/* source: http://ah-sandbox.wikidot.com/component:collapsible-sidebar-x1*/ #top-bar.open-menua{position:fixed; bottom:0.5em; left:0.5em; z-index:15; font-family: san-serif; font-size:30px; font-weight:700; width:30px; height:30px; line-height:0.9em; text-align:center; border:0.2emsolid#888 !important; background-color:#fff !important; border-radius:3em; color:#888 !important; text-decoration:none!important; }@media (min-width: 768px) {.mobile-top-bar{display:block; }.mobile-top-barli{display:none; }#main-content{max-width:708px; margin:0auto; padding:0; transition: max-width 0.2s ease-in-out; }#side-bar{display:block; position:fixed; top:0; left: -25em; width:17em; height:100%; background-color: rgb(184, 134, 134); overflow-y:auto; z-index:10; padding:1em1em01em; -webkit-transition:left0.5s ease-in-out 0.1s; -moz-transition:left0.5s ease-in-out 0.1s; -ms-transition:left0.5s ease-in-out 0.1s; -o-transition:left0.5s ease-in-out 0.1s; transition:left0.5s ease-in-out 0.1s; }#side-bar:after{content: ""; position:absolute; top:0; width:0; height:100%; background-color: rgba(0, 0, 0, 0.2); }#side-bar:target{display:block; left:0; width:17em; margin:0; border:1pxsolid#dedede; z-index:10; }#side-bar:target + #main-content{left:0; }#side-bar:target.close-menu{display:block; position:fixed; width:100%; height:100%; top:0; left:0; background: rgba(0,0,0,0.3) 1px1pxrepeat; z-index: -1; }}
クレジット
翻訳責任者: Tetsu1 Tetsu1
翻訳年: 2024
著作権者: OriTiefling OriTiefling
原題: Ori's Proposal - Touching Eternity
作成年: 2024
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/oris-proposal
記事はお楽しみいただけましたか?私の他の作品もチェックしてね!ここだよ!
"一粒の砂に世界を見て、一輪の野花に天国を見る"
"手のひらの中に無限を掴んで、一瞬の中に永遠を掴む"
—ウィリアム・ブレイク
特別収容プロトコル: SCP-001は収容不可能です。結果として、財団の活動は以下に向けられます。
- 依然として運動可能な民間人の財団が組織した安全なコミュニティへの回収
- 可能な限りの財団の技術・通信インフラの復旧
- SCP-001-1の再構築による「時間」の概念の回復
SCP-001の被影響者は現在失われたものと見做されます。ベールの維持は度外視されます。
財団エージェントは、財団の任務に敵対的と思われる人物やグループを偏見の下で排除することについて、残存O5評議会員の完全な承認を得ています。
説明: SCP-001はZK-クラス一時停止イベントに分類されており、通常の時間経過を2025年2月13日07時10分PSTにおいて完全に停止させました。SCP-001の後、社会的に理解されている自然な時間の進行が停止しました。影響を受けた人物、動物、無生物などはイベントが発生した時点の位置に固定され、自発的な運動は不可能です。
SCP-001が膨大な数の人々に影響を与えたと考えられている一方、現在未知数の人類が依然として影響を受けていません。影響を受けていない人物は移動能力を保持し周囲に作用することが可能ですが、本来の生物学的プロセスの大半は停止しています。
SCP-001のメカニズムは上記に概説した以外にほとんど理解されていません。調査は進行中です。
SCP-001-1はアメリカ合衆国ワシントン州、オリンピック国立公園に位置する、アエテルヌムに捧げられた石造りの神殿です。この聖域はアエテルヌムを祀る最後の神殿であり、現代の神格崇拝のための最後の地でもあります。2015年2月13日に崩壊しましたが、崩壊の原因は現在不明です。
補遺 001.1: ブリーフィング
SCP-001の後、財団の通信システムが世界的に障害を起こし、影響を受けていない職員が他サイトと連絡したり重要な職員の状況を確認する能力が大幅に制限されました。2体の影響を受けていないSCP-6459が回収され、ペンと紙を使用した初歩的な連絡手段が確立しました。この連絡により、世界中で4つ前後の財団サイトに作戦能力を有する職員が残存していることが判明しました。これらのサイトの内時間的異常に対処するために設計された装置を有していたのは1つだけであり、それ以降財団の最優先度調査および文書化のためだけに用いられています。
この新規に確立された連絡活動において、O5評議会員の内2名だけが残存していることが判明しました。残存メンバーによる会議の後、上述のSCP-001収容プロトコルの制定し、SCP-001を逆転させるための調査と活動を開始することを決定しました。
補遺 001.2: 2025年2月13日、07:10
以下のログは財団エージェント・ジェシー・キッドにより記録され、SCP-6459を通して司令部と共有されています。これらのログは記録保存と後世のため、時間除外サイト-37に保管されています。
この凍った森を歩きながら、私は立ち止まって周囲の世界に話しかける。無数の雪の結晶が空中に漂い、目に見えず感じられもしない風に乱れる。私は木の葉の上に手を走らせる。触ると硬く、動かない。少し引っ張ってみるが、枝から離れようとしない。私は顔をしかめる。
その景色は美しく、一瞬を切り取って絵にしたものだ。だがそれは空虚で、不完全に感じる。
私は眼帯を外し、二本の指で傷口を押さえる。それは古傷で、今でも「時間」と「分」を追おうとしている者にとっては、少なくとも30年前のもののはずだが、指を離すと血が残っているのが見える。まだ新鮮で、まだ開いている。私は眼帯を下ろし、近くの木に簡単な印を残す。それに触れながら、小さく呪文を呟く。印は反応を返さない。
馬鹿な望みではあるが、私はそれを握りしめておく。特に今は、胸の中で高鳴るものがある。
私はジャケットの下から心臓を引き抜き、それは周囲の世界に反抗するように手の中で鼓動し続ける。これが我々が取り組んできたもので、我々が奮闘しているものだ。それを印に押し当てると、鼓動一つで周囲の世界が命を取り戻す。
これまで感じていなかった空気の冷たさがどれくらいの間襲ってくるかわからないので、私は本能的にジャケットを一層しっかりと自分の上に引き寄せる。風に吹かれて雪の結晶が頬に当たり、泣きそうになった。その代わり、私は急に自らの体のあらゆる神経が再活性化していることに気づく。目、腕...… ほとんど忘れかけていた傷が突然悲鳴を上げる。温かい血が頬を伝う。
痛みと格闘しながら、私は腕の装置で冬眠していた.aicを起動する。
Cruz.aic: エージェント・キッド? どうやってここに来たの? 僕はまだ-
キッド: アノマリーに接続。
Cruz.aic: 悪いけどまだあんまり-
キッド: アノマリーに接続!
Cruz.aic: まず始めに、僕に怒鳴らないでよ。
クルスが指示を最終的に登録するまでに少々時間がかかる。私は震え、身体が急に寒さに気付く。
Cruz.aic: ……あー、できた! こりゃ変なのだね…… 君はこの心臓のことを言ってたんでしょ? とにかく! 接続したよ!
私が印から心臓を引きはがすと、世界はもう一度静まり返る。痛みは薄れ、代わりに長い間慣れ親しんだ不快な無感覚が顔を出す。見下ろすと、顔から落ちた一滴の血が空中に留まっているのがみえる。
キッド: クルス、まだいるよな?
Cruz.aic: う-うん! ごめん何…… 何が起きたの? それと僕は何でネットワークに接続できないの?
私は手の中の心臓をひっくり返す。それはまだ鼓動している。
キッド: アエテルヌムについて何を知ってる?
Cruz.aic: あぁ…… 多少は? それって…… 時間の神、だよね? オフライン記録によるとそうだって、あと派手な神殿があるって。
キッド: そうだ、お前は事情通だな。
クルスは考え、自分が持っている僅かな情報を処理する。
Cruz.aic: おぉ! ……おぉ。
キッド: アエテルヌムの神殿は壊れた、それで結果として世界は凍り付いた。
Cruz.aic: ……それでその心臓で神殿を修理できる。わかった、わかったよ!
キッド: 実際神殿がどこにあるか思いつけるための情報はあるか?
Cruz.aic: うーーん…… うん! ……多分! 普段は「神格的な」ものに触れる機会がないからこれといってアエテルヌムについてたくさんのオフライン記録はなかったんだけど、レベル3クリアランスまでのメインの財団データベースの基本的なバックアップならあるよ。神殿はここから北西の山の中にあるみたい。
キッド: ルートを計画してくれるか? できればシアトルは避けてほしい。
Cruz.aic: ふむ? ええと、できると思う。もっと丁寧にお願いしてくれればね。
キッド: ルートを計画してくださいますか?
Cruz.aic: まっちがいなくできるよ!
私はクルスがルートをとっている間に記録を書いている。私はガレルヌにそれを結びつけると、ガレルヌはクーと感謝を述べて素早く「メルシー」を告げて本部に飛び戻っていく。
Cruz.aic: 準備完了。これが上手くいくといいんだけど、古臭いやり方だと難しいね。このルートだと全部で3日くらいかかる…… あー、そうだね。ごめん。
クルスはぎこちなく機械的な笑い声をあげる。
キッド: ありがとう、クルス。本当に感謝してる、心配しないで。この世界に時間は腐るほどある。
私は手の中で鼓動する心臓を見下ろし、それをコートの中に戻す。その下で感じられるとは言えないが、実際はそのようなことはないのだが、胸に鎮座するある種の温かさを感じる。説明し難い感覚。もうすぐ終わるだろう。
私は最後にもう一度印に触れる。
キッド: 準備できた。
私はクルスが計画したルートを歩き始める。旅は静かで、クルスは私が谷に転落しないよう時折注意してくれた以外に何も音を立てなかった。やがて、背中に視線のような何かを感じる。
キッド: ……クルス、このエリアをクイックスキャンしてもらえるか?
Cruz.aic: うん? いいよ。どれどれ……
Cruz.aic: ……わあ、待って! キッド、僕たち-
クルスが言い終える前に、私たちは男たちの集団に囲まれていた。彼らは多くて十数人前後で、それぞれが刃物を持っている。その先頭に立つ、背が高くスーツ姿の男が私を見て笑う。
男: ここの君らのグループの誰かだと考えておくべきだったよ。会えてうれしいよ、エージェント・キッド。お久しぶりだね、元気してたかい?
私はクスクスと笑い、降参するように腕を上げる。
キッド: エージェント・ソール。より元気になった、って言わなきゃならないな。
ソール: このエリアで財団が作戦をしてるって情報は聞いてた。それが旧友になるとはほとんど考えてもいなかったがね。
エージェント ソールは眉を上げ、私の眼帯に目を落とす。彼は固い表情で私に近づき、剣を抜く。剣先を私の顎に当てて私の頭を少し上に傾けるので、私は彼と目を合わさせられる。
ソール: これは新しいな、坊やkid。一体どうしてこんなことになったんだい?
キッド: 私があの印をどうやって描くかは知ってるだろ、ソール。前回恐らくただ不注意で-
ソール: 俺は馬鹿じゃない、坊や。君らはあれを見つけたんだろ、違うか?
キッド: そう私たちはたくさんのものを見つけ-
エージェント・ソールは私をビンタし、その衝撃でよろめく。
ソール: 俺をもてあそぶのはやめてくれよ、坊や。君と俺はこの馬鹿なゲームをもう何回もプレイしたじゃないか。
Cruz.aic: キッド、この馬鹿野郎は誰? よく知ってるみたいだけど。
キッド: エージェント・ソール、元財団の、現キーパーズのメンバーだ。
ソール: 独り言はやめて、それを渡せ。
彼は私の右腕、義手のすぐ上を掴む。私は毅然とし、ただ彼を見つめる。
ソール: なあ、坊や、前は君の腕全部は取らなかったんだ。
彼は剣を取り出し、刃を私の右肩に押し付ける。
ソール: 俺はゆっくり休めるんだ、君のもう一本の腕もそうさ。さあ、財団の利口な子犬になってキャンキャン吠えなよ。
キッド: クルス?
Cruz.aic: 膝の裏を素早く蹴って。弱い場所だ— 正直こいつは恥ずかしい思いをすると思うよ。
私はエージェント・ソールの足を払う。彼は叫び声をあげて地面に倒れる。さあ始まりだ— ランニングはいつだって最高の選択肢だった。急いで足元を立て直し、下生えに飛び込んで動き始める。ソールは時間を無駄にすることなくうなりながらも命令を吠える。複数の視線を背中に感じる。追跡されている。エージェント・ソールの別の叫び声で、その中に彼もいることがわかる。
Cruz.aic: 左!
本能でそれに従う。私が左に揺れると、近くの木に剣がぶつかる。ソールの犬の一匹が私の踵に噛みつく。
キッド: 今はどんなアドバイスでも歓迎だ、クルス!
Cruz.aic: じゃあ、銃を抜いて!
キッド: それはちょっとうまくいかない、クルス! 熱力学はあんまり機能していない!
Cruz.aic: あぁそれがこいつらが剣を使ってる理由なのね。
キッド: 集中してくれ、頼む!
Cruz.aic: わかったあー、……考え中考え中— ここで左に曲がって!
私はクルスの命令に従い、軽く横にスライドして左に曲がる。すぐ後ろのうなり声は曲がるのが遅れ、根につまずいて倒れる。その後ろにいたもう一人も同じく仲間につまずいて転ぶ。
私は走り続け、何とかうなり声を振り払う。やがて私は峡谷の端に立っていることに気付く。
キッド: クルス、何かアイデアは?
ソール: もう十分だろ、坊や。
エージェント・ソールは下生えから歩み出て剣先を私に向ける。しつこいものだ、いつも通り。
ソール: 終わったんだから全部渡しなよ。俺は君を切り裂くことに何の問題もない。そして森の中で胴体だけで永遠に等しい時を過ごすのがどんなものか想像もできないね。
彼は私に突撃する。私は何とか彼を滑るように避ける。彼の攻撃は強力で、怒りっぽく、杜撰で、予測可能だ。クルスのちょっとした助けがあって、彼の一撃を躱すことができる。
ソール: 何? 反撃しないのか? じゃあその腰に付けたバットは見せかけかな?
キッド: お前を傷つけたくはない。
ソール: 俺は死ぬほど間違いなく君を傷つけたいがね。
Cruz.aic:今だ、キッド! こいつを押し倒せ!
私はエージェント・ソールに突撃し、肩でタックルする。その衝撃で彼は地面に転がり倒れる。彼は起き上がろうとするが、よろめいて後ずさる。バランスを崩し、彼は峡谷に落ち始める。私は前に急ぎ、彼を掴む。手を伸ばして私の義手を掴むと、彼の顔は衝撃から混乱へと歪む。
キッド: ちょっと待て!
彼は私の義手を放す。彼は崖に掴むものがなくなり、峡谷の下に落ちる。私は再び彼を掴もうと飛び出す。その際体を伸ばしすぎて、前に転がり始める。私は自分を安定させようとしたが、最早手遅れでエージェント・ソールに続いて峡谷に落ちていく。
補遺 001.3: 2025年2月13日、07:10
凍り付いた世界で得られる恩恵はほとんどない。その数少ない恩恵の一つは、痛みを伴わずに負傷に耐えられることだ。
峡谷への落下は、普通の世界であればエージェント・ソールも私も意識を失っていたことだろう。だが私たち二人は何事もなかったかのように立ち上がることができた。
ソール: ほら、坊や、俺はこれまでずっとかすり傷一つ追わずにやってこられたんだ。ピカピカの状態だ!
彼は私を指さすが、その肩は明らかに脱臼している。自分の腕を見ると、今や義手はなくなって切り株のようになっているのが見える。
ソール: やれやれ、ほとんどそれを感じられるよ。それだけの理由でも俺は君を切り裂くべきだということだね。
私は手を挙げて降参を示す。
ソール: とりあえず、あれはいったい何だったんだい?
キッド: 何の話だ?
ソールは上の崖に向けて大げさに動く。
ソール: 君が俺を捕まえて引っ張ろうとしたあれだよ。何が狙いだったんだい、えぇ?
キッド: ただお前を落とすまいとしただけだ。
ソールは私の胸ぐらを掴んで嘲笑する。彼は拳を引き、腕のあらゆる筋肉と腱を緊張させ、顔が苛立ちで歪む。彼は拳を空中に掲げ、わずかに震えている。
ソール: 最初は何の問題もなく俺をあそこに投げ落とそうとしたくせに、今度は俺を落としたくなかったってのか。
キッド: まあ待て、お前をここに押す気はなかったんだ。あれは-
Cruz.aic: 僕のアイデアだ!
ソールは体を揺らし、私を地面に投げつける。私は立ち上がる。
ソール: 今のは何だ?
私は腕を彼に差し出し、クルスが入った手首の装置を見せる。クルスのアイコンがソールに微笑む。
Cruz.aic: やあこんにちは、裏切り者! 僕はCruz.aicだよ!
ソール: その…… .aic? いったいどうやって実際に機能する技術を持ってるんだ?
私は薄ら笑う。
キッド: 機密情報。
ソール: やれ、俺は本当に君を今ここで殺すべきだな、えぇ?
キッド: おそらくな。お前が約束を守らなかったことに少々驚いてる。森の中に胴体だけ— ちょっとその結果も期待してたんだがな。
彼は困惑して私を見つめる。
ソール: ……そんな真顔でそんなこと言うなよ、本気だと思われるぞ。
キッド: まあ、ここは永遠を過ごすのに最悪な場所と言う訳でもない。少なくとも見るものはある。
彼は概ね心配と説明できる顔をする。
ソール: 君には何か深刻な問題があるようだ。
私はただ肩をすくめて応える。
dandy.じゃあ勝手に行ってもいいかな、お役人さん? クルス、ダンディなルートに戻れるか。
ソール: どんなルートで?
私は彼に背を向け、地面から腕を拾う。私は岩の上に座り、それを取り付け直し始める。プラスチックの端と端を輪ゴムで留めたものだけで作った、特別素晴らしい作品でもないが、私が必要とするものは十分に備えている。
キッド:お前は本当にこれをはぎ取ったんだな。 お前がこれを壊してなくて良かったよ。
ソール: どんなルートでって言ったんだ。どこへ逃げるつもりだ、司令部に戻るつもりか?
キッド: アエテルヌムの神殿に行く。
私は心臓を取り出して彼に見せる。それは静かに鼓動している。彼は目を見開く。
ソール: き…… 君らは全部本気なのか?
私は眼帯を外して指を再度傷口に押し当て、前に言った印を描く。
キッド: いつだって本気だ。私はこれを神殿に持っていって修復する。全部元通りになる。
彼は袖をまくる。
ソール: 君には残念だがただそうさせるわけにはいかない。
彼は剣を抜く。
キッド: お前や他のキーパーズはどんな感じか忘れ切ってるかもしれない。
私が心臓を印に押し当てると、周囲の世界は再び息を吹き返す。エージェント・ソールは剣を落として自分の肩を掴み、風が髪をなびかせる中で苦痛の声を上げる。
ソール: 何だこれは?
私はそれを隠そうとするが、世界が動き始めるとすぐ血液が新たに流れ始めて、私の神経が再び活動を始める。私は身体を折り曲げて胃の中身を、30年前にしてほんの1時間前に食べた朝食の残りを吐き出す。私はついに痛みに叫び、印から心臓を取り外す。私は息を切らし、周囲の世界はその場で凍りつき、私の体の神経は再び緊張する。
ソールは未だ肩を掴みながら、ショックを受けて立っている。
ソール: ……成功したら君は死ぬことになる。それはわかってるのか?
彼の目に恐怖の色が浮かぶ。
キッド: クルス、ルートはどうなった?
Cruz.aic: 準備できたよ、エージェント。ちょっと長くかかったけど、君の言った通り時間は何にも重要じゃないね。
ソール: 俺を無視するな。これについては俺と同じ立場のはずだ。
私は腕を取り付け直し始め、しばらく静寂を漂わせる。
キッド: 世界は空虚な永遠に囚われてるわけにはいかないんだ、エージェント・ソール。
ソール: その「空虚な永遠」のおかげで君は生きられてるんだ。それは俺たち全員を生かしたままにしてくれるんだ。
私はクルスがスクリーンに表示したマップを確認する。
キッド: ……オーケー、把握した。エージェント・ソール、俺が他のキーパーズと再会するのを手伝ってくれるか?
ソール:俺…… なんて?
キッド: だから-
ソール: 聞こえてるよ、坊や。俺が理解できないのは、君がその申し出を何もなかったように言ってくるその世間知らずさだよ。
キッド: それでもそうするよ。来るか?
ソール: 何のゲームをプレイしてるんだ?君が本拠地に足を踏み入れたその瞬間俺たちはその心臓を奪って、それを取り戻す希望はないことはわかっているよな、違うか?
私は薄ら笑いを浮かべながら手を差し伸べる。彼の目にはためらいのようなものが見える。彼は拳を握ったり緩めたりしながら目を細め、周囲を見回す。彼は首を振りながら小声で何かをつぶやいているようだ。
ソール: ……わかった。君はとんでもない馬鹿だけど、これで君と財団のナンセンスな努力を終わらせられるならそうするよ。
Cruz.aic: エージェント・キッド、僕は反対しなきゃならない。
キッド:それに反対だ、相棒。シアトルを通って神殿に行くルートを計画してくれ。
Cruz.aic: 本気なの……? 了解。選択の余地がないなら、君と裏切り者のために新しいルートを作るよ。
私はエージェント・ソールに頷き、彼は不平を言うと私を追って峡谷の奥へ入っていく。
補遺 001.4: 2025年2月13日、07:10
Cruz.aic: それからあの…… ここを左。
ソール: なあ坊や、この.aicはナビゲーターだと思ってたんだけど? 誓ってもいいが、俺たちは同じところを堂々巡りしてる。実際君はもっとマシなテクノロジーにアクセスできるって知ってるよ。
Cruz.aic: ちょっとすいません!
キッド: 気楽にやれよ、な? このクルスは案内するためじゃなくて異常なオブジェクトと接続するために設計されてるんだ。
ソール: じゃ何でこんな厄介でまであるんだ?
キッド: クルスが実際に起動できた唯一のものだったからだ。世界最高のナビゲーターじゃなくても、何もないよかマシだ。
Cruz.aic: ええ、苦情も受け付けますから黙って僕の話を聞いてください。僕はいろんな仕事をやっていて、GPSなしでナビゲートするのがどれだけ大変かわかってる?
私たちは黙って歩き続ける。私は数分ごとに後ろを振り返ってエージェント・ソールを確認する。
ソール: どうした? 君の背中を俺にさらすことに耐えられないのか?
キッド: いや、ただお前が離れていないことを確かめたいだけだ。つまりは、私はお前を見失うのがお上手なもんでね。
エージェント・ソールは冷笑するが、彼が話す前にクルスが声を上げる。
Cruz.aic: ここだよ。この崩れた土砂なら上手くいくはず。
私たちは峡谷の底に崩れている途中で停止した土と石の滝を見下ろす。
Cruz.aic: 理由は言うまでもなくこんなルートを勧めるのは嫌いな人にだけだけど、状況を考えればこれが一番安全に峡谷を抜けだす方法だ。僕がルールを正しく理解しているとすれば、君たちは問題なく登り出れるはずだよね?
キッド: お前は理解できてるよ、クルス。そしてありがとう。
Cruz.aic: 当然当然。動かないからって君たちは落ちないわけじゃないから気を付けてね。
ソール: うんうん、知ってる。
彼が最初に登り始め、足の位置に細心の注意を払い、足下に強固な地面に近いものが見つかるよう確実にする。私もそれに倣い、右腕を背中の後ろに押し込んで、登坂中に義手を使用したい衝動と闘う。私の登坂は遅くてぎこちなく、やがて落ち始めていることに気付く。私がすっかり転がり落ちる前に、一つの手が私の手を掴んで引き上げる。私は峡谷の端をよじ登って堅い地面に戻る。
キッド: ありがとう、エージェント・ソール。
ソール: 君はマップを持ってる。それを失うリスクは冒せない。
キッド: マップと言えば、次はどこ、クルス?
Cruz.aic: ちょっと、僕はマップじゃないんですけど! この道は僕の操舵室から全然外れちゃってるよ!……と言う訳で、北に向かって。左だね、僕らのうち誰かさんはお馬鹿さんすぎてどっちが北かもわかんないみたいだから。
ソール: すみません?!
Cruz.aic: やあ僕は具体的に君の名前を言ってはないんだけどね。でもぶたれた犬は鳴くからね、どう?
キッド: よし、もう十分だ。二人とも。また移動し始めようか。
再度行進を始めると、ソールは私の手首の装置をチラチラと見る。
歩いていると、私は自分が葉や植物に指をなぞっていることに気付く。私が触れても、それらは相変わらず硬くて動かないままである。通り過ぎるときに、ヒイラギの木の棘に指を押し当てた。指を引き離すと先端に小さな刺し傷が残っているのが見えるが、それ以外には何もない。感覚も反応性の痛みもない。葉の上に積もった雪も同様— 触れても冷たさはまったくない。
私が空に目をやると、2羽の鳴き鳥が空中で静止しているのが見える。2羽は互いに絡み合い、おそらくある種の求愛行動の最中で固められたのだろうか? 2羽は写真のように所定の位置にぶら下がっている。
ソール: 坊や、大丈夫か? 君はあちこちさまよってて、こっちも変な気分になってきたぞ。
私は肩をすくめて歩き続けるが、彼は私の肩を掴んで止める。
ソール: 俺が話しかけたら答えること。君が出し抜けでよそよそしく振る舞うのは本当にうんざりなんだ。
私は彼の手を振り払う。
キッド: そんなの明らかだと思ってた、ってのが全部だ。これでお前が悩まされないなんて思ってるはずないだろ?
ソール: 今のは冗談だろ?
キッド: 失ったものを乗り越えることはできない、そうだろ? 私が初めて心臓を活性化させたとき…… その……
私は空中に固定された雪の結晶を見て、それから隣の木を振り返る。
キッド: 私は囚われた人々のことを考えた、彼らはどれだけ実際にまたこれを感じるに値するだろうかと。
私は自分の腕に彼の視線を感じ、目線は私の顔の傷口へと上がっていく。
ソール: 君は偽善者だ、わかってるか?
頭の中で警報が鳴っているような、何かを感じる。私は指を口元に当てる。
ソール: もしもし? 君はただ俺を黙らせようとしな—
何かが私の背中に突き刺さり、足を倒したことで彼の発言は中断される。
ソール: キッド!
Cruz.aic: 周囲に複数の敵対勢力を検出。人間、間違いなく。最低でも5人。
私は後ろに転がる。私を倒した人物は、地面の私がいた場所に槍を突き刺す。肩で押し戻しながら、私は彼の胸に力強い蹴りを加える。彼は後ろによろめく。チャンスを得て、私は立ち上がってバットを抜く。
Cruz.aic: バット?
ソール: ふざけんなよ、坊や! マジで剣持ってないのか?!
この時点で私たちは男たちの集団に完全に囲まれている。それぞれが身体に通常の世界では間違いなく致命傷となるであろう一連の重傷を負っている。彼らは時間を無駄にせず私たちに突撃する。ソールは時間を無駄にせず彼らに相見える。彼は容易く男を蹴り飛ばし、剣を抜く。別の男が後ろから彼に跳びかかろうとする。サウルは剣の根元で胸を打つ。
Cruz.aic: ところでこいつらは誰なの?
キッド: こいつらに合う名前は記憶にないな。お前は?
ソールは剣を無闇奔放に振るい、男たちの一人をその広い面で打つ。
ソール: 「ウザいの」だな、ほぼ。
Cruz.aic: 待ってじゃあこいつらは—
ソール: そう、こいつらは俺とは関係ない。こいつらは社会秩序の崩壊を心から愛する変人集団だ。こいつらは自分の好きなことをなんだってやって、それに本気で満足してる。俺たちキーパーズは最低限秩序感覚をもっていようとすることくらいには興味がある。
私はバットを振るう。それは標的の腹にぶつかる。
キッド: クルス、援助を頼む。避難経路、できるだけ最小限の怪我で。
Cruz.aic: 了解、やってる!
私は戦略を変える。クルスの計算通りに突きや薙ぎ払いを躱し、通り抜ける。ソールのやり方はハリケーンに似ている。彼は可能な限り多くの危害を加えることを目的とした荒々しい一撃で攻撃する。彼の刃は肉を突き刺し、すでに致命傷を与えている。彼の敵はそれを気にも留めない。襲撃は続く。生きた死体同然の男たちは、打ち倒されてもすぐに立ち上がる。
Cruz.aic: ……できた! 前の男の左肩にバット。それからショルダータックル。そしたら行くんだ!
私はバットを男の肩に振り下ろす。そこで初めて彼がすでに負傷していることに気付く。私のバットは彼の腕をその身体から引き離す最後の一撃だ。腕は自由になって飛んでいく。
私は、立ち止まって静止し自分が与えた負傷についた謝罪しようとするが、私の体はすでに動いている。私は肩を彼にぶつけ、転倒させる。
私は逃げることができる。
私は逃げるべきだ。逃げて遠くへ行って、任務を完了しろ。私の中の全てが行けと叫ぶ。
だが私はその場に立ち尽くし、与えた負傷を見つめる。
ソール: おい糞馬鹿野郎! 行けよ!
私の脚は動こうとしない。男が立ち上がる。彼は私を地面に叩きつける。ナイフが喉に突き付けられる。
キッド: ……どうか。
私の声は耳障りな囁きとなっている。
キッド: やってくれ。
エージェント・ソールは私の上の男にタックルし、私を引きずって立ち上がらせる。私が反応するよりも前に私たちは逃げている。私たちが逃げているとき、ほとんど彼が私を引きずっている。やがて間違いなくごろつきたちを置き去りにしたところで立ち止まる。
キッド: ソール、わた-
彼は私を殴る、力強く。私は後ろによろめく。
ソール: 君は糞馬鹿野郎だよ、坊や。君は、自分がまだ動けるのは、率直に言ってより高い力の恩恵があるからに過ぎないってことを、何度も俺に示してきた。それにしても、何をしでかそうとしてるんだ? 慈悲か何かでも見せてみるつもりか?
キッド: 必要もないのに人を傷つけたくないだけだ。
ソール: 救世主コンプレックスか何かか? 自分は世界を救うための魔法の子羊だとでも確信してるのか? 全員の罪を贖う? お堅い頭を通して理解しろよ。あいつらは君がこの世でありうる限り死人に近い状態にしたいと思ってた、その行為に「そうできるから」以上の理由はない。
彼は私と目を合わせまいと、私から目を背ける。私もそうしていることに気付く。
キッド: 彼らを糾弾するのは私の役目じゃない。ソール、私は傷つくというのがどのようなものか知ってる、そしてお前よりもずっとよく知ってる。全てが戻ったとき、今も私たちと同じ状態の人々は全てが止まってから見過ごしていた全ての一つ一つを感じることになるだろう。全ての神経が命を取り戻すと同時に悲鳴を上げることになるだろう。彼らにその苦痛を与える権利は私にはない。それがもし怪我を負うことが…… それがもし私が彼らのために傷つかねばならないという意味だとしたら、そうする。
ソール: ……クルス、ここから一番近い町は?
Cruz.aic: 君に教える必要はないね。
ソール: 調子を合わせてくれよ、俺は言いたいことを言わなきゃならないんだからさ。
Cruz.aic: ……真東。
ソールは私の手を掴む。
ソール: ついてこい。
補遺 001.5: 2025年2月13日、07:10
クルスの指示に従い、私たちは森の端近い小さな郊外に向かう。早朝であればどの郊外でもそうであるように、静かだ。とはいえ、一日が始まる兆しは見えている。バス停で待つ子供たち、コーヒーを手に車のキーを弄る男性、犬の散歩をする女性...… 誰もが自分のモーニングルーティーンを過ごしている。その瞬間に行き詰ってしまった。
ソール: 君が意気地のない戦いの避け方をするとき、自分が何をしているかちゃんと見てほしい。
エージェント・ソールはキーを弄っている男性のもとに私を連れていく。
ソール: ここに負ってる怪我をよく見てみろ。
私は従う。男性を調べると、彼の体に一連の生傷があるのが見える。命を脅かすようなものも、大きなものもないが、いずれにせよ生傷だ。
私はソールの方を向き何かを言おうとしたが、彼は首を振って他の人々を身振りで示すだけだった。私の懸念は実証され、外にいる人は皆、同様の生傷を身体に負っている。何が起こるかただ知りたいだけの者の手によって付けられたかのように小さなものもあれば、必死に満足を求める者の手によって付けられたようなより深いものもある。やがて自分の上げている声に気付く。
キッド: なんで?
ソール: 何でかは知ってるだろ、坊や。世界には本物の悪意ってのがあって、道徳を維持する条件が消え去るまで悪でない振りをしてるだけの奴らがいるんだ。あのごろつき集団は全員— 本当に飽き飽きしてそれを他の全員にぶつけるまでは道徳を主張してた奴らだ。俺は財団で、彼らが「正常」の概念を回復するためにこういうことを無視するのを十分な時間を費やして観察した。もう本気になる必要があると言ってるのはこういう意味だ。誰かが君を殺そうとしてるなら、反撃しろ。
彼は私を押す。
ソール: このことについて君が一切無知だった事実はここが物語っている。さあさあ、ここの人たちを無視しながら俺のことを上から非難してみろよ、君と、財団の他の奴ら。
彼は再び私を押し、私は後ろによろめく。
ソール: 知りもしない人に出来もしない約束をし続けることもできるし、立ち往生してる状況を枯らしきるも最大限活かすもできる。
周りの証拠を見続けながら、返答に苦労する。私が最終的に成功したら、実際にこの任務を完了したら、それはここの人々にとって何を意味をするだろう? 突然彼らの世界が再開し、彼らは感じたことのない突然の痛みに叫び声を上げる。
だがそうだとしても……
キッド: 考えられる最悪の状況で口汚くなる人たちを本当に責められるか?
ソール: どんな戦争に参加している人に何のために戦っているのか尋ねても、本当の答えをくれる人は一人もいないと断言する。私がまだ財団にいたとき、俺が何を信じているのか尋ねられたら、俺はただ顎を緩めたまま「人類のため」とだけ答えただろう。キーパーズはそういうあらゆるものから新しい何かを作り、俺たちは適切な社会を作った。実際、俺たちは財団が過去に固執している間にこのいうことをする奴らに対処する努力をしてる。どうだ?
彼は曖昧な動作で腕を投げ出す。
ソール: 君にとってこれは地獄だ、それは理解してる。俺が君の考えを全く理解してないようには振る舞わないでくれ。だが、俺にとっては? これは自由だ。俺たちはついに痛みも、空腹もない世界を手に入れたんだ。あのごろつきどもは世界最悪のものが変われないし変わらないという証拠だが、ここでは少なくとも奴らが俺たちを傷つけてもそれを感じなくていい。生き続けられる。どうしてこんな中を生きながらも未だに慈悲を選択肢に考えられてるのか理解できないね。
キッド: クルス、一番近い海岸線は?
Cruz.aic: またこれ?また進路から外れちゃうよ……
キッド: 頼む、クルス。
Cruz.aic: わかった。真西。マップに起こすよ。
私はソールに手を差し伸べる。
キッド: 今度が私がお前に見せる番だ。
クルスの指示に従い、私はエージェント・ソールを最寄りの海岸線まで連れていき、ビーチに出る。夜明け少し前だというのに、明らかにアウトドア派の人々が数人ほどいる。靴を脱いで極寒の冬の海に足を浸す勇敢な人もいれば、カモメの群れを追いかける数人の子供たちもおり、ビーチのより上の方からただ眺めているだけの人もいる。次の瞬間、時間に囚われた。
キッド: 何が聞こえる?
彼は眉をひそめる。
ソール: 何も、明らかに。馬鹿な質問だな。
キッド: その通り。お前は笑い声、鳥の鳴き声、波の打ち寄せる音が聞こえるはずだった、でも今は全くの沈黙だ。
私は腕を投げ出す。
キッド: 私はこのために戦ってるんだ。私は未来があるチャンスのために戦ってるんだ。私はこれのために戦ってるんだ。この楽しみ、努力、悲しみの瞬間…… 私たちを人間たらしめてくれるもの。私はみんなにまた本当の形でこういうものを経験できるようになってほしいんだ。お前だってそう。それは私のことじゃないし、今までだって違う。私には、後に続く人々のために、本当にそのために生きる意味のあるものを持てる世界を残す義務がある。
エージェント・ソールは沈黙している。
キッド: 本当に嫌な奴らがいる、理解したよソール。お前がうんざりしてることを責めはしない。
私は彼に弱々しい笑みを浮かべ、水それ自体に向かって歩く。ソールもほぼ躊躇しながらも後を追う。海岸線に着くと、波の上に足を踏み出す。歩き続けながら、足元の水が固まっているのを感じる。ソールは躊躇うが、最終的には同じことをする。私たち二人は水の上に立って、ビーチにいる人々を振り返る。
キッド: もし他の人たちが生き続けられて、生きることの意味を経験できるなら、私は喜んで自分の持つ全てを投げ出そう。人々が真の意味で何も感じられないなら、経験できないなら、命って何だろう? 今この世界には、そのために生きる価値のあるものは何もない。
ソールはしばらく私を見つめ、ビーチの上の人々を振り返る。
ソール: ……君は俺を納得させようとしてるのか?それとも君自身を?
私は首を振る。重要な答えはない。ソールは何か言いたげな様子だが、目線を足元に向けている。
キッド: 今のものと比べたらなんだってマシだよ。
私たちはビーチに歩いて戻り始める。
キッド: クルス? 私たちを元の進路に戻してくださいますか?
Cruz.aic: やっとか!うん、もうばっちりできるよ。
私たちは海岸に戻り、ビーチから森の中へ戻る。歩いていると、ソールは足取りを緩める。私たちが移動する間、彼は手を伸ばして周りの植物に触れる。彼は葉の上に手をかざし、木の現在の位置から葉を取り除こうとする。それはびくともしない。ほんの一瞬、彼の顔には心からのしかめ面が浮かぶ。
彼は見上げる。
ソール: なあ、キッド?
キッド: うん?
ソール: ……君が死んだら任務は完了できないことは忘れないでくれ。
補遺 001.6: 2025年2月13日、07:10
進んでいる間、私たちの間に張り詰めた空気が漂う。ソールは死んだように静かで、こちらが目を合わせようとするとそれを逸らす。都市に近づくにつれ、彼の歩みは遅くなっているように見える。
Cruz.aic: ペースを上げて、みんな! もうすぐ着くよ。特に君だよ、裏切り者!
トランス状態から引き戻されたかのように、ソールの頭は跳ね上がる。
ソール: あぁ?
Cruz.aic: 起きて! 道から大きく外れちゃった原因は君なんだから、ギアを入れてこれを終えられるようにしなよ!
丘を登ると、遠くに街が見える。ここは— ワシントン州シアトル市だが、長い間財団の管理下になかった。現在はキーパーズがこの場所を支配している。
見慣れた街並み、スカイラインは変わっていない。太陽は地平線上に上り始めたところで、眠れる街に光を差し込んでいる。
私はソールを見るが、依然として彼は目を合わせない。彼は無表情だが、口の端には図らずもごく僅かなしかめ面が見えている。
キッド: なあ、ソール—
ソール: もうすぐ着く。
キッド: ……だな。
私たちは都市の中へとを入っていく。通りを歩いていると、固まった人々に囲まれていることに気づきます。以前の郊外と同じように、私たちの周りの誰もがルーティーンの最中で動けなくなっている。スタンドでコーヒーを注文する女性、携帯電話を掛けるビジネスマン、ホームレスの男性とその犬が身を寄せ合う中で、他の人々はただ通り過ぎる。
ソールは険しい表情で私の方を向く。
ソール: ここに俺が知らなきゃならないものがある。
キッド: 何でも聞いて。
ソール: これが起きる前、君は記憶処理課で働いてたよな? 俺自身はそれを弄ったことはないけど、いつだって財団は基本的に全てをゼロに戻すためにそれを使ってるって噂があった。なあ、大量の記憶が世界を消去して、何かが起きなかったかのように振る舞うんだ。俺はそんな話に興味を持ったことはなかった、いつだって俺には突拍子もないように思えた。でも知らなきゃならない…… それは本当か?
Cruz.aic: いや、いやー、何もしてない。機密情報!
キッド: ああ、本当だ。
ソール: へえ、そこまで考えておくべきだったよ。俺たちは相当後ろ暗い団体で働いてきたみたいだね、ええ? 俺は思ってたより長い間悪者だったみたいだ。
私は笑う。かなり久しぶりの本当の笑いだった。
キッド: 私もそう思うよ。逃げ出して争いを避けるって言うのもそんなに悪くないだろ、なあ? 逃げている間はずっと足を前に踏み出してるんだ。たとえその能力がなくても、最終的には何とかなる。人類はいつでも再建できる。前にもそうしたんだ、何度も何度も。
私は微笑む。
キッド: ……今はいろいろと悪いけど、きっと良くなる。そうでなきゃならない。
ソールは歩みを止め、私の方を向く。
ソール: 後ろを向いて、逃げろ。
キッド: は? でもわた—
ソール: 前に初めて峡谷に落ちたときに言った。俺たちの目には君は指名手配の逃亡犯で、君が基地の近くに足を踏み入れた瞬間俺たちはその心臓を奪い取り、財団がそれを取り戻す望みはないことは間違いない。君の小さな任務が成功する希望が欲しいなら、今こそ逃げる時だ、キッド。
私は一歩後ずさる。
キッド: それで全部か? 騙すとかはない?
ソール: ない。君の任務を信じているとは言えないが…… その、俺が本当に今何を信じているのかはわからない。確かにわかるのは君が本当にそれを信じているということで、だから頑張ってほしい。俺が間違ってると証明してくれ。
私は頷き、振り返って走る。だがそれに成功する前に、私の逃走はキーパーのエージェントの一団に阻まれる。振り返ると、ソールの前方も同様である。
ソール: ……こいつはどういうことだ、マジで? 散れ!
エージェントの一人、リーダーに見える女性が手を振る。
エージェント: 元・エージェント・ソールと財団エージェント・キッド、武器を引き渡して投降するよう命じます。
ソール: 何だってんだ? お前は俺に命令を吠えれないだろ、俺はお前より階級が上だ!
エージェント: 残念ですが、あなたが組織を裏切った瞬間にあなたの地位と称号を剥奪するという決定が下されました。
ソール: 何の話をしてやがる?!
エージェント: 十分な機会が与えられたにも拘わらず遺物の確保を拒否し、既知の逃亡者に逃走の機会を与えたことで、あなたは入会時に同意したキーパーズの規約に違反しました。
ソール: そいつはイカれ—
キッド: 降伏します。
私は腕を頭の後ろで組み、膝をつく。
Cruz.aic: エージェント・キッド?!
キッド: 私は、エージェント・ソールの行為を赦免するという条件で降伏します。
ソール: キッド本気じゃないだろうな!
エージェント: ……友好的な折り合いですね。紳士方、彼に手錠を。
二人のエージェントが駆け寄る。彼らは私を地面に蹴り飛ばし、手錠をかける。彼らは私のバットをとって横に放り投げる。
ソール: もういいだろ、放してやれ!
エージェント: エージェント・キッドの捕獲と逮捕に関する命令は明確です。あなたに関しては……
彼女は彼の足を蹴り、彼を地面に倒す。それに続いて肋骨に力強い蹴りを入れる。
エージェント: 反逆は反逆です、ソール。
キッド: 私は降伏しました、彼を放っておいてください!
エージェント: 我々が本当にあなたをあてにできるとは思いません。秩序が必要なのです。
彼女は隣のエージェントに身振りで示すと、彼は剣を抜く。
エージェント: あなたに関しては、私の出身地では反逆罪の刑罰は通常死刑に相当します。それはあまり良い選択肢ではないので、少なくとも次善の策を提供できます。
彼女の隣のエージェントは剣を掲げる。それはソールの左腕に落ち、それを肩から引き離す。左腕は地面に落ちる。ソールは口を大きく開けている。
私は叫ぶ。
頭で考えるよりも先に身体が動く。私が手錠と格闘する中、男は再び剣をソールの胸に振り下ろし、彼を歩道に転がらせる。
私は義手をつかんで引き剥がし、手錠を外す。男たちは私を拘束しようとする。私は腕で奴らを殴り始める。それはバットではない。それはバットとは全く別物だ。この瞬間に感じた怒りは、これまでに感じた初めてのものだ。この瞬間は、それでけで十分だ。
別のエージェントが私を拘束しようとするが、私は攻撃を縫って躱す。私は奴らの膝裏を打ち、地面に送り込む。私は奴らを横に蹴り飛ばす。
私はソールの側に駆け寄り、彼が立ち上がるのを手伝う。彼は呆然とし、口はまだ開いたままだ。
私は腕を落とし、彼の剣を抜く。
私は標的も脇目も気にせずに振るう。馴染みのない武器で、手に持つと重い。これを始めたエージェントを切り倒すと、ソールを引きずって逃げる。
そして私たちは逃げる。わかっているのはこれだけだ。走って、逃げたこと。
私は逃げながら祈りをささげる。心の底では、神が私の言葉を聞いていないことを望んでいる。
補遺 001.7: 2025年2月13日、07:10
私は走る。
私は走って走って、追っ手が来ないと確信してしばらく経ってもまだ走り続ける。脚がもつ限り走り、それでもさらに走る。森の中に戻り、隠れた場所に戻り、安全な場所に戻る。
本能だったに違いない。ふと目と頭がクリアになると、自分が戻ってきて思いつく限りの安息の地に最も近い場所にいることに気付くからだ。財団さえも見つけていない、人目の覗かない小さなコミュニティ。
Cruz.aic: キッド、ここはどこ?
私はそれを無視し、ソールを助けられると知っているある人物の下に連れていく。
キッド: アン。
私がテントに飛び込むと、彼女は驚いて顔を上げる。彼女は、50代前半と思しき年上の女性だ。彼女は一切角の立たない人物で、驚かせたにも拘らず彼女は私を見て微笑む。
アン: ジェシー! あなたに会えるのはいつもうれしいんだけど、なんでこっちに来たのか尋ねていい? あなた、準備万端だと思ってたんだけど。それとこちらの方は?
キッド: 助けがいる人です。
私はソールを椅子に座らせる。
キッド: おい、大丈夫か?
ソール: 痛くはない…… なんで俺はフリーズしてしまったんだ?
キッド: お前はこの全部に心理的に慣れていない。痛いと予感して、実際そうであるように反応してしまった。信じてほしい……
私は自分の失われた前腕に目を向け、それから私の側に力なくぶら下がっている壊れた義手を見る。
キッド: お前は腕を失う心構えなんて全くできてない。
アン: 神の名において、あなたは自分に何をしたの、ジェシー? その腕を作る材料にたくさんのものを回収しなきゃいけなかったのに、あなたはそれを壊しちゃった。
キッド: アン頼みます、友人は今の私よりももっと手をかけてやらなきゃならないんです。
アンはようやくソールを見てたじろぐ。
アン: あらこれは…… すごいわね。ジェシー、これまでにこんな怪我はあなたを—
キッド: 治療して以来見たことがない、わかってます。できることはありますか?
アン: どんな物資があるか見てくる。ここで待ってて。
彼女は私たちを置いて、テントから出ていく。
ソール: ……尋ねなきゃならない。どうしてだ?
キッド: 前に言っただろ、他人を助けるためならなんだって喜んでする。
ソール: 君は俺の剣を使って実際に反撃した。
キッド: 私……
私は答えを持っていない。ほんの少しでも満足いくものを心の中に探すが、路頭に迷ってしまう。
キッド: ……ああ。私はそうしたんだよな?
彼の顔は強張り、一瞬叫ぼうとしているように見える。だが彼の声は柔らかく、地面を見つめている。
ソール: ありがとな。
Cruz.aic: 泣かせるね。それで誰か一体ここがどこなのか教えてくれない? そうすれば少なくとも元のコースに戻ろうと努力することはできるんだけど。
キッド: キャンプ・オリンピア。ここはオリンピック国有林の中だ。
Cruz.aic: ……待って、君はシアトルからここまで走ってきたの?
キッド: ……逃げなきゃならなかった。
アンはテントにそっと戻る。
アン: あなたたちがどんな擦り傷を負ったのか正確にはわからないけど、幸いにも予備の針と糸があった。
彼女はソールに近づき、そのシャツを傷口から離す。
アン: じっとしててね。
ソール: あぁ…… わかりました。なんであなたはこんなことを?
アン: 胸に大きな穴が空いたまま歩き回るのは無理よ、可愛い子。それを閉じなきゃいけないの。
ソール: でも結局のところ何の意味もありませんよ。あなたはただ物資を無駄にして-
アン: あら、静かに。困ってる人のために使うのは無駄じゃないのよ。
キッド: 彼女の話を聞いた方がいい、ソール。
アン: 重要な話をすると、私らが幸せなあなた自身をここに引きずり込んだときもあなたはまったく同じことを言ってたって覚えてるわ。「可哀想に、あなたは死んだほうがマシな男のために物資を無駄にしてるんだ!」
キッド: おいおい、そんな風には言ってないでしょう。
Cruz.aic: いやいや、彼女は君の抑揚を捉えてるよ。
アン: それはそれと、ごめんなさいね、ジェシー。私たちにはあなたの腕を修理するだけの、まして新しく来たあなたに新しいものを作ってあげるだけの物資がないの、ええと……?
ソール: ソールです。
アン: ソールさん。最近は今の位置に固定されてない物資を見つけるのがとても難しいの。
彼女は彼の胸を縫合し終え、深く座る。
アン: できた。
ソールは躊躇いがちに痕に手で触れる。彼はほとんど囁きのような声を漏らす。
ソール: ……ありがとうございます。
アン: 当然のことをしたまでよ。お互いに気を付けてあげてね、いい?
キッド: 太陽が帰ってくるまで、ですね。ありがとうございました、アン。
私たちはテントをそっと抜けて適切なキャンプに戻る。この長い年月のように感じる時間の中で、初めて周囲に生命感を覚える。コミュニティは大きくないが、集まった人々は生きており、ある意味でルーティーン的に動いている。
ソール: で、この場所はいったい何なんだ? 財団のキャンプの一つ?
キッド: 財団はこんな人たちがここにいるだなんて一切知らない。
ソール: 教えてないのか?
私は首を縦に振る。
キッド: この人たちは、お前が覚えてればの話だけど、お前が私の腕と目を奪ったあの後に私を見つけたんだ。
彼は眉間にしわを寄せて地面を蹴る。
ソール: ……ああ、覚えてる。君は俺たちの図書館の一つを襲撃して、俺がお前を追って捕まえたんだったな。
キッド: 私は求められるよりも遅かったが、でも教訓を学んだ。
私はかつて義手のあった右の前腕に彼の視線を感じる。
ソール: 俺は…… あのことを謝った方がいいかな?
キッド: 恐らく。
ソール: 申し訳ない。
キッド: わかってるよ。
私たちはしばらく黙って立っている。
ソール: 怖いからなんだ。
キッド: 何が?
彼は曖昧な動作で腕を投げ出す。
ソール: これの……全部。俺は怖いからキーパーズに入った。俺は自分の人生のとても多くの時間を、明日に何が起きるか心配し、怯えながら生きてきた。あの戦争が勃発したとき、自分の恐怖が全て確証されたように感じた。そして何もかも…… 止まった。俺以外。俺は行き続けた。
彼は私を見て、目を合わせる。
ソール: ある意味恵まれていると感じた。俺はこれを、永遠の瞬間を手に入れた。明日のことを心配する必要はない、もう明日はないから。俺の愛するあらゆる人たちやが俺の知っているあらゆるものが消えることを心配する必要はない、それらはみんなここに固まっているから。俺は…… 一度だけ実際に世界の支配者になったような気がする、わかるか?
キッド: 私だって怖い。
ソール: 本当に? 君はとても自信があるように見えたけど。
彼は笑いながらふざけ半分に私の肩にパンチする。とても久しぶりの、彼の心からの笑いだ。
キッド: みんな次にやって来るものがちょっと怖いんだ、そうだろ? 未来を知ることなんてできない。
ソール: じゃあ何が君を突き動かし続けるんだ、キッド? それをどうやって乗り越える?
私はしばらく目を閉じる。それをまた開くと、彼と目が合う。
キッド: ついてきて。
私は彼をテントに連れていき、静かにするよう動きで合図しました。中では若い女性が乳児を腕に抱いている。乳児は好奇心に満ちた明るい目で私たちを見つめる。
キッド: 迷惑かけて悪い、リオ。
女性は首を振り、微笑む。彼女の赤ちゃんが丸々とした手を伸ばし、私はそれに指で触れる。赤ちゃんは小さな手を私の指に巻き付ける。私は微笑んで、少ししてからそっと彼を母親から引き離し、ソールに渡す。サウルは躊躇ったが、最終的には受け取る。彼はまるで爆弾を抱えているかのように赤ちゃんを抱いている。
キッド: 前にも言ったが、それは私には当てはまらない。取り戻したいものはある、ああ。傷つきたい、泣きたい、心の奥底で麻痺させる感覚がほしい。私の中には別の自分がいて、この世を去る前に何か思い出に残ることをしたいと思っている自分がいる。今、私にとって死は当然の結論であり、私は死と和解した。しかし何よりも、それは私自身や私が望むものについては当てはまらないことを知っている。
エージェント・ソールは赤ちゃんが彼に手を伸ばすのを見る。彼は、私が先ほどそうしたように赤ちゃんに指を握らせる。
キッド: この子は未来があるにふさわしい、だろ? 大きくなって私たちと同じ間違いを犯すチャンスに。
赤ちゃんがソールの指を握っている間、彼は黙っている。やがて彼は乳児を母親に返し。私たち二人は外へ戻る。
ソール: まだあの心臓は持ってる?
キッド: 当然だけどそうだな。
彼は自分の胸に手を当てる。
ソール: ……あの人の縫ったやつには若干足りないところがあるな。これじゃ朝まで持たない。
Cruz.aic: やっとできた! 神殿まで行くルートの準備ができたよ。クリアであることも確認済みだし、キーパーズの縄張りを通過しない。遺跡もいい状態だって確認済み。二人とも準備できたら出発できるよ。
私はソールに手を差し伸べる。
キッド: 次に何が来ようとも、何とかなる。完璧な世界ではないだろうけど、でも……
ソール: ……何だってこれよりはマシだ。
彼は私の手を握り、そして私たちは出発する。
補遺 001.8: 2025年2月13日、07:10
世界は一瞬にして終わったわけではない。アエテルヌムの神殿は何年も放置され、忘れ去られていた。それを地に倒したのは、一つの激しく仰々しい出来事ではなかった。伝統も変わり、習慣も変わった。新しい神々がやって来て古いものに取って代わり、彼らの偉大な古より続く教会はより新しく壮大な教会に取って代わられた。かつて神々を支えていた古き物語や儀式が語り継がれなくなり、単なるおとぎ話へと追いやられるにつれて、古き神々はゆっくりと衰退していった。
丘を登った時、ソールは何か壮大なもの、ここに大いなる力が存在していたことを示す証左を期待していた。その代わりに私たちの前に現れたのは、彫刻された瓦礫の山と、中心部でひっくり返った漠然と人型をした像だった。
私は中心部に近づき、よく知っている印を描く。押さえつけると、それは余りにも微かな光を輝かせ、しばし私は2月の朝の冷気をほとんど感じられる。
キッド: クルス、できればここで何をする必要があるか確認してくれ。
Cruz.aic: 神社自体は、いろいろ考慮すると実際かなり頑丈だった。たぶん最初から異常な素材で建築されていて、おそらくそれがこんなに長くもった理由だろうね。まず神社自体を再建してから、中枢としてハートを挿入する必要がある。そうすれば何もかもまた動き出すはずだよ。
ソール: それは確かか?
Cruz.aic: 僕に質問しないで!
キッド: ……それでそうできたら、財団は大量リセットボタンを起動させる、だな?
Cruz.aic: 高確率で、そうだね。十分な程被害があるし、正常性を完全に破壊するこのことを覚えてる人も十分な数いる。つまるところ、財団がかなり積極的な記憶処理キャンペーンをすることはほぼ確実だね。
ソール: ……じゃあもし生き残ったとしても、俺たちは全部忘れちゃうってのか、なあ?
Cruz.aic: ……うん。それが一番ありうる結果だね。
キッド: いずれにせよ、私は一緒にいるこの時間を覚えていたい。
ソールと私は目線を交わす。彼の目にもう躊躇いはない。私たちは頷き、神殿の再建に取り掛かる。私たちが計2本の腕しか持っていない中で進めるのは大変だが、私たちが持っているものがあるとしたら、それは時間だ。
キッド: お前はここまで来る必要はなかったんだけどな。
ソール: こんなものをどうやって持ち上げる気だったんだ? どうだい、君は建設作業をするには間違いなく痩せすぎだ。
キッド: これの前までずっと研究だけしてたからって私が全くの役立たずと言う訳じゃないぞ。正々堂々の戦いならお前に勝つ。
ソール: 君は持ってる.aicに助けてもらってたじゃないか。
Cruz.aic: ご明察!
ソール: ……君は何とかなる、キッド。きっと大丈夫だ。
私はこの最中に自分の身体が緊張していることに気付き、筋肉の緊張を緩めようとする。
キッド: そうだな。全部大丈夫だ。
だができない。神殿を少しずつ再建していくにつれ、私の胸の内に恐怖感が形作られていくのを感じる。
ソール: なあ、ちょっと休めよ。今は強気な顔をする必要はない。
自分の話し声がかすれているのが聞こえる。
キッド: ……私は死ぬ。
ここで死が待ち受けていることはずっと前から分かっていた。私の怪我は重すぎてソールがここにいても医療援助は間に合わないだろう。
ソール: 俺もだ。
彼が私を見ると、そこに何かがある。彼の目の中には輝きがあり、それは以前にはなかったものだ。
ソール: でもちょっと周りを見てみろ。くたばるに最悪な場所と言う訳でもない。
そして私はそうする。山腹から眼下に広がる街の眺めは息を呑む美しさだった。遠くに朝日が見え、今も遠くの地平線の向こうに一生懸命に顔を覗かせようとしている。
私は次の石を握る。
私たちは働き続ける。私たちは一緒に神社の頂上に最後の石を運び、苦労の成果の前に立つ。残っているのは中枢だけで、神殿の中央に鎮座していた人型の像の胸に納める準備は整っている。
私はソールの胸の傷に指を当て、神殿の穴に印章を描く。私はジャケットから心臓を取り出して彼に差し出す。それはゆっくりとした、安定したリズムで鼓動する。
ソール: 何をしてる?
キッド: これをお前に渡してる。
彼は不明確な手で受け取る。
キッド: これはお前に与えるチャンスだ。それを壊したければ、それで終わりだ。永遠に続く一瞬を取り戻せるだろう。
ソールは手の中で鼓動する心臓を見てにやりと笑う。
ソール: たぶん、俺には変わる準備ができてる。
彼は神殿に心臓を挿入し、私は呪文を唱える。
そして一瞬で、私は感じる。周りの炎の熱さを、冷たい風の冷気を。
そして末端にまで至る身体の全神経が活性化する。私の全身を侵すあまりにも生々しい怪我の痛みに、私は苦痛の中で倒れる。ソールも膝をつくが、私を近くに引き寄せる。
ソール: おーい、おーい、大丈夫だ。俺はここにいる。
私は鋭く浅い呼吸をする。かなり久しぶりに。私はソールが触れるのを感じ、ようやく身体が落ち着く。
ソール: どんな感じだ?
キッド: な-何もかも痛い。とても。生きてるって感じる。
彼は笑いながらも、涙が頬を転がり落ち、私もそうしていると気付く。彼は見上げ、朝日が昇るのを見る。
ソール: こんなに長い間これを見逃していたなんて信じられない。
私たちは一瞬沈黙する。一瞬、実際に本物の一瞬。
キッド: ……美しい。
鳴き鳥のさえずりを乗せ、また風が吹く。
キッド: おはよう、ソール。
ソール: おはよう、キッド。
私は泣く。私は何年分も、何年分も泣き、ソールは全く痛くないかのように私を抱きしめる。彼は私たちを地平線の方向に向け、私たちは太陽が昇り始めているのを見る。
世界が息吹く。
2025年2月13日、07:11