クレジット
あなたは1969年7月21日を迎えようとしている。「人類にとっての偉大な飛躍」――またの名を「一人の人間にとっての小さな一歩」――の痕跡が月面に残された日だ。ただ、あなたの場合は「この一歩は確かに小さな一歩だが、私にとって偉大な飛躍となるだろう」のほうがしっくりくるかもしれない。これは極めて個人的なことに関わる一歩だからだ。
残念ながら、私はNASAには務めていない。あなたをアポロ11号のパイロットとして選定することもできない。ただし、普通より少しだけ月面着陸について詳しいという自負ならある。だから、今日は簡単な質問紙を通して、あなたがあなた自身の月へ一歩踏み出す ......ええい! ENの真似をして比喩を並べるのもまどろっこしい――要はあなたが最初の一作を残すお手伝いをさせていただきたいと思っている。
質問紙は二枚組で、一枚目が適性検査――まずパイロットになれるかどうかを検査するための簡単なテストだ。そしてもう一枚は計画書――あなたの月面探査の計画を作るためのアンケートだ。さっそく、適性検査のIから始めよう。
適性検査 I
- 記事を50記事以上読んだ - はい・いいえ
- トップバーの「SCPの世界観」に属する記事を全部読んだ - はい・いいえ
- 記事を作成するには?を読んだ - はい・いいえ
- エッセイを全部読んだ - はい・いいえ
- 記事を書く方法を勉強する気がある - はい・いいえ
正答と配点
1: はい - 20点
2: はい - 20点
3: はい - 20点
4: はい - 20点
5: はい - 20点合格点 100点
残念ながら、一つでも「いいえ」と答えたならあなたはパイロットになれない可能性が高い。これはいわゆる「必要資格」みたいなもので、あなたが宇宙に行きたいなら、まずこれらを満たさないといけない(あなたがとんでもない富豪だというのなら別だけども!)。
と、言われても納得できないと思うから、設問の意図を説明したい。
1番は「経験」。読んでみないとわからない文章の温度感、語彙の選択、文体、表現技法などがある。まずはそれを体験しよう。
2番は「理解」、世界観についての理解がないまま記事はかけない(クリアランスレべル5ってどれくらいすごい人?)。
3番は「前提」、これを読んでフォーマットを守れなきゃお話にならない(■しかくを使った記事を批評してくれなんて、口が裂けても言えない。読むべきものを読んでいないって証拠だからね)。
4番は「知識」、あなたが宇宙飛行中にするべきことと、すべきでないことを教えてくれる(特に批評者は改行の作法について語るのにうんざりしている!)。
5番は「現実」、あなたがマークザッカーバーグみたいな天才か、熟練宇宙飛行士じゃないかぎり、基本的にあなたは記事を書くのが下手なはずだ(私もまだまだへったくそ!)。だから、常に学ぶ意識が必要だ。
なまじ文字を書けるから勘違いしている人が多いけども、文章創作だって絵と同じで技術を勉強しなきゃいけない芸術の一種。日本語が書けるってのは、絵において鉛筆を持って雑な線を引けるのと何も変わらない。良い絵のためには美しい曲線を描き、魅せる構図を学ばなければいけない。それと同じように、記事を書くためには美しい文章を書き、面白くする技術を学ばなければいけない。
だが、残念ながらその技術は学びにくい。これといった正解や教科書がないからだ。じゃあどうするか? 自分で本を探したり他の記事や商業作品を分析するほかない......。ただ、それができれば記事を書けるようになるし、逆に努力しなきゃ一生記事を書けない、そういうある意味シンプルな話でもある。
さて、この試験に合格できなかったとしても、落ち込む必要は全くない。この適性検査は24時間いつでも再受験可能だ(著者がこのページを消さない限り!)。もう一度いろんなものを読んでからここに戻ってきて、再受験してみよう。きっと日本語を読めるなら、合格できると信じている。もし合格できたなら、次の適性検査IIに進んでみよう。
適性検査Iを突破したあなたにはもう一つの適性検査が待ち受けている。しかも今度は実践問題だ――ちゃんとエッセイやガイドを読んだかどうかが試される。できればどこかに書き込みながら解いてみてほしい。
適性検査 II
Q. 以下の文章のうち、SCP記事として不適切な表現・形式と、その理由を指摘せよ。
アイテム番号:SCP-xxx-JP
オブジェクトクラス: keter
特別収用プロトコル: ×ばつ10 mの収容室に収容され、1日に2度収容室の掃除を行います。
説明: SCP-xxx-JPは大きな柱時計です。
SCP-xxx-JP内部にはSCP-xxx-JP-1が存在しています。
SCP-xxx-JP内に存在するSCP-xxx-JP-1は2000匹を超えると考えられています。これはSCP-xxx-JPの外見上の容量を超えています。
SCP-xxx-JP-1はハトです。SCP-xxx-JP-1は日本時間8時と20時にSCP-xxx-JPから2〜10羽出てきて、糞をします。この糞を構成する物質は通常のハトの糞と同様であることがわかっていますが、それにもかかわらずSCP-xxx-JP-1の糞は強酸性を示します。SCP-xxx-JPは昨年エージェント太郎の祖父の自宅で発見されました。
インタビュー記録
対象: エージェント太郎
インタビュアー: ██博士
<録音開始>
██博士:これからインタビューを開始します。
エージェント太郎:おじいちゃんが、おじいちゃんが......
██博士:落ち着いてください。
エージェント太郎:おじいちゃんが、時計になってしまった......(泣)
██博士: 心中お察しします。
エージェント太郎:縺翫§縺?■しかく繧?s
██博士:わあ、狂っちゃった。これでインタビューを終わります。<録音終了>
酷い内容の記事だが、内容はともかくとして表現上の問題点を以下に列挙する。何個当てられたか数えてみてほしい。
アイテム番号:SCP-xxx-JP
空白ミス。アイテム番号:とSCP-xxx-JPの間に半角空白が必要。
オブジェクトクラス: keter
オブジェクトクラスのミス。オブジェクトクラスの最初の文字は大文字。
特別収用プロトコル: ×ばつ10 mの収容室に収容され、1日に2度収容室の掃除を行います。
一つ目、誤字。収容が収用になっている。
×ばつ10 mの収容室はさすがに大きすぎる。わざわざサイズを明記する必要もない。
三つ目、主述のねじれ。「収容され」の主語は「SCP-xxx-JP」だが、「行います」の主語は恐らく「担当職員」。主語が何の合図もなく突然切り替わると違和感が生じ、文が読みにくい。
説明: SCP-xxx-JPは大きな柱時計です。
SCP-xxx-JP内部にはSCP-xxx-JP-1が存在しています。
SCP-xxx-JP内に存在するSCP-xxx-JP-1は2000匹を超えると考えられています。これはSCP-xxx-JPの外見上の容量を超えています。
一つ目、「大きな」は主観的な(曖昧な)表現。誰が読んでも同じ大きさを想像できるように、メートル法などを用いて実際の大きさを書く。
二つ目、改行多すぎ。改行は意味段落(パラグラフ)が変わるときのみ行い、パラグラフとパラグラフの間は一行空行を設ける。
三つ目、文細切れ。短い文の連続は、稚拙に見える。ほどよい長さに統合する。ただし長すぎには注意。
四つ目、ナンバリング未定義。SCP-xxx-JP-1がなんなのかすぐに説明されていない。ナンバリングや造語は「この○しろまる○しろまるをSCP-xxx-JP-1と呼称する」などとしてあらかじめ定義するか、少なくとも新ナンバリングを書いた直後に定義(説明)する。そうでないと、読者は話の内容がつかめない。
SCP-xxx-JP-1はハトです。SCP-xxx-JP-1は日本時間8時と20時にSCP-xxx-JPから2〜10羽出てきて、糞をします。この糞を構成する物質は通常のハトの糞と同様であることがわかっていますが、それにもかかわらずSCP-xxx-JP-1の糞は強酸性を示します。SCP-xxx-JPは昨年エージェント太郎の祖父の自宅で発見されました。
一つ目、学名忘れと曖昧な種名。なるべく特定できる種(「オオカミ」ではなく「ニホンオオカミ」等)の名前で書き、学名も忘れない。
二つ目、適切でない動詞。「出てきて」「わかっている」よりも、「出現して」「判明している」等、「漢字の熟語+する」という単語の方が、硬い印象が出る。ただしこれは場合や著者の好みによるし、できれば専門的な文献を読んで実際にどんな語句が使われるかを調べたほうがよい。
三つ目、「・」忘れ。エージェント太郎ではなく、エージェント・太郎。サイト-8181などのサイトと番号の間の「-」にも注意。
四つ目、パラグラフ分けが不適。SCP-xxx-JP-1の性質の話をしているのに、最後にSCP-xxx-JPの発見経緯が書かれている。内容が大きく変わるのでパラグラフを分けるべき。
五つ目、一意でない時間表現。「昨年」はいつからみて昨年か。相対的な表現ではなく具体的な年を書くべき。
インタビュー記録
対象: エージェント太郎
インタビュアー: ██博士
<録音開始>
██博士:これからインタビューを開始します。
エージェント太郎:おじいちゃんが、おじいちゃんが......
██博士:落ち着いてください。
エージェント太郎:おじいちゃんが、時計になってしまった......(泣)
██博士: 心中お察しします。
エージェント太郎:縺翫§縺?■しかく繧?s
██博士:わあ、狂っちゃった。これでインタビューを終わります。<録音終了>
一つ目、半角空白忘れ。人名:とセリフの間に半角空白がない。
二つ目、空行忘れ。セリフとセリフの間には一行空行を挿入する。
三つ目、SNS的表現。(泣)、笑、顔文字などは用いない。様子の描写は[ここに斜体で描写を挿入]の形で行う。
四つ目、言語化できない表現(文字化け等)。インタビュー記録は聞こえたものを書くもの。不明瞭な発言や理解不能な言語は文字化けや謎言語を用いずに、素直に[聞き取り不可能]等と書く。
五つ目、インタビュアーの態度。冷静であるべき。場合によっては焦ってもいいが、「わあ」は無い。
さて、いくつみつけることができただろうか。
今回の合格点は...... 1点。一つでも見つけていればOKだ。ただし条件付き。それは自分が見つけられなかったミスの解説を読んで、なぜそれがダメなのか理解すること。これができれば、批評や指摘を受けるたびに成長することができる。
今回は敢えてエッセイには掲載されていない日本語の書き方に踏み込んだミスについても指摘しているので、もし気になったならば、ぜひ検索等して日本語について勉強してみよう。日本語って案外難しいんだ!と気付けるはずだ。もしこのテストも合格できたなら、あなたは晴れてアポロ計画に合格したことになる。あとは月面に安全に着陸するだけだ。そのためにも、次はいよいよ記事を書くための計画書を作っていこう。
以下修正例。
アイテム番号: SCP-xxx-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-xxx-JPは耐酸性素材で構成された収容室に収容され、収容室は1日に2度の掃除が行われます。
説明: SCP-xxx-JPは高さ2mの柱時計です。SCP-xxx-JP内部には2000羽を超えるキジバト(Streptopelia orientalis)(以下SCP-xxx-JP-1と呼称)が存在しており、これはSCP-xxx-JPの外見上の容量を超えています。
SCP-xxx-JP-1は日本時間8時と20時にSCP-xxx-JPから2〜10羽出現し、糞をします。この糞を構成する物質は通常のキジバトの糞と同様であることが判明していますが、それにもかかわらずSCP-xxx-JP-1の糞は強酸性を示します。
SCP-xxx-JPは2005年、エージェント・太郎の祖父の自宅で発見されました。
インタビュー記録
対象: エージェント・太郎
インタビュアー: ██博士
<録音開始>
██博士: これからインタビューを開始します。エージェント・太郎: おじいちゃんが、おじいちゃんが......
██博士: 落ち着いてください。
エージェント・太郎: おじいちゃんが、時計になってしまった......[エージェント・太郎は俯いて涙を流す]
██博士: 心中お察しします。
エージェント・太郎: お、おじい――[エージェント・太郎は高速で何らかの言葉をつぶやく。音声記録からの聞き取りは不可能]
██博士: エージェント・太郎に問題発生。インタビューを中断します。
<録音終了>
さて、ここからはついに月面着陸成功のための計画書を作っていこう。計画書を作らないと、何も始まらないのだ(逆に、計画書があれば長い記事も何とかかける)! この計画書は批評を受けるときにも使うので、しっかり書くことをおすすめする。
計画書の各項目は基本的に記述式で、正しい答えなんて存在しない。だから、自分で考えて書かなきゃいけないわけだ。これは思ったより大変で、私もいつもここで苦労する。各項目の説明と書き方の例については折りたたみ内に掲載するので、あなたが初めて計画書作りに取り組むならぜひ参考にしてほしい。
記事を書き終えて批評をもらう前には、必ずもう一度自分の記事を基に計画書に答えなおすこと。そのときに、はい・いいえで答える項目で「いいえ」を選択することは基本的にない。いいえが出てきたら、何かが欠けている。批評の前に改善の余地ありだ。批評はかなり大変なボランティアで、無駄な批評はなるべく減らすべきだ。だからまずは自分で改善できるところはやりきってから批評に出そう。批評にだすときは、ぜひあなたの計画書をページ下部やコメントに折りたたんで入れておいてほしい。批評者があなたのやりたいことを理解する助けになるはずだ。
「SCP記事は読み物です」、ここまで読んだあなたならきっと聞いたことのある言葉だろう。私も何度もフォーラムでこの言葉を聞いたし、言った。でも批評でこの言葉を出すたびに思うのだ。
「あれ、なんかうまく伝わってなくない?」
きっと言われた相手も思ってるはず、「モンスター図鑑も結局"読み物"じゃないの? 何が違うの?」
結論からいうと、読み物と図鑑の違いは展開があるかどうかだ。
「そういうことね、OK! とりあえずバックストーリーをモリモリに盛った記事を書いてくるよ!」
――おっと、ちょっと待ってほしい。そんな簡単な問題なら、批評者たちは「"読み物"とは何か」を伝えるのにそんなに苦労していないんだ。そもそも小説的ストーリーが全ての記事に求められるなら、このサイトの名前は今頃「SCP財団」ではなく「SCP作家になろう」あたりに変わってるんじゃないだろうか?
さて、展開とは何か。これはかなり大変な問題だ。
もっとも、大切なことはSCP記事の文体とはでIkr_4185 Ikr_4185 氏が解説してくださっているから(当然もう読んだよね?)、そっちを読んでもらうのが手っ取り早い。ここからの説明は、私なりの説明になる。まずは「図鑑」と「読み物」の違いを確認していこう。
まず図鑑。図鑑は情報の伝達を最終目標にするので、シンプルな要素の羅列になる。「この虫の名前は〜」「肉食で〜」などの情報を羅列する。順序はあまり関係ない。「冬眠します」「どんぐりを食べます」の順番だろうが、「どんぐりを食べます」「冬眠をします」だろうが、あまり関係はない。最低限各要素の理解が可能な順番で要素が配置される。大切なのは個別の要素が持つ情報であって、そのつながりではない。
一方で読み物の最終目標は情報伝達ではない。読者を面白がらせることだ。要素を理解してもらうことではない。だから、各要素よりも各要素のつながりを重視する。要素のつながりや順番が、人間の精神に大きく影響することがわかっているからだ。
なぞなぞの例で考えてみよう。
「父親が嫌がるフルーツってなーんだ」
「答えは、パパが嫌がるということで、パパイヤです」
問題→答え、という順に要素が並べられている。この状態の面白さを10としよう。
もし、順番を逆にして答えを先に伝えたらどうだろうか? その場合、問題について考える楽しみや答えを知る驚きがなくなるから、面白さは減少するだろう。これは要素を知る順番が面白さに関係する例といえる。
一方で、A,Bの二人を用意し、Aには質問だけを、Bには答えだけを教えたとしよう。この場合、AとBが感じる面白さを足すと、10になるだろうか? おそらくそれもないだろう。答えを知る驚きも、問題を解く楽しさもなくなってしまっているのだから。これは、要素のつながりが面白さに影響することの例だ。
この「要素を知る順番」の大切さは、「いい話と悪い話、どっちから聞きたい?」という台詞や、「ネタバレをされると物語が面白く無くなってしまう」という現象からも分かる通りだ。
展開とは、まさにこのことだ。展開があるというのは、適切な要素が適切な順番で配置され、読者に感情やら面白さやらを感じさせることができている、ということを指す。
だから残念ながら―― 「僕のSCPはこんな異常性を持っています!」というアイデアだけで書かれた記事は、大抵面白くない。このアイデアには、「オブジェクトはどんなものかということ」――すなわちどんな要素を伝えるかということしか含まれていない。それは情報伝達に注目した考え方で、図鑑的だ。
料理で例えると、上のアイデアは「こんな材料を使います!」で止まっている。「ゴーヤとケチャップと納豆で料理を作ります!」というアイデアになんの価値があろうか? 別にそれだけ言われても美味い飯は作れない(多分自分史上最悪のゲテモノができるだろう)。しかも、そんなアイデアは冷蔵庫を見れば誰でも考えつく。大切なのは「それらをどう調理して美味しくするか」だ。ここが一番難しいのであって、ここに最も価値がある。
だから、価値のあるアイデアとは「展開をどうするか」ということを含んだものだ。つまり「僕の記事では、最初にこれを伝えて、そのあとこれを伝えて、最後にこの要素を置くことで読者を感動させます!」など、要素の配列とその効果についての言及が含まれるべきだ。
「え、でも要素を配置する順番なんてよくわからないんだけど......」
確かにそうだ。ここも料理と同じで、調理法を知らなきゃどう調理するかの計画なんて立てられない。千切りを知らなきゃキャベツのサラダを作れないのと一緒だ。だから、調理法の載ったレシピを探す。物語創作におけるこのレシピを、構造と呼ぼう。構造には、「どんな要素をどういう風に並べればどういう効果を得られるか」がまとめられている。例えば、『[人物Aに関する悪い情報]→[人物Aに関する良い情報]と並べると、読者はギャップ萌えを感じる』みたいな感じだ。起承転結も、簡単な構造の例だ。構造は、本当はもっと長かったり、効果が不明瞭な場合も多い。
じゃあ実際にはどんな構造があるのか? という話だが、それは自分で発見するほかない。ここが、勉強しどころなのだ。映画やSCP記事などを分析して、「あ、ここで私はこんな感情になったな、これはどういう構造によるものなんだろう」と考えてみるのだ。注目すべきポイントは読者の知識(「こういう知識がある状態でこういうことを新たに知るとこうなる」など)と読者の精神状態(「読者が緊張を感じた状態でこういう要素をぶつけるとこうなる」など)、結果としての読者の感情(できるだけ具体的に。単なる恐怖ではなくて、「日常が侵食されるような恐怖」など) だ。
また、構造を分析する際の注意点だが、各要素は十分に抽象化すること。つまり、効果を発揮するために必要な属性を記述し、不必要な属性を残さないことが重要だ。「学校の教室で」ではなく、「思い出の場所で」。「墓地」ではなく「死を連想させる場所」など、適切な抽象化を行おう。
こういった構造を具体化して記事に落とし込んだものが、「展開」と呼ばれるものになる。
さて、ここまでの内容をまとめるとこうだ。
- 要素だけじゃ面白くない。
- 要素のつながりや順番で面白さを出す。それが展開。
- 展開を作るためのレシピが構造。
- 構造は自分で勉強して知ろう。
以上が構造と展開についての私の考えだ。記事を書くときはぜひ参考にしてほしい。
異常性関連で、2つ落とし穴がある。一つはフワフワ異常性、もう一つはコピぺバックストーリーだ。
まず、フワフワ異常性について見ていこう。これは十分に具体化や制限がされていない異常性を指す。例えば次のようなものは、フワフワ異常性の例だ。
「なんでも食べる猿」
「色々なものに変身できる人」
問題は、「なんでも」や「色々なもの」という部分だ。ここが「フワフワ」なのだ。無闇矢鱈に範囲が広い。そして、こういった異常性は大抵オリジナリティに欠けている。
改善するためには、以下のように範囲に制限を加えて具体化してあげることが大切だ。
「男性の彫像を食べる猿」
「スカシカシパンに変身できる人」
こうすれば、オリジナリティの確保は十分だ。
ただし、制限には理由が必要だ。どうしてそんな制限があるのか納得がいくような説明や、制限を上手く活かした展開を作り、どんな制限も無駄にしないようにしよう。
次はコピぺバックストーリーだ。これは、ありきたりでどんな異常性にもくっつけられるようなバックストーリーを指す。バックストーリーで物語性を演出しようとしたときによく陥りがちだ。たとえば次のようなバックストーリーは、コピペバックストーリーだ。
「入院中の子供が望んだから」
「恨む相手に復讐したくて」
上のストーリーは子供が望みそうな異常性にならなんでもくっつくし、下のストーリーは害のある異常性なら大抵このストーリーを採用できる。こういう風にいろんな異常性にくっつけられる異常性にはオリジナリティが少なく、面白くない。ちなみに、「バックストーリーが欲しいですね」という批評を受けて後付けで無理矢理バックストーリーをつけようとするとコピペバックストーリーになりがちなので、注意したいところだ。
もしバックストーリーを作るなら、それは異常性を十分に活かしたものにしよう。「このバックストーリーはこの異常性じゃないとダメだわ」と思わせられたら勝ちだ。フワフワ異常性の部分で説明した異常性の制限も、ここで活かせる。異常性がバックストーリーによく生かされている例がSCP-1406-JPだ。
異常性をつくるときは、バックストーリーとの兼ね合いも考えてオリジナリティのあるものを目指そう。
計画書
ラフコンセプト (大まかな方針)
- 読者に与える感情・感覚
- あなたが記事を書く上で読者に与えたい感情や感覚を明確化する。単に「面白い!」はNG。
- 異常性(一行で!)
- オブジェクトのメインの異常性を書く。一行で、なるべく短くまとめる。
- 展開(簡単に!)
- 具体的な展開を書く。細かいところはおいておいて、上で書いた「感情・感覚」を狙うために最低限の要素の配列を書けばよい。
構造
- 今回使う構造はどういう要素をどういう順番で配置するもの?
- 展開をつくるにあたって参考にした構造を書く。
- この構造を使うと、どういう流れでどういう感情を喚起できる(面白さがでる)?
- 上で書いた構造の効果と、できればその効果がなぜ引き起こされるかという流れを書く。
- その構造はどこで学んだ? 実際に使われている例は?
- 構造が実際に使われている例を示せるならば示す。あなたがどこからその構造を学んだかがわかれば、批評のときに批評者が構造分析の誤りを指摘してくれるかもしれない。
- その構造に必要な要素と順番はあなたの記事に(読者が理解できる形で)しっかり含まれている? - はい・いいえ
- 構造で必要とされている要素が適切な順番で「ラフコンセプト」の「展開」に含まれているかどうか。含まれていないなら、展開の修正があるだろう。
- その他面白さを出す要素・工夫は?
- 要素単体やその他演出に工夫があれば、やった技法の説明と狙いを書く。すると、批評者がその試みがうまく働いているかどうかを教えてくれるかもしれない。
- 長すぎない?(不要な要素はない?) - はい・いいえ
- 無駄な内容が含まれていないかどうか。文を読むのは疲れるし、冗長な文章はマイナス評価のもとだ。意味のない実験記録やインタビュー記録がないか確認して、できるだけすっきり記事をまとめてみよう。
異常性
- 異常性は具体的か? - はい・いいえ
- 異常性が具体的かどうか。「なんでも〜〜する」系(フワフワ異常性)ではないか。
- 異常性を要素分解しよう。
- 異常性を要素に分けて、見直してみる。ありきたりだと思うなら、要素を入れ替えてみよう。コップ+水より、コップ+芋のほうがオリジナリティがある。書けるかどうかは別として。
- この異常性のどこが新しい?
- 自分の異常性のオリジナリティアピール。
- それらの要素は記事の展開に必要? (バックストーリーが「コピペバックストーリーではないか?」) - はい・いいえ
- コピペバックストーリーになっていないかどうか。
[[div style="padding: 0.5em 1em;margin: 2em 0;background: #FFF;border: solid 1px #000;"]]
[[=]]
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計画書
[[/=]]
[[/size]]
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**ラフコンセプト**
[[/size]]
* 読者に与える感情・感覚
*
* 異常性(一行で!)
*
* 展開(簡単に!)
*
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**構造**
[[/size]]
* 今回使う構造はどういう要素をどういう順番で配置するもの?
*
* この構造を使うと、どういう流れでどういう感情を喚起できる(面白さがでる)?
*
* その構造はどこで学んだ? 実際に使われている例は?
*
* その構造に必要な要素と順番はあなたの記事に(読者が理解できる形で)しっかり含まれている? - はい・いいえ
* その他面白さを出す要素・工夫は?
*
* 長すぎない?(不要な要素はない?) - はい・いいえ
[[size 120%]]
**異常性**
[[/size]]
* 異常性は具体的か? - はい・いいえ
* 異常性を要素分解しよう。
*
* この異常性のどこが新しい?
*
* それらの要素は記事の展開に必要? (バックストーリーが「コピペバックストーリーではないか?」) - はい・いいえ
[[/div]]
以下の計画書の例はSCP-1042-JPを書いたときの計画の再現です。
計画書
ラフコンセプト
- 読者に与える感情・感覚
- 日常に潜む恐怖
- 異常性(一行で!)
- 人間を残酷に家畜化する虫で、その際、カレーの匂いをだす。
- 展開(簡単に!)
- 残酷感の少ない概要の説明 → 残酷な習性の説明(この時点では対象は人間であるとは明かさない) → 対象が人間であることを示すand帰り道でたまに嗅ぐ幸せそうなカレーの匂いを連想させる。
構造
- 今回使う構造はどういう要素をどういう順番で配置するもの?
- 脅威の説明 → それが実はあなたの身近・日常の中におこっていることであることの提示
- この構造を使うと、どういう流れでどういう感情を喚起できる(面白さがでる)?
- 自分とは関係ないと思っていた恐ろしいものが急に身近になり、自分の現実の記憶と結びついて恐怖が現実へと侵食する。
- その構造はどこで学んだ? 実際に使われている例は?
- 「お前だ」系ホラー
- その構造に必要な要素と順番はあなたの記事に(読者が理解できる形で)しっかり含まれている? - はい
- その他面白さを出す要素・工夫は?
- 学術的記述によってリアル感アップ
- 長すぎない?(不要な要素はない?) - はい
異常性
- 異常性は具体的か? - いいえ(改善可能)
- 「残酷な家畜化」のあたりがもっと具体化できる。「家畜化するメリット」→「分泌物を摂取」→「逃げられないように四肢切断&便を採集」
- 異常性を要素分解しよう。
- カレーの香り、虫、便、家畜化
- この異常性のどこが新しい?
- たまに外で嗅ぐカレーの匂いに残酷な意味をつけるところ。カレーと便は事故でよくある組み合わせが集まってしまったのだが、狙っている感が怖いので強調しない。
- それらの要素は記事の展開に必要? (バックストーリーが「コピペバックストーリーではないか?」) - はい
計画書
ラフコンセプト
- 読者に与える感情・感覚
- 異常性(一行で!)
- 展開(簡単に!)
構造
- 今回使う構造はどういう要素をどういう順番で配置するもの?
- この構造を使うと、どういう流れでどういう感情を喚起できる(面白さがでる)?
- その構造はどこで学んだ? 実際に使われている例は?
- その構造に必要な要素と順番はあなたの記事に(読者が理解できる形で)しっかり含まれている? - はい・いいえ
- その他面白さを出す要素・工夫は?
- 長すぎない?(不要な要素はない?) - はい・いいえ
異常性
- 異常性は具体的か? - はい・いいえ
- 異常性を要素分解しよう。
- この異常性のどこが新しい?
- それらの要素は記事の展開に必要? (バックストーリーが「コピペバックストーリーではないか?」) - はい・いいえ