活性化したSCP-063-JP
アイテム番号: SCP-063-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-063-JPはサイト-8181の低脅威度オブジェクト研究室にて、防音加工された特別金庫に入れられ保管されています。金庫内部に設置された録音機器にて24時間体制でSCP-063-JPの発言を記録し、独り言、不審な発言、異常な発言が確認された際は、速やかに研究主任に報告してください。
実験やインタビューの際は、被験者やインタビュアーを除く職員は遮音性の高い耳栓を装着してください。被験者やインタビュアーには必ずSCP-063-JPの発言の概要を記憶し、返答する場合は規定に沿って適切な返答を行うことを厳守させてください。SCP-063-JPとの会話を行った後は、専門の医師による診察と投薬による治療を受けてください。
説明: SCP-063-JPは両腕のない男性半身を模した埴輪の外見をしています。内部は空洞になっており、目視で異常な点は確認できません。
通常SCP-063-JPは無表情の顔をしており、危険はありません。この状態を不活性状態とします。不定期的にSCP-063-JPは活性化しますが、その際事前動作として表情が笑顔に変化します。活性化したSCP-063-JPは、次に若い男性の声で周囲に向けて"呼び掛け"を始めます。呼び掛けでの発言は様々で、不特定多数に向けて呼び掛ける場合もあれば、特定の人物を名指しで呼ぶ場合もあります。この呼び掛けに応じる人物がいない場合、SCP-063-JPの声は次第に大きくなり、「誰か来てくれ」「助けてくれ」と懇願するような発言をするようになりますが、放置し続けると5分〜10分で不活性状態に戻ります。
SCP-063-JPの呼び掛けに反応し、SCP-063-JPの方を見る、返事をするなどした人物(以下、被験者と表記)は、積極的にSCP-063-JPとの距離を詰め、SCP-063-JPの目にあたる部分を熱心に見つめながら"会話"を始めます。複数の被験者が反応した場合は、最も早く反応した被験者がSCP-063-JPとの会話に入ります。被験者が視界にSCP-063-JPを捉える前なら、会話を阻止することが可能です。
"会話"状態に入ったSCP-063-JPの以降の発言は、会話相手である被験者にしか聞こえなくなり、録音機器などにも記録されません。この時被験者の耳を塞いでも、被験者にはSCP-063-JPの声が聞こえるようです。会話の中断は互いを物理的に引き離し、SCP-063-JPを被験者の視界から消すことで行えますが、その際被験者は激しく抵抗することが確認されています。また、被験者は騒音などによる妨害に激しい怒りを示すことも確認されています。
妨害を行わない場合、会話は10分程度から、最長で1時間半にも及ぶことが確認されています。実験による調査の結果、SCP-063-JPは会話の中で全ての被験者に対し、名前を尋ねる、知人について尋ねる、知識について尋ねる、食や生活について尋ねる、科学技術について尋ねる、などを行っており、被験者側からSCP-063-JPに質問をした際には、必ず交換条件として先述のいずれかの情報の提示を求めています。このことから、SCP-063-JPは被験者とその周囲の文化について情報を収集していることが予測されます。
これまでに会話中のSCP-063-JPの発言を復唱する、メモを取るといった記録の試みは、全ての例で被験者が会話開始から僅か数秒で記録作業を放棄してしまうことにより失敗していることから、会話中は最もSCP-063-JPに気を取られ、その他の物事に対する集中力が著しく低下するものと思われます。
会話を終えるとSCP-063-JPは不活性状態に戻ります。会話を終えた被験者は、会話の長さに比例して軽度〜重度の社交不安障害に陥り、また、SCP-063-JPとの再度の会話を望むようになります。この症状は精神科医による診察と、長期の休養によって治療することが可能です。(補遺にSCP-063-JPとの会話と、その後の症状の詳細について朝比奈博士のインタビュー記録を添付しています)
補遺: インタビュー記録
概要: 20██/██/██、Dクラス職員を用いて行ってきたSCP-063-JPとの会話記録では、Dクラス職員がSCP-063-JPの発言を正しく記憶していなかったり、規定外の情報を喋るなどしてしまったことで記録作業が難航していたため、朝比奈博士が自らSCP-063-JPへのインタビューを試みた。朝比奈博士にはSCP-063-JPの発言内容の記憶と報告を義務付け、会話時間は後の精神疾患を軽度に抑えるため最長5分と定めた。
<SCP-063-JPの活性化を確認。記録開始>
SCP-063-JP: おーい、暗いよここ。誰かいるかい?█(以前会話を行ったDクラス職員の名前)さーん、█さんいるー?朝比奈博士: [金庫を開ける]......やあ、SCP-063-JP。
SCP-063-JPは「こんにちは」、「どなたかな」と発言したと報告されている。
朝比奈博士: 私は██(規定により偽名を使用)だ、よろしく。君に色々尋ねたいことがあるのだが、構わないかな?
SCP-063-JPは「構わないよ」、「代わりに██さんのことも聞かせてほしい」と発言したと報告されている。
朝比奈博士: いいとも、君から話して。[SCP-063-JPとの距離をさらに詰めて、顔をSCP-063-JPに近づける]
SCP-063-JPは「好きな食べ物を教えてほしい」と発言したと報告されている。
朝比奈博士: そうだな、お米かな。
SCP-063-JPはお米について知っているような発言をしたほか、「お米の他には何を食べるか」と尋ねたと報告されている。
朝比奈博士: 肉や魚も食べるよ。君はお米を知っているようだが、土器である君はものを食べられないのではないのかね。
SCP-063-JPは少しの沈黙の後、「お米については別の人から聞いた」と発言したほか、「僕も食べてみたい」と発言したと報告されている。
朝比奈博士: なるほど、君が希望するなら今度用意するが。
SCP-063-JPは気遣いに感謝しつつも「結構だよ」と断り、次いで「██さんが便利だと思うものを教えてほしい」と発言したと報告されている。
朝比奈博士: うん?便利なものとは?何においての便利さかわからないと答えられないよ。
SCP-063-JPは「うーん」と唸りながら少し考える様子を見せた後、「じゃあ、その胸に付けているものは何か」と尋ねたと報告されている。
朝比奈博士: [胸ポケットにあるペンを指差す]これかい?これは......、ただの飾りだよ(道具の名詞を答えるとそれについて尋ねられるため、規定により虚偽の回答を行っている)。
SCP-063-JPは興味を示しながら「ちょっと取って見せてほしい」と発言したと報告されている。
朝比奈博士: 構わないよ、でもその前に私にも質問させてくれ。まず君は何者なのかな。私たちについて色々と尋ねるのはどうしてかね。
SCP-063-JPは「僕はただの[編集済]さ」、「色々尋ねるのは色々知りたいからだ」と発言したと報告されている。
朝比奈博士: ......すまないが、さっき君の言った[編集済]とはどういうものかね。
SCP-063-JPは「質問に答えたんだから、飾りを見せてくれ」と発言したと報告されている。
朝比奈博士: ううむ、意味がわからなければ質問に対する回答とは言えないだろう。詳しく教えてくれないかね。
SCP-063-JPは「約束を破るなんてひどい」、「さようなら」と発言したと報告されている。[この発言があったと思われる直後、SCP-063-JPが不活性化し、無表情になった]
朝比奈博士: 待ちたまえ、SCP-063-JP。......だめか。
<記録終了>メモ: SCP-063-JPの言った[編集済]について調査が必要。私の交渉が下手なばかりに成果を上げることができず申し訳ない。また、SCP-063-JPへのインタビューを終えて他の研究員に報告をしている最中、彼らから強い圧迫を感じて激しい動悸と発汗が起こった。これはSCP-063-JPとの会話によって出た症状によるものと推測できる。 - 朝比奈博士
概要: 20██/██/██、本人の要望により、療養中の朝比奈博士へインタビューを行った際の記録。
インタビュアー: ██研究助手<記録開始>
██研究助手: 朝比奈博士、今の気分はいかがですか。朝比奈博士: うん、なんというか、胸が閊えるというか、緊張している感じだね。喉も渇く。
██研究助手: 医師の診断結果と、飲んでおられるお薬についてお尋ねしてもよろしいですか。
朝比奈博士: 社交不安障害の症状で......、軽度の鬱症状も出ていると言っていた。えー......、すまない、頭が真っ白になってしまうんだ。それで、薬はこの██████と、█████を1日1錠ずつ飲んでいる。
██研究助手: 日常生活に支障はありますか。
朝比奈博士: 外出が億劫だ。人の目がとても気になる。特に、電車やバスが辛いね。あと、お店などで従業員の方にものを尋ねるのに躊躇する。[目を瞑って眼球を何度も強く押さえる]
██研究助手: 大丈夫ですか?顔色が悪いですよ博士。
朝比奈博士: すまない、どうにも落ち着かなくてね。......続けてくれ。
██研究助手: つまり、人と会話をするのが辛いのですか。
朝比奈博士: そうだね。
██研究助手: 他の被験者はこのような症状が出ても、SCP-063-JPとなら話をしたいと言うのですが、博士もそうですか?
朝比奈博士: ああ、確かにSCP-063-JPとなら緊張せずに話せる気がする。当時は不思議に思わなかったが、SCP-063-JPと会話している間はなんと表現したらいいか......、まるで別の場所にいるようだった。とても居心地がよくて、リラックスしていた。......Dクラス職員が会話内容の記憶ができなかったのもわかる気がするよ、私もあれ以上会話が続いていたら全ては記憶できなかったかもしれない......。
██研究助手: ちょっとすみません、別の場所、とは?
朝比奈博士: すまない、適当な表現が見当たらない。とにかく研究室とは別の......広大で、自分とSCP-063-JP以外誰もいない場所にいるようだった。今思い返せば、だけどね。
██研究助手: わかりました、インタビューを終了します。お大事になさってください。
朝比奈博士: ありがとう。
<記録終了>メモ: SCP-063-JPは会話中、被験者にどこか別の場所にいるように錯覚させるようだ。ところが被験者はそれを疑問に思わず、自然に受け入れてしまう。SCP-063-JPについて今後さらなる研究が必要だ。朝比奈博士の一刻も早い職務復帰を願う。 - ██研究助手