みなさんこんにちは。世界、壊してますか?私は去年4000億個ほど壊しました。
世界崩壊と言えば財団の花形。K-クラスシナリオを始めとして、壮大な世界の危機がいくつも描かれてきました。全世界規模で起きるイベントというのはやはりインパクトが大きいもので読者の心に印象的に残ります。
ですが実はですね、SCP記事で世界を壊すのって中々難しいんです。より正確に言うならば、評価される世界的規模の事象を書くのは難易度が高い、ということです。「え?余裕っしょ」って方はスゴイ。私は世界規模で起こる事象だけで読者に何かしらUVに値する感情を植え付ける自信はありません。もちろん既存の名作の中には世界の変容だけで非常に興味深い展開を作り出しているものもあります。アリソン・エッカートが代表例でしょう。ただこのような記事は強い独自性を持つ秀でた発想によるものであり、世界の破滅を描くのはやはり容易ではないと言っていいでしょう。
いったいSCP財団という場において世界終焉が何故難しいのか。理由は二つあります。
一つ目。世界の危機はSCP財団という創作サイトにとってありふれたものであるということ。世界が惨たらしく滅ぶ記事は分類される程多くあり、それだけでは目の肥えた読者は満足しません。一度試しに「k-クラスシナリオ」タグで検索してみて下さい。2024年7月現在400近くの記事が出てきます。さらに「k-クラスシナリオ」タグはアトリビュートタグですから、GoIフォーマットやTaleを含めると更に多くの世界の終わりが描かれていることでしょう。単に「世界の壊し方」だけの独自性で戦う場合、これら膨大な記事との差別化を図らなければなりません。
二つ目。世界の危機に対して人間はあまり感情を動かさないものだということ。記事を作るにあたって「読者の感情を動かす必要がある」というのは口酸っぱく言われることです。これについては今更話すことはありません。さて、「世界の危機」と言われてあなたはどう思うでしょうか?世界規模で起こる事件って、なかなかどうして現実離れしていて実感が持ちづらくありませんか?「地球温暖化を絶対止める!」という主人公より、「惚れた恋人を助ける!」という主人公の方が感情移入しやすいでしょう?今の喩えで分かるように、身近で小規模な方が読者の感情を揺さぶりやすいと私は思っています。著者にとって向き不向きはありますが、インタビューや手記などの物語チックな文も使えますしね。世界規模の事象ですと個人の観測記録を記載するにはそれを報告書に載せるための適切な理由が必要になります。
では果たしてどのようにしたら面白い世界の終わりを描けるのか。ここで本エッセイでは一つの解決策を提示いたします。報告書内で「ミクロ」と「マクロ」の視点双方を展開させればよいのです。
ミクロは小さな視点、マクロは大きな視点の事を指します。オブジェクト周辺や小さな地域だけを描くミクロな視点で読者に感情移入させた後、物語を展開させ最終的に広がった舞台でマクロな視点を描くことで、読者の感情を動かしつつ壮大な記事が出来上がります。あるいは順番を逆にするのもアリですね。視点をボトムダウンさせるかトップダウンさせるかは各記事の内容に依ります。この枠組みを使用すれば、先程挙げた世界終焉の差別化も、個々の物語を描くことで解消できるでしょう。
例として、まずこの枠組みを実際に用いて作成した拙作を紹介させてください。SCP-2896-JPはまさにこの構造が使われています。この記事は日奉蔵という子供の異常性が世界的に広まり、記事中では実際に世界破滅までは至ってないもののK-クラス待ったなしの結末となっています。そして感想を見ていると日奉蔵あるいは記事中に登場する使用人へと感情移入して好評を得ているようです。つまり先程言ったミクロマクロ構造で記事をまとめると以下のようになります。
SCP-2896-JP - 日奉蔵の拡散と消失
ミクロ ⇒ 日奉蔵の境遇
マクロ ⇒ 日奉蔵の異常性拡散による世界危機
この2つの視点があったからこそ、世界を終わらす話で読者の感情が揺さぶられ評価されたんじゃないかと私は思っています。
さてこのミクロマクロ構造、もちろんたかだかテレキルの拙作一つだけで効果を主張するわけではありません。壮大でエモいあの作品もこの構造が使われています。
そう、SCP-2000-JPです。
SCP-2000-JP - 伝書使
ミクロ ⇒ 情報知性体と研究員の奮闘
マクロ ⇒ 機械仕掛けの神による世界終焉からの復活
SCP-2000-JPはThaumielオブジェクトで世界を復活させるという筋書きで、マクロな視点だけで見れば一見陳腐に思えてしまう記事です。実際著者の1人であるWagnasCousin WagnasCousin 氏も「この話の面白さは結論ではなくその過程で起こったヒューマン?ドラマ部分にある」と述べています。電子犬と研究員のやり取りというミクロな描写が積み上がって加わることで非常にエモい世界救済の物語となりました。
もう一つ例を出しましょうか。同じくキリ番のSCP-5000もこの構造を当てはめることができます。
SCP-5000 - どうして?
ミクロ ⇒ ピエトロ・ウィルソンによって語られる世界の様子
マクロ ⇒ 財団による人類根絶
財団が世界に牙を剥く衝撃展開だけでも強烈な記事とはなっていますが、それを支えるのはやはりピエトロによる記録ファイルでしょう。なぜ財団が人類の根絶を目指したかという謎を最初に据えられた上で、5000カノン世界の様子をピエトロ視点で描いていくことにより世界の異様さが読者に奇妙な感覚を与えています。この記事は報告書を執筆している財団側もピエトロに何が起こったか分かっていないため、アーカイブとしてピエトロ個人の記録ファイルを自然に記事に載せられているところも巧みなところです。
以上、本エッセイで紹介したいことを簡単にまとめますと、
ミクロで読者に感情移入させ、
マクロで世界に影響を及ぼせ!
というテクニックとなります。この構造にピシっと当てはまる異常性やストーリーラインが作り出せたなら、かなり良い世界破壊SCP記事が出来上がるのではないでしょうか。もちろんGoIフォーマットやTaleにも応用が利くことでしょう。
以上述べたことはあくまで私なりの考えです。人によってはこのやり方は合わない人もいるかもしれません。構造の分析がこじつけ気味かもしれません。それでもこの考えが、どこかで誰かが世界をぶち壊す際の手助けになったらいいなぁと思います。