クレジット
タイトル: SCP-1146-JP - くだん・バンシーの不謹慎漫才ショー
著者: ©︎aisurakuto aisurakuto
作成年: 2018
アイテム番号: SCP-1146-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: 日本の録画放送タイプのバラエティー番組の映像には、記憶修復エージェントが映像全体に断続的に挿入されます。本放送終了後、財団編集版の映像は放送局より回収され、未編集版の映像に差し替えられます。
なお、SCP-1146-JPにより改変される部分に挿入されていた記憶修復エージェントは除去されます。そのため、SCP-1146-JPの存在を認知している人物の捜索・特定は並行して行われます。特定完了後、人物を追跡してBクラス記憶処理を行います。
SCP-1146-JP発生の記録は財団内部でのみ行われます。サイト-8181にエージェント除去装置を施した電波受信機を設置し、放送されるすべてのバラエティー番組を記録することにより、SCP-1146-JPの発生を確認します。SCP-1146-JPから入手した情報は財団中枢情報室へ伝達され、財団の被害回避のための参考資料として活用されます。
説明: SCP-1146-JPは、日本国内の録画放送にて発生する現象です。出演者の芸の披露を主体とする、またはその限定的なコーナーを持つバラエティー番組において、SCP-1146-JPは発生します。SCP-1146-JPはテレビ番組の他、インターネット配信番組でも確認されていますが、芸の披露後に出演者がトークをする形式の番組での発生は確認できていません。
SCP-1146-JPでは、出演する1組のグループの映像が、放送予定とは全く異なる内容に改変されて放送されます。SCP-1146-JPの映像では2体の人型実体(SCP-1146-JP-A、SCP-1146-JP-B)が登場し、差し替えられた映像の長さに応じた時間の漫才を行う様子が確認されています。このとき、画面上の編集効果や他の出演者の行動はSCP-1146-JPに適応したものに変化しています。これらの改変は放送段階で発生しますが、SCP-1146-JPの違和感の除去などの認識改変は作動していないため、改変は映像そのものだけに発生していると考えられます。
登場する人型実体の特徴番号 | 外観 | 言動 |
---|---|---|
SCP-1146-JP-A | スーツを着用した、パーマがかった髪型をしている髭の濃いアジア系男性。人間の耳が存在せず、頭部にウシ科(Bovidae)の角と耳がある。推定年齢30代。 | 自身を『件くだん』と称する。使用言語は日本語。漫才のボケを担当。立ち位置は左。 |
SCP-1146-JP-B | ローブを被った黒い長髪のヨーロッパ系白人女性。目が重度に充血している。推定年齢20代後半~30代前半。 | 自身を『bansheeバンシー』と称する。使用言語は日本語(2007/6/██追記: ケルト語の使用を確認)。漫才のツッコミを担当。立ち位置は右。 |
SCP-1146-JP-AとSCP-1146-JP-Bの漫才では、大規模な事故・災害や戦争の発生、政治的・経済的・文化的に重要度の高い人物の直近の死が言及されます。漫才の内容の多くはそれらを揶揄し風刺するものとなっています。漫才で言及された事象は、SCP-1146-JP発生後の数日中に高確率で的中します。しかし、財団が言及された事象の妨害を試みた際、事象の未発生または被害の著しい減少が確認されており、SCP-1146-JPに未来確定能力はないものと考えられます。
出現年: 1981年
言及された事象: ██通り魔殺人事件
漫才の内容: 漫才に登場した場所で不穏な情景が描写される。
備考: 漫才中に言及された場所では通り魔及び立てこもり事件が発生した。
出現年: 1995年
言及された事象: 阪神・淡路大震災
漫才の内容: 神戸の街を観光するというコント漫才。神戸市役所、阪神高速道路3号神戸線、大正筋商店街などが登場。漫才では施設が崩壊していた。
備考: 言及された施設の多くは阪神・淡路大震災により被災した。
出現年: 199█年
言及された事象: ミュージシャン・██ ██事故死
漫才の内容: ██氏に言及。イベント中に事故が発生する。
備考: 財団が実験として██氏を1ヶ月間拘束。結果、██氏は生存した。
出現年: 2005年
言及された事象: アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュ暗殺
漫才の内容: アメリカ大統領に就任するという演説コント中に爆破されるボケが挟まれる。
備考: 同様の事象が発生するも、暗殺犯の手榴弾不発により暗殺未遂に終わる。
出現年: 2007年
言及された事象: [詳細不明]
漫才の内容: -
備考: これまでとは異なる進行を見せた。補遺を参照。
以下は、実際に発生した事例の記録です。
1981/06/██ ██:██ ██テレビ系列
<映像開始>
[出囃子と同時にSCP-1146-JP-A、SCP-1146-JP-Bが登場。設置されたセンターマイクの前に立つ]
SCP-1146-JP-B: えー、はいどうも。''くだん・バンシー''です。ここにはちょいちょい出させてもらってるんですが、たぶん知らない方もいらっしゃるかもしれませんねぇ。
SCP-1146-JP-A: まぁお笑いは僕らまだまだなんで、芸を磨いていかないとダメなんですが......バンシーさん、最近泣いてます?
SCP-1146-JP-B: なんでですか? いやあのね、私も理由もなく泣いたりはしませんよ。笑かす商売の人が泣いたら終わりですし。人前で泣いたっていいことありませんから。
SCP-1146-JP-A: そうなんですか。僕も長いこと牛小屋の蔵で死んだりとかはしてませんね。
SCP-1146-JP-B: もっとマシなことを言って欲しかったんですがウシには難しいみたいですね。
SCP-1146-JP-A: いやーでもですね、今はこうやって漫才やってるわけですよ。こうなってるなんて、あなた思いました?
SCP-1146-JP-B: いやいや、夢にも思いませんよ。やっぱりどんなものでも先がどうなってるかはわからないですね。そうなってくるとね、変わらないものってのが結構愛しく思えてきますよね。
SCP-1146-JP-A: 変わらないとなると、例えば商店街ですね。██の商店街なんか昔のままですよ。門があって、八百屋、本屋、ほどほどの人入りの中華料理屋。主人が高い声で注文を叫びます。「あいつらのせいだ!」
SCP-1146-JP-B: 待て待て。何か起きてますよ。叫んでるの本当に主人ですか?
SCP-1146-JP-A: 店出して長いといろいろあるんですよ。店の女も叫びます。「人殺し!」
SCP-1146-JP-B: 起きてますよ事件が!
SCP-1146-JP-A: 喧嘩みたいなもんですって。それでだいたい商店街の中華料理屋の前って繁盛してたりもしますよね。素朴な味付けな店が意外と人気で。
SCP-1146-JP-B: まぁそうですね。外が古くても行列ってのはよく見ますよね。
SCP-1146-JP-A: そこの中華料理屋も賑わってまして。周りに人が並んでて。男も女も老いも若いも皆。カップルに親子連れ。それから警察官、警察官、警察官、警察官、警察官......。
SCP-1146-JP-B: やっぱり事件起きてますって! 囲まれてませんか?
SCP-1146-JP-A: いやーでもね、商店街って言ったらやっぱり長閑な雰囲気ですよ。
SCP-1146-JP-B: 既に長閑でもなんでもないですけど。
SCP-1146-JP-A: 商店街のタイルの路上なんかにはね、いろいろ転がってるわけですね。ちょっと掃除されてないくらいが平和な感じがするなと僕は思うわけですよ。
SCP-1146-JP-B: それはそうですね。柄が悪いかもしれないですけど、それがちょっと愛嬌というか。
SCP-1146-JP-A: カラスが歩いてる横で猫がごろごろ転がって。どっかから外れた花の飾りとかも風に吹かれて転がって。ぽんぽんぽんぽんと人間も転がって。
SCP-1146-JP-B: 一気に治安悪くなりましたね? 大丈夫なんですか?
SCP-1146-JP-A: 大丈夫ですよ。血は噴き出てますけど。
SCP-1146-JP-B: 手遅れじゃないですか! さっきからずっと物騒ですよあなたの商店街。怒られる前に撤回した方がいいですよ。
SCP-1146-JP-A: すみませんけど、できそうにないですね。
SCP-1146-JP-B: なんでですか?
SCP-1146-JP-A: これが現実ですから。
<省略>
SCP-1146-JP発生の数日後、東京都██区██にて通り魔殺人、立てこもり事件が発生。通行人█人が殺害される。犯人は付近の中華料理屋に立てこもり、数時間後に逮捕された。
補遺: 2007/06/██、発生したSCP-1146-JPがこれまでの事例とは異なる進行を見せました。具体的な相違点は以下の通りです。
- 会話内容が漫才ではない
- SCP-1146-JP-Bがケルト語を使用する
- 他の出演者の様子が、総じて表情が笑顔のまま固定された状態である
なお、この事例以降、SCP-1146-JPの発生は確認できていません。
2007/06/██ ██:42 ██テレビ系列
付記: SCP-1146-JP-Bの発話はすべて日本語訳されています。
<映像開始>
[出囃子と同時にSCP-1146-JP-A、SCP-1146-JP-Bが登場。SCP-1146-JP-Aのみがマイクの前に移動する。数秒の静止の後、SCP-1146-JP-Aが出現地点へ振り向く]
SCP-1146-JP-A: バンシーさん、始まってますよー。やりましょうよ。お客さんの前ですよ。
SCP-1146-JP-B: [言葉にならない呟き]
SCP-1146-JP-A: いやボソボソ言われてもわかりませんから。あなた日本語話せるでしょう。いいから早く来てくださいよ。
[SCP-1146-JP-AがSCP-1146-JP-Bを掴もうとするが、SCP-1146-JP-Bの姿が透過し失敗する。直後、SCP-1146-JP-Bが頭部を手で覆って絶叫。██秒間継続。同時にSCP-1146-JP-Bは落涙していた]
SCP-1146-JP-B: [私はマイク前に立ちたくない。私はここにいるべきではない。私はこんなことをするべきではない。私はもっと他にやるべきことがある。]
SCP-1146-JP-A: 大丈夫です、バンシーさん?
SCP-1146-JP-B: [こんな遊びをしている場合ではないの。最初から定められてたのであれば、私がまず逃げ出すべきではなかったの。]
SCP-1146-JP-A: はい?
SCP-1146-JP-B: [私は死を報じ、人々に涙する存在。人々がその人の死を悟り、運命を迎えるように導かなくてはならない。]
SCP-1146-JP-A: あ、そうですか。それにしても、最近は7月でも暑いですよね。
SCP-1146-JP-B: [やめろ。]
SCP-1146-JP-A: このバンシーさんは寒い地域の出身なので、暑さに弱いんです。
SCP-1146-JP-B: [冗談をやめろ。]
SCP-1146-JP-A: 漫才師から冗談を取って何が残るんです?
SCP-1146-JP-B: [とにかく話す時間を頂戴。私を愛してくれる人々に、死を悟ってもらう必要がある。]
SCP-1146-JP-A: 愛されていないからこんな芸などやっているのではなかったのですか?
SCP-1146-JP-B: [█秒の沈黙] [確かにその通り。でも、少しだけでも昔のようにやりたい。私はそうするべきだと思っている。]
SCP-1146-JP-A: もう無理です。もう予言は娯楽になってしまいましたから。
SCP-1146-JP-B: [しかし、このままでは]
SCP-1146-JP-A: いいんじゃないんでしょうか。惨事だろうがなんだろうが起こさせておいて。どうせいつか、僕らみたいに消費されます。それくらいならもっと面白く脚色した方が記憶に刻まれますよ。"芸人"のネタが不幸の前兆だなんて、最高の笑い話でしょう?
SCP-1146-JP-B: [本物の笑顔をつくるにはどうするべきか、あなたも知っているくせに。]
SCP-1146-JP-A: バンシーさん、抗っても誰も何も変えてくれないんです。''お笑い''やりましょうよ。みんな最後には''お笑い''に墜ちるんですから。なら、最初から最後まで''お笑い''をやってる方がみんなの救いになるでしょう?
SCP-1146-JP-B: [違う。私は、私は、''お笑い''なんかじゃない。私は]
SCP-1146-JP-A: 残念ながら、尺がありません。
[SCP-1146-JP-A、SCP-1146-JP-Bを小突く]
SCP-1146-JP-A: もういいよ。どうも、ありがとうございました。
[SCP-1146-JP-A、礼をして、舞台袖へ移動。退場曲が流れる]
[SCP-1146-JP-B、舞台上に残る。口を動かしている様子が確認されるも、音声は退場曲に打ち消される。]
<映像終了>
財団はSCP-1146-JPの進行に影響を与えた要因として、事例の█日後にスコットランドのグラスゴー空港にて発生した炎上爆破テロ事件を挙げています。結果として該当事件は実行犯以外に死傷者が出なかったものの、数百人規模の犠牲者が発生する可能性は十分に存在していました。またこの事例を除き、これまでのSCP-1146-JP事例にて、アイルランド及びスコットランドの事象が取り上げられていなかった点も指摘されています。