クレジット
アイテム番号: SCP-1287-JP
オブジェクトクラス: Euclid Safe
特別収容プロトコル: SCP-1287-JP-Aの出現に備え、SCP-1287-JPを用いたセクター-8105への帰還は常に監視下で行われます。SCP-1287-JP-Cは封鎖され、SCP-1287-JP-Aを出現させる必要が応じた場合のみ適切なクリアランス保持者及び財団倫理委員会の承認によって解放されます。
SCP-1287-JP-A出現時には必要に応じた職員に適宜呼びかけを行わせ、SCP-1287-JP-Aの形態を確定させてください。形態を確定させた後、SCP-1287-JP-Bは別室に移動して指示のもとSCP-1287-JP-Aにインタビューを行ってください。この時、部屋には心理学者とSCP-1287-JP-Bを取り押さえる事が出来るエージェントを待機させます。インタビュー終了後、SCP-1287-JP-Bはカウンセリングと心理鑑定を受けてください。
インタビューの概要が必要である場合はセクター-8105管理者に、全文が必要である場合はセクター-8105管理者あるいは該当するオブジェクトの研究主任に請求を行ってください。
説明: SCP-1287-JPはセクター-8105の南部に位置するゲートです。財団保有のポータルの位置付けにより、セクター-8105から派遣されたエージェントや機動部隊の主な帰還経路として用いられています。SCP-1287-JPの異常性は、職員が当ゲートを通って帰還した際にSCP-1287-JP-Aが発生する事にあります。これは全ての帰還において発生する訳ではないので、正確にはいつSCP-1287-JPの異常性が発現したのかは不明です。
SCP-1287-JP-AはクラスII霊的実体で、出現時は白色の霧状の姿を取っています。他者からの接触に応答を示す事はありません。また、共にSCP-1287-JPを通過した人員がこの状態のSCP-1287-JP-Aを視認することは出来ません。
セクター-8105外部で任務中に死亡し、遺体が回収されなかった財団職員と親交があり、その死に悔恨の情を抱いている人物から死亡した人物の名前で呼びかけられると、SCP-1287-JP-Aの姿は呼びかけられた人物のものへと変化します。SCP-1287-JP-Aは主に、最後にセクター-8105を出発した時の姿を取るようです。外観を変化させた後のSCP-1287-JP-Aは呼びかけを行った人物(以下、SCP-1287-JP-B)の声にのみ応答を示すようになります。
SCP-1287-JP-Aは元となった人物を模倣した言動をとり、最後に関わっていたオブジェクトや要注意団体、アノマリーに関する情報を伝えます。既に収容されているオブジェクトの潜在的な収容違反の危険性や未収容オブジェクトの存在、要注意団体の動向に関する警告を主な内容としていますが、より確実な収容方法やオブジェクトの未知の性質の解明に繋がる情報の提供を行った事例も報告されています。これまで確認されている限りでは、SCP-1287-Aが伝えた情報は全て正確なものでした。また、人物の死亡からSCP-1287-JP-A出現までにどれほどの時間経過があったかに関わらず、SCP-1287-JP-Aが財団が既に把握していた情報を提供した事はありません。
情報提供を終えた後、SCP-1287-JP-Aは元になった人物に酷似した言動、性格を保ちながらもSCP-1287-JP-Bに対して攻撃的な態度をとります。SCP-1287-JP-Aは自身の死に関してSCP-1287-JP-Bに対する糾弾を行い、更には「前から思っていた事」としてのSCP-1287-JP-Bに対する侮辱に及ぶ事もあります。これらの発言を終えた後、SCP-1287-JP-Aは消滅します。
一度SCP-1287-JP-Bとなった人物が再びSCP-1287-JP-BとしてSCP-1287-JP-Aの姿を確定させる事は不可能です。また、SCP-1287-JP-Aは異なる人物に呼びかけられた場合であっても一度模倣した人物の姿を再びとることはありません。
SCP-1287-JPの異常性はセクター-8105内の休憩室から機動部隊の帰還を眺めていた研究員たちが隊員に紛れていたSCP-1287-JP-A-1を発見、通報したことから発覚しました。その後SCP-1287-JP-A-1を収容する試みの中で、収容スペシャリストのエージェント・佐竹が「矢沢?」と問いかけた事からその性質が明らかになりました。エージェント・矢沢はエージェント・佐竹と同じ早期収容チームに所属しており、事案発生の2 日前にSCP-████-JP回収作戦中に殉職しています。以下はエージェント・佐竹によるSCP-1287-JP-A-1に対するインタビュー記録です。
<録音開始, 20██/██/█>
SCP-1287-JP-A-1: お、記録準備が終わったらしいね。君も落ち着いた事だし、これでゆっくり話せる。
エージェント・佐竹: ああ悪かった、もう大丈夫だ。とりあえず形式通り、名前から始めてくれ。
SCP-1287-JP-A-1: はいはい。僕は矢沢 響。セクター-8105に所属するエージェントで、二級収容スペシャリスト。少なくとも、今はそう認識している。
エージェント・佐竹: 今は?
SCP-1287-JP-A-1: 君に呼ばれてからそう思うようになったんだ。その瞬間に自分が矢沢響だったと思い出したというのかな。呼ばれるまで何だったのかは自信がない。
エージェント・佐竹: 矢沢としての記憶はどこまである?
SCP-1287-JP-A-1: 全部思い出せるとも。財団に雇われた時のことも、君に最初に会った時のことも、初任務のことも、最後の仕事のことも。流石に処理された記憶はないが、死んだ後の事もちょっとは情報として持っている。
エージェント・佐竹: どうやってここに帰って来られたかは?
SCP-1287-JP-A-1: いや、それはわからないな。呼ばれている気がするなと思ったらあの門を通り抜けていた。でも、何故ここに戻ってきたかはわかる。情報を伝えに来たんだ。君も知りたい筈の事だ。
エージェント・佐竹: わかった、聞こう。
SCP-1287-JP-A-1: あの場所にいた蛇とクリスマスツリーの合いの子みたいなやつを覚えてるか。ほら、僕が食われた。
エージェント・佐竹: 忘れるわけないだろ。あの後あいつはSCP-████-JPとして収容した。安心してくれ。
SCP-1287-JP-A-1: それはよかった。アイツが満腹時に転移出来なくなるのは知っての通りだが、どうも高音を浴びせられてる間もそうなるらしい。あそこじゃモスキート音で制御されてたみたいだな。
エージェント・佐竹: そうだったのか。必ず手順を見直す。
SCP-1287-JP-A-1: それと、あいつはもう一匹いたからそっちで回収しといてくれ。報告は以上だ。
エージェント・佐竹: わかった、ありがとう。絶対に収容してみせる。
SCP-1287-JP-A-1: それを聞けて安心したよ。
エージェント・佐竹: ああ。[16秒の沈黙]それにしても「蛇とクリスマスツリーの合いの子」か。矢沢らしいな。
SCP-1287-JP-A-1: あれはどう見たってファイバーとオーナメントだろ。それともアレかい、「這い寄る焼きビーフン」の方が適切か?
エージェント・佐竹: 這い寄る焼きビーフン。
SCP-1287-JP-A-1: そう。飛んだり跳ねたりもするからあまり正確じゃないが。
エージェント・佐竹: 問題はそこじゃないだろ。[笑い声]全く、アレをそう表現するのはお前くらいなもんだろうな。
SCP-1287-JP-A-1: おや、ようやく笑ったね。それでいいんだ。
エージェント・佐竹: ......またお前のそういう表現を聞く事が出来るとは思ってなかったからな。
SCP-1287-JP-A-1: そうか。まあ、これで君が聞きたかったことはみんな言ったかな。さて、逆にこちらから一つ聞いていいかな?
エージェント・佐竹: ああ、何だい?
SCP-1287-JP-A-1: どうしてあの時僕を置いて行った?
エージェント・佐竹: それは本当にすまなかった。助けられなくてごめん。
SCP-1287-JP-A-1: それはさっき何度も聞いたし、僕が言いたいのはそこじゃない。
エージェント・佐竹: え?
SCP-1287-JP-A-1: あの状況で救出は無理だった、違うか?
エージェント・佐竹: ああ。ああなってしまった後は、もう......
SCP-1287-JP-A-1: あんな時にエージェントが何を望むか、知らない君じゃないだろう? 何故目を背けた? 何故......
エージェント・佐竹: お前を撃てる訳がない!
SCP-1287-JP-A-1: 苦痛を長引かせるのは出来たのにか? まあ、君はあの時目を逸らして逃げ出したから知る由もない事だろうね。こっちはあの後君の足音を聞きながらじわじわと呑ま――
エージェント・佐竹: やめろ、聞きたくない!
SCP-1287-JP-A-1: 聞きたくないだろうな。ああ、今度は目だけじゃなく耳も塞ぐつもりか。それが何の役に立つ? 保身のための臆病の方がまだマシだ。命が助かる要因にはなる。
エージェント・佐竹: [沈黙]
SCP-1287-JP-A-1: 君の優しさが何の役に立った? なあ、ひょっとして嘆いて睡眠薬頼りの生活に戻れば僕の慰めにでもなると思ってるのか?
エージェント・佐竹: そんな事は自分でもわかってる。
SCP-1287-JP-A-1: それは喜ばしい限り。君の事だからそこでずっと子供の様に喚いているのかと思ったが......ああ、ようやく僕に銃を向ける決心がついたのか。とっても迅速な判断だ。
エージェント・佐竹: もういい、黙れアノマリー。あいつへの侮辱と受け取る。
SCP-1287-JP-A-1: 同僚をアノマリーと呼ぶか。お優しくて情に厚い君らしいことだな、佐竹。
エージェント・佐竹: その声でそれ以上喋るな。[発砲]
SCP-1287-JP-A-1: よく狙って撃て。それともう一つ、矢沢響への侮辱だと君は言ったな。確かにその通りだ、そしてこの状況を引き起こしたのは君に他なら
エージェント・佐竹: [発砲]
SCP-1287-JP-A-1: ナイスショット。
<録音終了, 20██/██/█>
終了報告書: 2度目の発砲時にSCP-1287-JP-A-1は消滅しました。また、SCP-1287-JP-A-1が言及したSCP-████-JP-2は後日捕獲され、改訂されたプロトコルのもとで収容されました。
分析: 妙だな。確かに口調は矢沢さんそのものです。でもへこんでる人にここまで追い打ちをかける人じゃないし、あの人が佐竹さんを責めるならまずは「何故僕をアノマリーとして収容しようとしない」だと思います - エージェント・██
追記1: 20██/██/█にSCP-1287-JP-A-14が消滅して以降、一週間以上にわたってSCP-1287-JP-Aの出現が途絶えています。出現が停止した原因については未だ解明されていません。追記2を参照してください。
追記2: SCP-1287-JP-A出現条件ならびにその起源について有力な仮説が提出されました。
FROM: ██研究員
TO: ██博士, SCP-1287-JP研究主任
件名: SCP-1287-JP発生条件に関する仮説
本文:
██博士
夜分に失礼致します。SCP-1287-JP-A-1を発見した██です。SCP-1287-JP-A発生条件について気付いた事があるので報告致します。SCP-1287-JP-Aが発生した時は、常に南棟最上階の休憩室に人がいて機動部隊の帰還を眺めています。SCP-1287-JP-Aの発生が停止した時期は最上階の休憩室の給湯器が壊れた時期と一致しています。(来週の水曜日に直る予定です)
SCP-1287-JPの本体は休憩室にあるのではないでしょうか?私が所属しているオフィスは南棟最上階に位置しています。最寄りの休憩室としてそこをよく使っているのですが、他の階からもよく人が立ち寄っているのを見かけます。見晴らしがいいというのも理由の一つでしょう。ですが最大の理由はあの休憩室はセクター-8105内で最も帰還ゲートがよく見える場所だからです。
ここで数年も働いているなら、誰だって任務に出かけて行った友人や同僚が帰って来なかったという経験を持っています。みんな友人がひょっとして帰ってきたりはしないかと思いながら帰還を眺めているのでしょう。
私もそうでした。帰って来るはずのない友の姿を求め、そして白い人影を見出していました。あの時に私は引き金を引いてしまったのでしょう。もう一度声を聴きたい、せめて有益な死であってほしい、いっそ完膚なきまでに罵倒してくれたら気が楽なのに、そういった無意識の願望が積み重なって歪に結実したものがSCP-1287-JP-Aの起源なのではないでしょうか。
何が起きるかを知ってなおSCP-1287-JP実験に志願する職員は後を絶たないと聞きました。
あれは死者の声などではなく、我々生者の勝手な願望と罪悪感を反映しているに過ぎないのだと提唱します。死人は何も思わず、語る事もない。霊的実体とはほぼ関わりのない素人の出過ぎた真似をお許しください。ご検討いただければ幸いです。
██ ██
検証の結果、セクター-8105南棟最上階休憩室の窓は封鎖されSCP-1287-JP-Aの発生は途絶えました。これによって当休憩室の窓が便宜上SCP-1287-JP-Cと指定され、特別収容プロトコルが改訂されました。
追記3: SCP-1287-JP-A発生期間の前後を通じて、セクター-8105における収容違反事例発生の頻度に変化はみられませんでした。SCP-1287-JP-Aが提供した情報の有用性について再検討が行われています。