クレジット
アイテム番号: SCP-1500-JP-EX
オブジェクトクラス: Explained
副次クラス: Thaumiel
特別収容プロトコル: N/A
説明: SCP-1500-JP-EXは有機リン化合物を主成分とした薬剤です。本物質発見時点で異常な挙動とされていた現象は、1950年代に財団で用いられていた薬剤タイプの記憶処理剤とSCP-1500-JP-EXの混合液(SCP-1500-JP-EX-1)を静脈注射した場合に生じます。
SCP-1500-JP-EX-1の注射後、投与された対象は速やかにJCS 300-I相当の昏睡状態に陥ります。その後、対象は最低クラスの生命活動を約1週間〜2週間維持したのち意識が回復します。覚醒後、数時間は意識の混濁が見られるものの、概ね1日以内に脳機能が完全に回復します。SCP-1500-JP-EX-1自体の記憶処理能力は、対象の意識混濁による記憶の曖昧化との区別の難しさから評価が難しいものの、当時の記憶処理薬と比較して僅かに優れていると推測されています。
これらの現象に関して現在は、当時財団で利用されていた記憶処理剤とSCP-1500-JP-EX-1が共に大脳皮質の麻痺に働く物質であり、2つの薬品に薬理的な相乗効果が発生することにより生じると結論付けられています。特に、SCP-1500-JP-EXについては原材料・製法に一切の異常が介入しない点、および大脳皮質に作用する記憶処理剤の存在を仮定したうえであれば非異常的な体系の脳科学でも現象の説明が可能である点などからExplainedに指定されています。
また、上記の現象を引き起こすためには厳密な薬剤量の管理が要求されます。対象の死亡リスクを考慮すると、SCP-1500-JP-EX-1の投与量及び混合比率は10-5gオーダーでの管理が必要です。この分量は体重やホルモン量よりも記憶処理系薬剤に対する耐性の影響が大きく、実験対象への充分な情報がない状態でSCP-1500-JP-EX-1投与による異常性発現の再現実験は困難です。
SCP-1500-JP-EXは1950年代に財団で行われていた、薬剤タイプの記憶処理薬の効能を向上させるプロジェクトの副産物として発見されました。当時は記憶処理薬のみならず人間の脳活動の大部分もブラックボックスとして扱われており、SCP-1500-JP-EXを含めた幾つかのケースは新たな異常として記録され、難点を克服した記憶処理薬の開発及びブラックボックスの分析が行われていました。
SCP-1500-JP-EXの機序が解明されたのは2000年代前半になってからでした。しかしながら、その時点では既にアノマリー由来の記憶処理薬がより安価かつ強力な代替品として台頭しており、1950年代の低純度の記憶処理薬自体の生産意義も薄かったために、実際に記憶処理を目的としてSCP-1500-JP-EX-1が用いられたケースはありません。
補遺: 現在のSCP-1500-JP-EXの利用
SCP-1500-JP-EXは前述の歴史から、純粋な記憶処理剤としての利用は行われていません。また、投与量管理の観点や異常性の全容が不明な状態で長時間の昏倒を誘発させることへの危険性などから、人型アノマリーの収容・鎮圧にも適しません。
しかしながら、財団職員に対しSCP-1500-JP-EX-1を投与する場合、医療部門のカルテを参照することで投与量管理の問題をクリアすることができ、SCP-1500-JP-EX-1を「作用の機序がほぼすべて把握されており、比較的安全かつ後遺症を残さずに対象を1〜2週間程度昏倒させることが可能な薬剤」と見なして運用することが可能です。
実際に、火急鎮静部門ではSCP-1500-JP-EX-1を用いた刺激プロトコルのシナリオが幾つか作成されており、一部は過去に数回使用された経歴があります。火急鎮静部門によるSCP-1500-JP-EX-1の実際の展開例として、刺激プロトコル: "賽の河原"の運用時に記録された火急鎮静部門職員と対象職員の対話記録からの抜粋を以下に示します。
会話記録1500-JP
日付: 20██/██/██ ██:██
場所: サイト-81██ 医療セクション
参加者: 火急鎮静部門 エージェント・樫木、堀畑(元)研究員
備考: 堀畑元研究員は複数オブジェクトの収容プロトコル設計に携わる優秀な職員であったものの、職務で致死性オブジェクトの被影響者の画像を閲覧し続けたことによる適応障害を理由に退職を志願した。カウンセリングや福利厚生手当を含めたボーナスの提供などの対応が取られたものの、現在は財団を退職している。財団によりこの人員喪失は許容できないと判断されており、現在複数の刺激プロトコルが実行中である。
[記録開始]
Agt. 樫木: 調子はいかがですか、堀畑さん。医療部門から -
堀畑: [遮って] どういうつもりですか? 薬でも盛って何か言質でも取ろうとしてるんですか? 言っておきますけど、あなたたちと話すことなんてもう何もありませんよ!
Agt. 樫木: そういうわけではありませんよ、落ち着いてください。本日は、是非ともあなたに見ていただきたい動画がありまして。
堀畑: じゃあ、さっさとそれを見せてください。そして早く私を元の場所に帰して。
[Agt.樫木は何も返答せず、モニターに接続された機器を操作する。数秒後、モニターが起動し、セレモニーホールの映像が映し出される。映像に映っている人影のほとんどは喪服を着用した堀畑元研究員の親族である。]
堀畑: [数秒の沈黙] これは、何?
Agt.樫木: 観ての通り、あなたが火葬される様子です。
堀畑: 違う、そんなことを聞きたいんじゃない。どうやってこんなものを撮ったんですか!
Agt.樫木: 勿論、あなたが眠っていた2週間の間に、きちんと死亡宣告から手順を踏んで式を執り行いました。
堀畑: [間] 2週間。
Agt.樫木: はい。結局のところあなたは火葬されることはなく、財団フロント斎場の偽装火葬炉の内部で回収されましたが - それを知っているのは我々だけです。表向きには、あなたは法的に死亡したことになっています。正式に。
堀畑: ふざけないでください! 法的にって、それじゃこれからの生活は?
Agt.樫木: 無論、銀行口座は凍結済み。あなた個人が所有していたスマホと住居も解約されています。生活保護の類を受け取るのも、戸籍無しでは不可能でしょう。
[20秒程度の沈黙。映像は納めの式で堀畑元研究員の妹が哀悼の言葉を語りかけているシーンを映している]
堀畑: まだ。まだ、何とかして家族に連絡を取れば。
Agt.樫木: まあ、電話越しでは悪趣味な悪戯と認識されるかもしれませんが、直接会って会話をすれば何かしらの支援を受けられるかもしれませんね。このサイトから目的地までは500km以上ありますが、身分証明の不要な日雇いのアルバイトで稼げば可能性はあるかもしれません。
堀畑: でしょう? なら -
Agt.樫木: [遮って]ただし、その場合は今回のように再びあなたを意識不明にしてこのサイトに移送します。所持していた物品は全て没収され、あなたと関わった人間は全員記憶処理されることになるでしょう。そのたびにあなたはまた0から新生活を送ることになるわけです。安住の地の目前まで至るたびに、何度でも。
[再び20秒程度の沈黙。映像は納めの式が終わり、棺の窓が閉じられる瞬間を映している]
Agt.樫木: さて。ひとまず大まかな現状説明は終わりましたかね。私はそろそろ失礼しますが、あなたはもう少しこのままにしていても構いませんよ。意識が復活といっても、まだ筋力も十分には回復していないでしょう。
もし仮にまだ財団に復職する気がないというのなら、緊急用の連絡デバイスを持って施設の裏口から出てください。ですがもし、もし仮にあなたが自分の意思で財団に復職を希望するというのであれば! その際は私に一報いただければ、速やかに処理を進めることを約束いたします。
仮に何回目の反復になろうとも、我々はあなたの復帰を心から待ち望んでいますよ。
[Agt.樫木が部屋から退室する。この間、堀畑元研究員は沈黙を続けている]
[映像は火葬炉の扉が閉められた瞬間で終了し、ループ再生機能により再びセレモニーホールの映像が映し出される]
[記録終了]
終了報告書: 対談から約17時間後、堀畑は復職を志願しました。その後の対応は迅速に行われ、現在は以前の地位に再就任しています。このケースは解決と見なされており、現時点での火急鎮静部門の対応はグレード1福利厚生手当の適用と経過観察に留まっています。