クレジット
アイテム番号: SCP-1452-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1452-JPはペーパーフィルターを設置した状態で準破壊的オブジェクト収容室に保管されます。収容室は動体検知カメラによって24時間監視され、カメラに反応があった場合武装した保安スタッフが投入されます。SCP-1452-JPに関する実験は凍結されています。
SCP-1452-JP
説明: SCP-1452-JPは、設置されたペーパーフィルターの間隙に異常空間へ接続するポータルを生成するプラスチック製のコーヒードリッパーです。SCP-1452-JPの影響を受けたフィルターの上部から間隙を通過した物質は異空間(SCP-1452-JP-Aに指定)へと転送され、代わりにフィルター下部からはほぼ純粋な水 砂糖 食塩が発生します。新たなフィルターをSCP-1452-JPに設置した場合、それまで異常性を有していたフィルターは異常性を失います。穴などの欠損部はその大きさによってポータル生成の対象になるかどうかが変化します。ポータルが生成される欠損の大きさの最大値はフィルターの総面積によって決定されることが判明しており、最大値を超える穴などの欠損にはポータルが生成されません。
SCP-1452-JPは民間人に発見され、インターネットフリーマーケットサービスで「コーヒーを淹れたはずが水しか出てこないコーヒードリッパー」として販売されていました。財団はこれを回収し「異常なろ過能力を持つコーヒードリッパー」としてAnomalousアイテムへ登録しましたが、そのろ過能力が注目され複数の実験を実施した結果異常性が変化し、SCP-1452-JPはSCPオブジェクトとして再登録されました。以下はSCP-1452-JPの変化とSCP-1452-JPに関するプロジェクトの時系列です。
日時 | イベント |
---|---|
2017年4月6日 | 民間人によりSCP-1452-JPが出品される。 |
2017年4月7日 | 財団がSCP-1452-JPを補足。回収作戦の実施。 |
2017年4月9日 | SCP-1452-JPに設置されたコーヒーフィルターを通過したコーヒーがほぼ純粋な水に変換されていることが実験により実証される。Anomalousアイテムとして登録される。 |
2017年9月22日 | ろ過能力に関する調査プロジェクトが開始される。 |
2017年10月2日 | コーヒー以外の水溶液に対しても同様の効果が実証される。 |
2017年11月8日 | 水溶液の通過中の質量変動から水溶液がろ過の最中に異空間に転送されている可能性が提唱される。 |
2017年11月20日 | 異空間転送説がほぼ確定的な事実として認められる。転送用ポータルに関する研究の開始。ろ過実験の対象拡大。 |
2017年12月10日 | いくつかの化学物質のろ過実験のあと、突如フィルター下部からの物質の出現が停止する。実験計画の一旦凍結が決定。 |
2018年4月5日 | 標準収容ロッカーに収容中であったフィルターから少量の砂糖が発生していることが発見される。実験が再開される。 |
2018年4月6日 | フィルター下部からの物質の再出現が確認される。ただし発生する物質は水から砂糖へ変化していた。発生量は上部からポータルを通過した液体とほぼ同体積である。 |
2018年4月7日 | SCP-1452-JPがSCPオブジェクトに指定される。異常性の変化を受けて水溶液による実験の停止が決定される。以降は液体としてほぼ純粋な水のみが用いられることが決定された。 |
2018年6月2日 | 固体がポータルを通りSCP-1452-JP-Aに侵入するためには、フィルターの間隙を通過する際に固体の全体が液体に浸かっている必要があることが判明。 |
2018年6月11日 | SCP-1452-JP-A探査人員派遣のための巨大ペーパーフィルター作成プロジェクトが開始される。 |
2018年11月4日 | SCP-1452-JP-Aの探査が開始される(探査記録を参照)。 |
2019年6月30日 | フィルター下部から多少の不純物を伴って食塩が不定期に出現するようになる。一方でSCP-1452-JP-A内への液体流入に伴う砂糖の発生は観測されなくなる。 |
探査記録: 以下は機動部隊い-32の隊員3名によって行われた、SCP-1452-JP-A内部の探査の記録です。SCP-1452-JP-Aへの侵入は、人間が通れる大きさの穴をあけた巨大なペーパーフィルターを作成しSCP-1452-JPに設置することで実現されました。人員の転送は次の手順で行われます。まず固定したフィルターの穴に蓋を設置し、その上に耐水装備を装備した人員を配置します。その後、2 m 〜 3 mの高さまでフィルター内に水を注入します。最後に人員によって蓋が外され、条件を満たした機動隊員はあけられた穴を通ってSCP-1452-JP-Aに転送されます。
探査記録1452-4を受けて、現在SCP-1452-JP-Aの探査は一時停止されています。
探査記録1452-1
調査日: 2018年11月4日
<記録開始>
[カメラがフィルターの穴を通過すると映像が乱れ、暗転する。その後映像が再開し、倒れる隊員らが映し出される]
[隊員(ガンマ)が起き上がり、カメラを持ち上げる。すぐそばには川があり、対岸には森が広がっている。カメラが背後に向けられ、平野とその奥に家屋とみられる構造物がいくつか存在する様子が映し出される]
[他の隊員も起き上がり始め、お互いに所定の確認を取る]
アルファ: 一応全員無事なようだな。川に流されてきたのか?
ベータ: おそらくそうですね。戦闘用を含めて装備が数個紛失しています。
ガンマ: 森と...... 後ろには家がありますね。雰囲気からして農村のようにもみえますが...
アルファ: 知的存在が存在しそうならそちらの調査を優先すべきだ。まずはあの家屋群の調査から行おう。
[隊員らは家屋に向かって移動を開始する。家屋との距離が小さくなっていくにつれて、それが木造であること、周辺に小麦に類似した作物が生育する畑のような区画(以下麦畑)があることがわかる]
[家屋まで目視300 mほどの地点から、人間のものと思しき声が記録される]
ガンマ: 何か聞こえませんか? 子供の声みたいな......
ベータ: 笑い声のようですね。家屋に居住している人間がいるのでしょう。
[隊員らの前に1匹の鳩型の実体が飛来する。実体は隊員に向けて発声する]
鳩型実体: ここから先は永遠の民の国。君たちは何しに来たの?
[隊員らの沈黙]
鳩型実体: なんで黙ってるの? さっきまでしゃべってたよね。それとも悪いことしようとしてる?
アルファ: いや、君たちに危害を加えるつもりはない。私たちはこの場所のことを何も知らないから、調べに来た。君が案内してくれるのか?
鳩型実体: ハトは自由なんだ。祝福でも呪いでもなく、願いの存在。君は案内を願うかい?
アルファ: ああ、ぜひお願いしたい。
鳩型実体: わかった。でも僕は案内しない。ハトは自由だから。きっと僕の羽ばたきがいつか願いを届けるよ。
[鳩型実体が飛び去る]
ベータ: ......今のなんだったんですかね。
アルファ: よくわからんが、ハトが飛んでいった先を良く見てみろ。あれは恐らく町じゃないか?
[アルファが指す方向にカメラが向けられ、家屋が多く存在するエリアを映し出す。中心にはひときわ大きな建造物がある]
[隊員らは移動を再開する。家屋に接近するほど子供の笑い声は大きく、はっきりと響く]
[家屋に到着する。ドアは閉まっており、アルファがドアをノックすると中から女性があらわれる。対象はおそらく麻でできていると思われる衣服を着用している]
女性: あら、どちらさま? ここではあまり見ない格好だけど......
アルファ: 気づいたらそこの川の前で倒れてまして。宿を探しているんです。
女性: あらそうなの。ごめんね、うちは子供がいるから泊められないけど......
アルファ: お子さんが?
女性: ええ。あそこに。畑の中ですよ。
[麦畑の中で2体の子供型の実体が走り回っている]
アルファ: ああ、この笑い声はあの子たちの声ですか。
女性: そうそう。元気で子供らしくていいでしょう。ああ、町には宿があるとおもうけど、とりあえず、休んでいってくださいな。
[女性は隊員らに入室を促し、3つのカップに茶色の液体を注いで隊員らの前のテーブルに置く。隊員らはそれを摂取するふりをしてサンプルを採取する]
[女性と隊員らの雑談。重要度が低いため割愛]
[家屋の扉がノックされる。女性が扉を開け、扉の前に立っていた深緑色の服を着用した男性を屋内に招き入れる。男性は「大臣」を名乗り、隊員らへ自分と共に町へ来るように促す]
大臣: 私はこの国の大臣です。突然で申し訳ないのですが、王がぜひあなた方にお会いしたいとおっしゃっています。私と一緒に町にある城へ来ていただけませんか? もちろん、無理強いはしませんよ。
アルファ: なぜ私たちがここにいると?
大臣: ハトが羽ばたきましたので。それで、来ていただけますでしょうか?
[重要度の低い問答。アルファは装備面で仮に襲撃されたとしても安全を維持できると判断し、誘いを受け入れることをハンドサインで共有する]
アルファ: ......わかった。では王のもとまで案内していただけるだろうか。
大臣: ありがとうございます。もちろんです。表に荷馬車を用意しておりますので、それで向かいましょう。
アルファ: そのまえにひとつ聞きたいのだが。
大臣: なんでしょう?
アルファ: ハトが羽ばたくと、どこに誰がいるのかわかるのか?
大臣: 色々なことがわかりますよ。魔女様がそう願われましたので。さあ、いきましょう。王がお待ちですよ。
[隊員らと大臣は馬車に乗り込む。馬車はいくつかの木造家屋の前を通って町へと進む]
[町には石造りの住宅が並んでいる。道路のいたる所で子供たちが走り回っており、笑い声が絶えず聞こえる]
[馬車は町の中でもひときわ大きな建造物へ門を通って入場する。大臣が馬車から降り隊員らを先導する]
[大臣が大きな扉を開けると、赤いマントを身に付けた男性が椅子に座って隊員らを立ちあがって出迎える。男性は自身を王と名乗る]
王: ようこそおいでくださいました。永遠の民の国へ。私はこの国の王です。
アルファ: 丁寧なご歓迎をありがとうございます。
王: いえいえ、こちらに来ていただいて本当に良かった。川の向こうの森の方は危険ですから。立ち入り禁止なのです。
アルファ: なぜ危険なのですか?
王: 危険な者たちが住んでいるからです。あれらはなにをしでかすかわかったものではありません。下賤で脆い、呪われた民です。きっとあなたたちと言えども危ない目に遭ってしまうでしょう。
[重要度の低い会話のため省略]
アルファ: かなりこの国には子供が多いですね。それにみんな笑っている。子供たちは仕事もしていないようですが、この国では何歳から大人とみなされるのですか?
王: 大人になる? いえいえ、この国の民は魔女様の祝福を受けていますから。子供は永遠に子供です。純真で、笑顔の絶えない永遠を享受しました。我々大人は、それを見守る暖かさと、揺るがない正義をいただきました。そして誰もが不滅の肉体を贈られたのです。
アルファ: その魔女様、というのは?
王: ご存じないのですか? あなたたちは魔女様の使いか、魔法の力を持った方々であると存じておりましたが。
[沈黙]
王: きっとご自覚がないだけでございましょう。大臣、隣の部屋からあれを。
[大臣が大きな木製の輪を部屋に持ち込む。輪の内側には空間的な歪みに起因すると思われる視覚的なゆらぎが観測される]
王: これは私たちが水の恵みに対して、奇跡の粉を捧げる門のコピーです。あなたがたが特別な方々であるならこの門を通れるはずです。私はこの通り、門の中には入れません。
[王は輪の中心に立つが、なにも起きない]
アルファ: 奇跡の粉とは......
王: ご質問の前に、まずはこの門へ。私たちとしても確証が欲しいのです。他のお二人も一緒に。
[大臣と数体の甲冑と剣で武装した兵士が隊員らに接近する。ベータが火器に手をかけて臨戦態勢を取るが、アルファはそれを制止し、輪の中に一緒に入ることを指示する]
[隊員らが輪の中に進入すると映像が乱れる。その後、隊員らは転送に使用されたペーパーフィルターの下部へ出現し、帰還した]
<記録終了>
終了報告: 回収された液体のサンプルは非異常性の紅茶であった。アルファは門に進入した判断の基準として、今後の調査を考えて現地の実体との衝突を最低限にとどめたかった事、さらに門がその形状からSCP-1452-JP-Aと我々の存在する空間を接続している可能性が高かったことを挙げた。
探査記録1452-2
調査日: 2019年2月12日
付記: 今回の探査は前回探査を行わなかった森の探査を目的としている。進入時の装備及び人員のロストを防ぐために、装備と人員はロープで結びつけられている。
<記録開始>
アルファ: 今回も同じか...... 川に流されていたようだ。装備はなくなってないな。
ガンマ: 大丈夫です。それより見てください、あれ。
[カメラはアルファの後ろでこちらを見つめる鳩型実体を映す。前回の探査で遭遇したものと同一個体であるかどうかは不明。アルファは実体と会話を試みる]
アルファ: 君は以前私たちと会ったことがあるかい?
鳩型実体: そうかも。でもよくおぼえてない。ハトだから、三歩歩けば忘れちゃうってさ。だから願いを託されるの。
アルファ: 今私たちを観察しているのは、何か目的があるのかい?
鳩型実体: 僕が羽ばたいて、君たちがあらわれた。きっと願いは叶いつつある。僕は君たちの願いを聞きに来たよ。
アルファ: そうだな...... とりあえず、あの国の人々に私たちがここに来たということが知られてしまうと困るんだ。君が羽ばたけばそれが伝わってしまうのだろう?
鳩型実体: 確かに彼らは僕に知ることを願った。でも今日は、僕は君のために羽ばたこう。
アルファ: ありがとう。あとは大丈夫だ。
[鳩型実体はその場を飛び去る]
ガンマ: 大丈夫ですかね。不安は残りますが。
ベータ: 敵意はなさそうですし、願ってみる価値はあったでしょう。
アルファ: とりあえず利用できるものは利用しよう。さあ、森へ行くぞ。
[隊員らは川を渡り、森へ向かって進行する]
[隊員らは森に進入する。森は広葉樹による極相林の様子を呈しており、暗い。鳩の鳴き声以外に植物以外の生物の痕跡は見当たらない]
ガンマ: なんか変な匂いしませんか? 森の匂いとは違うような......
ベータ: 確かに。甘い匂いがしますね。毒ガス検知器が反応していませんが、防ガス装備を着用しておきましょう。
[進行と共に、徐々に差し込む光量が増加する。樹木の隙間からすぐ先に開けた空間があることが窺える]
ガンマ: ......森が終わりますね。どうしますか?
ベータ: なにかが動いていますね...... あれは何でしょう。透明な竹? 畑のようにも見えますね。家のようなものも確認できます。
アルファ: なるべく敵意がないように振舞いながら対象と接触する。きっとあれが前回の調査で「王」が言っていた、危険な存在だろう。警戒を怠るな。
[隊員らは森から出て進行する。開けた空間には結晶様の構造を持つ白色半透明な棒状の構造物が規則的に生えている。その間を人型の実体が移動し、構造物から何かを採集している。人型の実体は形状こそ人間に類似しているものも、白色半透明でところどころに結晶様の構造が見られる(以降実体Aと呼称する)]
[接近に気が付いた実体Aの1体が隊員らの方に駆け寄る。隊員は臨戦態勢で応じるが、実体は隊員らの前で跪く]
実体A: ああ、お仕事は問題なく進んでおります。なにかお気に障ることでもございましたか?
アルファ: ......いや、君たちはここで何をしている?
実体A: なにを、と申されますと。ああ、こうして手を止めてしまい申し訳ございません。すぐに仕事に戻ります。ど、どうかお許しください!
[実体Aは立ち上がり、元居た場所へと駆け戻る]
ガンマ: おい、ちょっと!
ベータ: まともに会話が成り立ちませんね......
[ハトが飛来し、アルファの頭部にとまる]
鳩型実体: やっぱり困ってるね。さっき願い忘れた?
アルファ: ......あぁ、ずっとつけてたのか? 彼らは何をしているんだ?
鳩型実体: つけてないよ。たまたま。ハトは自由に飛ぶんだ。そして彼らは氷糖の民たち。今何をしているかは知らないよ。忘れちゃったから。ハトは三歩歩けば忘れてしまうんだって。
アルファ: でも私たちのことを覚えているだろう?
鳩型実体: まだ三歩歩いてないから。ずっと飛んでたよ。
[鳩型実体の出現に気づいた実体Aらがこちらを凝視する。鳩型実体は短い鳴き声を発して、アルファの頭から飛び去る]
[多くの実体Aが跪く。そのうち一体の実体Aが前に進み出て、隊員らに深く頭を下げる]
実体A: ああ、なんと。願いがあなたを認められた。あなたたちは永遠の民ではないのですね。
アルファ: そうです。驚かせてしまったようで申し訳ない。
実体A: いえいえ、あなたたちの来訪ほど喜ばしいことはありません。何か御用がおありでしょうか?
アルファ: ここのことを教えて頂きたい。できれば周辺を案内もしてくれると助かります。
実体A(以下長老): わたくし、長老でよろしければ、是非ご案内させていただきます。ただ、申し訳ございません。私たち以外の者を仕事に戻してもよろしいですか? 事情は追ってお話いたしますので......
アルファ: もちろんです。それではぜひお願いします。
[長老が目配せをすると、実体Aらは作業に戻る。長老は隊員らを先導する]
長老: まずは何からお話ししましょうか......
アルファ: まずあなたたちは何者なのか、そしてここで何をしているのかを教えて頂きたいです。できれば、魔女についても。
長老: 我々は魔女様に氷糖の民と名付けられた民です。ここには大きく分けて三つの存在があります。願い・祝福・呪い、この三つです。願いはハトです。でも他の二つはよくわかりません。我々と永遠の民、どちらが祝福で、どちらが呪いなのか。しかしながら多分、我々は呪いなのでしょう。この現状を見れば......
アルファ: では、あなたたちはここで何を?
長老: タケサトウを育てています。
アルファ: タケサトウ?
長老: 本来は私たちの子を作るための神聖な植物です。私たちは不滅ではなく、また御覧の通り年も取るので子を作る必要があります。そういうときはタケサトウを砕いたものを丁寧に、長い時間をかけて練って、そうするとそれが我々の子になるのです。
アルファ: 本来、ということは今は違うと?
長老: 私たちはもともと、各地に散って物作りや農業をしていました。こういう風に集められているのは、永遠の民に強制されているのです。数で勝る彼らには勝てませんから。そうして、タケサトウの栽培を命じられました。ですから、今は子のためにタケサトウを作っているわけではないのです。
アルファ: その理由は?
長老: 永遠の民の王は「捧げもの」であるといっていましたが、よくはわかりません。もちろん抵抗しました。我々の体とほぼ同じものでできている神聖な植物を、そんな農作物のように大量に作り続けろなどと......
アルファ: なるほど。こうなったのはいつからですか?
長老: ......先日、魔女様が亡くなりました。あまりに突然のことでした。民はみなそれを悲しみました。我々は永遠の民と協力して、どうこの世界を生きていくかを考えようとしました。しかし、あるとき永遠の民はこういいだしました。魔女様はお前たちが殺したのだと。アルファ: あなたたちが殺したのではない、と?
長老: もちろんです! 確かに山の頂上にある魔女様のお館へ入れるのは我々氷糖の民のみです。魔女様のご遺体を発見したのも我々でした。しかし、我々は断固として魔女様を手にかけることなどしていません! そもそも魔女様は水を作り、この世界に恵みをもたらしてくださいました。そうして絶えず消えゆく水を、常に継ぎ足し継ぎ足し、恵みの絶えないようにしてくださいました。我々は水がないと子を作れません。永遠の民も、水がないと苦しみを得ます。そんな大切な方を殺す動機がないのです。
アルファ: 失礼なことを言ってしまいました。申し訳ないです。ではあなたたちは永遠の民に迫害されて、ここで働かされているということですね?
長老: はい。そういうことです。辛い仕打ちですが、不幸中の幸いで、誇り高い先祖の墓はここまで持ってくることができました。彼らに誓って、我々は耐えているのです。いつか何かが変わると...... ちょうど見えてきましたね。あれが先祖の墓です。
[長老が指さす先には、白色半透明の直方体の構造物が無数に整列している]
ガンマ: おお、すごいたくさんありますね......
長老: ありがとうございます。我々は仲間が死ぬと、その体とタケサトウを使って墓を作ります。それがこの墓です。まさに我々の誠実な歴史の結晶で、誇りです。こうすることで、我々は死したとしても仲間と共にあれるのです。
アルファ: なるほど...... その話を聞いたうえでこう申し出るのも申し訳ないのですが、もしお許しが取れるならあなたの体、タケサトウ、そしてあのお墓のほんの一部を削り取らせていただけませんでしょうか。私たちの仕事に必要なのです。
長老: ええ、どうぞ。ほんの少しなら、あなたたちに協力できることを先祖もよろこぶでしょう。私の体も、永遠の民ほどではありませんが傷もいつか癒えるでしょうし問題ありませんよ。
アルファ: ありがとうございます。
[隊員らはタケサトウ、墓、長老からサンプルを採集する]
長老: ほかになにかご協力できることはありますか?
アルファ: 採集されたタケサトウはどこへ運ばれるのでしょう?
長老: ああ、それならばすぐそこです。ついてきてください。
[長老の先導に従って前進すると、やがて巨大なため池と巨大な穴が映し出される。ため池にはそこに流れ込む川のような溝があるが、水は流れていない。穴の横には大量の白い粉末が積まれているように見える]
アルファ: このため池は?
長老: これは川から流れてきた水を溜めておく池です。川は魔女様が死んでから突如起こった洪水によってできました。それから不定期に水が流れてくるのです。今は水がないですが、先ほどまでは流れていました。川が詰まらないようにため池周辺を掃除するのも我々の仕事の1つです。
アルファ: では隣の穴が......
長老: はい。あれが門です。タケサトウは砕かれてあそこに運ばれます。あの白い山ですね。川に水が流れると、我々はその分だけタケサトウの粉末を穴に放り込むように永遠の民に命令されています。放り込まれたタケサトウは吸い込まれていきます。我々命あるものは残念ながらあの門を通ることはできませんが、魔女様は時折あの門の中に入っていかれていました。
アルファ: ありがとうございます。もう大丈夫です。
長老: そうですか。では私はこれで。また何かあればなんなりとお申し付けください。
[長老は道を引き返していく]
アルファ: あれが前回の帰還時に通った門の本来の姿とみて間違いないだろう。一旦帰還するためにあれに突入するが、異論はあるか?
ガンマ: いいえ。サンプルも手に入れましたし、一度帰還するのが得策と考えます。
ベータ: 同じく。異論はありません。
アルファ: では行こう。最後まで油断はしないように。
[隊員らは門に向かって前進。その後問題なく門へ突入した。カメラの映像が乱れ、隊員らは転送に使用されたペーパーフィルターの下部に出現し、帰還した]
<記録終了>
終了報告: 隊員らが持ち帰ったサンプルはいずれもショ糖と成分が一致した。実体Aやタケサトウと呼ばれる構造物はすべてショ糖結晶によって構成されていると考えられる。
探査記録1452-3
調査日: 2019年4月16日
付記: 今回の調査は、前回の調査で示唆された「山頂の魔女の館」の発見と、その探索である。
<記録開始>
[SCP-1452-JP-A到着直後の情報は以前の情報とほぼ変化がないため省略]
[隊員らは川をさかのぼって上流を目指す。少し歩いたところで、小さな山が発見され、その頂上に石造りの構造物があることが確認される。頂上を目指し移動は継続される]
[おおよそ4時間の移動のあと、山頂に到着。おそらく元は石造りの1階建ての家屋であったと思われる建造物を発見。建造物の一部は崩壊しており、崩壊した家屋側部から水が流れ出しているのがわかる]
アルファ: おそらくここが魔女の館だろう。崩壊が酷いな。
ガンマ: ......入り口からは入れなさそうですね。そこの壁が崩れた水が溢れているところからは入れそうです。
[家屋側面は壁が崩壊して穴が開いている。床は浸水している]
アルファ: かなり状態が悪いな。ガンマは水の発生源を、ベータはこの住居に生活していた人物について何か情報がないか探してくれ。
[隊員らは部屋を捜索する。ガンマがSCP-1452-JPと酷似した形状を持つコーヒードリッパーを発見する]
ガンマ: 水源と思しきものを発見しました。水没しており、この位置からは動かせません。形状はほぼSCP-1452-JPと同一ですね。ただ調整つまみのようなものがついています。......濃さ調節、ですかね。値は最大値の1/10000になっています。
ベータ: こちらもいくつか見つかりました。まず1つ目がカップの破片ですね。部屋のあちこちに水没していました。あとはこの小さな輪ですね。壊れていますが、"王"がもっていたものと類似しています。おそらくポータルだったものでしょう。そしてこれが......
[映像はベータの指さす壁を映す。乾いた茶色の染みのようなものが付着している]
アルファ: 吐しゃ物、か?
ベータ: 恐らくそうだと。完全に乾いてしまっていますが、かなり激しく嘔吐したようですね。サンプルを取っておきます。
アルファ: ああ頼む。私の方ではこれが見つかった。
[アルファは女性の写った写真が入った写真立てを指さす。写真の右側は破り取られている。他の人物は写っていない]
アルファ: 魔女と何か関係のある女性かもしれない。ガンマ、コピーを取っておいてくれ。欠損部分があるかもしれない。この部屋をもう少し探索しよう。
[探査が継続されるが、有用なものは発見されない。突然、鳴き声と共に鳩型実体が部屋の中に飛来する]
アルファ: ......特になにも願ってはいないぞ。
鳩型実体: ハトは自由だよ。願われなくてもそこにいることができる。許されるんだ。
アルファ: 特に用はないと?
鳩型実体: 用事はないけど、三歩で忘れてしまうことはあるよ。祝福と呪いが願っている。願いが動くよ。タケサトウ畑にみんな集まっている。
[鳩型実体は棚の上を数歩歩く]
アルファ: おいまて、どっちが祝福なんだ? やはり永遠の命のことを言っているのか? 一体何が起こっている?
鳩型実体: うーん、忘れちゃった。おなかすいたし、もう帰るね。
[鳩型実体はその場から飛び去る]
[アルファは深くため息をついた後、鳩型実体がいた棚の上を探る]
アルファ: これは......
[アルファは棚から写真の破片を発見する。破片にはハトが写っている。アルファは女性の写真に破片をはめ込んで写真立てに戻す]
ガンマ: あのハトですかね。揃いましたし、コピーではなく実物を回収しますか?
アルファ: ......いや、コピーで十分だろう。きっとこれは、置いておくべきだ。
ガンマ: 了解です。コピーをとりますね。
アルファ: あのハトに振り回されてばかりのような気もするが、これ以上ここから得られるようなものもなさそうだし、すぐに前回の探査で訪れた栽培場まで向かう。
ガンマ: わかりました。異存はありません。あの場所ならポータルも近いですし、いざというときすぐ帰還できます。
アルファ: 私も同意します。ここからならそう遠くないでしょうし、すぐ向かいましょう。
[移動が開始される。特筆すべき変化はないため省略]
["タケサトウ"栽培エリアに到着。栽培エリアには甲冑と剣で武装した多数の兵士と"王"、"大臣"がいる。それに対して実体Aらはひれ伏し、"長老"が王に何かを訴えている。隊員はそれに接近する]
長老: ですから、墓を持っていくことだけは、それだけはどうか......
王: 魔女殺しは恩にすら報いれぬ連中か。まさに呪いの民だな。目も当てられん。
["王"が隊員らに気づき、振り返る]
王: おお、あなたでしたか。前回は突然消えてしまわれたので驚きましたが、おかげで我々はあなたが偉大なお方であることを確信しました。なんともこんな汚らわしい現場を見せつけてしまって申し訳ありません。
アルファ: 何があったんですか?
王: 魔女様がこやつらの手にかかって以降、我々は水を失うことを恐れ続けていました。なにせ水はどんどん消えていってしまうのです。これは魔女様によるお怒りの罰です。ですので、我々は魔女様に謝罪するためにこの愚かな民の1つを破壊して、魔女様の門に投げ入れました。するとなんと、それ以降水が突然湧くようになったのです。ですので、我々はその恩恵へのお返しとして、毎度彼らの子となるものを奇跡の粉と呼んで、捧げることを決定しました。魔女様の怒りを納めなければ、我々は幸福に生きていけないのです。
アルファ: それが今回の件とどう関係するのですか?
王: 最近のことですが、あなたがこの地にいらっしゃっただけではなく、あなたとともに今までの比にならない量の水がもたらされ、この地は潤いました。それにふさわしいお返しをしなければなりません。しかし、どうにもこやつらがつくるタケサトウの量が足りない。まさに不徳、怠慢の結果です。必要な捧げもの、奇跡の粉を確保するために、こやつらの墓を打ち砕くことにしたのです。そうすれば大量の奇跡の粉が確保できますから。
アルファ: それは彼らの大切なものではないですか?
王: ええ。ですが自身の怠慢の結果は自身で償うべきだと、永遠の祝福を受けた民としてその正義をこやつらに教えなければなりません。必要なことです。それともあなたはこやつらの肩を持つと? いくらあなたとはいえど、魔女様を殺した悪魔どもの側につくのは許しがたいものでございますが。
[武装した兵士が接近する。アルファはベータとガンマを制止する]
アルファ: わかりました。我々は手出しをしません。
王: そのお返事がいただけて大変幸せで御座います。さあ、やってしまえ!
["王"の命令で兵士らは墓の破壊を始める。以降映像は兵士による墓の破壊と、それを止めようとして破壊される複数の実体Aを映す。状況は徐々に混乱していく]
[隊員らは抗争に巻き込まれることを懸念してその場を離脱]
ガンマ: 止めなくてよかったんですか?
ベータ: 彼らは異常存在です。感情移入することはできません。どちらかの肩を持つのも、今後の破滅的な結末につながるでしょう。
アルファ: ベータの言うとおりだ。我々の干渉はこの世界の政治への干渉ではない。抗争に巻き込まれて貴重な情報を失うことは最も避けなければいけない事態だ。一旦このまま帰還する。
ベータ: 了解。
ガンマ: ......了解です。
[その後隊員らは前回の探査で使用したものと同じポータルを使用して帰還。その間特筆すべき情報はないため省略]
<記録終了>
終了報告: 持ち帰られた吐しゃ物と思われるサンプルからは、毒性を持つ化学物質が検出された。これは最後のろ過実験で使用されたものと一致した。
探査記録1452-4
調査日: 2019年7月12日
付記: 本探査はSCP-1452-JPの影響を受けたフィルターから食塩が出現したことを受けて行われた。
<記録開始>
[SCP-1452-JP-A到着直後の情報は以前の情報とほぼ変化がないため省略]
ガンマ: 見てください、あれ。森が燃えています......
[カメラは川の対岸の森を映す。森の一部が燃えて煙が立ち上っている。また、川には多数の橋が架かっている]
アルファ: 明らかに異常な事態だな。まずは森の様子を見に行くぞ。
[隊員らは森へ向かう。破裂音と悲鳴が記録される。火災は森を取り囲むように発生している]
アルファ: これは、銃声か?
ガンマ: 私にもそのように聞こえます。この世界で銃なんてみたことありませんでしたが......
ベータ: いくつか火が弱いところがありますね。あそこからなら進入できそうです。とはいえ、燃え盛る森林に進入するのはかなりリスクが伴いますが......
アルファ: とりあえず近くまで寄ってみよう。
[3人は火の弱い箇所へ接近する。悲鳴が聞こえて、子供を抱えた女性が森から飛び出してくる。子供は笑っている]
ベータ: おい、中で何が――
[破裂音が響く。女性は頭部が破裂しその場に倒れる。子供が逃げ出すが、二発目の破裂音が響き子供は胴体が撃ち抜かれる。2体の実体A(それぞれA-1,A-2とする)が森から出現する。1体(A-1)は鳩型実体を捕えている。加えて、2体は機動部隊に支給されている小銃と非常に似た形状の銃器を携行している。ただし、銃器は白色半透明の結晶で構成されているように見える。隊員らは臨戦態勢を取る]
実体A-1: おい、あいつらどうするんだっけ。
実体A-2: あいつらはコレとおんなじの持ってるから戦わんほうがいいって言われただろ。あと町に呼べって。
実体A-1: あーそうか。おーい、あんたら聞いてる? 危害は加えないから。ほっといてくれ。早く縛らんとこいつら再生しちまうんだ。
アルファ: 今どういう状況なんだ? なにが起こっている?
実体A-1: 話してる暇はないんだわ。町に行ってくれ。たぶん長老が教えてくれる。
アルファ: あー、ならそのハトはどうした。できれば逃がしてやってくれないか、そいつから話を聞きたい。
実体A-1: あー?
実体A-2: 俺らの居場所がばれないように捕まえたんだろ。もう大丈夫だから放してやれ。あいつらといざこざになる方が面倒だ。
実体A-1: まあ、そうだな。ほい。
[実体A-1はつかんでいた鳩型実体を手放す。鳩型実体はすぐにその場を飛び去る]
アルファ: ああクソ、仕方ないか......
ベータ: とりあえず、事態がこじれる前に町へ向かいましょう。情報が足りなすぎます。
アルファ: そうだな。では町に行こう。最大限の警戒を怠るな。
ガンマ: 了解。
ベータ: 了解。
[隊員らはその場を離脱し、町に向かう。最後に射撃された女性の遺体がズームされたが、組織が異常なスピードで再生していることが観察された]
[町への道のりで小麦畑のエリアを通過したが、すべての家は燃やされ、住民は見当たらなかった。子供の笑い声も記録されなかった]
[町に到着。石造りの建物はところどころ崩壊し、いくつか炎上しているものもある。前回に訪れた時にいた住人はおらず、代わりに実体Aが町を占拠している。全ての実体Aは森で遭遇していた実体Aのものとおなじ銃器を所持している。実体Aは非敵対的である]
[隊員らは複数の実体Aに城に行くよう促される。隊員らは周辺を調査しながら、城へ向かう]
[城に到着。門は崩れ落ちている。入り口の前で、"長老"が隊員らを出迎える]
長老: ふふふ、待っていましたよ。そろそろいらっしゃると思っていました。それではあなたがたが知りたいことをお教えします。どうぞついてきてください。
[長老は城の地下へと隊員らを先導する。地下へ下る長い階段が続く]
長老: あなたがたが我々を見捨てて去った後、我々は気付いたんです。兵士に取り囲まれたとき、あなたがたがその細長い筒を使おうとしたことを。そうして我々はそれを1つもっていることに。
ガンマ: まさか第1回探査の時に紛失した......
長老: 下流のゴミ掃除のときに回収されたそれについて、我々は研究しました。そして完成させたんです。この模倣品を。腐っても物造りの民ですからね。容易いことでしたよ。
ベータ: そうして彼らに反乱を起こしたと。捕えた彼らはどこへ?
長老: 困ったことがありまして。お怒りになっている魔女様への捧げものはどうしようかと。もうタケサトウを作る理由もないですし。なにか別のもので代用する必要があった。
ベータ: いや、捕えた彼らは......
ガンマ: うっ、なんですか。この異臭は。
[長老は大きな扉の前に立ち、扉を開ける。子供の笑い声が聞こえる]
長老: ちょうどいいものが見つかったんですよ。彼らは殺しても殺しても死にませんから。彼らの出す特定の液体を熱して洗練すれば、白い粉末が取れることに気づいたので、今後はそれを使うことになりました。
[扉の向こうはせりだしたバルコニー状の構造になっており、下層が見下ろせる。下層は1つの大部屋になっており、子供が隙間なく集められている。子供たちは笑いながら涙を流している。壁には大人個体が腹部、四肢を固定された磔になっている。子供たちの笑い声に混じって、大人個体のものと思われる呻き声が響いている]
ガンマ: うっ、これは......
ベータ: 正気の沙汰じゃないですね。
長老: ふふふ、酷い言いようですね。我々はずっと不思議だったんですよ。魔女様の作られた水がどこに消えるのか。そしてその答えが分かりました。彼らのなかに全部蓄えられていたんですよ。だから効率よく、できるだけきれいな水を採集するような設備を作りました。このあと集められた液体は熱されて、不純物と分けられます。不純物はさらに精錬されて、魔女様への捧げものになります。幸い精錬に必要な熱は無限にありますから。彼らは思いのほかよく燃えますし、不滅の呪いで決して果てませんので。
[大部屋の床は傾斜していて、部屋の四隅には配管設備があることがわかる。アルファがハンドサインで臨戦態勢を取ることを指示する]
アルファ: 私たちをこんなところに呼んだことには理由があるのでしょう。この世界で唯一脅威になる我々をここに呼んだ理由が。それは例えば、上から響いている足音に関係している。
長老: 耳の良いことで。
[長老は懐から銃を取り出そうとするが、アルファによって銃撃され銃を取り落とす。アルファが二発目を発射する前に、長老は身をひるがえして逃走する]
アルファ: 追うぞ。ここに連れてきた時点で、自分が逃げる経路を確保しているはずだ。あらかじめ攻撃許可は出しておく。後ろから近づく実体は問答無用で破壊せよ。
[長老が突き当りの壁を押すと、壁が回転し隠し階段があらわれる。アルファは長老を射撃し、長老はその場にうずくまる]
アルファ: こいつは殺さずこの場においておく。治療のために人手を割いてくれるだろう。さあいくぞ。目標は3階の王の間だ。確かあの部屋の隣の部屋にポータルがあったはずだ。帰還を最優先に動くぞ。
[後ろからは怒声が迫る。接近した個体を破壊しつつ、隊員らは階段を上昇する。隠し階段を登り切ると1階へ出る。城の外からの増援が隊員らを発見。銃撃戦になりながらも隊員らはかろうじて無事に階段を上り、3階にたどり着く]
ガンマ: 王の間の扉は開いています!
ベータ: 隣の部屋の鍵はしまっています。扉もおそらく金属製で、銃で無理やりあけるのは不可能かと!
アルファ: 爆弾の設置は?
ベータ: 時間がありません!
ガンマ: 万一ポータルを作っている枠が破損してしまえば、ポータルが利用できなくなる可能性もあります!
[階下から怒声が響く]
アルファ: ああクソ、とりあえず王の間に逃げ込むぞ。扉も頑丈だ。時間を稼ぐくらいはできるだろう。
[隊員らは王の間に逃げ込み、扉を閉めて閂をかける。すぐに扉を激しくたたく音が記録される]
ガンマ: これからどうしたものでしょうか......
ベータ: ここにずっといることもできません。装備の差で押し切っていますが、弾にも余裕がありませんから、戦闘が長引けば不利になります。
アルファ: ......すまない。危険を承知とは言え、判断を間違ったか。
ガンマ: いえ、仕方ありません。こうせざるを得ませんでした。
[鳩型実体の鳴き声が響く。開かれた窓から、鳩型実体が飛来する]
アルファ: ああ、君か。
アルファ: なあ、願いを叶えてくれるのか? それならこの状況をなんとかしてくれないか。もうすこし平和な世界にできるだろう。
鳩型実体: ......僕たちはハト。自由の存在。願いの存在。本当は、君たちの願いも民たちの願いもどうでもいいんだ。僕たちの羽ばたきは魔女のためだけにある。だから、残念だけどその願いは叶わない。今この状況で、魔女の願いは叶ったんだよ。
ベータ: でもその魔女は死んだんでしょう?
鳩型実体: 魔女はいなくなっちゃった。でも願いは叶えなきゃ。さっきはありがとう。僕を助けてくれて。でも僕は君を助けることはできない。
ガンマ: 自由な存在だから?
鳩型実体: いいや、違うよ。違う理由。でも僕は今とっても気持ち悪い。だから吐くことはできる。
[鳩型実体が小さな固体を嘔吐する。それは鍵のように見える]
鳩型実体: ハトは三歩歩くと忘れてしまうって、そう魔女は言った。でも魔女は忘れられないこともあることを知っていたんだ。だから、僕たちはきっと魔女の死を忘れない。誰がそれをやったかを、絶対に忘れない。この感情は三歩じゃ忘れられないって、魔女はいうだろうから。
アルファ: それならなんで......
鳩型実体: 僕は魔女の願いを叶えたよ。でも僕にも願いがあった。そうしてそれも叶ったから、僕はあの日から1歩も歩かなかったんだ。ずっと飛んでたんだよ。さあ、早く早く、ここから離れて。僕が三歩歩くまえに。
[アルファは鍵を手に取って、対ガス装備を着用する]
アルファ: ありがとう。感謝する。ガンマ、催涙ガスと煙幕の用意を。ベータは俺の援護を頼む。
[ベータ・ガンマは対ガス装備を着用。煙幕が部屋に充満し、扉が開かれる]
[実体Aらの呻き声と困惑する声。ベータとアルファによる銃撃音。3人は実体Aの間をすり抜け、隣の部屋に到達。鍵を開き、3人は部屋内部に進入。ポータルを発見する]
[実体Aが部屋に進入。3人はポータルに飛び込む。映像は乱れ、通常通り帰還が完了した]
<記録終了>
終了報告: 今回の探査記録を受けて、今後の実験及び探査の禁止が決定され、敵対的実体の出現に備えて特別収容プロトコルの改定が行われた。