クレジット
回収当時のSCP-154-JP
アイテム番号: SCP-154-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-154-JPはサイト-81██の標準型収容ロッカー内に保管されます。担当職員はSCP-154-JP-1の発生を1日1回確認し、発生していた場合は業務用20Lポリタンクに移し替えてください。満杯になったタンクは専用収容庫に保存されます。SCP-154-JP-1の回収/実験に際しては直接視認せず映像再視ゴーグルを着用してください。また接触ないし体内摂取を避けるため防護用手袋と標準型作業着、浄化フィルター内蔵マスクを使用し、使用済みのものは汚染備品処理規定に則り処分してください。
説明: SCP-154-JPはソーダ石灰ガラス製の日本酒の空き瓶に見えます。胴径80mm、全長220mmで無色、製造元ラベルはありませんが、B5サイズの白いコピー用紙がセロハンテープで無造作に貼られており、用紙中央には乱暴な毛筆の手書きで「地酒」と記されています。SCP-154-JP本体は████硝子株式会社の製造するガラス瓶の規格と同一であり、用紙とセロハンテープはそれぞれ███社と████社が製造している通常の製品であることが分かっていますが、未知の力で瓶と接着しており剥がすことや損傷を与えることは出来ません。
SCP-154-JPを直接視認した人間は約1か月間、もっとも居住期間の長かった地域(以下『出身地』とする)の口頭言語でしか会話が出来なくなります。この異常性質は性別、年齢、国籍、日本語判読の有無に関係なく作用し、記憶処理は効果がありません。ただし書記言語に関しては、本人が取得している言語全てにおいて通常通りの使用が可能です。
また、SCP-154-JPは不定期に活性化し、アルコール度数約15度の清酒(SCP-154-JP-1)を20ml〜40ml程度内部に発現させます。SCP-154-JP-1の成分は米と米麹を用いた通常の純米大吟醸酒と変わりませんが、経口摂取した人間に以下の恒久的な影響がランダムに、かつ摂取量が多くなるほど複合して現れます。
・出身地の口頭言語が使用出来なくなり、日本の標準語を話すようになる。
・愛郷心を喪失する、または出身地の話題に対して極端な嫌悪感を抱くようになる。
この場合の曝露では、口頭言語だけでなく書記言語に関しても異常性が発現します。学習や記憶処理による出身地言語の再修得の試みは失敗しました。
SCP-154-JPは、2009年04月05日にサイト-81██職員有志の花見大会へ███博士が持参した際、その異常性が確認されました。███博士は普段から方言を使用するため当初SCP-154-JPの特性に気がつきませんでした。SCP-154-JPを視認した職員同士の意思疎通が困難となる中、███博士がサイト本部へ緊急報告し、酒瓶がオブジェクトとして回収されました。
場所: サイト-81██隣接職員居住区内の運動公園。レクリエーションや交流行事の開催場所として一般職員に使用されており、職員有志約20名は公園の桜並木の下にレジャーシートや茣蓙を敷いて花見大会をしていた。
付記: 本記録は、██研究員がホームビデオで撮影していた映像内容の一部を文字に書き起こしたものである。
<以下、███博士がSCP-154-JPを持ってきた時点からの職員5名(研究員1名、エージェント1名、博士3名)の会話>
██研究員: あ、███さん、おつかれさまです。(近づいてくる███博士をカメラが捉える)
██博士: ちょっと、遅いわよ。
███博士: いやあ、すまんすまん。寝坊してしもた。って、酒なくなんのはやない?
エージェント・██: まぁ██がいるから、仕方ねぇやな。
██博士: 良いじゃない、せっかくの休日なんだし。好きなだけ呑ませてよ。
███博士: 差し入れ持って来て正解やったな、なじみの商店で適当に見繕ってもろたで。したらあそこのご主人、なんやサプライズしてくれはってな。1本余分につけてもろて......あれ?(酒瓶の多数入った保冷鞄からSCP-154-JPを取り出し、中身が空であるのを見て首を傾げる)
エージェント・██: なんだそりゃ、(SCP-154-JPを視認) 地酒ちどこん酒や、中身んなかじゃないや。またぬしゃ自分でええくろうちからごまかそまいち思ってすったかこつばしようっちゃなかとや。
███博士: んあ?何言うてんの自分。
エージェント・██: ば!?おらどげんこつ、クニん言葉で喋りよっつや。ちょ、ちょっまたんや。(6秒ほど沈黙、狼狽し思案する動作) なんごつやこらぁ。
██研究員: ██さん?どうしたんですか。
エージェント・██: うんにゃ、でけんぜ。おら標準語んわけくちゃわからん。今までどげんして喋りよったっちゃろか。
█████博士: (隣の宴会場からビール瓶を携え移動してくる) やあ、こっちの席も盛り上がっているかね。おや、なんだねそれは。サケか?(SCP-154-JPを視認) Japanischen Sake ich auch gerne. Aber ich möchte Schwarzbier des Vaterlandes zu empfehlen.......(動揺した様子で3秒ほど沈黙) Oh Weh! Scheiße!!
██博士: 貴方たちどうしたの?(エージェント・██と█████博士の方を振り返る過程でSCP-154-JPを視認) あがえー、いきなりクニんふつで喋ぃ出して。なん、だらかぁね?
██研究員: ██博士!
██博士: (10秒ほど沈黙) ぱなんみぃは中止よ。そのサキがぴんなぎちゃね。うわたぁ、あれはみーみんね、███は本部に、支援の要請にばさぃね。
███博士: 自分らが何言っとるんかさっぱり分からんけど、とりあえず俺が今何したらええかは分かるで。
<この時点で███博士がサイト本部に異常事態を報告、酒瓶をオブジェクトとして収容した>
備考: 撮影者である██研究員の状況と、のちの実験により、カメラなどを用い直接オブジェクトを視認しない場合は曝露しないことが判明した。
当時瓶内部にはSCP-154-JP-1が発現しておらず摂取した者はいませんでしたが、曝露した職員はその後約1か月間、業務及び日常生活での不自由を余儀なくされました。███博士は本オブジェクトについて、職員居住区内の「██商店」にて他の通常の酒類を購入した際に店長からサービスされたものだと主張しています。しかし店の販売履歴、監視カメラの映像にはSCP-154-JPらしき商品を購入した痕跡は残っておらず、仕入れ記録もありませんでした。また███博士は指摘されるまで、酒瓶のB5用紙の不自然さに気づいていませんでした。「地酒」の文字と博士の筆跡、また店の全ての従業員の筆跡は一致していません。
実験記録154-3(2009年04月10日)
被験者: D-87824(男性/48歳/日本・奈良県出身) 実験前のインタビューから、被験者は研究チームの規定した基準を満たす愛郷心を持っていると判断された。
実施方法: SCP-154-JP-1を被験者に15ml飲ませて様子を観察する。
結果: 実験前まで話していた大和弁の口頭言語を忘却。一般的な標準語を用いてしか会話出来なくなった。筆記された大和弁も、「個別の文字は日本語だと分かるが、文としての意味が理解できない」と述べた。担当研究員の話す播磨弁にはある程度理解を示したため、類似した近畿方言を複数聴かせたところ、被験者の出身地に近い地域で話される口頭言語ほど理解が困難となることが判明した。またインタビュー中、出身地域に関する話題を嫌忌する態度を示した。
備考: 被験者はSCP-154-JP-1を摂取した際、その味を「███(奈良県特産の日本酒ブランド)に似ている」と表現した。
実験記録154-4(2009年04月11日)
対象: SCP-154-JP
実施方法: 空にしたSCP-154-JP内部に真水を30ml注入し、変化の有無を観察する。
結果: 真水はアルコール分15度の同質量の液体に変化。調査の結果、通常の純米大吟醸酒と同一の成分が検出された。Dクラス職員に摂取させたところ実験記録-3とほぼ同様の結果が得られた。
備考: 今後はSCP-154-JP内部に入れて変化した液体も、発現する液体と同様SCP-154-JP-1と識別する。
実験記録154-5(2009年04月13日)
被験者: D-63498(男性/32歳/オーストラリア・メルボルン出身) 基準を満たす愛郷心を持っていると判断された。
実施方法: SCP-154-JP-1を15ml飲ませて様子を観察する。
結果: オーストラリア英語(Australian English)を使用出来なくなり、日本の標準語を解するようになった。母国に関する話題には嫌悪感を示し、特に故郷の街の名前が出されると罵倒しながら暴れ出したため拘束され、鎮静剤を投与された。
実験記録154-7(2009年04月14日~15)
被験者: D-87824
実施方法: SCP-154-JP-1を2日に渡り1日15mlずつ摂取させ、その度の様子を観察する。
結果: 日本の標準語は依然理解し使用が可能だが、出身地域に対しての嫌悪感が摂取する度に増加した上、2日目の摂取後はより広域の関西圏の話題についても激しい嫌厭の表情を浮かべた。
追記: 実験後、被験者は立ち会っていた京都出身の博士へ暴行を加えたため取り押さえられた。また、拘束され鎮静剤を投与された後のインタビューにおいて研究員の質問に激しく取り乱し、自らの頭部を目の前の机に激しく打ち付け始めた。警備員2人に押さえつけられると、舌を噛み切り喉に詰まらせその場で終了した。インタビュー記録は別紙を参照。インタビュアーを含む、自己申告した3人の職員にはカウンセリングもしくは記憶処理の使用が許可された。
報告: 彼が同じ関西出身の者にだけ危害を加えたのを疑問に思ったとはいえ、事前の予測も立てずあのような発言を自己判断で行ったのは迂闊でした。申し訳ありません。-宗形研究員
補遺: 実験記録154-7にて終了した被験者の身体解剖を行ったところ、被験者が摂取したSCP-154-JP-1は検出されず、肝臓の一部が約20gの土塊に置き換わっていました。この土は被験者の出身地である奈良県██市の███公園のものと判明しています。該当地の土は1ml=約0.45gであり、被験者が2度の実験で摂取したSCP-154-JP-1の総量が45mlだったことから、体内でSCP-154-JP-1が泥土に変化したものと考えられますが、なぜ肝臓に転移したのか、どのようにして5日の間被験者の健康が維持されていたのかは不明です。