SCP-1092-JP
評価: +86

クレジット

タイトル: SCP-1092-JP - 《CODE:O》クニマス物語
著者: ©︎O-92_Mallet O-92_Mallet
作成年: 2017

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SCP-1092-JP

異常形質発現のないSCP-1092-JPの液浸標本

アイテム番号: SCP-1092-JP

オブジェクトクラス: Euclid Safe

特別収容プロトコル: 全てのSCP-1092-JPはサイト-8102の水槽に収容されます。飼育は通常の陸封型ベニザケに準じた方法で行われ、繁殖によって適切な個体数が保たれます。

毎年の産卵期が終わり、SCP-1092-JPの稚魚が生後2ヶ月を迎える時期に、全ての稚魚の遺伝子が検査されます。SCP-1092-JP-(+)と判定された個体は、変異段階ごとにサンプルとして適切な数が標本へと加工され、それ以外の個体は焼却処分されます。SCP-1092-JP-(-)と判定された個体は、別紙の放流プロトコルの規定に従って収容から解放されます。どちらの判定も受けなかった個体は引き続き収容されます。

説明: SCP-1092-JPはベニザケの亜種とされる魚類であり、収容以前は一般に「クニマス(Onchorhynchus nerka kawamurae)」として広く知られていました。一生を通した基本的な生態は陸封型のベニザケと大きな差異はありません。

SCP-1092-JPの重要な特徴として、ほとんどの個体が複数の異常な遺伝子変異を有していることが挙げられます。常染色体の█箇所に存在する遺伝子の変異は、いずれも常染色体劣性の遺伝形式を示します。これらの遺伝子変異はいずれも本来であれば発生段階で死に至るはずの重篤なものであり、SCP-1092-JPがなぜ正常に発育可能なのかは判明していません。

遺伝子変異の全箇所を同時に保有して誕生したSCP-1092-JP個体(以下、SCP-1092-JP-(+)とする)は、生後6ヶ月が経過した時点で尾側から異常な変異を開始し、10日ほどで全ての体組織がアサ(Cannabis sativa)で作成された棒へと置換されます。当該個体は変異が完了するまでは通常個体と変わらない生命活動を示しますが、変異が完了した時点で死亡します。死体は特殊な油脂に覆われており、pH4.0以下の酸性度の高い溶液に浸されると爆発することが知られています。油脂成分に含まれる高濃度の酸素を含む泡状の構造体が、この爆発反応に関与しているものと見られます。また、高熱による着火を行なった場合は爆発は発生せず、穏やかに長時間の燃焼を行うことが確認されています。

遺伝子変異箇所候補のうち1箇所でも正常遺伝子が混ざっているSCP-1092-JP個体は異常形質を発現することはなく、正常な魚類と全く変わらない一生を送ることが可能です。しかし、SCP-1092-JP同士の交雑が繰り返される限り、SCP-1092-JP-(+)が新たに誕生する可能性が常に存在します。

補遺1: SCP-1092-JPはかつて秋田県の田沢湖に生息する固有種でした。1800年代初頭に蒐集院によってその異常性が確認され、初期収容がなされました。当時の蒐集院はSCP-1092-JP-(+)のみを異常存在だと認識していたため、田沢湖周辺の村落を定期的に監視し、変異途上・変異後のSCP-1092-JP-(+)を発見次第回収して処分していました。一方で、SCP-1092-JP-(+)出現条件を探るため、SCP-1092-JPの飼育も少数ながら行われていました。

また、SCP-1092-JPに関するカバーストーリーとして、「辰子伝説」という伝承が蒐集院によって作成・流布されました。「辰子という女性が田沢湖の水を飲んで龍となり、湖の主となった。辰子の身を案じて悲しむ母が別れの時に投げた木の尻(薪)が、水に入ると魚の姿をとり、それが木の尻鱒(=SCP-1092-JP)となった」という内容です。この伝承により、蒐集院はSCP-1092-JP-(+)に発生する変異を「先祖返り」だとして田沢湖近隣の住民に理解させ、異常性発現による騒動の発生を抑制していたものと考えられます。

補遺2: 1940年、国営開墾事業と水力発電所開発を表向きの目的とした「玉川河水統制計画」が旧日本軍によって実行され、玉川から田沢湖へと水が引き込まれました。玉川の強酸性の河水の流入によって田沢湖の水質は急激に悪化し、田沢湖に生息していたSCP-1092-JPは絶滅しました。

蒐集院から引き継がれた資料の中にこの「玉川河水統制計画」について言及した文章があります。

昭和十五年一月八日

計画に反抗する住民の鎮圧には、帝国異常事例調査局の特殊部隊と五行結社の私兵とが加担していた。つい去年までは田沢湖の龍を巡って争っていたはずなのに、今は敵同士とはとても思えない連携で反対派の住民を排除しにかかって居る。我々は反対派に加勢したものの、軍備に勝る相手側の活動を止めることはできず、押し切られる形で反対派団体の解散を許してしまった。

田沢湖に毒水が流し込まれるのを止めることは終に叶わず、木の尻鱒が全滅してしまうのは最早避けられない。あれは百年以上前から代々受け継がれ、湖から失われてはならないものだったのだが。我々の施設に匿われている生き残りたちを後代に託すしか道は残されていないだろう。

大口上級研儀官

補遺3: 第二次世界大戦後に蒐集院が財団へと吸収された際、蒐集院の施設で飼育されていたSCP-1092-JPも財団に接収されました。

SCP-1092-JPの持つ異常性が遺伝子変異に由来するものだと判明したのは1980年代に入ってからです。1989年に財団遺伝子工学部門によってSCP-1092-JPの全ゲノムが解読され、SCP-1092-JP-(+)の変異に関与する全ての遺伝子変異の同定が完了しました。これにより、SCP-1092-JP-(+)の個体を変異開始前に判別可能になったため、SCP-1092-JPのオブジェクトクラスがEuclidからSafeへと再分類されました。

補遺4: 金釣博士の提言

全ての遺伝子変異を同時に有したSCP-1092-JPはSCP-1092-JP-(+)となり、遺伝子変異を部分的に有するSCP-1092-JPは交配によって新たなSCP-1092-JP-(+)を含む子孫を産みます。しかしながら、この子孫の中には、SCP-1092-JP-(+)とは正反対の、遺伝子変異を全く持たない個体、SCP-1092-JP-(-)もまた存在します。彼ら同士の交配においては、子孫も全てがSCP-1092-JP-(-)となるため、もはや異常性が発現する危険は存在しないことが確認されています。

SCP-1092-JP-(-)は、異常性を保有していない「正常なクニマス」に過ぎません。その上、彼らは50年前までは数少ないながらも一般社会で確かに見られていた存在です。正常である以上は、もはや我々で管理する必要性に乏しいのではないでしょうか。闇の中に暮らす我々には、正常な存在を光の下に帰す責務があるはずです。

金釣博士の提言を受けて、異常な遺伝子変異を一切保有していないSCP-1092-JP(以下、SCP-1092-JP-(-)とする)の収容を打ち切ることが1993年に決定されました。田沢湖の水質はSCP-1092-JPが生息可能な水準に未だ達していなかったため、放流先には山梨県の本栖湖と西湖が選ばれました。一般社会に対しては「田沢湖における絶滅以前の1935年に卵の放流が行われていた」というカバーストーリーが適用され、合わせて過去の記録改変が行われました。その後、2010年に西湖にてSCP-1092-JP-(-)が一般社会に「再発見」されたことが確認されています。


《以降の文章は近年の研究で新たに判明した内容であり、未確定の情報が含まれています。セキュリティクリアランスレベル2/1092-JP以上を持つ職員によって追記および編集が随時行われています。》

追記1: 以下の文書は、2015年に蒐集院の残存勢力の一派と財団の機動部隊が交戦した際、財団が奪取した資料に含まれていた記載の現代語訳です。

出羽富士の大噴火と象潟の大地震を起こした大鯰の動向をようやく把握した。奴は地中を縦横無尽に動き回り、今は田沢の湖の底に現れているようだ。

生類塾から押収した「木ノ尻鱒」("第一〇九二番")の大まかな性質を把握した。これは死して薪となった後、巨きな生物の胃の腑に入った時に強大な威力を持つ爆薬となって自らを食ったものに打撃を与える。深い水底にいる鯰の退治には打ってつけの品ではないか。

異常な生物を鎮めるのに他の異常な生物を用いるのはあまり褒められたやり方ではないが、今は判断している時間がない。大鯰が出羽の大地を破り尽くしてしまう前に、手を打たねばなるまい。

武見上級研儀官

この記載より、当報告書の補遺1の内容は事実ではない可能性が指摘されています。

追記2: 2000年から毎年実施している田沢湖底の調査結果より、湖底の砂利の減少速度が年々上昇していることが指摘されました。2016年に砂利を掘削して更に深層へと潜行する探査を実施したところ、骨片を主体とする多数の物品が発見され、回収されました。これらの物品の大部分は、田沢湖の酸性の湖水によって溶解していたため、保存状態は劣悪なものでした。以下は発見された物品の暫定的なリストです。

  • 多数の人骨。総人数はおそらく50名程度だと思われる。いずれも1939年前後に死亡したと見られる。身元不明。
  • 多数の魚類の骨。SCP-1092-JPも含まれていると見られる。
  • 2頭のミズチ(Archphiidae lacustris、エリファスモデル霊素生命体の一種)の骨格。脊椎・頭蓋骨などの大型の骨の一部が残存。全長60m程度のメスと全長35m程度のオスだと判断された。オスの左側第3頭角は切断されていた。
  • 炭化した植物片。
  • 腐食の激しい銛8本。ミズチの頭蓋骨に突き刺さる形で発見された。
  • バズーカに類似した砲身7台。銛を撃ち出す設計となっており、全て発射済であった。「五行結社 土軍」の刻印が確認された。
  • ボートの残骸と見られる木の板。「大日本帝国異常事例調査局」の刻印が確認された。

以上の物品は、当報告書の補遺2で触れられている、IJAMEAと五行結社との間で行われた戦闘に関連するものと見られています。

また、これらの物品が発見された地点の周辺には、爆発によるものと見られる破砕痕がある岩石、過去の田沢湖湖水と比較しても明らかに強い酸による溶解作用を受けたと見られる金属片、田沢湖から70km以上離れた鳥海山の火口で採れるものと同質の成分で構成される火成岩などが存在していました。

特筆すべきものとして、岩石で構成された全長50m・幅15mほどの人間の舌に似た形状の構造体が、水底の一段低い窪みに固定された状態で発見されました。周辺と比較しても特に多数の爆発痕を有しているこの構造体は、周期的に脈打つように震動しており、超音波検査をしたところ内部を何らかの流体が循環していることが確認されました。構造体が存在する窪みには何らかのポータルが存在すると見られ、絶えず砂利が内部へと流れ込み、消失しています。

現在、この構造体はSCP-1092-JP-1として分類され、追記1の資料にある「大鯰」なる存在との関連性が精査されています。

追記3: 蛇沢博士によるメモ書き

現在、一般社会では田沢湖にクニマスを帰すため、水質浄化の取り組みが盛んに行われている。しかし、その取り組みの進行と、湖底での砂利の取り込みの亢進ーつまり、SCP-1092-JP-1の活性化ーとはどうも繋がっているように感じられる。そして、仮に蒐集院の資料が真実を述べているとするならば、SCP-1092-JP-1の完全な活性化は秋田県全域に致命的な地震を起こすK-クラスシナリオを惹起し得る。

「大鯰」の抑制の為にまさかSCP-1092-JP全体を再び田沢湖に戻すわけにはいかないし、かと言って湖水の酸性を保つ以外の方法での「大鯰」抑制方法は未検討だ。研究が進んで現在の追記内容が正式に報告書に反映されるより前に、民間によって田沢湖の水質が1940年以前の水準に戻されるという事態が発生するのは避けた方が無難ではないだろうか。

水質浄化運動を低速化する方向へと導くよう、財団が干渉する必要性があるという意見を表明する。少なくとも当面は、クニマスには「野生絶滅」のままでいてもらわなければならない。





Footnotes
. 独立種だとする意見も存在します。
. 海へと降下せず、一生を淡水中で過ごします。
. 父母の双方から原因遺伝子を受け継いだ子供のみが形質を発現する遺伝子。どちらか片方の親からのみ原因遺伝子を受け継ぎ、もう片親から正常な遺伝子を引き継いだ子供は、形質は発現しないものの原因遺伝子を有する保因者(キャリア)となります。
. 遺伝子変異をゲノム編集で人為的に再現した個体はいずれも発生段階で死亡しました。
. この伝承は現在も残されています
. 資料が散逸しているため、この語句が何を表しているのかは不明です。
. 機密情報の閲覧にはセキュリティクリアランスレベル3/1092-JPが必要です。
. 1801年8月10日に発生。出羽富士とは現在の鳥海山を指します。
. 1804年7月10日に発生。地震とそれに次ぐ津波により多数の被害を出しました。
. 近世の日本において、異常な生物に関する研究を行なっていた私塾。現在の日本生類創研の基となった組織の一つであると考えられています。
ページリビジョン: 19, 最終更新: 26 Jan 2023 13:05
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