なノイズにより侵入以降の音声は聞き取れない。
[05:33:10] SCP-1625-JP-2は只管触手を上に昇り続ける。SCP-1625-JP-2の表情は心なしか笑っているように見える。
[05:36:24] SCP-1625-JP-2の顔貌をドローンが接写する。骨格分析の結果、当該個体はSCP-1625-JP担当研究者であったジャック・ヴォイド博士であると断定される。
[05:40:50] 光源が徐々に強くなり、進行方向の先に巨大な物体が確認される。
[05:45:33] 物体は直径約10〜30m程度の、巨大なテヅルモヅル(Euryalina)に類似した実体であると映像から判明する。薄桃色の光と赤色の触手は当該実体から発生しているものと確認される。実体は以降SCP-1625-JP-3と指定。
[05:47:45] SCP-1625-JP-3を確認したSCP-1625-JP-2は、ペースを上げてSCP-1625-JP-3に接近する。SCP-1625-JP-2は恍惚とした表情を浮かべている。
[05:49:50] SCP-1625-JP-2がSCP-1625-JP-3の近傍10m程度の地点まで接近する。SCP-1625-JP-3は地上に垂らしたものよりも数倍太い触手を何本か伸ばし、SCP-1625-JP-2に接触する。SCP-1625-JP-2は感極まったような表情で触手を見る。
[05:50:50] 触手が突然速度を速め、SCP-1625-JP-2を拘束するように巻き付かれる。SCP-1625-JP-2は一転して、困惑と恐怖の表情を浮かべている。
[05:52:53] 触手がSCP-1625-JP-2を強く締上げながら、SCP-1625-JP-3へと巻き上げる。SCP-1625-JP-2は苦悶に満ちた表情で、何かを絶叫しているように見えるが、ノイズのため内容は確認できない。
[05:54:00] ドローンはSCP-1625-JP-3へと接近する。SCP-1625-JP-3には、先程の個体以外にも数十体のSCP-1625-JP-2が取り込まれるようにして癒着しており、何れも苦悶の表情を浮かべ、SCP-1625-JP-3の一部として生存している様に見える。
[05:55:44] SCP-1625-JP-3の中央部に亀裂が入り、5つの巨大な眼球が現れる。眼球内部にはそれぞれ複数の瞳孔が確認できる。
05:55:55
[05:55:55] 眼球のうち一つがドローンを捕捉する。
[05:56:02] 高速の触手により、ドローンが弾かれ、墜落する。
[05:56:30] ドローンが元の収容房の床に衝突する。
<記録終了>
補遺1625-JP: SCP-1625-JPの研究記録を調査したところ、過去にヴォイド博士を含む5名の研究担当者が失踪を遂げているにもかかわらず、サイト-59の管理者を含む職員はその事実を正確に認知していませんでした。SCP-1625-JPの異常効果がSCP-1625-JP-1のみならずサイト全域に拡大していた可能性が示唆され、サイト-59は直ちに閉鎖、オブジェクトクラスは暫定的にKeterと指定されました。収容アノマリーは近傍のサイトに輸送され、勤務職員は全員が厳重な監視の下、所定のカウンセリング・プログラムを受講することとなりました。
現在、サイト-59内部には約2█体のSCP-1625-JP-2が存在していると考えられています。職員及び民間人の侵入を防止しているにも関わらず、ドローンの調査結果が正しければ、SCP-1625-JP-2の個体数は徐々に増加しています。