クレジット
タイトル: SCP-1614-JP - INTERSTOOLER、または糞を巡る愛
著者: KABOOM1103 KABOOM1103
作成年: 2025
SCP-1614-JP-A
アイテム番号: SCP-1614-JP
オブジェクトクラス: Euclid Neutralised
特別収容プロトコル: SCP-1614-JPはサイト‐███管理官の決定により無力化の判定が下されました。無力化の後、SCP-1614-JP-Aの葬儀は収容チームメンバー及び彼の知人等と共に行われました。SCP-1614-JP-Aには無力化したSCP-1614-JPが副葬されました。
説明: SCP-1614-JPはアメリカ合衆国オレゴン州メルダ在住のアメリカ市民ブラウン・コリンズ氏(Braun Kollinz、67歳、以下SCP-1614-JP-Aと呼称)の排泄した大便とそれに内包されるブラックホールです。SCP-1614-JP本体の表面を包むように不可視の外郭部が存在し、外郭部を通過した物体はSCP-1614-JP本体ではなく、異次元の宇宙空間に接続されます。
SCP-1614-JPは風化の兆候を見せず、排泄された当時の形状を保持しています。SCP-1614-JPの外郭には、標準大気圧下にて80N/m2の人為的な圧力を与えることで通過することができます。この際SCP-1614-JPの外見にはいかなる変化も発生しません。SCP-1614-JP内部の宇宙空間には、ブラックホールが存在します。ブラックホールの重力はSCP-1614-JP内部にのみはたらき、重力圏はSCP-1614-JP内部と外部で独立しています。また、SCP-1614-JP内外で物体のスケールの変化は発生しません。
SCP-1614-JP内部宇宙の模式図
SCP-1614-JPの内部宇宙空間は、ブラックホールのエルゴ球に内接する形で構成されています。エルゴ球の性質により、SCP-1614-JP外郭を通過した物体は非常に強い引力を受けます。上記の理由からSCP-1614-JP内部の探索は非常に困難です。X線による非接触検査、サンプルの採取の試みは失敗しています。
SCP-1614-JPのエルゴ球内には、いくつかの反重力シールドが複数生成されていることが確認されています。反重力シールド内はブラックホールの重力が打ち消され、通常の小型探査機でSCP-1614-JP内の観測が可能です。SCP-1614-JP内の反重力シールドを経由する探査により、ブラックホールの構造、起源の研究が進められています。
SCP-1614-JP-Aの肛門、消化器に異常は確認されていません。
以下に、SCP-1614-JP-Aへのインタビュー記録の抜粋を示します。
インタビュー記録
日付: 2029/██/██
インタビュアー: フィリッポ・オッペンハイム博士(Filippo Oppenheim)
対象: ブラウン・コリンズ氏(SCP-1614-JP-A)
備考: 一般医療機関によりSCP-1614-JP-Aには軽度の認知障害の発症が収容前に診断されています。
<抜粋開始>
オッペンハイム博士: それで、そろそろ主題へ入りましょうか。
コリンズ氏: そうだな、クエーサーは、ああ、今日も輝いているか。
オッペンハイム博士: いえ、クエーサーは関係ありません。あなたの排泄した、SCP-1614-JP、例の大便についてです。
コリンズ氏: ああ、そうだった。妻のエミリーとはバスタオルの使い分けを行っているんだ、12年前から重力波の違いを感じるためにはそれが必要なんだ。
オッペンハイム博士: いいえ。あなたが先月排泄した大便についてです。
コリンズ氏: 汚い話をするんじゃない。英国紳士としてどうかと思うぞ。私は宇宙の話をしている。
オッペンハイム博士: 私はイタリア国籍を保有し、あなたはアメリカ国籍のみを取得しています。話しにくいことかもしれませんが、私どもの研究に必要なことですので。
コリンズ氏: 何でも聞き給え、私はオレゴン大学の宇宙哲学科の教授だからな。
オッペンハイム博士: あなたはオレゴン火力発電所の元エンジニアです。真面目に答えてください。
コリンズ氏: なんでも聞けといっているだろう。
オッペンハイム博士: はあ、ではあなたの例の大便ですが、なぜ大便の中にブラックホールが生成されたのか、なにか心当たりはありますか?
コリンズ氏: イオンサイクロトロン波が重力レンズを産み、反物質は対消滅を起こす。
オッペンハイム博士: コリンズさん、真面目にお答えください。
コリンズ氏: 思考実験だよ。オクラホマまで届くくらいのな。
オッペンハイム博士: どういうことでしょうか。
コリンズ氏: 唯心論のウルチシズムはエロチシズムを超越しチルヂズムを生成する。AIじゃない、アポステリオリさ。
オッペンハイム博士: ......別の質問に変えましょう。例の大便を排泄する前なにか変な事件や見知らない人物との接触はありましたか?
コリンズ氏: 変? 私たちの生活は常に連続で微分可能で正則だ。極点が聞きたいか?残念ながら鞍点しか持ち得ていない。君のスーパーエロゲーションはつまらない。
オッペンハイム博士: 別の質問にします。あなたの生成した大便内のブラックホールにはいくつかの反重力シールドが存在しますが、これはブラックホールに自然に存在するものではありません。それに何か心当たりはありますか?
コリンズ氏: 何?
オッペンハイム博士: 反重力シールドです。
コリンズ氏: いや、おかしい。バナナジュース、シリアル、ベーコン、ピータン、ミミズのから揚げ、愛のこもったオムレット、ピザ......
オッペンハイム博士: もしかしてそれはSCP-1614-JP排泄前の食事ですか?
コリンズ氏: コーンだ! あのピザ、コーンが入ってたんだ!
オッペンハイム博士: コーンがどうされました?
コリンズ氏: 消化されなかったコーンは反重力シールドになったんだよ畜生、クソ、シット!やはりアブダビ製ではなくカトマンズ製を用いるべきだったか。
オッペンハイム博士: ......はあ?
コリンズ氏: なんということだ、いやしかし生成プロセスには問題ないはず、せいぜい加速が遅れる程度だ。離乳食には少し早いが......
オッペンハイム博士: ......はあ。つまり反重力シールドはあなたの腸内で消化されなかったコーンの成れの果てと。
[以下、コリンズ氏による不明瞭な言及が続く。]
<抜粋終了>
追記1: 追加のSCP-1614-JP内探査の結果、SCP-1614-JP内に存在する反重力シールドはメキシコ産のフリントコーンに特徴的な形状をしていることが判明しました。また、反重力シールド内に送った探査機による光学調査により、SCP-1614-JP内には基準宇宙比で半径1.2cmの球状の事象の地平面が存在することが判明しました。追記時点で、事象の地平面は緩やかな膨張を続けています。
また、SCP-1614-JPのエルゴ球内で引張されている物体の中には、以下の物品が確認されています。各物品は光速以上の引張にもかかわらず形状を保持しています。
- バナナジュースの入ったタンブラー
- ベーコン
- 輪ゴム
- SCP-1614-JP-Aの入れ歯
- ベビージョガー社製の乳母車
- SCP-1614-JP-Aの遺書
- SCP-1614-JP-Aが泌尿器科で受領した医療診断書
- SCP-1614-JP-Aの解雇通知書
上記の発見後、SCP-1614-JP-Aに再度インタビューを行いました。
インタビュー記録
日付: 2031/██/██
インタビュアー: フィリッポ・オッペンハイム博士(Filippo Oppenheim)
対象: ブラウン・コリンズ氏(SCP-1614-JP-A)
<抜粋開始>
オッペンハイム博士: 私としては、そろそろ真面目な回答にも期待したいんですけどね。
コリンズ氏: 私としてはそろそろアレを返してほしいんだがな。
オッペンハイム博士: あの大便が返せるかどうかは、あなたの協力次第といえるでしょう。
コリンズ氏: 私は君の協力を必要としていない。必要なのは愛の引力のみであるからな。フリードマン方程式!
オッペンハイム博士: いっそうひどくなっていますね。フリードマン方程式は宇宙の膨張を表す方程式ですが、あなたの大便には関係ありません、
コリンズ氏: じきにわかるさ。引力は栄養が作る。
オッペンハイム博士: 質問に入ります。SCP-1614-JP内には摩訶不思議な物品が連ねられており、現在進行形で事象の地平面に吸い取られています。......もしかしてコリンズさん、あなたは意図的にブラックホールを作られたのでは?曖昧な言葉の端々に、ブラックホールや大質量天体への理解がうかがえます。
コリンズ氏: 意図的というのはどういうことかね。我々は全員運命の奴隷に過ぎないのに。セ・ラヴィ。
オッペンハイム博士: 仮にあなたが宿命論者だとしても、少なくともあなたはご自身がブラックホールを含む小宇宙を排泄することに自覚的であったということです。
コリンズ氏: シュバルツシルト半径は? 成長しているか?
オッペンハイム博士: 1cm強です。正直ブラックホールの膨張は私どもに望ましい結果とは言えません。
コリンズ氏: 私には望ましいな。話を聞こう。
オッペンハイム博士: はあ、ペースが乱れる。
コリンズ氏: 摩訶不思議な物品について教えてくれ。
オッペンハイム博士: ええ、あなたが前回お答えしたバナナジュースやベーコン、あとは入れ歯や医療診断書、遺書、乳母車が確認されています。あなたに関連する物品が多いことから、SCP-1614-JP内はあなたの一種の心象風景の再現なのではないかと考えられます。これについては?
コリンズ氏: 遺書や医療診断書まで取り込ませるつもりはなかった。いつの間にか食べていたようだ。
オッペンハイム博士: 反重力シールドのコーン同様、これらはやはりあなたの摂食した物品だったんですね。どうしてそんなことを?
コリンズ氏: ショーペンハウアーは?マインレンダーはご存じかね? 充足理由律を否定も満足もしきれなかったんだよ私は。
オッペンハイム博士: 質問に答えてください。ふざけないで。
コリンズ氏: ああ、確かに食べたさ。降着円盤の光に帰するようにな。
オッペンハイム博士: なぜ食べたのですか?
コリンズ氏: [10秒沈黙]
オッペンハイム博士: どうしましたか?
コリンズ氏: 言えない。
オッペンハイム博士: なにか言えない理由があるのですか?
コリンズ氏: 自然哲学的な実践は現代では各学問の先鋭化に際して非常に困難だった。
オッペンハイム博士: あなたはしばしば哲学的な単語を会話に取り入れますね。そちらに何か理由があるのですか?
コリンズ氏: 私のアルケーは乳母車で包むものなんだ。そうなんだ![罵倒]
オッペンハイム博士: 今日のインタビューはここまでにしましょうか。お互い頭がおかしくなりそうです。
<抜粋終了>
SCP-1614-JP内部宇宙
追記2: SCP-1614-JP内の事象の地平面の膨張に伴い、SCP-1614-JP自身の外郭の膨張が進行しています。追記時点での膨張の加速度が維持される場合、██年後にはサイト-██の収容能力を超える大きさになると予測されています。
また、SCP-1614-JPのエルゴ球内で引張されている物体の中に追加で以下の物品が発見されました。
- コーンフレーク
- フォード社製自動車「ガルガンチュア」の後部座席
- 哺乳瓶
- 不明な人物の乳腺
- 手袋
- SCP-1614-JP-Aの離婚届
- SCP-1614-JP-Aが心療内科で受領した医療診断書
- ケンブリッジ大学出版の「純粋理性批判(イマヌエル・カント)」第3版
- プリンストン大学出版の「ブラックホール(スティーブン・ガブサー)」第1版
SCP-1614-JPの膨張に伴う、外郭の破損や一般社会への露出の可能性が研究チームによって示唆されています。SCP-1614-JPの無力化のため、SCP-1614-JPを外宇宙に廃棄する計画が進められています。
追記3: 2031/██/██、オッペンハイム博士の要望により、SCP-1614-JP-Aへのインタビューが行われました。インタビュー記録にはSCP-1614-JPの起源に関する示唆が含まれていると研究チームは判断しました。
インタビュー記録
日付: 2031/██/██
インタビュアー: フィリッポ・オッペンハイム博士(Filippo Oppenheim)
対象: ブラウン・コリンズ氏(SCP-1614-JP-A)
備考: SCP-1614-JP-Aは高齢による衰弱、認知機能の低下がみられます。
<抜粋開始>
オッペンハイム博士: 何度目でしょうかね。
コリンズ氏: やあ博士。昨日の朝刊は見たかい?カリフォルニア州で最大規模の重力波の検出だとさ。
オッペンハイム博士: ええ。あなたのおかげですっかり私は化学屋から宇宙屋になりました。そのニュースは1か月前ですがね。
コリンズ氏: ペンローズ過程はどうだい。実現できそうかい?
オッペンハイム博士: SCP-1614-JPからですか? 私はそんなことしません。
コリンズ氏: じゃあなんだい。
オッペンハイム博士: 今日はSCP-1614-JPの起源についてですよ。あなたがいつもはぐらかしていた起源についてです。
コリンズ氏: [数秒沈黙]
オッペンハイム博士: 私自身何を思ったか分からないんですけどね、あなたのインタビューにおける答弁を何度も聞きなおしてみました。書き起こして、分析したり。
コリンズ氏: それで?
オッペンハイム博士: あなたがワードサラダのように繰り出す無秩序な単語ですが、実際の所哲学用語と宇宙用語に偏っていました。これはなんとなく分かっていましたが。
コリンズ氏: そうだな。
オッペンハイム博士: 私が何か質問すればあなたは答えはしますが、どうも重要なところで本質を突かないごまかし方をする。
コリンズ氏: ブラックホールは光の直進さえ捻じ曲げる。
オッペンハイム博士: あなたの発する哲学用語は、私は門外漢ですので辞書で簡単に調べたのですが、どうも悲観主義、運命論に関するものが多い。それらに押しつぶされそうな思考に対して唯心的な試みを行っていたような示唆がある。ショーペンハウアーやマインレンダ―は悲観主義思想の代表としてしばしば名が挙げられます。
コリンズ氏: それが意図するものは。
オッペンハイム博士: 私はカウンセラーではありませんので、あなたの妄言の分析はできません。単純ですが、「あなたは自分の人生に絶望していた」のであると思います。遺書、離婚届、医療診断書。エルゴ球の中で見つけた資料です。これらはあなたが食べたものだ。あなたは人生で文字通り消化しきれないものを体内で消化しようとしていた。解雇、離婚、体調の不良、度重なる苦心があなたの大便に昇華されたのではないでしょうか。
コリンズ氏: 残念ながら違う。
オッペンハイム博士: では前に言っていた充足理由律についてでしょうか?充足理由律とは、「ある事物がそうであるなら、そうなる理由がある」というものです。あなたの人生における不便や不満に対する理由として......
コリンズ氏: 君は私が虚無からブラックホールを垂れたと思いたいのかね?
オッペンハイム博士: ......ブラックホールは光さえ吸い込む、闇の天体ですから。天体の墓場としての、負のイメージが一般に存在します。
コリンズ氏: それは違うぞ。吸い込んだものが消えるわけではない。アポステリオリとして知っている。
オッペンハイム博士: 虚無ではないとしたら、あのブラックホールは何ですか?アポステリオリとは非生得的、後天的な経験のことを指します。あのブラックホールは"非経験"ではなく、あなたの人生の何かしらの"経験"に基づいているということですか?
コリンズ氏: [10秒沈黙]
オッペンハイム博士: また黙られるんですか。
コリンズ氏: 語りたくない。語ったら霧散しそうなんだ。
オッペンハイム博士: [5秒沈黙]......しかし、私としてもなるべくはやくにSCP-1614-JPの真相を知りたいわけです。この情報は先日確定したばかりのことなのですが、SCP-1614-JP本体、つまりあなたの大便は一般社会に露呈する前に遠くの宇宙に廃棄することにしました。
コリンズ氏: どうしてだ、あれは私のものだぞ。
オッペンハイム博士: 残念ですがあなたの大便の所有権は認められません。このサイトは法の外です。人が扱えるブラックホールというのは危険性が高いですし。
コリンズ氏: でも、ああクソ、しかし
オッペンハイム博士: みそもクソないです。もしあれが大衆の目に触れるような状況になったらどうしますか?誤って触れた人がパスタ状に引き延ばされるかもしれませんよ。悪意を持つ団体は、それを使って人を消すことも、悪事の証拠を消すことも可能でしょう。SCP-1614-JPが膨張すればするほどSCP-1614-JPの外郭を物体が通過することも多くなります。私たちがクリーンルームに収容できる大便の大きさにも限界があります。
コリンズ氏: どうしてこんなことに!クソ!シット!
オッペンハイム博士: もうごまかしは聞きませんよ。
[13秒間の沈黙、コリンズ氏は指先を動かしている。]
コリンズ氏: 娘がいるんだ。
オッペンハイム博士: あなたにご子息がいたという記録は存在していませんし、あなたの元妻にも出産の記録はありませんが、どういうことでしょうか。
コリンズ氏: 愛の引力だよ。私の苦悩、宿命論、悲観主義は娘の非存在から成長した。
オッペンハイム博士: あなたに子供ができなかったことが、あなたを哲学の道に進ませたと。
コリンズ氏: でもすぐに分かった。哲学は欲望を解決する手段ではない。いや、初めに触れた本が悪かったのだろうか。別に高尚な考察を経たわけじゃない、ただ俺の人生が俯瞰されたような、蔑視されたような気がして、嫌いになって終わった。私にとって哲学はそこまでだった。哲学するだけの余裕がなかったのさ。
オッペンハイム博士: 次に手を出したのが宇宙物理学と?
コリンズ氏: エンジニアだからな。まだ手を出しやすいと思ったのさ。泌尿器科に俺が無精子症であったことを告げられて、妻と離婚したのもそのころだ。
オッペンハイム博士: 自身が子をなせないことに対し解決の糸口を見つけたかったということですか。里親や、精子提供といった選択肢は検討しなかったのですか?
コリンズ氏: だから、余裕がなかったのさ。目の前の葦を掴もうとすることに必死で、川下の救命ボートが見えなかった。里親制度を知ったのは離婚後だ。
オッペンハイム博士: なるほど。
コリンズ氏: 当時はブラックホールが発見されて間もないころだった。私は無限の引力に惹かれた。重力の特異点、無限のエネルギー、因果から隔絶された領域に興味を持ったのだ。
オッペンハイム博士: しかしながら、それがあなたの実子を持つ手段につながるとは思いません。
コリンズ氏: そうだ。ここまでは20年以上前の話だ、私は確かにそのころ虚無に陥っていた。
オッペンハイム博士: SCP-1614-JPを排泄したのは昨年ですね。何か変化があったのですか?
コリンズ氏: 2027年、事象の地平面の実在が確認された。そこで私は一つのアイデアを発想した。
オッペンハイム博士: どのようなアイデアでしょうか。
コリンズ氏: 事象の地平面の中に娘がいる。事象の地平面内からは情報を得られないが、事象の地平面内へ送る情報は私が調整できる。子は愛によって生まれる。愛によって生まれた事象の地平面内に娘を構成する物質を送れば、重力によって娘の身体の原子配列が構成される。
オッペンハイム博士: 論理がうまく通じていません。もう少し詳細にお願いします。
コリンズ氏: ブラックホールを作るイメージは簡単だ。愛に、父性の先に飢えた私は愛の引力を生み出した。不足感は5次元の引力だ。3次元物体を引張するのが万有引力で、4次元時間を引張するのがタイムマシンなら、5次元の感情に働くのは不足感だ。
オッペンハイム博士: なるほど、あなたの娘を欲する感情が引力を産み、それは大腸でブラックホールを作ったと。確かにブラックホールは強力な引力を持つ天体です。論理は通じませんが、ファンタジーとしては納得は出来ます。
コリンズ氏: 信じてくれるのか。
オッペンハイム博士: まあ、こういう仕事ですから。
コリンズ氏: このアイデアを持ってからの3年間、引力を生み出すにはどうすればいいか常に考えていた。答えはシリアル、ベーコン、ピザ、バナナジュース、ピータン、ミミズのから揚げだった。書類とコーンは私のミスだ。
オッペンハイム博士: 愛のこもったオムレットは?
コリンズ氏: 情操教育だ。
オッペンハイム博士: なるほど。一旦、信じましょう。乳母車などはあなたが娘を育てるときに使うものでしょうか。
コリンズ氏: そうだ。私は大便の中に、確かに娘を確信していたからな。
オッペンハイム博士: それは思い込みではなく?
コリンズ氏: 「思い込み」は唯物論者の単語だ。唯心論者にとっては確信こそ事実だ。
オッペンハイム博士: そうかもしれませんね。
コリンズ氏: そうだ、クエーサーは輝いているか?
オッペンハイム博士: ええ。あなたの娘さんに栄養はしっかりと届けられていますよ。シリアルにバナナジュース、ベーコン等々。ブラックホール自体は光を放出しませんが、エルゴ球やさらに周囲の降着円盤の物体は重力ポテンシャルにより光を放ちます。ブラックホールに物体が吸収されていなければ、そもそも光は発生しません。
コリンズ氏: それは良かった。
オッペンハイム博士: しかしながら、SCP-1614-JPがあなたの娘だとしてもそれでもSCP-1614-JPの破棄計画を中止することはできません。SCP-1614-JPの膨張は依然として危険です。
コリンズ氏: 分かっている。なら、でも、せめて最後に会わせてくれ。
オッペンハイム博士: 善処します。
コリンズ氏: どこまで行ってもこれは私のエゴに過ぎないということは知っていたんだ。老いた私では娘の成長を見届けられないことも知っていたんだ。
オッペンハイム博士: そうですね。
[30秒沈黙]
オッペンハイム博士: 最後に、一つ質問してもよろしいでしょうか。
コリンズ氏: 構わない。もう隠すことは何もない。
オッペンハイム博士: どうして今まで大便が娘であることを隠していたのですか?早めに言えば、あなたはより早くに娘さんと触れ合う機会を得られたはずです。
コリンズ氏: 私は古い人間だ。頼み事をするにはプライドが高かったんだ。
オッペンハイム博士: なるほど。
コリンズ氏: 親になるには、不器用すぎたんだ。あの大便は愛を送る資格のない者にとっては過ぎたるブツだった。道筋が見えた頃には、もう何も生み出せなくなっていた。大便で代弁するしかなかったんだ。
<抜粋終了>
追記4: 2031年12月24日、オッペンハイム博士の指揮下にて、SCP-1614-JPとSCP-1614-JP-Aの接触実験が行われました。SCP-1614-JP-AはSCP-1614-JPの大便の形状を刺激させないように抱き上げ、先端に接吻しました。
34秒間の縮小を経てSCP-1614-JP内部宇宙は消滅し、探査機との通信が切断されました。SCP-1614-JPは非異常の大便に変化し、確認されていた全ての異常性を失ったことが確認されました。
また、実験終了の4時間後にSCP-1614-JP-Aが死亡しました。死因は通常の老衰死でした。