クレジット
アイテム番号: SCP-134-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-134-JPは蓋を閉じた状態でサイト-81KAの低危険度物品収容ロッカーに保管します。SCP-134-JPの影響を受けた人物には適宜インタビューおよび記憶処理を行います。インターネット上のSCP-134-JPと関連性が見られる異常な記憶に関する情報は財団ウェブクローラ ("Farewell") により記録および削除されます。財団エージェントらは全国の骨董品店などを捜索し未発見のSCP-134-JP実例の回収を行ってください。
SCP-134-JPの1つ
説明: SCP-134-JPは木製の箱に収められたディスク式オルゴールです。現在のところ日本国内で26個の実例が発見されています。蓋が開かれているときに自動的に稼働しジングルベルのメロディの変奏と思われる楽曲を演奏します。動力源は見当たっておらず、稼働原理は不明です。
SCP-134-JPによる演奏で発生する音を録音等の手段を経ず直接聴いた人物 (以下"対象"と表記) は一定の記憶を想起します。これについては実際に対象の体験に基づく記憶であると立証できていません。対象は音を聴いた時間に比例して更なる記憶を想起します。また、想起している分の記憶の続きを思い出そうとすることに対象は固執するようになりますが、音を聴かない限り新たな記憶を想起しません。ある程度該当の記憶を想起した人物は不明なプロセスを経て消失します。消失先は不明です。
想起される記憶の詳細は補遺134-JP.1を参照してください。
補遺134-JP.1: 実験記録
注記: 全実験においてインタビュアーは相垣研究員でした。
実験記録134-JP.1
対象: D-134-1
内容: D-134-1にSCP-134-JPから演奏される音を3分間聴かせたのち、想起した記憶の内容についてのインタビューを行う。
結果:
[記録開始]
インタビュアー: それでは思い出した記憶について詳細に教えてください。
D-134-1: ああ。何歳だったかはわからないけれど、とにかく小さい頃のことだった。多分、6か7歳くらいか。12月24日、クリスマスイヴのことだ。レンガでできた暖炉の炎が良く燃えていて、その近くに白い猫が丸まってた。暖炉の上には写真立てがあったと思うんだが、何の写真が入ってたかまでは思い出せない。それと── (間) ──確か、確かスノードームも置いてあったと思うんだ。わかるだろ、丸っこくて中に雪が降ってる町みたいなミニチュアが入ってるやつだ。俺はそれで遊んでいたんじゃなかっただろうか……何回もひっくり返しては見惚れてたような憶えがある。
インタビュアー: それは、あなたの家でのことでしょうか。
D-134-1: あー、いや違う。どこなのかわからないけど、俺の家じゃあなかった。うーん、確かにこういう記憶はあるんだがよく分からんなぁ。白猫も俺が飼ってたわけじゃないんだが、すまん、分からない。
インタビュアー: では続きをお願いします。
D-134-1: おう、他に部屋にあったのはクリスマスツリーと椅子だ。ほらあの、座って揺らせる奴。クリスマスツリーはなんか色々装飾ついてたのは憶えてる。俺が飾ったわけじゃなかったような気がするが……。それで、俺はスノードームで遊んでて、眠くなってきたからベッドに入った。同じ部屋にあるんだよ、ふかふかのベッドがさ。なんだかすごい懐かしい気分だ。部屋の中は温かくてな、すごく幸せなんだ。窓の外には雪が降っててさ、雲の合間から満月が見えるんだよ。すっごいでっかい満月がなぁ。
インタビュアー: ベッドに入ってからはどうでしたか。
D-134-1: そうだな、ベッドに入ってからは……あー、ベッドに入ってからはな、えーっとだ。ダメ、ダメだ、思い出せない。
インタビュアー: では思い出してからで構わないので教えてください。
D-134-1: ああ、もちろんだ。思い出したくて仕方ないんだ。待っててくれ。
[記録終了]
後記: D-134-1には実験後に1日間の想起の猶予を与えたものの、インタビュー内容以上の記憶を思い出すことに成功しなかった。
実験記録134-JP.2
対象: D-134-1
内容: D-134-1に前回同様SCP-134-JPから演奏される音を3分間 (合計6分間) 聴かせたのち、想起した記憶の内容についてのインタビューを行う。
結果:
[記録開始]
インタビュアー: 記憶の続きは思い出しましたか。
D-134-1: ああ、しっかり思い出したぞ。そのオルゴールの音を聴いたらあんなに苦労したってのにぱっと思い出せた。部屋の電気は元々点いてなかった。暖炉の火だけが唯一の灯だったんだ。俺はベッドに入ってからすぐに目を瞑って、サンタクロースに逢えるかどうかにドキドキしてたんだ。
インタビュアー: サンタクロースですか。
D-134-1: (笑い声) 子供らしいだろ?
インタビュアー: ええ。
D-134-1: 本当にワクワクしてたんだ。そのころはサンタの存在を信じてたからな。今となっちゃ夢も何もないクソ人間だけど、俺だってこうやって穢れてない時期があったんだ。意外だろ?で、目を瞑ったとはいえさ、眠れるわけないんだよな。ドキドキしてんだから。静かな部屋に暖炉から聴こえる火がパチパチと響いててなぁ……子供の頃はどうしてこう、何でも綺麗に見えたんだろうなぁ。(溜め息) あの頃に戻りたいな。
インタビュアー: その後は眠れたのでしょうか。
D-134-1: ああ、もちろん普通に朝まで寝ちまったんだと思うんだが、思い出せてない。なあ、オルゴール聴かせてくれよ。あれを聴けばもっと思い出せると思うんだ。頼むよ。
インタビュアー: わかりました。ただ、まずは自力で先を思い出してみてください。
D-134-1: ありがたい。
[記録終了]
後記: D-134-1には実験後に再び1日間の想起の猶予を与えたものの、インタビュー内容以上の記憶を思い出すことに成功しなかった。
実験記録134-JP.3
対象: D-134-1
内容: D-134-1に前回同様SCP-134-JPから演奏される音を3分間 (合計9分間) 聴かせたのち、想起した記憶の内容についてのインタビューを行う。
結果:
[記録開始]
インタビュアー: 大丈夫ですか。どうにも顔色が悪く見えるのですが。
D-134-1: いや、大丈夫だ。(息切れ)
インタビュアー: 無理はしないでください。思い出したことを少しずつでいいので教えて頂けますか。
D-134-1: ああ、大丈夫、大丈夫だ。俺はあのあと寝てしまったわけだ。サンタが部屋に入ってくるまで起きてるなんてことは子供には難しいんだ。だけどよ、目が覚めたんだよ。暖炉の方からガタガタって音が聴こえてきてさ。サンタクロースが来た!って思ったんだけど、どう考えたっておかしんだよ。だってな、機械みたいな音してるんだ。ガタガタガリガリ、めちゃくちゃうるさいんだ。
インタビュアー: つまり暖炉から何かが現れたわけですね。
D-134-1: 怖くて見れなかったんだよ。(間) 俺は信じられなかったんだ。こんな気持ち悪い音を出すのがサンタクロースだなんて、信じられるわけなかったんだよな。音はどんどん大きくなってきて、ついに部屋の中に入ってきたんだ。ドン!って音がしてびっくりした。あれは多分、ツリーが倒された音だったと思う。サンタクロースがすることじゃねえって。
インタビュアー: そこからどうなったのでしょうか。
D-134-1: 俺は── (間) ──俺は、勇気を振り絞ってベッドから顔を出して、それを見たんだ。
インタビュアー: それは、サンタクロースでしたか。
D-134-1: いや違う。赤い服に赤い帽子、白い袋を持っていたのは見えた。でもそれを着てたのはサンタじゃなかった。サンタではない何かだったんだよ。俺にはわからないんだ、あれが何だったのかは。それでそいつの足元で猫が潰れてて、潰れて……
インタビュアー: その先のことは──
D-134-1: 思い出せないんだよ!ああクソ、怖くて思い出しちゃいけないような気もしてるんだが、何としてでも思い出さないといけないんだ。先生頼む、もう一度だけオルゴールを聴かせてくれ。もう一度だけでいいから。
[記録終了]
後記: D-134-1には実験後に再び1日間の想起の猶予を与えたものの、インタビュー内容以上の記憶を思い出すことに成功しなかった。D-134-1は記憶を想起することに対して苦しむ様子を示し始めていた。
実験記録134-JP.4
対象: D-134-1
内容: D-134-1に前回同様SCP-134-JPから演奏される音を3分間 (合計12分間) 聴かせたのち、想起した記憶の内容についてのインタビューを行う。
結果: D-134-1は音を1分間ほど聴いた時点で絶叫し、消失した。絶叫の直前にD-134-1は「思い出した」と発言していたことが確認されている。
追記: 後続の調査でD-134-1は幼少期に失踪しており現在も行方不明であることが判明した。この事実と財団の記録との多数の齟齬について調査が進行中である。
実験記録134-JP.5
対象: D-134-2、D-134-3、D-134-4、D-134-5
内容: 前回実験の結果の調査を目的として、終了される予定だった4名の対象に同時にSCP-134-JPの音を12分間聴かせる。
結果: 約7分間が経過した辺りから全対象の顔色が明確に悪くなった。10分間が経過した時点でD-134-2、D-134-3、D-134-5が絶叫して消失した。D-134-4も同様に絶叫したもののその場に倒れるのみに留まった。後続の調査で消失した4名の対象にあたる人物らが幼少期より行方不明になっていることが確認された。また、新たな情報が手に入るまでDクラス職員を消費する形式の実験は中断されることが決定した。
後記: 以下はD-134-4が意識を取り戻したのちに行われたインタビューの転写である。
[記録開始]
(前略)
D-134-4: それで、気づいたら空の上に居たんです。何故だか苦しくて、必死にもがいてたら。
インタビュアー: 空?
D-134-4: はい。大きな満月が見えていて、下には雲がありました。つまり雲の上に気付いたらいて、私は真っ逆さまに落ちていたんです。考えてみれば、不自然なくらい月が大きかったような気がします。それで満月の方を見ると、そりに乗ったあいつが居るんです。そりは馬のような何かが引いてて、そりの後ろには異常に大きな白い袋が括り付けられてて、ぐちゃぐちゃと蠢いてるんです。袋は、何だか月より大きく見えました。
インタビュアー: 月より大きいのですか。
D-134-4: いや、うまく例えられないのですが、それくらい大きな袋だったというか。それで、そこから子供たちの叫び声が聴こえてて、私もさっきまでその中に居たけど何かの拍子に落ちちゃったみたいだったんです。
インタビュアー: 他に落ちている人はいませんでしたか。
D-134-4: 多分……私だけだったと思います。
インタビュアー: なるほどです。
D-134-4: 気持ち悪いんです。満月を背にもうかなりあいつは小さく見えてるのに、叫び声もはっきり聴こえてたしあいつの鼻歌も聴こえるんです。まさにその、オルゴールのメロディのまんまなんです!(間) あいつの鼻歌が止んで、それで、それであいつは私に話しかけてきて「お嬢ちゃん、大きくなったら伝えておくれ」って言われて、こうやって……
(D-134-4が顔に手を当て俯く)
インタビュアー: 彼はなんと言っていたのですか?
D-134-4: 確か……確か……
インタビュアー: 大丈夫ですか。
(D-134-4が引き攣った笑顔で顔を上げる)
D-134-4: (低くしわがれた声で) メリークリスマス!
(D-134-4が気絶しその場に倒れる)
[記録終了]
追記: D-134-4の意識が戻ったのちに再びインタビューを行ったところ、D-134-4はSCP-134-JPにより想起した記憶を全て「いつ見たかわからない悪夢の記憶」として認識していることが判明した。また「メリークリスマス」と叫んだことについては記憶していなかった。