予言を発表する前の、典型的な思索的姿勢を取るSCP-032-ITの写真。
アイテム番号: SCP-032-IT
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-032-ITはサイト-プルトーネのH32標準ヒト型生物収容室に収容されます。当該オブジェクトはほとんど動かないため、一時的な収容措置としてより狭い区画に収容することが可能です。SCP-032-ITは1ヶ月に2回、10:00 PMから2:00 AMまで活動状態に入ります。
レベル3職員はSCP-032-ITの収容室への立ち入りが認められます。SCP-032-ITとの対話を希望する研究者は、古代ラテン語、エトルリア語、古代ギリシャ語のいずれかに堪能であることが求められます。そうでない場合、アンダーソン-スミレMk-II神経通訳機の使用が可能です。
SCP-032-ITが分析のためにX線撮影室へ移送される際には、武装警備員1名が常にSCP-032-ITに随伴しなければいけません。SCP-032-ITは交流する相手を付属器官で探ろうとする傾向はあるものの、平時は非常に協力的であるため、これはあくまでも予防措置です。
SCP-032-ITが原材料の取得を要請した場合、これらの要請はベリーニ博士に、彼が不在の場合はサイト管理官に伝達されます。要請はケースバイケースで評価されますが、概ね容認可能です。要請が受理された場合、SCP-032-ITが必要とする原材料は倉庫M-12に集めるものとします。
SCP-032-ITとの物理接触を必要とする全ての職員は、皮脂がSCP-032-ITの銅を経時的に劣化させるのを防ぐために、ゴム手袋を着用しなければいけません。
注意
未来の出来事を予測させてほしいというSCP-032-ITの申し出は、例外無く拒否しなければならない。SCP-032-ITはその手順にどれだけの苦痛が伴うか理解している様子を見せておらず、たとえ悪意が無いにせよ、君が気付くよりも早く腹を刺しに来るだろう。– ベリーニ博士
説明: SCP-032-ITは不透明な緑色の銅像です。逞しい体格の若い人間男性を象ったもので、顔立ちはギリシャ・ローマ風の彫刻技法に類似しており、短いトーガを着用しています。
SCP-032-ITの関節は連結式のため、移動できます。SCP-032-ITは自在継手を備えた管状の異常骨格構造を示しており、人間の動きに酷似した幅広い微細運動を指先に至るまで行うことができます。SCP-032-ITは観察者から"非常に自然"と見做される自律行動が可能であり、さらに人間の発話を明瞭に表現して有意義な会話を維持できます。
SCP-032-ITは自我を有しますが、前述した3種類の言語を除く新しい意思疎通手段を学習できません。これにも拘らず、SCP-032-ITは新しい概念や定義を平均的な成人と同程度の認知能力で学ぶことができます。
一般的な銅像と同じように、SCP-032-ITは中空です。しかしながら、内部空間は空ではなく、前述の管状構造と、古代機械との互換性を持つ構築技術で作られた相互連結歯車の複雑なシステムが内蔵されています。胸部前方の機械部品KY94がアンティキティラ島の機械の設計と98%一致する点は注目に値します。この機械構造全体によって、SCP-032-ITは四肢の微動が可能となっています — しかし、これらの動きがそもそもどのように達成されるかは未解明のままです。三次元X線分析に基づく設計図で観察できる限り、SCP-032-ITの構造はあくまでも複雑なオーディオアニマトロニクスの域を出ていません。
損傷した場合、SCP-032-ITは生物の傷が治癒する際のそれと似た自己修復プロセスを介して形状を復元できます。しかしながら、このプロセスは生物と比べて遥かに遅く、約8倍の時間を要します。SCP-032-ITは初期質量の大半(体内の機械を含む)を喪失した後でもこの再生機能を達成可能ですが、海底に長期間放置されて生じた体表面への損傷はもはや完全には修復できません(回収ログを参照)。
SCP-032-ITは栄養を必要としませんが、修復時には小さな銅の破片(5cm3以下)を摂取することが求められます。これらの破片は腹部にある金属製の袋に蓄積されます。光電子分光を用いた測定の結果、摂取された破片は1日あたり約0.78グラムの率で袋の壁にゆっくり吸収されることが判明しています。袋自体はこの現象の期間中、周辺の素材よりも2±0.1 oC高い温度を帯びます。
身分について質問される時、SCP-032-ITは一貫してスプリンナという名の腸卜僧だと主張します。SCP-032-ITは紀元前790年以来"新たな空の下にいる"ものの、造られたのは少なくともその900年前だと述べています。"新たな空"という言葉の意味を訊ねられたSCP-032-ITは、自身が(非常に似通ってはいるが)"本来の場所"にいないと気付いたのだと主張しました。加えて、SCP-032-ITは新たな空の下ではまだ自身と同じような腸卜僧や鳥占官に出会っていないと述べています。
更新 2017年02月21日
SCP-032-ITは長い付属器官を有することが注目されています。この器官は断面が直径約7mmの円形で、先端は尖っており、完全に伸縮自在で、5ヶ所に連結部が設けられています。全長は28cmですが、収縮すると体表面の内側に完全に隠れます。これらの付属器官は指間膜の上(それぞれの手に合計4本ずつ)と、頭部の涙管、耳道、ラムダ状縫合の中(従って頭部には合計6本)にあります。
SCP-032-ITはこれらの付属器官を使って人間や動物の肉体を穿刺し、内臓 — とりわけ肝臓ですが、時として小腸、腸間膜、大腸も含む — の形態学的特性を知覚します。この作業は片手または両手の付属器官によって行われます。構造上の類似性が同じ使用法を示唆してはいるものの、頭部器官の機能はまだ不明です。これについて質問されると、SCP-032-ITは頭部器官を自発的に延ばすことは可能だが、それらは"必要に応じて独自に機能する"と説明します。
SCP-032-ITは以下の手順を踏んで、生きている対象、即ち肝臓と腸管を備えている人間や動物に関する未来の出来事を予測できます。
- 選択された対象者は、SCP-032-ITに未来の出来事、もしくは対象自身が把握していない現在の出来事について質問することができる。
- SCP-032-ITは付属器官で対象の内臓を精査する。
- 付属器官を摘出した後、SCP-032-ITは質問に回答する。
対象が動物である時、SCP-032-ITへの質問は必然的に第三者が行う必要があります。人間の場合にも第三者の介入は適用可能です。
SCP-032-ITが対象の内臓を探る手順は通常(麻酔を掛けられていない限り)苦痛を伴いますが、致命的ではありません。結果として生じる傷は平均して1ヶ月程度で治癒します。感染症を防ぐために、追加の抗生物質療法が推奨されます。
SCP-032-ITの予言は概して非常に詳細です。更なる情報はインタビューを参照してください。
更新 2017年05月10日
その後のCTと線量測定を用いた分析で、SCP-032-ITの機械部品に含まれる不純物は体内を移動し、密度と重量の局所的不均衡を引き起こすことが可能だと判明しました。一例として、歯車は片側だけに重量が偏った結果、重力の影響だけで回転するようになります。この内部重量/密度の変化の合計がSCP-032-ITの原動力であり、残りは部品同士の通常の機械的相互作用です。同様に、電気センサーはSCP-032-ITの構造内に寄生電流が存在し、運動機能と直接の接点を持たない複雑なネットワークを組織しているのを検出しています。これらの寄生電流がSCP-032-ITの認知能力の根源だと想定されています。
回収ログ
SCP-032-ITは2015年9月、███████の考古学調査団によって、臨海都市バニョーリの沖合で発見された紀元前43年の沈没船から発見されました。対象はその後、ナポリ考古学博物館に運ばれ、2016年12月10日に財団が押収するまでそこに保管されていました。関与した全ての民間人に適切な容量の記憶処理薬が投与され、その後も標準的な監視期間が設けられました。
<ファイル開始>
プロの修復技術者、[編集済]の個人日記からの抜粋。SCP-032-ITに直接関係しない部分は全て編集除去されています。
2015年09月21日
今日は博物館に新しく魅力的な物品が届いた。紀元前1世紀頃に作られたと思しき銅像だ。フジツボやら何やらに完全に覆われているが、僅かに見えている部分だけでも素晴らしい仕上がりなのが分かる。この像は長らく海の底に沈んでいた... しかしすぐに誰もがその美しさを再び称賛するだろう。
2015年11月03日
ようやく海洋ゴミの試験除去が完了した! 中身は驚くべき物だ... 機械装置の迷宮! オートマトン、恐らくはギリシャ製。リアーチェのブロンズ像と同じくらい反響を呼ぶかもしれない。
2016年02月18日
私も、エトルリア文明コーナーの新しい学芸員も、絶句している。これはギリシャの芸術品ではない。このオートマトンは、今まで私たちに全く発見されずにいた未知の失われた文明に由来している... そしてこの歯車はどうだ。あらゆる場所にある! 指や爪先に至るまで全ての考え得る部位に接続されている。リアーチェのブロンズ像どころか、その10倍も重要な発見だ! 残骸が半分しか残っていないのは実に残念だ... 海底で過ごした2000年は残酷なものだった。
2016年04月01日
資金不足。ある種の"エイプリルフール!"であってほしかったが、いいや、芸術分野への公共支出がいかに貧弱かという厳しい現実だ。待っていてくれ、銅の若者よ。金が溜まった頃にもう一度会おう。
2016年07月21日
バニョーリのオートマトン修復に向ける資金はまだ調達できず、あの美しい工芸品は倉庫で埃を被っている。悲しい。
2016年09月30日
遂に新しい修復資金が得られた! 像を何処に収蔵したかさえ既に忘れてしまった... どうでもいい、博物館を逆さに引っ繰り返してでもまた見つけてやる!
2016年10月01日
これはどういう仕打ちだ? メチャクチャだ、信じられない! 事務局は資金を渡さないだけでなく、代わりに2人の新人を同じ業務に割り当てて済まそうとしている!
2016年10月03日
誰も何も知らない。私も全く理解できない。明日はオートマトンをもっと綿密に調べたいが、どうにも説明が付かない。
2016年10月03日
許可は全く出ていないし、このプロジェクトには他に誰も配属されていない。困惑している。誰かが過去数ヶ月間、バニョーリのオートマトン修復に取り組んでいたのは間違いない。オートマトンはほぼ完全に無傷になっている! しかも非常に素晴らしい、驚嘆すべき仕事ぶりだ。追加された部品を調べてみたが... 何処までが本来の部品で、新しい素材が何処からなのかさえ分からないとは!
2016年10月07日
私は今やバニョーリのオートマトンに憑りつかれている。表面は完璧ではないが、内部機構は... まるで新品同然だ! 信じられない! 誰だったにせよ、修復者が比類のない専門家なのは確実だ... なのに誰もその正体を知らない!
2016年10月08日
ああ、この工芸品の真価を披露できそうだ。オートマトンは美しい。手動で幾つか歯車を回そうとしたら... それは全く滑らかに手を動かした。古代の叡智は未だ私たちにとって未踏の領域であることを、今さらのように思い知らされる。
2016年10月09日
エジプト文明コーナーのウシャブティを緊急に修復する必要ができた。しばらくこれに専念しなければならないだろう。
2016年11月29日
私がイカレているのか、誰かがタチの悪い冗談を仕掛けているのか、2つに1つだ。今日、保管庫に入ると、オートマトンは完全に修復済だった! いったいどういう事だ? そしてあの見たことも無いほど繊細な技巧...
2016年11月30日
どうやら2番目の説が正しいようだ。今日はオートマトンが直立しているのを見つけた。大した冗談だ。見つけ出してやるぞ、馬鹿め。
2016年12月04日
考え直した。最初に考えた通りだ。私は狂っている。今日オートマトンは話した。話した。話した。
2016年12月05日
"Quæstio"。確か"質問"という意味だ。何を訊けばいいだろう?
2016年12月06日
酷く痛む。しかし実に信じ難いような体験をした。信じられない。信じられない。私は有名人になれるぞ! だとすると、何故オートマトンは全てが常態に戻ると言ったのだろう? 有り得ない!
2016年12月07日
奇妙な連中が博物館の周りで何かを訊ね歩いている... まさかオートマトンを探しているのか?
2016年12月08日
持って行かせはしないぞ... そんな事をしても、誰のためにもならない! あんなにも素晴らしいのに!
2016年12月09日
お前らの手にあれを渡すものか! 畜生!
2016年12月12日
最悪な頭痛のせいで、3日連続でベッドに寝ている。ふん。去年何をやっていたかすら思い出せないせいでとても困惑している。まるで初めからそんな時間が存在しなかったかのような感覚だ。とは言うものの、医者はすぐ記憶が戻るだろうと言っている。腹の傷跡に関しては... パーティーで随分と暴れたらしいな、私は? 古い日記まで失くしてしまった。
2016年12月15日
ある種のウィルスだろうか、博物館では誰もが私以上に忘れっぽくなったようだ。まぁ、逆境はトラブルを乗り越える種と俗に言う。勿論、こんな調子が続けば業務は不可能だ。きっとまた、幾つかのコーナーを数ヶ月間閉鎖することになるだろう。
2016年12月17日
しかし、あの医者はいったい何者だったんだろうか?
<ファイル終了>
インタビュー
このセクションにはSCP-032-ITへのインタビューが収録されています。
注記: 以下の転写は古典ラテン語から翻訳されています。
<ファイル開始>
ベリーニ博士: おはよう、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: 挨拶を、博士doctor。
ベリーニ博士: 君の名前は?
SCP-032-IT: 私の名はスプリンナSpurinna。
ベリーニ博士: 成程... ともあれ、ここではSCP-032-ITと呼ばせてもらうよ。
SCP-032-IT: 複雑に聞こえるが、あなたの心が望むままに。
ベリーニ博士: 君の目的は何だ?
SCP-032-IT: 私は腸卜僧haruspexだ。
ベリーニ博士: 未来を予測するのか?
SCP-032-IT: その通り。
ベリーニ博士: どうやって?
SCP-032-IT: 内部を読む。
ベリーニ博士: 私の未来を読むことも可能なのか?
SCP-032-IT: 疑いなく。私に問いquæstioを1つ与えてほしい。
ベリーニ博士: 何か要る物はあるかね?
SCP-032-IT: あなたの臓物templumを探る必要がある。
ベリーニ博士: それには羊を使ってもらうことになるだろうな。
SCP-032-IT: あなた方も、此処でもそうなのか?
ベリーニ博士: "我々も"、どうしたって?
SCP-032-IT: その方式は既に廃れたと考えていた... ともかく、いいや、私にはあなたの道筋cardoとあなたの通り路decumanoが必要だ。
ベリーニ博士: もっと詳しく説明してもらえないか?
SCP-032-IT: あなたの内部が必要だ、博士doctor。私はそれらを探らなければならない。
ベリーニ博士: 私の内臓?
SCP-032-IT: その通り。
ベリーニ博士: 私が知る限り、腸卜僧は羊の内臓で占いを行っていたはずだ。
SCP-032-IT: その手順は誤っている。
ベリーニ博士: 誤っている?
SCP-032-IT: そうだ。私は幾度も説明したが、彼らは決して聞き入れなかった。
ベリーニ博士: 誰に説明したんだ?
SCP-032-IT: ラセンナRasennaの民だ、私は彼らに腸卜の技術を教えた。
ベリーニ博士: ほう。
(ベリーニ博士はノートパッドにメモを取る)
ベリーニ博士: もっと教えてくれ、正しい手順とはどういう物だ?
SCP-032-IT: 羊の内部を読んでも、その羊の未来しか語ることができない。そのような行為を他者の運命に関連付けられるという考えは馬鹿げている。それ故にあの腸卜僧たちは正しく未来を読んだことが一度も無かった。
ベリーニ博士: そして、君はどうした?
SCP-032-IT: 私は幾度も彼らにこれを説明した。最後には諦めた。
ベリーニ博士: 彼らはその理由を説明しなかったのか?
SCP-032-IT: 人間をそのような理由で切り開くことはできないと語っていた。私は理解できない。他に問いquæstioへの答えを見つけ出す術があるだろうか?
(金属質な付属器官がSCP-032-ITの手から突出する)
SCP-032-IT: あなたの問いquæstioは何か?
ベリーニ博士: ま、待ってくれ! 私は... 私はまだ自分の未来を知りたくはない!
(ベリーニ博士は収容室から走り去る)
SCP-032-IT: 博士Doctor...?
<ファイル終了>
<ファイル開始>
ベリーニ博士: おはよう、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: 挨拶を、博士doctor。あなたが戻って来たのは、私への問quæst-
ベリーニ博士: 違う! エヘン、その... それはまた今度だ。
SCP-032-IT: 頼む。私は何が先に待ち受けているかをあなたに語ることができる。
ベリーニ博士: 分かったとも、しかし今は止めておく。
SCP-032-IT: 人間の心はそれを求める。それが私の目的だ。
ベリーニ博士: ああ、では君の目的について話そう。
SCP-032-IT: あなたは問いquæstioを持っているか?
ベリーニ博士: いいや、SCP-032-IT、私は問いquæstioを持っていない。
SCP-032-IT: そうか。
ベリーニ博士: 君の話をしようじゃないか。君は何処からやって来た?
SCP-032-IT: 今は此処が私の家だが、あくまでも新たな家だ。
ベリーニ博士: 財団のことかい?
SCP-032-IT: いいや、この世界全てという意味だ。
ベリーニ博士: 詳しく説明してくれ。
SCP-032-IT: ある時、光が在った... 私の計算が正確ならば、あなた方の年代換算で790年"前"の出来事になるだろう。
ベリーニ博士: 紀元前790年?
SCP-032-IT: そうだ、790年... その言葉。日々に前が存在するとは、実に奇妙な言葉だ。日々というのは後に来るものではないか?
ベリーニ博士: これは私たちの慣習でね。俗に言うだろう、ローマにおいては...
SCP-032-IT: 何?
ベリーニ博士: 何でもない。続けてくれ、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: 私は自分が新たな家にいると気付いた。非常に似通っている。非常に、非常に似通ってはいるのだが、ただ腸卜僧も鳥占官も存在しなかった... 実を言えば、多少はいたのだが、それらは皆人間だった。私のような者はいなかった。
ベリーニ博士: それ以前は何処にいたんだ?
SCP-032-IT: 今話したように、非常に似通った空の下にいた。
ベリーニ博士: その世界で生まれたのか?
SCP-032-IT: そうなる。
ベリーニ博士: いつ?
SCP-032-IT: 光の900年以上前。
ベリーニ博士: 誰が君を組み立てた?
SCP-032-IT: それはどういう質問だ? では博士doctor、誰があなたを組み立てた?
ベリーニ博士: 忘れてくれ、話題を変えよう。その付属器官は以前からずっとあったのか?
SCP-032-IT: その通り。これが無ければ予測を立てられないだろう? だからこそ私は人間の腸卜僧を決して理解できなかった。確かに、視覚による判断は十分に妥当な手段だが、手で触れる方が遥かに効果的だ。探る内部が生きているのであれば尚良い。
(ベリーニ博士はノートパッドにメモを取る)
SCP-032-IT: あなたは問いquæstioを持っているか、博士doctor?
ベリーニ博士: いや...! 明日また会おう...!
(ベリーニ博士は収容室を退室する)
SCP-032-IT: しかし、それが私の目的なのだ...
<ファイル終了>
<ファイル開始>
(アンダーソン-スミレMk-II神経通訳機を装備したD-54399が、SCP-032-ITの収容室に入室する)
D-54399: はっ?!
SCP-032-IT: 挨拶を。あなたは博士doctorか?
D-54399: 何だぁこの野郎? さては駅で銅像の真似事してる芸人的なアレか?
SCP-032-IT: 私はあなたの声明を完全には把握していないが、私は腸卜僧haruspexだ。
D-54399: で、そりゃいったい何だ? コンドームの一種か?
ベリーニ博士 (インターコム越しに): D-54399、SCP-032-ITに協力してくれ。
(D-54399は床に唾を吐く)
D-54399: さもなきゃ俺の首を刎ねるってんだろ。よっしゃ、ブリキ男。始めてくれ。
SCP-032-IT: その言葉。
D-54399: 博士、こいつ故障してんじゃねぇのか。
ベリーニ博士 (インターコム越しに): 気にするな。彼が言う通りに行動してくれ、D-54399。
SCP-032-IT: あなたは私への問いquæstioを持っているか?
D-54399: 何だって?!
ベリーニ博士 (インターコム越しに): "質問"という意味だ、D-54399。
D-54399: ハハハ、質問だと? そうかい、OK... 最高級のスカンクを一番安く手に入れるには何処に行けばいい?
(SCP-032-ITは付属器官を展開してD-54399を刺突し、D-54399は苦痛に叫ぶ。D-54399は逃走を試みるが、SCP-032-ITはもう片方の手の付属器官で彼をその場に抑えつける。付属器官は捻じれ、D-54399の筋肉組織を通して肉を掘り進む。29秒後、SCP-032-ITは付属器官を引き抜き、収納する。D-54399は流血している腹部を押さえながらドアに走り寄り、叩き始める)
D-54399: 開けろ! 開けろクソ野郎! どういう事だ...! 奴が何したか見ろよ! 開けやがれ!
SCP-032-IT: [編集済]、あなた方の方言では"炎の広がり"とも呼ばれる。あなた方の金銭換算で400、重量換算で10ごとに販売。ローマにあるエスクイリーノの丘で、また休日にはトルッロで彼を見つけることができる。
D-54399: な...? 何で知ってる?
ベリーニ博士 (インターコム越しに): 十分だ、D-54399。実験を終了する。
D-54399: おう、ちょっと待て博士、そう急ぐな。死ぬほど痛ぇが、このブリキ男は正しい事を言ってやがる。おいブリキ男、もう1つ訊きたい。
SCP-032-IT: 問いquæstioを聞かせたまえ!
D-54399: 俺はいつになったらここを出られる?
(SCP-032-ITは再びD-54399を刺突する。31秒後、付属器官が引き抜かれる)
SCP-032-IT: 明日の日没時、敵意の地pars hostilisに面した出口の1つから、西へ。
D-54399: 畜生、痛ぇ... それで... それで、どうやって?!
ベリーニ博士 (インターコム越しに): 警備員! 実験は終わりだ、D-54399を連れ戻せ!
(SCP-032-ITは三度D-54399を刺突する。12秒後、警備員が入室してD-54399を連れ出し、体内を探査中の付属器官を強引に引き抜く)
SCP-032-IT: おお...
(SCP-032-ITは不動のまま、虚空を見つめている)
ベリーニ博士 (インターコム越しに): SCP-032-IT、大丈夫か?
SCP-032-IT: 彼は奴隷servusなのか?
ベリーニ博士 (インターコム越しに): 奴隷はもう存在しないんだ。
SCP-032-IT: 博士doctor... あなたはあの奴隷servusが... 彼が殺されることを知る必要がある。彼は死ぬだろう、そしてそれ故に彼は此処を運び出される。
(ベリーニ博士はインターコムのスイッチを切る)
ベリーニ博士: 知っているよ、SCP-032-IT。知っているとも。
<ファイル終了>
<ファイル開始>
(アンダーソン-スミレMk-II神経通訳機を装備したD-54419が、SCP-032-ITの収容室に入室する)
SCP-032-IT: 挨拶を。あなたは博士doctorか... いや、奴隷servusと同じ服を着ている。あなたは婢女faveaか?
D-54419: 喋る銅像? これって何かのジョーク?
ベリーニ博士 (インターコム越しに): D-54419、SCP-032-ITに協力してくれ。
D-54419: はいはい、SCP-ナントカさん、何がお望み?
SCP-032-IT: あなたは問いquæstioを持っているか?
(D-54419はしばらく無言である)
D-54419: 博士、何言ってんのか分からないんじゃ協力しようがないわ。
ベリーニ博士 (インターコム越しに): 事前に教えた質問を伝えてくれればいい。
D-54419: OK、じゃあ... 教えて、銅像さん、これから4日間で私の身には何が起きる? 博士、もしかして私お金か何か入れたほうがいいん-
(SCP-032-ITが付属器官を展開する)
D-54419: 何これ?!
(D-54419は出口に向かって逃げる。SCP-032-ITはD-54419に歩み寄るが、彼女は走ってテーブルの後ろに回り込み、テーブルを蹴ってSCP-032-ITに当てる。SCP-032-ITは床に倒れ込み、右腰に凹みが生じる。警備員が入室してD-54419を抑えつける。SCP-032-ITは立ち上がり、付属器官でD-54419を刺突する。拘束を逃れようとするD-54419の暴力的な試みにも拘らず、実験は予定通りに進行する。41秒後、SCP-032-ITは付属器官を引き抜き、暫く直立している)
SCP-032-IT: 私が今までに見たことの無い、余りにも多くの脚が生えた奇妙な動物が1頭いる。婢女faveaよ、あなたはこの動物に近付いてはならない、何故ならば... 近付いてはならない。しかし、それはあなたの役には立たないだろう。
D-54419: 何言ってんのコイツ?! 離しなさいよ、こん畜生!
(D-54419は収容室から連れ出される。SCP-032-ITは頭部の付属器官を展開し、脇腹の小さな凹みを探ってから引き戻す)
補遺
D-54419とSCP-███-ITの実験は4日後に予定されていた。問題の実験でD-54419は死亡するだろうと予測されており、SCP-032-ITの予言もそれに沿っていた。サイト管理官の承認を受けて、私たちは実験を延期し、SCP-032-ITが確実な予知を行っているのか、有り得る未来のうち1つだけを見ているのか確かめることにした。4日後、SCP-███-ITは収容違反してサイトの各所で死者を出した。犠牲者の1人はD-54419だった。
–ベリーニ博士
<ファイル終了>
<ファイル開始>
(ベリーニ博士が1羽のイワツバメ、以下SCP-032-IT-Bを携えてSCP-032-ITの収容室に入室する)
SCP-032-IT: 挨拶を、博士doctor。
ベリーニ博士: こんにちは、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: あなたが持っているそれは何だ? そうか、小鳥か。
ベリーニ博士: ああ、イワツバメさ。
SCP-032-IT: その言葉。玄鳥hirundoに似た鳥だ。
ベリーニ博士: そうだ、よく似た鳥だよ。
SCP-032-IT: あなたは問いquæstioを持っているか、博士doctor?
ベリーニ博士: 実は持っているんだ、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: 遂に! では訊いてくれ!
ベリーニ博士: この玄鳥hirundoについて訊きたい。君はこの鳥の運命を予測できるか?
SCP-032-IT: 然り。
ベリーニ博士: いいだろう、私の問いquæstioはこうだ — この鳥はどのくらい生きられる? そしてどのように死ぬ?
(SCP-032-ITは手の付属器官を展開してSCP-032-IT-Bの体内を探る。12秒後、探査が終了し、SCP-032-ITは暫く物思いに耽る様子を見せる)
SCP-032-IT: この鳥は長寿を全うするだろう、博士doctor、並の玄鳥hirundoよりも長く生きられる。死因は老齢になる。決して病には罹らない。住処に害を及ぼす者はいない。傷は12日diesで完全に治癒する。
ベリーニ博士: それは良かった。
SCP-032-IT: しかし...
ベリーニ博士: しかし?
SCP-032-IT: しかし幸福ではないだろう、博士doctor。
ベリーニ博士: 了解した、SCP-032-IT。では私はこれで失礼する。
(ベリーニ博士はドアに向かって歩いてゆく)
SCP-032-IT: 博士doctor...?
ベリーニ博士: うん?
SCP-032-IT: 私には知りたい事がある。
ベリーニ博士: 話してみてくれ、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: 此処には、新たな空の下には... 凱旋将軍Imperatorもまた存在するだろうか?
ベリーニ博士: えっ...? いや、いないが...
SCP-032-IT: それは確かか?
ベリーニ博士: そうだ...
SCP-032-IT: 新たなネアポリスNeapolisに留まっていた頃、私は幾度も彼の印章sigillumを見た。
(SCP-032-ITの頭部の付属器官が突出し、神経質に動く)
SCP-032-IT: 私は凱旋将軍Imperatorが新たな空の下にいるか否かを知りたいのだ! 私は彼に会いたい!
ベリーニ博士: ダメだ、SCP-032-IT。インペラトルは2000年前に廃れた称号だ。此処に凱旋将軍Imperatorはいない。
(頭部の付属器官はSCP-032-ITの内部へ引き戻される。SCP-032-ITは暫く物思いに耽る様子を見せる。ベリーニ博士が退室する)
SCP-032-IT: そうか。
補遺#1
SCP-032-IT-Bは密接な監視の下、無菌環境で飼育されている。12日後に対象の負傷は完治し、現時点では完全な健康体だ。–ベリーニ博士
補遺#2
ベリーニ博士の要請に応じ、安全上の予防措置として、SCP-032-ITとSCP-006-ITの間には如何なる交流も生じないようにしなければならない。–サイト管理官
<ファイル終了>
<ファイル開始>
(ベリーニ博士がSCP-032-ITの収容室に入室する)
ベリーニ博士: おはよう、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: 挨拶を、博士doctor。あなたは問いquæstioを持っているか? つまり個人的なものを、という意味だ。
ベリーニ博士: うむ、SCP-032-IT、考えてみたんだが... 確かに、未来を知るという考えは魅力的ではある。
SCP-032-IT: 知っている、博士doctor、だからこそ私が此処にいる。
ベリーニ博士: しかし... 今のところ、私は体内を抉られるのに乗り気じゃない。分かってもらえるかな?
SCP-032-IT: いいや。しかし、私はこの時代の人々が異なっているのを見てきた。
ベリーニ博士: 私たちの衣服や技術力のことかい?
SCP-032-IT: いいや、あなた方は容易に怯えるという意味だ。
ベリーニ博士: ああ。さ、さて、君はSCP-032-IT-Bがどうしているか知りたいかな? あの玄鳥hirundoだよ。
SCP-032-IT: 私はそれを既に知っている。私は玄鳥hirundoの臓物templumを読んでいる。
(ベリーニ博士はノートパッドにメモを取る)
ベリーニ博士: 後であの鳥のまた別な予知を頼みたいんだ、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: 博士Doctor、残念だが... そのような事は不可能だ。
ベリーニ博士: 何故だ、SCP-032-IT? 気が進まないか?
SCP-032-IT: そうではない。他の事柄を望むのと同じ程度に強く、私は予知を望んでいる。しかし、私は水中で長い時を過ごした... 残念だが、それが傷付けたのは外面だけではなかった。
ベリーニ博士: どういう意味かな?
SCP-032-IT: 全身が復元されたとはいえ、私は付属器官の感度を幾分失っている。私は... ある者の運命を1回以上読むことができるとは思わない。
ベリーニ博士: 成程... いや、待ってくれ。D-54399との実験で、君は2つの質問に答えた。
SCP-032-IT: その通りだが、片方は彼の過去に関するものだった。
ベリーニ博士: ああ。
SCP-032-IT: あなたに関しては、博士doctor、まだ未来を読むことができる。あなたはそれを望むか?
ベリーニ博士: どうして君はそう予測にこだわるんだ、SCP-032-IT?
SCP-032-IT: それが私の目的だからだ。そしてまた、海で過ごした長い時間は私を気短にした。私は自分の目的を再び果たしたくて堪らなかったが、身動きが取れなかった...
ベリーニ博士: 続けてくれ、SCP-032-IT。
SCP-032-IT: 私の最後の所有者、ブルートゥスBrutusは私を船に乗せたが、それはプテオリPuteoliを出港して間もなく沈没した。彼は私をヒベリアHiberiaへ送ろうとしていたのだと思うが、確信は持てない。私は保管箱を破ることができず、そこに留まらざるを得なかった。余りに長く水中にいたので、私はもはや外面を望むように修復できない。船の残骸の下から明暗の移り変わりを見ることができたので、それで日々diesを数えた。塩水に少しずつ腐食され、自分の身体が腐ってゆくのを2000年間眺め続けるのがどのような経験か想像できるか?
ベリーニ博士: 想像もつかない... しかし悪夢のような話だ。
SCP-032-IT: その通り、時には非常に苛立たしかった。
(ベリーニ博士は暫くの間、額に手を当てた姿勢を保っている)
ベリーニ博士: 君の予測について教えてほしい、SCP-032-IT... 今まで、君自身の予言で何らかの出来事が前以て回避された例はあったか?
SCP-032-IT: いいや、何者も宿命fatumを変えることはできない。
ベリーニ博士: 君が予知した事は何をどうしようとも発生するという意味だね?
SCP-032-IT: 無論だ、そうでなければ有効な予言にはならないだろう?
ベリーニ博士: つまり、例えば私の頭に花瓶が落ちることを君が予測したと仮定して、私は何がいつ起こるか分かっていたとしても、それを避けるために打つ手は何も無い?
SCP-032-IT: そうだ、決して逃れられない。
ベリーニ博士: ああ。
(ベリーニ博士はノートにメモを取り、考え込む)
SCP-032-IT: 何かあったのか、博士doctor?
ベリーニ博士: いや、予め定められた運命という考えは... 不穏だと思ってね。
SCP-032-IT: それは何故だ? 沈没前に私が未来を予測した者たちには、そのような問題は無かった。皇帝Cæsarは非常に穏やかにそれを受け入れた。
ベリーニ博士: カエサルとは誰だ? あのカエサルか?
SCP-032-IT: もしあなたが特定個人を指しているのならば、彼の宿命fatumは他の何者とも異なっていたことを知るべきだ。私が話している皇帝Cæsarは、かつてウルベUrbeの独裁官dictatorだった人物だ。
(ベリーニ博士はノートにメモを取る)
ベリーニ博士: 続けてくれ、SCP-032-IT。君はカエサルに何を語った?
SCP-032-IT: 彼の死を予言した時、彼は全く動じなかった。それどころか、まさに当日、彼は歩いて上院に向かった。
ベリーニ博士: ブルートゥスのカエサル暗殺を予言したのか?!
SCP-032-IT: ブルートゥスBrutus?! 彼が下手人だったのか?
ベリーニ博士: 勿論。君は知らなかったのか?
SCP-032-IT: 私には理解できない、ブルートゥスBrutusは皇帝Cæsarにとって息子同然だった...
ベリーニ博士: 暗殺を予言したんじゃなかったか?
SCP-032-IT: いいや、それは彼の臓物templumから読み取らなかった... 皇帝Cæsarは自分が何処でいつ死ぬか予言することを求めたが、どのようにして... そして誰によって死に至るかを語らないように命じていた。
(ベリーニ博士はノートにメモを取る)
ベリーニ博士: ...興味深い話だったよ、SCP-032-IT。私はそろそろ行かなければならない、またすぐに会おう。
SCP-032-IT: 別れの挨拶を、博士doctor。
(ベリーニ博士は収容室を退室する)
<ファイル終了>
注記
今日のSCP-032-ITとの会話で私は動揺している。全く以てSCP-032-ITの責任ではない。むしろ、あれは非常に温和で、適切に対処してさえいれば完全に無害だ。
しかし、あれの存在自体が、私たちに行動の選択肢が無い証明でもある...
自由意志とは煌びやかで繊細な幻想に過ぎないという証明...
真に自由な者など何処にもいないという証明。
–ベリーニ博士