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クレジット
SCP-1531-JP
特別収容プロトコル: SCP-1531-JPは、サイト-81CHの標準人型オブジェクト収容室に収容されます。物品支給の要請は、妥当性・必要性に応じて許可される場合があります。現在のところ、収容室には以下の物品が置かれています。
- ベッド、テーブル、3脚の椅子
- 陶器製の湯呑み
- TVモニター
- 書道用具一式
SCP-1531-JPの存在を安定化させるため、サイト-81CHはその研究・収容施設としての活動性を維持し続ける必要があります。平常時に特別な措置は不要ですが、事故や災害等によってサイト機能が阻害された際には、SCP-1531-JP自体の物理的収容環境に問題が生じていない場合であっても状況の再評価が行われ、必要な対策が取られなければなりません。
収容下でのストレスを緩和させるため、SCP-1531-JPと財団職員との交流の機会を設けることが推奨されます。サイトに勤務する全ての職員は、収容担当者の許可と同伴の下、SCP-1531-JPと面会することが可能です。加えて、担当者は必要に応じ、条件を満たす特定の職員にSCP-1531-JPとの面会を依頼することができます。
説明: SCP-1531-JPは異常な人型実体であり、外見上は全身を覆う布の服と赤い甲冑を身につけた人間のように見えます。これまでに行われた全ての非侵襲的スキャンは、これらの装備の内側が完全に空洞であることを示しました。それにもかかわらず、SCP-1531-JPは人型の形状を保ち、知性と運動能力を有します。各装備は通常より極度に高い破壊耐性を持ちますが、それ以外の点では明確な異常性を示しません。
SCP-1531-JPは不明な方法で発声し、日本語でコミュニケーションを取ることが可能です。会話の際、SCP-1531-JPは、しばしば"時代劇"調と喩えられる誇張された古風な言葉遣いを好みます。しかし同時に、近代以降に生じた表現や単語を頻繁に用いることから、これは実際の歴史的言語の完全な模倣を意図したものではないと考えられています。
SCP-1531-JPの言動の傾向は、ある集団内で最初に特定の行動を起こした/特定の成果をあげた個人への強い関心で特徴づけられます。SCP-1531-JPはそのような対象を「一番槍」と呼び、しばしば物品の贈呈を伴う称賛を送ります。SCP-1531-JPの関心を惹き得る条件には以下が含まれますが、これらに限りません。
- 新規性のある学術的・技術的な発見・発明
- 何らかの問題を解決するための組織的行動の開始・先導
- 戦闘または軍事作戦における最初の攻撃成功
- その他の前例のない (特に挑戦的な) 行為の実行
SCP-1531-JPはまた、付近の人間がこうした条件を達成したことを、対象自身の自覚の有無を問わず感知する異常な知覚能力を有します。
SCP-1531-JPの特徴的な言動に関する資料として、収容後に行われたインタビュー記録からの抜粋を以下に示します。
インタビュー記録
日付: 2007年08月29日
対象: SCP-1531-JP
インタビュアー: 野仲 正司 研究員
[記録開始]
SCP-1531-JPは、収容室内に設置された椅子に腰掛けている。入室した野仲研究員が、机を挟んでSCP-1531-JPと向かい合うように置かれた椅子に着席する。
野仲研究員: 初めまして。これからここで貴方を担当することになりました、野仲といいます。
SCP-1531-JPが突然起立する。
SCP-1531-JP: (大声で叫ぶように) 一番槍!
野仲研究員は一瞬怯む。保安スタッフが近づくが、野仲研究員は静観するよう合図を出す。
SCP-1531-JP: 喜べ、野仲殿。そなたは、この世で最初の我が担当職員、すなわち一番槍である! 褒美を遣わそうではないか!
野仲研究員: ええと、褒美ですか?
SCP-1531-JP: そうだ。だが、かたじけないことに、品物や金銭は持ち合わせがない。代わりと言っては何だが、何かして欲しいことなどはないか?
野仲研究員: そうですね...... それでは、これからいくつか質問をしますので、それに答えてもらっても良いでしょうか?
SCP-1531-JP: それでそなたが満足するのならば、何なりと問うがよいぞ。
野仲研究員: ありがとうございます。ではまず、あなたの名前を教えてください。
SCP-1531-JP: みだりに名を唱えるものではないのだが...... 一番槍のそなたに免じて特別に教えるとしよう。我が名は穂先一番守初宣ほさかいちばんのかみはつのぶなり。
野仲研究員: ありがとうございます。では、次の質問です。あなたは何者なのでしょうか?
SCP-1531-JP: 侍だ。
野仲研究員: 甲冑を脱ぐことはできますか?
SCP-1531-JP: できぬ。
野仲研究員は事前に行われた科学的検査の報告書を一瞥する。
野仲研究員: 内側が空洞であることをどう説明します?
SCP-1531-JP: 空洞ではない、侍の魂がパンパンに詰まっておる。
記録上の沈黙。
SCP-1531-JPが右腕を差し出す。
SCP-1531-JP: 触ってみるか?
野仲研究員: いえ、お気持ちだけありがたく頂戴します。次は、あなたの「一番槍」への強い関心についてお聞きしたいと思います。何か、理由や動機があるのでしょうか?
SCP-1531-JP: 一番であることは素晴らしく、勇気ある行動だ。ゆえに褒め称えなければならない。それに値する者には、称賛が必要だ。
野仲研究員: 称賛されるような行動は他にもあるように思いますが、その中で特に先駆性にこだわる理由はあるのでしょうか?
SCP-1531-JP: うむ。一番になるということは、この世そのものを動かすことだからだ。良い譬え話がある。野中殿は、氷の大陸に住む水鳥について聞いたことはあるか?
野仲研究員: それは、ペンギンのことでしょうか。
SCP-1531-JP: 然り。あの愛らしい水鳥が教えることはな、最初に海に飛び込む者がいなければ誰も魚を得られぬということだ。停滞を打ち破る最初の一突きこそ、まさに真の侍の輝き。それこそが、儂にとって至上のことなのだ。
野仲研究員: なるほど、分かったような気がします。では、次の質問に行きますね。
関連度の低い会話を省略。
[記録終了]
現在、SCP-1531-JPは局所的な集合意識に感受性を持つ思念体実体であると推定されており、その存在論的安定性は周辺の人的環境で共有されている「探究心」や「先駆的精神」と連動していると考えられています。サイト-81CH 研究・開発部および記録・情報部による研究で、サイト内における探究的・進歩的活動の活性度と、SCP-1531-JPの内部現実性強度の測定値に強い正の相関があることが判明しています。
補遺1: 性質に関する議論と背景
説明セクションで述べたSCP-1531-JPの意識感受性は、2009年09月16日に発生した日本地域司令部における同時多発収容違反(通称 "嘆きの水曜日" 事件) を契機として注目を集め、発見されました。この一連の違反イベントにおいて、サイト-81CH自体はほとんど被害を受けなかったにもかかわらず、以下に示すようなSCP-1531-JPの行動の顕著な変化が事件の翌日から報告され始めました。
- 行動速度の異常な減速・加速、唐突な一時停止
- 無意味な奇声やワードサラダの発声
- 短期的な記憶能力の衰弱
- 身体形状を保つ異常効果の (特に末端部における) 一時的かつ部分的な消失
- 既知の行動パターンから逸脱した破壊的な活動
最終的に4日後の2009年09月20日にSCP-1531-JPの収容違反が発生し、保安チームが対応にあたりました。以下はSCP-1531-JPの再収容に成功した隊員による簡易報告からの抜粋です。
インシデント報告書
日付: 2009年09月20日
記録担当者: 江崎 穂 (保安チーム隊員)
概要: 同日午前07:32、SCP-1531-JPはこれまで確認されたことのない腕力を発揮し、自身の収容室の扉を破壊した。直ちに機械式警備システムが作動し、警報を受け取った収容・保安部は再収容のために人員 (記録担当者を含む) を派遣した。
3名の隊員からなる保安チームが現場に到着した時点で、SCP-1531-JPは収容室のある区画の通路をふらつくような足取りでゆっくりと進んでいた。明確な目的地があるのかの判断はつかなかった。知的アノマリーに対する標準的な再収容手順に従い、保安チームはまず遠隔から収容室に戻るよう説得を試みたが、SCP-1531-JPは声かけに一切応答しなかった。
保安チームは、数日前から当該アノマリーに行動パターンの変化が見られたという事前情報を受け取っていたため、現場での説得は不可能と判断した。収容・保安部司令室から、非殺傷武器による有形力の行使が許可された。隊員らは包囲を試みるため、防護シールドを構えて接近した。
隊員の1名 (記録担当者) が進行方向に阻むように接近したところ、SCP-1531-JPは走るように高速で動き出したため、咄嗟にシールドによる体当たりを行った。SCP-1531-JPは突如歩行を止め、「一番槍」と叫び、標準的な行動パターンを一時的に再開した。記録担当者による最初の作戦行動が、条件を満たしたものと考えられた。SCP-1531-JPが意思疎通能力を回復させたため、説得による再収容を再度試み、成功した。
ただし、この方法に2度目はないであろうことを、ここで明確にしておきたい。
収容・保安部
江崎 穂
このような変化の原因を調査するため、SCP-1531-JPに対するインタビューが実施されました。
インタビュー記録
日付: 2009年09月20日
対象: SCP-1531-JP
インタビュアー: 野仲 正司 研究員
[記録開始]
挨拶や前提の確認など、重要度の低い会話を省略。
野仲研究員: 最近のあなたの行動の変化について何か自覚症状はありますか?
SCP-1531-JP: ああ。息苦しさ、力の抜ける感覚がある。記憶が飛んでいることも多い。
野仲研究員: 原因に心当たりはありますか?
SCP-1531-JP: どうも、儂はお主らから力を受け取っておる...... らしい。
野仲研究員: ふむ? より詳しく説明できますか?
SCP-1531-JP: 念を押しておくが、これは決してお主らが悪いなどと言いたいわけではない。だが、お主らの胸の内から一番を目指す心が失われておるが故に、儂の力も消えつつあるということが感じられるのだ。
野仲研究員: なるほど。付近の人間の意識に影響を受けるアノマリーはいくつか知られていますし、あなたもそうなのだと思います。あなたと繋がっているのは、誰の意識なのでしょうか?
SCP-1531-JP: 誰か一人ではない。皆だ。
野仲研究員: 皆?
SCP-1531-JP: この城の皆だ。無論、中には未だ挑戦的な、侍と呼ぶに値する者もおるかもしれぬ。しかし、城に広がる「恐れ」は徐々にその槍先を蝕んでゆくぞ。
野仲研究員: 恐れ、ですか。
SCP-1531-JPは机上の空の湯呑みを手にすると、装備の口部分に当て、液体を啜るような音を立てる。
SCP-1531-JP: (ため息) 左様。
野仲研究員: 実は、心当たりがあります。その恐れは、ここだけでなく日本中に広まっているでしょう。
SCP-1531-JP: そうか、では— おっと。
SCP-1531-JPは手にしていた湯呑みを取り落とし、床に落とす。湯呑みが破損する。
野仲研究員: 腕を見せてください。
SCP-1531-JPの衣服の腕部はだらりと垂れ下がっており、人の腕の形状を保っていない。野仲研究員はそこに触れて調べる。
野仲研究員: 中身がない......
SCP-1531-JP: 野仲殿、恐れは日本中に広まっていると言ったな。
野仲研究員: はい。
SCP-1531-JP: ならば、お主が— お主らが、最初にそれを討ち取れ。一番槍になれ。
野仲研究員: 分かりました。最善を尽くすことをお約束します。
SCP-1531-JP: 待っているからな。
[記録終了]
野仲研究員は、最近の大規模収容違反が職員の士気に影響を与えていると推測し、サイト運営評議会に調査と対策を提言しました。運営評議会は、こうした心理的影響はSCP-1531-JPの保護に対する障害であるのみならず、長期的には施設の活動性の低下に繋がるとの判断から、早急な対策の実行に乗り出しました。
具体的な施策としては、安全設備の改修/新設、職員を対象としたカウンセリング、施設内セキュリティクリアランスレベル制度の部分的緩和、他施設から異動してくる職員の積極的受け入れ、新規の研究・開発プロジェクトへの追加の資金提供などが実行に移されました。その間、SCP-1531-JPの存在及び言動の安定性は徐々に回復していき、およそ3ヶ月後には以前の水準と同程度にまで復帰したと確認され、最終的に2009年12月22日に事態の収束が宣言されました。
上記のような施策は、後に日本地域司令部の他の財団施設の多くでも部分的に取り入れられ、収容違反に対する過度な不安感による士気低下を効果的に抑制することに成功しています。このことについて、SCP-1531-JPはサイト-81CHを「一番槍」であると述べました。通常、SCP-1531-JPの賞賛対象は個人であり、施設レベルの大規模な集団がその対象になったのは現在までに本件のみです。
補遺2: 起源に関する議論と背景
SCP-1531-JPは当初、財団サイト-81CHの施設内部で発見・確保されました。監視カメラの記録映像により、最初の出現が低危険度オブジェクト収蔵庫で起きたことが判明しています。その際、SCP-1531-JPの装備と外見が一致するAnomalousアイテムが1点消失しており、これがSCP-1531-JPの起源であることが確実視されています。以下に当該アイテムの情報を示します。
Anomalousアイテム記録
説明: 異常な破壊耐性を有する赤い甲冑と槍。
回収日: 2007年08月15日
回収場所: FP-06 ("中国地方の穴蔵") 異常物品市場にて購入。
現状: 低危険度オブジェクト収蔵庫に保管。
追記: 恐らく以前の所有者 (身元不明) によると思われる、次の所有者宛のメモ書きが付属していた。以下に転写。「侍の呼び方: 求め願うべし」
内容の意図は不明。現状、当アイテムに破壊耐性以外の異常性は未確認である。
SCP-1531-JPの思念体実体としての性質に基づき、このアイテムは非物理的な存在に実体を与え、標準物質界に繋ぎ止める存在アンカーとして機能していると推測されています。付属していたメモ書きの内容の正確性については検証中ですが、SCP-1531-JPがサイト職員が有していた何らかの集団的な要求・期待に応じて出現した可能性は高いと考えられています。