SCP-1082-JPをスキャナーにて撮影したもの。SCP-1082-JP-1の図が描かれている。
アイテム番号: SCP-1082-JP
オブジェクトクラス: Safe Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1082-JPはサイト-81██の標準収容ロッカーにて回収した全てのSCP-1082-JP-1とともに保管されます。また、SCP-1082-JP-Aは標準人型生物収容プロトコルの規定に則り収容されます。なお、SCP-1082-JP-Aには必ず自動給餌システムによって流動食を与えてください。SCP-1082-JPまたはSCP-1082-JP-Aが収容されている収容室は、担当研究員が実験を申請した場合を除き必ず犬が存在しないように管理されます。SCP-1082-JPを実験目的で持ち出す際には、必ず施錠することができる容器にSCP-1082-JPを移し替えた状態で運搬してください。また、SCP-1082-JPの報告書を閲覧済みであるセキュリティクリアランスレベル4以上の職員2名と、現在の担当主任研究員の西根博士の許可なしに、SCP-1082-JPに接触することがないよう徹底してください。SCP-1082-JPの実験には、必ず担当研究員の立ち会いが必要です。SCP-1082-JP-Aが死亡した場合には、SCP-1082-JP-Aの遺体からSCP-1082-JP-1を取り出し、SCP-1082-JPとともに保管します。
(更新)身元不明の女性の遺体が発見されたという通報があった場合にはただちに機動部隊う-11("貞操帯")が派遣され、付近にSCP-1082-JP-1を確認した場合には直ちにこの遺体をSCP-1082-JP-Aと指定しSCP-1082-JP-1とともに回収します。また、SCP-1082-JP-Aの目撃者に対してはBクラス記憶処理を行います。その後SCP-1082-JP-Aは発見地域の文化に則った儀礼に基づく葬儀が執り行われ、サイト内の墓地に埋葬されます。
説明: SCP-1082-JPは、使用することで異常性を持つ物体SCP-1082-JP-1を出現させるとともに一定の異常現象を発生させる印刷物です。SCP-1082-JPの紙面にはハーネスギャグの図が描かれていますが、これは一般に販売されているどの同型の商品とも合致しない形状をしています。この図が描かれた反対側の面には、「母犬のために」という表題らしき筆記があります。SCP-1082-JPは変色などの経年劣化を推測させる見た目に反し、新品の上質紙と同等の強度を持ちますが、そのほかに物理的な異常性は確認されていません。SCP-1082-JP-1は、SCP-1082-JPに描かれているものと同一とみられるハーネスギャグであり、外見は異常性が確認できない黒色の革ベルトとステンレスのような金具で構成されています。SCP-1082-JP-1は強固な物理的破壊耐性をもち、切断および折損は困難です。しかし、化学的耐性はおおよそ見た目に応じた性質をもち、高温によって焼失もしくは融解を起こすことが確認されています。
SCP-1082-JPの異常特性は、SCP-1082-JPの図の描かれた面を、張り付けるように人の顔または頭に押し当てることで発現します。SCP-1082-JPを押し当てられた人物(以下SCP-1082-JP-A)には、一定の段階を踏む異常現象が生じます。この一連の現象は、活性化したSCP-1082-JP-1の認識改変能力により、SCP-1082-JPの使用者(以下SCP-1082-JP-B)を除く全ての人物にはいかなる方法を用いても観測することはできません。この現象は通常30分以内に完全に終了しますが、SCP-1082-JP-Aの性別、身長と体重、筋肉量などの体格の大きさや肉体の逞しさに応じて、完了までの時間が長くなることが観測されています。
第1段階: SCP-1082-JP-1が出現し、瞬間的にSCP-1082-JP-Aに装着されます。SCP-1082-JP-1はその形状のためSCP-1082-JP-Aの発話や呼吸に抵抗を生み、これを困惑させます。このプロセスが1分以上持続した事例は報告されておらず、多くは10秒以内に続く段階へ進みます。なお、SCP-1082-JP-1の装着プロセスを確認する行為は現在全て失敗しています。
第2段階: SCP-1082-JP-Aは直ちに前腕部と手首に指、膝や脛さらに足首の腱を未知の手段にて損傷されます。これにより指を用いて道具を扱うことや立ち上がり歩行することが困難になります。この現象は多くの場合椅子からの転落、立位または座位からの転倒を招き、ときに頭部への打撲による死亡という結果が生じる場合があります。このプロセスは約6秒持続します。
第3段階: SCP-1082-JP-Aは4█°Cの高熱を発症しながら女性ならば下腹部、男性ならば全身に及ぶ苦痛を呈し、手足を振り乱して暴れる行為を誘発します。さらに、SCP-1082-JP-Aの体格は急速に収縮しつつ、乳房や臀部が膨らみ若い女性のような体つきに変化します。このとき男性には新たに女性器が形成され外見は両性具有の姿になりますが、高熱のため男性器は組織の死滅によって性的不能となり事実上の性転換が完了します。この段階の変異でSCP-1082-JP-Aは人間の骨格を保ちつつも全身の筋肉組成が変質し、肘と膝で四つ這いを行うことに適正化されSCP-1082-JP-Aは直立姿勢および膝立ちがより困難になります。このプロセスはSCP-1082-JP-Aが女性である場合2分で終了しますが、SCP-1082-JP-Aが男性である場合は最低でも5分以上は持続します。
第4段階: SCP-1082-JP-Aの体温はさらに高まり、最大で██°Cに達する高熱とともに大脳、特に前頭葉と後頭葉に深刻な損傷が与えられます。これによりSCP-1082-JP-Aは論理的演算能力や言語表現能力、視覚処理能力に深刻な欠落を引き起こします。多くのSCP-1082-JP-Aはこの段階で苦痛に耐えきれず気絶する、またはショック死するなどして沈静化しますが、まれに苦痛による錯乱状態を継続したまま暴れ続けることがあります。このプロセスは約4分間持続し、これらの一連の段階が完了した後にSCP-1082-JP-Aの高熱は5分から8分ほどかけて徐々に治まります。
第1段階で出現したSCP-1082-JP-1はすぐさま活性化し、異常特性を示します。SCP-1082-JP-1はSCP-1082-JP-Bを除く全ての存在に対し、SCP-1082-JP-Aを何らかの種類のメスの大型犬であると知覚させる、という認識改変能力を有しています。この作用は映像や写真、絵画を通じても例外なく発生します。そのため、SCP-1082-JP-Aは一頭の犬であり、以前からそのような存在であったと周囲に理解させます。なお、その認識にいかなる矛盾があろうともこれを事実として納得します。SCP-1082-JP-Aに関する認識改変は、SCP-1082-JPが何らかの異常特性を有しているとSCP-1082-JP-A発生前に理解することで緩和されますが、SCP-1082-JP-Aの姿を犬のように知覚する効果は防ぐことができません。そのため、SCP-1082-JP-Aが発生する現場に立ち会ったSCP-1082-JP-B以外の全てのSCP-1082-JPの異常性を理解している人物は、突如人間が犬に置き換わる光景を目撃したと報告します。
SCP-1082-JP-1の異常特性はSCP-1082-JP-A個体からSCP-1082-JP-1が取り除かれることで非活性化します。しかし、この試みはSCP-1082-JP-1の留め金部分が未知の力により完全に固定され取り外しできないこと、SCP-1082-JP-1が破壊に対して強い耐性を示していることから非常に困難です。現在SCP-1082-JP-1はSCP-1082-JP-Aの頭部を破壊しSCP-1082-JP-1を除去するか、SCP-1082-JP-Aが死亡しSCP-1082-JP-1が頭部から脱落することによって非活性化することが確認されています。しかし、SCP-1082-JP-1が改変したSCP-1082-JP-Aについての過去の記憶はいかなる記憶処理を用いても復元するには至らず、SCP-1082-JP-Aの以前の知り合いや家族はSCP-1082-JP-1の非活性化後ではSCP-1082-JP-Aを何者であるか理解できなくなります。
SCP-1082-JP-AはSCP-1082-JP-1の装着や大脳の損傷により理解不能な不明瞭な鳴き声のみを発するようになりますが、これはほとんどが発情した雌犬の鳴き声であると認識され、このような発声は時としてSCP-1082-JP-Aが雄犬との交尾に発展するという結果に結びつきます。この行為が観察された6か月後、SCP-1082-JP-A は[編集済]なお、SCP-1082-JP-BがSCP-1082-JP-Aの交尾を観察した場合には[編集済]
SCP-1082-JP-Aの多くはしだいにSCP-1082-JP-Bに対し強い愛着と依存を示します。なお、この現象はSCP-1082-JPの異常性に由来するものではなく、SCP-1082-JP-1の認識改変能力によりSCP-1082-JP-Aが人間不信に陥ることが直接的な原因であると推測されています。同様にSCP-1082-JP-Aの多くはPTSDを発症し、さらに手足の不随意化に起因した身体完全同一性障害を併発することで強いストレス障害の兆候を示します。SCP-1082-JP-Aに適切な治療が施されなかった場合、その後SCP-1082-JP-Aの前腕および大腿の切断を余儀なくされる重大な自傷行為を誘発します。しかし、SCP-1082-JP-Aが自ら苦痛を訴えることができない点、SCP-1082-JP-B以外の人間はSCP-1082-JP-Aを正しく観察することができない点からこれらの兆候を発見することは困難です。
SCP-1082-JPは██県███市にて、犬の鳴き声がうるさいという隣人トラブルの相談が自治体に寄せられたことで財団の注意を引きました。当時███市では原因不明のペットの失踪が相次ぎ、オブジェクトの存在の可能性があるとして保健所や自治体に財団エージェントが潜入していました。財団エージェントは表向きの業務の一環としてこのトラブルの和解のために犬の飼い主であるシグヴィルア・███████氏の自宅を訪問し、SCP-1082-JPを発見、回収しました。███████氏宅を訪れた財団エージェントは、家中にて縄で四肢を椅子に固定され座らせられた状態のグレイハウンドを発見しました。不審に思った財団エージェントがこれを███████氏に質問したところ、███████氏はSCP-1082-JPを取り出すとともに、使用手順やこのグレイハウンドがSCP-1082-JPの異常特性により発生したSCP-1082-JP-Aであることを嬉々として解説しました。これを受け財団エージェントはすぐさま███████氏を拘束し、財団にSCPオブジェクト発見の報告を行いました。███████氏の飼育している全ての犬は回収され、サイト-81██の標準生物収容施設に移送されましたが、███████氏への聴取からこのうちのメスの個体は全てSCP-1082-JP-Aであると断定されました。
補遺1: 実験記録抜粋
実験記録1082-JP-01 - 20██/██/██
実験者: 西根博士
対象: D-106545、なおD-106545は33歳の男性である。
実施方法: SCP-1082-JPをD-106545に対し使用する。
結果: 皮革製の猿轡に似た物体がD-106545の頭部を囲むように出現、D-106545の発話を困難にさせた。さらにその後、 D-106545は性転換した。実験後、D-106545の身長は170cmであり、実験後の体重は71kgであった。これは雇用時のD-106545よりも明らかに小さい値である。以降この出現した物体をSCP-1082-JP-1と指定する。
分析: 発見当初にオブジェクトの性質として想定されていた異常特性と異なる結果が生じた。なお、SCP-1082-JP-1はSCP-1082-JPに描かれている図とよく似た形をしているが、SCP-1082-JP-1はその形状から拘束具としての機能を有しているとみられる。SCP-1082-JP-1については急ぎ追加調査の必要あり。
収容当初にエージェントからもたらされた情報と結果が違う。このオブジェクトは対象を犬に変化させるものじゃなかったのか?-西根博士
実験記録1082-JP-03 - 20██/██/██
対象: D-106545、D-106546
実施方法: D-106546に、D-106545の装着しているSCP-1082-JP-1の除去を命じた。
結果: D-106546はD-106545の身体を見回したが、SCP-1082-JP-1を発見できなかった。また、D-106546はD-106545を毛艶の良い大型犬であると報告した。実験記録1082-JP-01にて発見されたSCP-1082-JPの特性と異なる特異性が発見され、SCP-1082-JPはSCP-1082-JPを使用した対象に何らかの異常特性を付与している可能性が示唆される。SCP-1082-JPの使用対象者はSCP-1082-JP-Aとして定義された。
今回の実験結果は収容当初のSCP-1082-JPについての報告と一致する。しかしD-106545は私の目には依然として女性にしか見えない。私か、D-106546か、どちらがSCP-1082-JPによるミーム的効果を受けているのかさらなる調査の必要がある。-西根博士
実験記録1082-JP-06 - 20██/██/██
対象: D-106547
実施方法: ペットトリマーの資格を持つD-106547に対し、D-106545に30分間トリミングを行うよう指示した。
結果: D-106547はD-106545の素肌をブラシで撫で、シャンプーを用いて洗浄した。D-106547は実験後のインタビューにて、D-106545の姿は小柄なイングリッシュ・マスティフのメスであり、発情期を迎えているように見えること、トリミングを行ったことでD-106545の毛並みが整い、獣臭い臭いが落ちたと報告した。
分析: D-106547の報告から、D-106545は現時点で見た目だけではなく物質的にも犬であると理解できる。
私はD-106545を大柄で筋張った顔をした男だったと理解しているし、D-106545がSCP-1082-JP-Aに変異した際に、アスリートのような体格の鼻筋の通った女に姿が変わっていったさまをこの目で見た。そして、私の目にはそのようなうら若い女性にしか見えないD-106545の素肌をD-106547が撫で回し、シャンプーの泡を擦り付け、慈しむようにその身体にブラシを押し当てていたところも。-西根博士
実験記録1082-JP-08 - 20██/██/██
対象: D-106548、D-106549(二名は夫婦である)
実施方法: D-106548にSCP-1082-JPを使用し、その後D-106549とD-106548と面会させ、D-106548が何か答えさせる。
結果: D-106549はD-106548を見て自身の夫であると答えた。D-106549はD-106548をメスの秋田犬として認知しており、西根博士がD-106549に対して事実との矛盾を指摘すると、D-106549はそれについて理解できないという態度を示した。
分析: D-106548は他者の記憶の中においてのD-106548の定義ごと犬としてすり替わってしまっていた。D-106549が犬に変化したD-106548を犬として記憶していながらもD-106548本人であると認識できたことから、SCP-1082-JPはミーム的効果もしくは現実改変能力を有していると考えられる。
D-106549はこの国では法律的に人間と動物の間での結婚はできないし同性婚もまた認められてはいないことを理解しているのにもかかわらず、D-106548が自身の夫だと信じて疑わなかった。SCP-1082-JP-Aのトリックをつかめたような気がするが、まだ腑に落ちない。-西根博士
実験記録1082-JP-11 - 20██/██/██
対象: D-106548、D-106549
実施方法: D-106548を終了させSCP-1082-JP-1を取り除き、その後D-106549にD-106548の遺体を見せそれが何か答えさせる。
結果: 見知らぬ女性の遺体だと答えた。D-106549が認識するD-106548の身体的特徴は西根博士から観察できるD-106548の相貌と一致した。
分析: D-106548の本来の姿は実験記録1082-JP-01でのD-106545と同様に女性の姿であり、SCP-1082-JP-Aとしての姿を犬として知覚する現象はSCP-1082-JPの持つミーム的効果によるものだと推測された。
実験記録1082-JP-25 - 20██/██/██
対象: D-106550、D-106551、D-106552
実施方法: D-106550にSCP-1082-JPをD-106552へ使用させ、その経過をD-106550とD-106551に記述させる。
結果: D-106552の頭部にSCP-1082-JP-1が出現、さらにその後 D-106552は性転換した。D-106550はD-106552が性転換した過程を細やかに記述し、D-106551はD-106552がシェパードであると認識しているうえで、D-106552がD-106550によって口輪を装着された瞬間に苦しみ悶えたと記述した。また、実験を観察していた西根博士はD-106552が犬に変化したことを確認した。
分析: SCP-1082-JP-1はSCP-1082-JPの使用者以外の人物に認識改変を行う性質があると結論付けられた。以降、便宜的にSCP-1082-JPの使用者をSCP-1082-JP-Bとして観察対象とする。
補遺2: インタビュー記録1082-JP-01 - 20██/██/██
対象: ███████氏
インタビュアー: エージェント・二階堂
付記: 当インタビューはSCP-1082-JPが発見された翌日に所有者であった███████氏へ、ペットの窃盗容疑による警察の事情聴取と偽装して行われました。
<録音開始>
エージェント・二階堂: SCP-1082-JP、つまり███████さんが持っていたあの紙を、あなたはどのようにして手に入れましたか?
███████氏: 貰ったのよ、同じ苛烈な加虐と被虐の美を好む同志から。この路線は飽きたから譲る、あなたなら偽物なんかじゃない本物の道具をあげられるって。
エージェント・二階堂: その人はどのような方でしたか?
███████氏: さぁ?掲示板で語り合っているだけだったから、どこの誰かは知らない。あれを送ってきたときだって送り主の郵便番号は書いていなかった。それに普段から軽井沢に別荘があるとか今は取引先の火星に行ってるとか、おちゃらけたことばかり。
エージェント・二階堂: では、███████さんが把握しているあの紙の効果についてお教え願いますか?
███████氏: そうね、あの紙は、人間を人間のしがらみから解き放ってくれる。いや、それを強制するという言い方が自然かな。私があの子たちを犬として扱っている限り、あの子たちは完全に犬である。だからどんな痴態も犬だから、許される。
エージェント・二階堂: わかりました。では、なぜあの紙のそのような異常な効果を知りながら使用していたのですか?
███████氏: [5秒ほどの沈黙]あの子たちには飼い主である私のみが、あの子たちの世界にとって愛情を授けてくれる信頼できるもの。そして、私はそんなあの子たちを寵愛できる唯一の存在。あの子たちは一緒に暮らしてる雌犬たちがみんな同じ境遇だとは気づくこともないだろうから、この世で自分のような悲劇のヒロインはただ自分一人になる。だから彼女たちは臆することなく悲劇の舞台を主役として演じ、自分が一匹の雌犬であることを自分に信じ込ませ、私に犬として主人の愛に甘んじそれに親愛で応じる無償の愛の極致を持ち続けることができる。私は思慕することにもされることにも飢えている。それを叶えたかったまで。
エージェント・二階堂: ███████さんはあなたが飼っている犬に関してどのように考えていますか?
███████氏: あら、あなたも、私のような趣味は嫌い?あなたはきっと私のやり方が道徳的なんかじゃないと思っている、でもそうかな?私は、こんな形の愛情も悪くないんだと思っている。自分勝手なことはさすがに否定はしない、だけど考えてみてほしい、私と人犬の愛は完璧で、ペットと主人としての慈しみを持っている歴とした家族なんだ。人間の理性から解き放たれた、この究極の愛情、相互依存を、部外者のあなたが善い悪いなんて言い切れますか?あら、顔色が悪いようで?
エージェント・二階堂: 続けてください。
███████氏: 私は愛というものを知らなかった。私は何をするにも周囲の輪から外れて変わり者の烙印を押されっぱなしであった。私の心は周囲からの冷たい視線で冷え切って、愛し合うという行為にも家族を持つことにも憧れや興味を持たずに成長していった。他人との馴合いよりも、私は私の目に見えている絶対的な法則、科学的な現象と向き合っているほうが、よほど楽しかった。だけど、この紙が手に入ってから、それは変わった。あの紙は、私が信じてきた世界を真っ向から破壊した。型にはまって美しい法則性だけが世界を支えているだなんて嘘なんだと告げた。そしてその時、私は気づけた、私が科学を好んできたのは、私を嫌わない、私を受け入れてくれる世界が欲しかっただけだったんだと。私は、私を愛してくれる何かを求めて足掻いていただけだった。だから、私は私だけを見てくれる子たちしかいない自分だけの理想の世界を作った。でも、独り善がりなわけじゃない。私は、私みたいな居場所のない子たち、自分の在り方に絶望した子、人間として生きていくことにうんざりした子を迎え入れているだけ。私は、ペットには優しい飼い主でいつもありたいから。
<録音終了>
終了報告書: ███████氏はBクラス記憶処理を行い解放されました。インタビュー後、███████氏の情報に従ってインターネット掲示板を解析したところ、AKI産業というハンドルネームの技術者を名乗る人物が███████氏に向けて返信の書き込みを送信し、親しいやり取りに発展していたことが明らかになりました。███████氏にSCP-1082-JPを譲渡したのはこの人物とみられ、調査が続けられています。
補遺3: 事案1082-JP-01
20██/██/██に東京都八王子市の火葬場にて、人の遺体が急に現れたという通報があり、地元警察に潜入していた財団エージェントはこの事案に対応しました。遺体は40歳台の女性で全身が焼け焦げており、死因は司法解剖により多臓器不全による老衰と判断されました。財団エージェントは遺体の第一発見者である火葬場の職員に事情聴取を行いました。これに対し職員は葬儀を行うために運び込まれたダルメシアンの火葬を行っている最中に、炉の覗き窓から火の状態を確認したときこの遺体といつのまにか入れ替わっていたと供述しました。財団は遺体の身元の確認のため遺伝子調査を実施したところ、この遺体は火葬場にダルメシアンの遺体を持ち込んだ北伏██氏の実母と判明しました。ただちに北伏氏の立会いのもと遺体の確認を行いましたが、彼女の母親であるにもかかわらず、北伏氏は遺体には見覚えがないという回答が得られました。この結果を不審に思った財団エージェントは北伏氏の家宅捜索を実施し、遺体の女性と北伏氏が一緒に写っている写真が収められたアルバムを発見しました。財団エージェントはこのアルバムの中から女性が北伏氏と思われる幼児に授乳をしている写真を見せ、北伏氏に再度遺体が北伏氏の母親ではないのかと確認を取ったところ、北伏氏から自身の母親は北伏氏が飼育していたダルメシアンそのものであるという回答を得ました。財団エージェントは、北伏氏はSCP-1082-JP-Aに変異した母親をペットとして飼育していたと推測し、遺体の確保と北伏氏へのB級記憶処理が実行されました。後の調査により、炉の中から溶けた金属製の金具が回収され、この物体はSCP-1082-JP-1の一部であると確認されました。
この事案を受け、他にも未回収のSCP-1082-JP-1が存在することが推測されました。SCP-1082-JP-1は性質上、未収容のSCP-1082-JP-1個数の推測や、能動的な発見調査を行うことは困難であるため、特別収容プロトコルは更新されました。さらに、SCP-1082-JPに指定されるオブジェクトが他にも存在している可能性も同時に示唆され、SCP-1082-JPのオブジェクトクラスはEuclidへと再分類が提案、即時承認されました。また、かつてSCP-1082-JPの所有者であった███████氏は、███████氏とみられる女性を乗せた馬車を犬ぞり犬が牽引して世界中を旅するという内容の風景画を発表するアーティストであり、███████氏の神秘的な作風は一部の方面から高い評価を受けていました。特別収容プロトコルの更新とともに、財団は███████氏の絵に描かれている犬ぞり犬は全てSCP-1082-JP-Aであるという推測を立て、███████氏の執筆した作品の回収を検討しています。