SCP-1129-JP
アイテム番号: SCP-1129-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1129-JPはサイト-8102の小型生物収容室に収容されます。日に2度の食事については人間の一般的な食事内容と同様のものを用意してください。SCP-1129-JPには週に1度二日に1度、カウンセリングを実施します受診させます。SCP-1129-JPと初対面の人員はやり取りをスムーズにする為、SCP-1129-JPの本名を認知していることを明らかにすることが推奨されています。SCP-1129-JPはその起源と推測されるスペイン圏の財団施設への移送が検討されています。移送計画は凍結されました。
SCP-1129-JP-1は同サイトの第7格納庫にて技術部門による研究と修理が実施されています。回収された各部品は特殊作業収容室での保管を除き、月に一度技術部門からSCP-1129-JPに修復状況の経過報告を聴取させ、意見交換を行ってください。SCP-1129-JP-1の修復が完了した後の処遇については、現在検討中です。
説明: SCP-1129-JPは航空機の操縦に関する知識を保有したカワウソ(Lutra lutra)です。全長40cm、体重4kg、生後3年ほどの個体であると推定されますが、その知能は人間の10代後半程度まで発達しており、キーボードのタイピングなどを用いて人間と意思の疎通が可能です。この際SCP-1129-JPはカタルーニャ語によるアイデンティティを持つ人格を示します。SCP-1129-JPは自身を「アヒージョ」という名であると主張します。
SCP-1129-JP-1
SCP-1129-JP-1はSCP-1129-JPが機体を操縦するための異常な改造が施された航空機です。特筆すべき点として、20もの未知の機関が増設されているほか、動力にガソリンを必要とするにもかかわらず、排気機構が存在せず、また給油機構に隣接して真水(H2O)の注入口が存在しています。また、コックピット内にはスプリンクラーが設置されており、操縦者であるSCP-1129-JPが操作することにより内部に水を散布し、水浴びが可能な構造になっています。このためコックピット内は徹底した防水加工が施されています。
SCP-1129-JPは20██/██/██、日本のサイト-8181の上空に突如出現しました。同サイトから航空機動部隊が出動しましたが、接触する直前にSCP-1129-JP-1はバランスを失い、サイト敷地内に墜落しました。この時SCP-1129-JP-1は大破しましたが、操縦していたSCP-1129-JPは防護装置が作動し、軽い打撲を除けば無傷で確保されました。収容施設への損害は出ていません。
対象: SCP-1129-JP
インタビュアー: 塚原博士備考: SCP-1129-JPにはキーボードを与え、読み上げソフトを用いたインタビューであることに留意してください。また両者はカタルーニャ語で会話しています。
<録音開始>
塚原博士: ではインタビューを始めます。私は塚原博士です。SCP-1129-JP、キーボードの扱いは慣れてくれたかい?
SCP-1129-JP: だからよ、オイラの名前は
塚原博士: [SCP-1129-JPの発言を遮りながら]アヒージョ、であることは理解しています。しかしここであなたを示す言葉はSCP-1129-JPとなります。
SCP-1129-JP: [10秒沈黙]はいはい。オイラの名前わかったうえでそう呼ぶんだな、わかった受け入れてやるよ博士。けどオイラの名前はアヒージョ、それは変わらないし譲らない。これから喋る奴に毎回聞くからな? 答えられない奴とは口聞かねーからな?
塚原博士: わかった。理解してくれてありがとう。それだけ使いこなせているならキーボードにも問題はなさそうですし、いくつか質問していきます。まず君は、どこからやってきたのですか?
SCP-1129-JP: スペイン、バルセロナ郊外の牧場だ。住所も言ってやろうか。[編集済]
塚原博士: 日本までは、どうやって来たんだい? あの航空機でヨーロッパから極東までの一万キロを飛行できるとは思えないんだが。
SCP-1129-JP: ありゃオイラも面食らったさ。いつも通りバルセロナの上空をフライトしてたら、急にスモッグが出てきて、晴れた時には極東だったんだぜ?塚原博士: つまり君にもわからないということか。[3秒沈黙] 次の質問にいこう。君はどうしてそれだけの知能を持っているのですか?
SCP-1129-JP: まぁ普通のカワウソはこんなめんどくさいモノの考え方はしないよな。単純な話、教わったからさ。トンガラシ翁、バルセロナの魔法使いにな。
塚原博士: [7秒沈黙]あー、 魔法使い?
SCP-1129-JP: ああ、オイラの飼い主だ。さっき言ったバルセロナの牧場主だよ。トウガラシ愛好家名乗ってるくらいの辛党でさ。魔法使いとしても、スパイスは必需品だとかなんとか言ってたっけ。とにかくオイラはそのトンガラシ翁に育てられたんだ。塚原博士: [5秒沈黙]なるほど、よくわかりました。一先ず今日はここまでにしましょう。
SCP-1129-JP: ちょっと待ってくれ。俺の愛機はどうなってる?
塚原博士: あの航空機なら、今は我々が回収し、修理中ですが?
SCP-1129-JP: あー、[罵倒]。やっぱぶっ壊れてるよな。結構時間かかるだろ? じゃあよ、オイラを牧場まで送ってくれないか? 前にフライトしてる時に夕焼けに見とれて、日が沈んでから帰ったら怒鳴りながらハリッサ叩きつけられたんだよ。せめて連絡くらいしてくんないか!?
塚原博士: [3秒沈黙]ここで約束は出来ません。ですが、バルセロナの牧場には問い合わせることにはなると思います。上にも打診しておきましょう。
SCP-1129-JP: 頼むよ、塚原博士。
<録音終了>
このインタビューの後、SCP-1129-JPが主張する牧場及び飼い主についての調査が行われましたが、前述の通りSCP-1129-JPが主張する地域に牧場は存在せず、また「トンガラシ翁」なる人物についての情報も得られませんでした。SCP-1129-JPが虚偽の情報を申告している可能性については、対高知能生物心理テストを実施し、結果9割の確率でSCP-1129-JPの主張に間違いはないとの判断が下されています。その後、塚原博士からの提言により牧場及び飼い主が行方不明であることがSCP-1129-JPに通知されました。これにより財団は、飼い主の行方を探すことを条件にSCP-1129-JPからより詳細な情報を共有することの合意を得ました。インタビューは週に一度、カウンセリングと同時に実施されます。
対象: SCP-1129-JP
インタビュアー: 塚原博士備考: インタビューログ1と同様の方法で実施。
<録音開始>塚原博士: こんにちはアヒージョ、SCP-1129-JP。
SCP-1129-JP: またアンタか。トンガラシ翁がどこに行ったかわかったか?
塚原博士: いや、残念ですが。
SCP-1129-JP: [罵倒]。あの爺さんも歳だし、ずっと静かに暮らしてんだ。いきなりどこかへ消えちまうとは思えないんだけどさ。
塚原博士: SCP-1129-JP、君が教えてくれた住所以外のスペインの牧場には全て確認をとりましたが、君の言った土地の特徴を持つ場所は一つもありませんでした。他になにか心当たりはありませんか?
SCP-1129-JP: そう言ってもなぁ。普通の牧場だぜ? [10秒沈黙]あ、いや、普通じゃないこともあるか。
塚原博士: と言うのは?
SCP-1129-JP: いや、オイラみたいにさ、普通じゃない動物も少しいたんだよ。まぁ喋れるようなのはオイラくらいしかいなかったんだけど。
塚原博士: 覚えているだけ、教えていただけますか。
SCP-1129-JP: あー、ちょっと待ってくれ。まず、空飛ぶ金魚がいたな。パエリアって名前で、トンガラシ翁が住んでる小屋の中で泳いでた。それに、後ろ二本足で歩く小さいアルパカがいた。ここのテーブルより少し背が低いくらいのな。イシュケンベって呼ばれてた。
塚原博士: な、なるほど。彼らがどこからやって来たかはわかりますか?
SCP-1129-JP: なに? どこからやってきたか? [7秒沈黙]あー、トンガラシ翁が連れてきたと思ってるのか。
塚原博士: 違うのですか?
SCP-1129-JP: いや、やって来たって言い草が気になったからさ。そういや言ってなかったっけ。オイラも含めて、飼われてる動物はみんな生まれてすぐトンガラシ翁に牧場へ連れてこられた訳だが、そんときはみんな"普通"だ。"普通じゃなくなる"のは、トンガラシ翁に育てられてからだよ。オイラは言葉と飛行機の操縦を教わった。金魚のパエリアは手作りのエサを食って、アルパカのイシュケンベは爺さん手作りの矯正具を付けられてた。おかしな道具作りは、魔法使いの面目躍如ってとこかね。
塚原博士: つまり、君たちの異常性は飼い主によって付与されたものだということですか。
SCP-1129-JP: [10秒沈黙]何? 異常性、を付与?
塚原博士: [10秒沈黙]君たちの個性は後天的、後から手に入れたものなんですね。
SCP-1129-JP: あぁ、そういうこと。[5秒沈黙]そうだ、一人元々変な奴がいたな。
塚原博士: 一人? 人間がいたんですか。
SCP-1129-JP: もう二、三年前の話だけどな。サンドウィッチ・ピーターって呼ばれてたんだけど、あいつは人間のくせに一言も喋らなかったし、日に日に背が縮んでいくんだよ。
塚原博士: [3秒沈黙]それは、小さくなるということでなくですか? あくまで背丈が縮んでいったと。
SCP-1129-JP: そうそう。最初はあんたらくらいあった背が、最後はイシュケンベくらいになった。んで、ピーターとトンガラシ翁はいつも家にいたんだけど、爺さんは仕事しててもピーターはボーッとしてばっかでさ。んである日急にいなくなった。オイラの時は激辛ソース投げつけるくらい激怒してたトンガラシ翁は、ピーターの仕事は終わったって、それっきりだったよ。
<録音終了>後記: これまで得られた情報から、「トンガラシ翁」ことバルセロナの牧場主が異常な能力を保有していることはほぼ確定的です。SCP-1129-JPがスペインから日本へ転移したことも、この人物の意図するところであった可能性も指摘されており、転移現象が発生した原因についての調査が行われています。また、バルセロナの牧場主には異常物品の作成能力がある可能性もSCP-1129-JP-1の存在により以前から推測されていましたが、その考えはほぼ間違いないとみていいでしょう。異常生体を取引している場合はその線からの調査も有効でしたが、自分で異常性を付加し、手元に置いている以上はその手も見込めません。現状手掛かりは、「サンドウィッチ・ピーター」と呼ばれていた人物の足取りを追うことだけです。 ‐塚原博士
20██/██/██、スペインのバルセロナ北西部にて突発的なヒューム変動災害が発生し、地中2km地点に小規模の地下空洞が発生しました。空間内部は太陽光が存在しないにもかかわらず牧草地帯の様相を維持しており、その地理的特徴はSCP-1129-JPの主張する飼い主の牧場とほぼ一致したことから、現実改変能力、またはそれに類する現象によって本来の地点から消失、再出現したものと推測されます(以下、便宜上地下空洞をSCP-1129-JP-Aに指定)。また、SCP-1129-JP-A内部に存在した木造の小屋から成人男性の遺体が発見されました。SCP-1129-JPの飼い主本人であったと思われます。
SCP-1129-JPに遺体が発見されたことを報告すると、SCP-1129-JPは三日間カウンセリングと食事を拒否しました。三日目の早朝にSCP-1129-JPは体調を崩し、財団の医療部門から適切な処置を受けて以降、身体的には回復しつつありますが、精神的な回復は芳しくなく、インタビュー再開の目途はたっていません。現在SCP-1129-JPはカウンセリングに集中することとされています。
以下はSCP-1129-JP-A内部から回収された物品のリストです。
回収された物品 | 発見地点 | 備考 |
---|---|---|
32頭のジャージー種の乳牛(Jersey)及び800頭の牛の白骨死体 | SCP-1129-JP-Aの牧場地帯 | 死体は全て自然死によるものと見られる。放射性炭素年代測定によると、一番古い死体は死後98年経過しているとされる。 |
23点の低危険度異常物品 | SCP-1129-JP-Aの小屋 | Anomalousアイテムとして収容済み |
40点の用途不明な物品 | 同上 | 内6点はSCP-1129-JP-1の未知の部品と同様のもの |
手書きのレシピノート全722冊 | 同上 | 古今東西の魔術的観点から延命を目的とした料理がまとめられている。その内35万ページにチェックサインが確認されており、一度摂取した料理で複数回の延命効果を得ることは出来ないとされている。また全てのレシピにナンバリングがなされており、摂取する順番も指定されている模様。実際の効能について現在研究中。 |
男性の死体 | 同上 | 320年前から生存していた形跡が確認されるほか、遺体には魔術的な保護を目的とする刺青が施されている。死後一か月ほどとされ、SCP-1129-JP-A出現から遺体検査までの期間と符合することから、男性の死亡に前後したタイミングで転移が発生したと思われる。死因は餓死。発見された時点から全身の筋肉と脂肪が収縮しており、加えて極度に乾燥、ミイラ化していた。 |
骨格に異常がみられるアルパカ(Vicugna pacos)の白骨死体 | 小屋の床下 | 死後70年、死因は不明。また腹部の骨に刃物で付けたような損傷個所アリ。 |
下半身が切断された男性の白骨死体 | 同上 | 死後102年、死因は不明。切断された下半身の骨も発見されているが、こちらは長さ数cmに切断されており、足の先から少しずつ輪切りにされたものと推測される。 |
床下から回収された男性やアルパカの白骨死体はSCP-1129-JPが供述していた「サンドウィッチ・ピーター」「イシュケンベ」であると思われます。SCP-1129-JPが日本へ転移した時期と、SCP-1129-JP-A内から回収された死体の死亡推定時期に矛盾が生じることについては、SCP-1129-JP-Aは基底世界とは異なる時間速度の空間に存在していたためのものと推測されています。
小屋の内部には至る所に牧場主のものと見られる吐血の痕跡が確認されたことから、牧場主は体調を崩していたと思われます。また、遺体の近くには遠方を確認するために魔術的な加工が施されたアイテムが多数散乱しており、これを用いて死の直前までSCP-1129-JP、あるいはSCP-1129-JP-1の行方を捜していたと思われます。
722冊のレシピノートの内容には異常な食材が記載されているケースも確認されており、それらには料理に使用する異常な食材を調達するための魔術的工程に関するメモが添付されていました。以下はその一例です。
料理名: 牛乳とハリッサのドリンク
添付されていたメモ書き: 毎日欠かさず摂取すること。
備考: この料理に使用する食材を確保するために牧場を営んでいたと思われる。
料理名: 骨を曲げて育てた羊のイシュケンベ
添付されていたメモ書き: スペインの星の巡りと相性が悪いことから、羊からアルパカに変更。
備考: ブルガリアの原住民族に伝わる伝統料理に酷似。
料理名: 人肉の足輪切りハムサンドウィッチ
添付されていたメモ書き: 注意点、半年間にわたり同一人物の肉を食すこと。
備考: ポーランドのカルト教団における儀式からの引用とされる。
料理名: [削除済み]と魚介のパエリア
添付されていたメモ書き: 食す前日に3時間の日光浴と88回の断髪を済ませること。
備考: サーキック・カルトが行う断食前の儀式との共通点が指摘されている。
料理名: 空飛ぶ河童の香草煮
添付されていたメモ書き: 浮遊する神通力を持つ河童が用意できない場合、河童に航空機で空を飛ばせて熟成させることで代用可能。この時、操縦は河童自身に行わせるなど、極力肉にストレスが掛からないように配慮すること。また航空機はイタリアの████社が1943年に製造した航空機を改造した物を与えること。注意点、他に現存する機体の所在はわからないため代用不可。管理には注意すべし。
添付されていたメモ書き2: 河童が用意できない場合、人語を解すカワウソで代用可能。
備考: 日本古来の仙道的儀式に由来すると思われる。尚、このページは大半が乱雑に破り捨てられていた。
バルセロナの牧場主がSCP-1129-JP、もといSCP-1129-JP-1を手元に置いておきたかった意図が判明したことにより、SCP-1129-JPとSCP-1129-JP‐1が財団の監視下に入ったことは彼にとって不測の事態だったことが伺えます。SCP-1129-JP、SCP-1129-JP-1がスペインから日本まで転移した現象については完全に別の要因が存在すると判断され、超常現象記録にナンバリング、今後も調査は継続される見通しです。-塚原博士