クレジット
SCP-082-JP
アイテム番号: SCP-082-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-082-JPはサイト-8181の標準型危険物収容倉庫に保管されています。SCP-082-JPを用いた実験には、セキュリティクリアランスレベル4以上の職員の承認が必要です。
説明: SCP-082-JPは、縦46cm・横30cm・奥行9cmの、█████社製旅行用キャリーバッグです。素材は一般的なもので異常性は見当たらず、また同社の他の製品に特異性は発見されませんでした。
SCP-082-JPは、海外旅行を目的とした使用がなされた際に異常性を示します。旅先へ着く前に、SCP-082-JPの使用者は前触れなく姿を消します。SCP-082-JPの内容物の有無、旅行時の移動手段は異常発生に関与しません。使用者が「海外への旅行にSCP-082-JPを使用している」という意識を持っている場合にのみ、異常性は発揮されます。
使用者が消えたのち、SCP-082-JP内部には広大な異空間が発生します。この異空間は事象ごとに変化しますが、荒野や砂漠、人の手の入っていない密林などの荒れ果てた土地であり、いずれも現実に存在しない場所です。異空間内への出入りはSCP-082-JPの開口部から自由に行うことが出来ます。SCP-082-JP開口部が異空間内のどこに繋がるかは様々ですが(約8割の確率で地表面に繋がります)、空中に出入り口が発生する例も確認されています。無人探査機を使った内部調査により、異空間世界は果てがなく無限であると推測されています。
異空間内には、姿を消した使用者と同じ容姿の人型生物SCP-082-JP-1がおり、宿泊施設を探してさまよい歩いています。SCP-082-JP-1に対してSCP-082-JPに関する情報や、異空間内に現れるまでの記憶について尋ねても、忘却しているか、曖昧な答えを返します。異空間内にSCP-082-JP-1以外の生物は見つかっていません。SCP-082-JP-1を現実世界に連れ戻そうとすると激しい抵抗を受けます。SCP-082-JP-1を拘束し現実世界へ連行しようとすると、SCP-082-JPを通過する際に高温度の未知の蒸気を発して消失します。その後消えたはずのSCP-082-JP-1は、再びSCP-082-JP内の異空間に現れ、何事もなかったように宿泊施設を探し続けます。
使用者が現実世界から姿を消して24時間が経過すると、SCP-082-JP-1は一定の方角に歩み始めます。進んだ先には老朽化の激しい6階建ての建築物が建っています。屋上に建てられている朽ちかけた看板には『HOTEL SMILEY FACE』とペイントされているのがかろうじて読めます。この建物はSCP-082-JPの起こしたどの事象においても同じ建物であるように見えます。全ての窓からは明かりが灯っているのが確認されており、またいくつかの部屋は窓越しに人影が動いているのも見えますが、これらが生物であるかは不明です。建物の入り口はガラス張りの回転式ドアとなっていますが、稼働しておらず開けることは出来ません。SCP-082-JP-1はこのドアに触れた瞬間姿を消します。SCP-082-JP-1が消えた時点で建物内の人影が1つ増えるのが確認されています。SCP-082-JP-1以外の人間、調査用ロボット、探索犬などで建物への潜入が図られましたが、直接的な攻撃(窓を打ち破って侵入を図る、壁を打ち壊そうとするなど)をすると建物がその場から消失するため、試みはいずれも失敗しています。
海外旅行を計画する新しい使用者がSCP-082-JPに触れると、異空間は消失し通常のキャリーバッグに戻ります。このとき、異空間内に人間がいた場合は脱出が不可能となり、発信機での通信も途絶します。SCP-082-JP開口部に身体が通過中の場合は切断されます。このため実験の際には、潜入職員も含めて極力SCP-082-JP本体に身体を触れさせないでください。
SCP-082-JPは20██/██/██に██市立████中学校の不用品バザーにおいて、一般人により購入されました。その後、当時16歳だった購入者の長女が、アメリカへ短期のホームステイをする際にSCP-082-JPを使用しました。彼女が失踪しSCP-082-JP内部に異空間が出現したため、空港会社に潜伏していた財団エージェントによって調査・回収されました。家族と関係者にはクラスBの記憶処理が施され、一連の事件は渡航中の事故として処理されました。バザーへ売り出される前の持ち主は現在まで判明していません。
記録082-1
被験者: D-34277
実施方法: 被験者には事前に「実験のため場所を移動する」と説明した。被験者の衣類や日用品をSCP-082-JP内に詰めさせ、SCP-082-JPを抱えさせた状態で目隠しをし、飛行機で韓国まで輸送。
結果: 被験者に変化は見られなかった。
分析: 被験者に国外へ出たという認識がなかったため、異常も起きなかったと考えられる。
記録082-2
被験者: D-84593
実施方法: 被験者には事前に「実験のため、国外へ移動する」と説明した。被験者の衣類や日用品をSCP-082-JP内に詰めさせ、SCP-082-JPを抱えさせた状態で、視覚の制限はせず飛行機で韓国まで輸送。
結果: 被験者に変化は見られなかった。
分析: 被験者にとって「旅行である」という認識がなければ、海外への渡航が分かっていても異常性は発揮されないようだ。
記録082-3
被験者: D-63491、D-22543、D-93562
実施方法: 勤務態度の良かった3名のDクラスを選出し、財団職員監視のもと慰安旅行に連れて行くと説明した。うちD-63491にSCP-082-JPを使用させた。視覚制限はせずに飛行機で台湾まで輸送。
結果: D-63491は輸送途中、隣席のD-93562に向かって「おいおい、これもしかして外国に向かってたりしてな!」と発言し、その直後に消失。SCP-082-JP内に異空間が発生した。異空間内部は延々と続く薄暗い荒野となっていた。詳細はインタビュー記録082-3を参照。
<記録1>
対象: 実験記録082-3において発生したSCP-082-JP-1
インタビュアー: 宗形研究員
付記: 当記録に至るまでの経緯に関しては実験記録082-3を参照してください。当事例において、異空間への出入り口は地表から約6m離れた空中に発生しました。ヘルメットとカメラを頭部に装着し、アルミ製梯子を用いて異空間内部へと潜入した宗形研究員には、無線によって源口博士から適宜指示が与えられました。
<録画開始(この時点でD-63491消失から約1時間が経過)>
宗形研究員: やあ、君はD-63491かい?
SCP-082-JP-1: ん?おお、研究員の兄ちゃんか。そうだぜ、アンタらがD-63491と呼んでる囚人だ。さてはアンタも迷っちまったのか?宗形研究員: ああ、そうかもね。ところでD-63491、ここに来る前とは服装が違っているようだが。いったいどこで着替えたんだい?事前につけた発信機も見当たらないようだし。
SCP-082-JP-1: なんのことだ?俺は最初からこの服装で......(しばし考え込む素振りを見せる)。いや、なんつーか、これが旅行に行く時の俺のスタイルなのさ。
宗形研究員: ふむ。確かにその服のほうが、カジュアルでいかにも旅行者っぽい感じがするよ。
SCP-082-JP-1: だろ?あのツナギでその辺観光する気にはならねえよ、ははは。......ところで、ホテルがどこか知らないか?
宗形研究員: ホテル?財団が君らのために用意した宿泊施設なら、この近くにはないんだが。
SCP-082-JP-1: なんでアンタらが俺らなんかのために宿を取るんだよ。俺が取ったんだ。予約をさ。そんで今そのホテルに向かうとこなんだ。道を知ってたら教えてくれよ。
宗形研究員: 残念だが、知らないんだ。
SCP-082-JP-1: そうか......(疲れた面持ちで肩を落としながら)それなら仕方ねぇな。もうちょっと探してみるよ。
宗形研究員: 見つかるといいね。
<録画一時終了>
無線による経過報告: いったんここから退去します。SCP-082-JP-1には発信機を持たせました。私が去ると言っても彼は気に留めていないようでした。約22時間後に再潜入して、SCP-082-JP-1へのインタビューと行動観察を行います。-宗形研究員
<記録2(再接触記録)>
<録画開始>
宗形研究員: D-63491!
SCP-082-JP-1: おお。また会うとはな、兄ちゃん。宗形研究員: ホテルは見つかったかい?
SCP-082-JP-1: 見てのとおりだぜ。そろそろくたばっちまいそうだ。
宗形研究員: なぁ、D-63491。おかしいとは思わないのかい?
SCP-082-JP-1: なにがだよ?
宗形研究員: ここには僕と君以外、誰もいないだろう?それに周りをご覧よ、どう見たって観光地って場所じゃあない。なぜ疑問に思わないんだい?
SCP-082-JP-1: それは、......(頭を押さえ身体をふらつかせる)おっと。
宗形研究員: 大丈夫かい、D-63491。
SCP-082-JP-1: わりぃ、手貸してもらっちまって。......言われてみれば、そうだなぁ。ここはちょっと寂しい感じがするな。観光シーズン終わっちまったのか?
宗形研究員: 君はなぜ、ここに旅行に来ようと思ったんだい?
SCP-082-JP-1: そりゃあよぅ、一度は行ってみてえだろ?海外旅行にさ。
宗形研究員: なるほど、海外旅行ね。ところでD-63491、ここはなんて国だったかな?
SCP-082-JP-1: あぁ?何言ってやがんだ兄ちゃん!自分が来た国の名前を忘れちまったのかい?わはははは!
宗形研究員: いや、ちょっと確認しときたくてね。
SCP-082-JP-1: わははは、はー笑った。しょうがないな、教えてやるよ。アンタがいるここは、[雑音]だよ。
宗形研究員: なんだって?
SCP-082-JP-1: だーから、[雑音]だっての。思い出したか?
宗形研究員: ......あ、ああ、そうだったね。
SCP-082-JP-1: まったくよぅ、しっかりしてくれよ。......んぁ?
宗形研究員: どうしたんだい。
SCP-082-JP-1: こっちだ......こっちにホテルがある気がする。
宗形研究員: どうしてそう思うんだい?
SCP-082-JP-1: いや、分かるんだよ俺には......絶対こっちにあるはずだ!
宗形研究員: D-63491?待ってくれ、D-63491!
SCP-082-JP-1: 悪い、チェックインして早いとこ休みてぇんだ!兄ちゃんも、泊まるとこないならついて来いよ!早くしないと置いていっちまうぜ!
<録画終了>
終了報告書: D-63491、いえSCP-082-JP-1は足早に歩き続け、やがて例のホテルへと到着し、回転ドアに触れた瞬間姿を消しました。その後、3階の窓越しに人影が1体増えるのを確認。しかしあれは......あれは、D-63491の背格好ではなかった気がするんです。持たせていた発信機からの信号は途絶しました。人影はしばらくの間、窓の向こうからこちら側を見下ろすようにじっと立ち止まっていて、ほどなく他の影と同様にうろうろと動き回るようになりました。インタビュー中SCP-082-JP-1が発した国名は、耳鳴りのような甲高いノイズによって遮られ、私にもよく聴き取れませんでした。報告は以上です。-宗形研究員
補遺: インタビュー記録082-3ののち、記録中の雑音を解析したところ、次のような言葉が高速かつ高音で発せられていることが判明しました。
かえれかえれかえれかえれかえれかえれかえわわわわたわたしだっていいいいきいきたかったのに
この音の発生源については現在調査中です。