アイテム番号: SCP-128
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-128は、扉および壁面に防爆処理を施した無窓型収容室に隔離し、給排気システムによって室内をクラス100のクリーンルーム相当の状態に保つことで収容するものとします。室内各所には監視カメラ・スピーカー・レーザーモニタリングシステムを溶接し、破損防止用の格子で保護してください。また、収容室の入口前には小部屋を設置し、小部屋入口と収容室入口にそれぞれ扉を設けることで二重扉構造とします。外側の扉は、内側の扉からは見えない位置に設置してください。
収容室への入室の際は必ず防弾仕様の防護服を着用し、装備類は全て防護服に固定して持ち運ぶ必要があります。固定されていない物品を収容室内に持ち込んではなりません。保守作業のために必要な場合を除き、レーザーモニタリングシステムの監視範囲内に侵入すること、ならびに後述の回し車に触れることは禁止します。
収容室の中央には、コンクリート製の台座に取り付けた回し車を設置します。回し車は外力によって自由に回転させられる状態にしてください。回し車の回転速度は常に監視対象とし、速度が4,000rpmを下回った場合は、室内の職員にただちに退避指示を出すとともに消火泡噴射用ノズルを展開するものとします。
SCP-128は、扉および壁面を5c×ばつ5m以上の収容室に隔離して収容するものとします。収容室への入室の際は、必ずヘビーボディアーマー(バリスティックプレートを併用のこと)を着用して全身を防護してください。また、質量5kgを超える固定されていない物品を収容室内に持ち込むことは禁止します。衣服やそれに類する物品は基本的に安全ですが(SCP-128は、これらの物品とその着用者とを区別できないようです)、筆記用具、小銭、装飾品などは大きな事故の原因となる可能性があるため、なるべく決して携行しないようにしてください。
収容室に職員が入室する前には、吸引装置を用いて室内の異物を完全に取り除く必要があります。職員の退室後は、SCP-128の倦怠感の緩和および活動の観察のため、適宜室内に小型の物品を投入してください。脱走事故の発生時には、職員を退避させた上で周辺のエリアのロックダウンを実施し、必要であればSCP-128の封じ込めのための措置を取ることとします(なお、SCP-128には施設から脱出しようとする意思はなく、自発的に元の場所に戻ろうとする傾向があることがこれまでの実験によって判明しているため、おそらく特段の措置を取る必要はないものと思われます)。
説明: SCP-128は物質的な実体を持たない運動エネルギー発生源であり、視界内(発生源が存在すると思われる位置から視線が通っている範囲)に存在する無生物の固体に運動エネルギーを与える性質を有しています。発生源の位置は固定されておらず、動き回ることが可能ですが、現在は収容室の壁沿いや室内中央の回し車付近に留まろうとする傾向が見られます。SCP-128の視線は、鉛、鋼鉄、紙などの不透明な物質によって容易に遮断可能である一方、防弾ガラスのような透明な物質によって遮ることはできません。放射線が透過可能な物質であっても不透明でさえあれば視線遮断効果が得られることから、エネルギーの伝達は可視光線の波長で行われているものとも思われますが、暗闇によって運動エネルギーの伝達が妨げられることはありません。
SCP-128の視界内に存在する無生物は、何かに固定されていない限りは全て加速現象の対象となり、場合によっては非常に危険な速度にまで達します。質量100g未満の物体であれば、0.1秒の間に秒速900m程度(マシンガンの弾速と概ね同等の速度です)までの加速が可能なようです。加速中の全物体の質量と速度の総量を測定した結果、系全体の線型運動量は常に2,500kg m/s(2,500kgの質量が秒速1mで移動するのに等しい量)を保っていること、および大きさのみで方向を持たない(通常の物理法則からは逸脱している特徴です)ことが判明しています。このため、急激な加速によって危険が生じるのを防ぐには、SCP-128の視界内に質量の大きい物体を多数配置するという手段が有効です。
SCP-128は前述の通り物質的実体を持っておらず、目に見えることもありませんが、極度に小さい空間には収まることができません。SCP-128を圧縮できるサイズは、半径2cmの球に等しい容積が限界です。しかしながら、不透明なコンテナを用いてSCP-128をこのサイズの空間に隔離した場合、空間内の塵などの微粒子が極度に加速されて高熱を発し、コンテナを破裂させる恐れがあるため、注意が必要です。
SCP-128は、加速対象とする物体をほぼランダムに選んでいると思われます。統計分析の結果、古い物体よりも新しい物体のほうがわずかながら対象として選ばれやすいことが明らかになっていますが、意識的な対象選択が行われている様子はありません。例外として、生きている物体は決して加速対象となることはありませんが、どのような物体が「生きている」と見なされるかについては独特の基準が存在します。自律移動可能な人間やロボット、およびそれらに固定されている装備・部品類などは加速対象とはなりません。死亡ないし意識不明状態にある人間や動物も、同じく「生きている」ものとして扱われます。意識のある人間が全く動かずにいる場合、被験者の報告によれば、わずかに「引っ張られるような」感覚がするとのことです。この感覚は、被験者が少しでも動いたり生物的な様子を見せたりすると即座に消滅するとも報告されています。植物や菌類も、生死に関わらずSCP-128の加速対象とはなりません。一方、動力の切れたロボットは「生きている」とは見なされず、通常の物体と同じように加速効果の影響を受けます。
補遺128-1: 回収ログ
SCP-128が回収された場所は、██の███████にある民家です。現地でテレキネシス現象やその他様々な力学的現象が発生しているとの報告があり、財団のエージェントのフィールド調査による状況確認が行われたのち、機動部隊ミュー-13〈ゴーストバスターズ〉に出動が要請されました。
司令部: 装備確認。トランキライザー・ピストル。
ミュー-13リーダー: 全ピストル、ダーツ装填済み。確認完了。
司令部: ボディアーマー。
リーダー: ボディアーマー、確認完了。
ミュー-13ガンマ: こんな装備が必要なのは珍しいですね。
司令部: この種の非実体系現象に対しては、これが標準装備だ。財団の古い記録を引っかき回して見つけた、1968年付の標準作業手順書にそう書いてあった。当時はポルターガイストと呼ばれていた現象だな。
デルタ: ポルターガイストとは、また懐かしい響きじゃないですか。タイプIですか、それともII?
司令部: タイプI......つまり、死者が原因となって引き起こされるテレキネシス現象の可能性もあるが、エージェントによればあの家では家族間の諍いが絶えないそうだ。したがって、おそらくはタイプIIだと考えられる。潜在的なビクスビーが強いストレスに晒された際に起こる、無秩序な運動エネルギーの放出だな。
リーダー: そこでトランキライザー・ピストルの出番というわけだ。住人を全て鎮静させれば、おそらく超常現象は止まる。あとは原因となっている者を突き止めればいい。標準型EMPツールを持ち込んだのは、自律型非実体系現象への対処用だ。万一タイプIだった場合に備えてな。いいか、くれぐれも慎重にやれ。無茶はしなくていい。ベータ、指向性マイクを家屋に向けろ。中に誰が何人いるか確認する。
ベータ: マイク、作動開始。
POI-1: 何度言ったらわかるんだブリトニー、いい加減部屋を片づけろ! どれだけノロマなんだお前は!
POI-2: 片づけたって! 学校に行く前はちゃんときれいだったのに! ちょっとタイラー、あんたのしわざでしょ! 本当にろくなことしないんだから!
POI-3: そんなわけねえだろ! なんで俺があんなきったねえ部屋に入らなきゃいけねえんだよ!ガンマ: なるほど、家族間の諍いが絶えないようで。
リーダー: そのようだな。よほど睡眠不足でイライラしているんだろう。ちょっとお邪魔して、一眠りさせてやるとしようか。固定されていない物体には気をつけろ。目標は3名。行動開始!
<収容活動用車両から出る音、目標家屋に近づく足音、ドアを破る音。トランキライザー・ピストルの発砲音>
デルタ: 息子の制圧完了。
リーダー: かなり年少だな。ベータ、鎮静剤が効きすぎていないか確認しろ。体重40kg以上の人間向けに調整してあるからな。ガンマとデルタは、すぐに父親と娘を探せ!
<走り回る足音。トランキライザー・ピストルの発砲音>
ガンマ: 父親も制圧完了。ショットガンを持ち出そうとしてました。幸い、こっちが撃つほうが早かったですが。
リーダー: よくやった、ガンマ。デルタ、娘はどうだ?
デルタ: 追跡中。寝室に逃げ込まれました。ひどい散らかりようです。トルネードでも通り過ぎたのか? 窓のシェードは下がってます。娘はどこにも見当たりません。ペットのハムスターを連れてたはずですが。これからクローゼットの中を調べます。
リーダー: 気をつけろ、デルタ。おそらく娘がポルターガイストの原因だ。
デルタ: 了解。うっ、顔に枕が飛んできやがった!
リーダー: ガンマ、すぐデルタの援護に向かえ!
<叫び声。木が裂ける音。トランキライザー・ピストルの発砲音>
デルタ: 娘の制圧完了! 繰り返す、娘の制圧完了! 椅子が壁にぶっ飛んだ! 本棚が転倒! 止まるどころか激しくなってます! うぐっ、ビー玉が! 娘が持ってたビー玉が! ぐあっ!
リーダー: タイプIだ! デルタ、すぐ部屋から出ろ! デルタ! くそ......うおっ! 全員離脱しろ!
デルタ: 誰か、俺の手をつかんで引っぱってくれ! ......待てよ、そうか! ハムスターだ! あいつがトルネードなんだ! トルネードハムスターだ! あいつを眠らせればいいんだ!
リーダー: デルタ、よせ! 小動物用には調整してない!
<トランキライザー・ピストルの発砲音>
デルタ: ハムスター制圧完了! くそっ、なんで止まらないんだ! ちゃんと眠らせ......。
<[データ削除済]音>
リーダー: 全員離脱! デルタがやられた! ドアを閉めろ! タイプIの収容開始!
<記録終了>
以降の経緯: タイプIポルターガイスト収容用のEMP装置は正常に作動したものの、超常現象の鎮静には失敗。そのため、機動部隊用トラックに乗り込んだミュー-13・ガンマが車体を後退させて家屋に突入し、寝室の壁を破壊して室内に乗り入れてから、車体後部のドアを開放しました。続いて、トラック内部で超常現象が発生していることを確認の上でドアを閉鎖することで、ポルターガイストの隔離に成功。その後トラックは、車内で様々な物体が飛び交うまま、現場に到着したバックアップチームによって牽引され、装甲トレーラーへと運び込まれました。情報秘匿のため、本件についてはトルネードの発生によって家屋が破壊されたというカバーストーリーが展開されています。
補遺128-2: 主任研究者のメモ
主任研究者: Dr.コーデリア・アルジェント
件名: SCP-128回収ログではポルターガイストと呼ばれていますが、実際にはこれはポルターガイストではありません。そもそもポルターガイストというのも古い言葉ですが、ともかくこれはその語感から想像されるようなもの、つまり霊魂や精神体といった類のものではないのです。壁や障害物をすり抜けることもできません。運動エネルギーの発生源と言えばいいでしょうか。その点を明確にするために、報告書の内容は私のほうで修正しておきました。これが何なのかを正確に説明するのは容易ではありませんが、こちら側の宇宙に運動量を送り込んでくる穴のようなものだと考えるのが最も説得力があります。原理を解明するには、まだ研究が必要ですが。
もう一つ言えるのは、あのハムスターは現象を直接コントロールしていたわけではなかったということです。もしハムスターの意識によって制御されていたものなら、ハムスターの終了処分とともに現象は止まっていたでしょう。あのハムスターは、穴の比喩で言うならば、運動量の流れ込む勢いを調整する弁のようなものだったのです。そして今、"調整弁"は"開きっぱなし"になっているのだと考えられます。
そういうわけですので、我々が幽霊ハムスターだのテレキネシスハムスターだのを収容しているといった話をするのは、今後は控えてください。不正確な表現は慎むべきです。
CArgent: ロッド、今ちょっといい?
RodArg: コーディか、いいとも。それはそうと、昇進おめでとう! うまくやってるか?
CArgent: まあね。ただ、128の担当になったんだけど、こいつの収容が大変でまいってるの。
RodArg: どんなのだ? ファイルを送ってくれるか?
CArgent: ちょっと待って。
<==scp128.scpを送信中==>
RodArg: どれどれ。どうも、実体を持たない運動エネルギーの塊みたいなものなのか? 君が担当するのにぴったりじゃないか。実は人間に化けた超常物理学の教科書なんだろ?
CArgent: 笑わせないでよ。それでね、こいつが一定の大きさを持った運動量の場で、質量中心は存在しないということはわかってるの。基本的には、系の運動量がスカラーとして一定の大きさを保っているのだと考えれてくれれば大丈夫。ベクトルじゃなくてね、方向は関係ないから。数学的には単純な話なんだけど、実際問題となるとこれが面倒なの。スカラー運動量を一定に保つために、力学系が持っているエネルギーが常に変動していて、それが物体を加速させたりするわけだから。運動量の総量は調節可能なはずだけど、ハムスターがその鍵になっていたみたい。ハムスターが死んでからは、場はずっと全開状態になっているの。
RodArg: それで、収容が大変だという理由は何なんだ? プロトコルはできてるみたいだが。
CArgent: あんなのじゃ話にならないじゃない。ほとんど「適当なおもちゃを与えておけばオッケー。ただし、誰かが部屋に入るときはどこかへやっておくこと。でないとクリップボードがすっ飛んで頭をかち割るかもしれないから」くらいのことしか書いてないでしょう。前に死体を片づけたときなんて、部屋中を低反発枕で埋め尽くした上で、戦闘用アーマーで全身を固めたDクラスに作業をさせなきゃならなかったんだから。サイトディレクターはそういうこともあると言ってるけど......。
CArgent: ねえ、どうするのがいいと思う?
RodArg: 一定の大きさを保っていて、質量中心のベクトルが存在しない線型運動量を、収容室内部に位置させておくことができればいいわけだな? それで、物体を動かそうとする性質があると。
CArgent: そう。
RodArg: ハムスターだろ。車でも回させておけばいい。
CArgent: いや、ハムスターはただの......そうか、でも確かにそれは使えるかも。さすが、これが生物学者と物理学者の発想の違いってわけ? ありがとう、助かる。
RodArg: 君だって十分さすがだよ。役に立ててよかった。