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クレジット
タイトル: サイト-81UO内部セクション群によるオリエンテーションの抜粋 または、このサイトの人々が如何にして日々苦しんでいるかについての陳述
著者: stengan774 stengan774
作成年: 2024
Nx-54("四十八町")に出現する多くの霊的実体への対応を主な業務とするサイト-81UOでは、組織構造の合理化のため既存の財団内部部門を合併・再編する制度を導入しています。再編された内部組織は「セクション」として区分され、Nx-54や霊的実体の性質に特化した柔軟な対応を行います。
例として、81UOの研究・開発セクションは他サイトにおける科学部門や工学技術部門などの人員が所属し、それらの部門が担う業務に対してより横断的な形で対応するセクションです。
- 内部セクション案内: サイト-81UO より
研究・開発セクション または、幽霊よりも顔色が悪い連中
ここでの「研究」と「開発」は、当然ながら殆どが霊体に対して捧げられます。我々の主な業務は心霊学や霊子論に基づいてエクトプラズムを分析し研究するとともに、霊体工学の原理に従って霊的な実体の収容に役立つ設備や機器を開発することです。
まずは、我々が扱っているものの実例をご紹介しましょう。こちらは当セクションで開発された『ハルトマン霊体撮像システム』です。イグナーツ・ハルトマン客員教授とその娘婿であるベンジャミン・ハルトマン博士によって開発された『ハルトマン霊体撮影機』は、内蔵したエクトプラズム溶液サンプルと撮影対象となる霊体の存在位における差分を利用し、霊体の"影"をフィルムに焼き付けるという理論の下に開発されました。
霊体撮像システムではこの理論をデジタル撮影技術に応用し、霊素濃度による可視光発光の変位を電気信号として変換する霊感素子を用いることで画像データとして記録を行えるようになっています。特徴としては霊体が青白く、正確に言えばやや暗いシアン色に映ることです。霊体撮影機と異なり映像記録にも使用できるため、霊体を視認するための簡易的な装備としてゴーグルに組み込みリアルタイムで視覚情報の補正を行うといった装備も存在します。
『K-515撮影機』も霊体を撮影するための機器ですが、原理が異なります。こちらは非可視光線に依存した焦点の調整により、本来可視光を透過するため視認できない霊体を撮影できるようにしています。焦点調整に時間がかかるため激しく動く被写体を捉えるのが難しいという欠点こそありますが、ハルトマン霊体撮影機と異なり鮮明かつ自然に近い色彩で撮影することが可能です。私が掛けているこの眼鏡も、このK-515撮影機の原理に基づき複数の特殊なレンズを重ね合わせることでエクトプラズムを視認することを可能にしています。
ええそうです。我々は霊体を「見る」ことに心血を注いでいます。霊体に対し強制的に物質化現象を起こさせる、あるいは霊体が透過できないように処置された区画を『非実体収容房』と呼びますが、非実体収容房が本当に機能しているかどうかは霊体の姿が見えなければ判別できません。目の前で霊体が壁から抜け出ていったことに気が付かないまま何もない部屋を見張り続ける、という最悪の事態が起こりかねないのがこのサイトです。
このセクションで研究と技術開発が一体となっている理由は、霊体が通常「見えず」「触れず」「捕えておけない」性質を持つためです。姿も見えず実体もなく、しかし向こうからこちらには干渉を行うことができる。霊体とはそういった一種理不尽とまで言える脅威に他ならず、それらに我々が対抗できているのはこうした機器が存在するおかげであるということを忘れないでください。
見えず触れないものに対する研究を可能にするための設備や装備の開発を行い、それらの開発を下支えする理論の構築のために研究を行う。これが我々の望ましいサイクルです。理論と知識の両輪を備えておくことは脅威に向かい合う上で必須の条件となります。これらの知識はあなた方の命を助けることにも繋がるでしょう。
次に私と再会するとき、それが非実体収容房の窓越しでない保証はどこにもありませんから。
施設保全セクション または、文化保存財団の学芸員
ようこそ、文化財級のボロ屋敷へ。
ここサイト-81UOは、明治時代に建てられた洋風建築をそのままセキュリティ施設としている。屋敷の持ち主だった夜見寺一族は失踪し、幽霊が跋扈する呪われた場所になっているというおまけつきだ。言いたいことはわかる。成り行きでしょうがないとはいえ、施設の立地としては最悪のチョイスだろ?
俺たちの仕事はサイトの清掃と警備、設備の保全だ。幽霊がポルターガイストで好き勝手に散らかした跡を掃除し、一般人が森の中にうっかり迷い込んでこのサイトの有様を目撃するのを防ぎ、建築から100年経ってる建物にガタが来るたびに修繕する。今でも未発見の地下通路が掘り当てられることがあるんだから、複雑さについての年季は筋金入りだぜ。
まあ、小難しいことを考えるのは研究・開発の連中に任せておけばいいが、1つだけ心に留めておいてくれ。このサイトは研究拠点でもあり、貴重な研究対象でもある。"あらゆるものに対して取り扱いは慎重に行え"。サイト内では心霊現象が頻発しているし、当主が傾倒していたオカルトにまつわる物品が現在でも発見されることがある。一見そうとわからないような形でな。
写真を見てもらおう。これは先日発見されたガラスビンだ。ああ、緑色のワインボトルのような形をしていて、中に半分ほど液体が入っているのが分かる。表面に不気味な模様は浮かんでいないし、中から助けを求める死者の魂がこちらをのぞき込んだりもしていない。何の変哲もないように見えるな? これを発見した清掃職員もそう思ったのだろう。足元に放置していたために不注意で割ってしまい、ビンの中身は床にあふれ出した。
次の写真だ。結果はこの通り、一室まるごとが「海」になった。液体が床一面に広がったという意味での比喩ではなく、扉を開けると荒れ狂う嵐の海に繋がるようになったわけだ。何か海に関する実体が空間ごとビンに封じ込められていたというのが仮説だそうだが、そんなことは俺たちがどうにかできるところじゃない。ただ何に対しても慎重に扱うべきだということを忘れるな。この職員は運良く室外へ退避し難を逃れたが、部屋に広がりゆく海に飲み込まれていったモップは今も見つかっていない。
応用秘儀セクション または、除霊師でエクソシストな奴ら
研究・開発セクションの連中のやっていることが『ゴーストバスターズ』みたいなもんだとすれば、ウチのセクションでやっているのは『コンスタンティン』です。え、知らない? 十代のころに出会わなかったことが幸運になるタイプの映画ですよ。
元々霊的実体というのはオカルトの領分でした。というのも、幽霊を視認できたり追い払ったりできる人々は聖職者やシャーマン、陰陽師と呼ばれるような限られた人間しかいなかったからです。ではハルトマンやK-515が開発されたことで、そういう人材がお払い箱になったか? そうではありません。科学的なプロトコルで代替できない鎮魂の儀式があり、霊能力者でなければ解決できない呪いの連鎖があります。
応用秘儀セクションでは科学技術と霊能呪術の融合を目指しています。このセクションには現在までに延べ23名の財団外から雇用された秘教術師オカルティスト すなわち霊能力者、超能力者、宗教家、魔術師など が特任収容スペシャリストとして在籍し、彼らが持つ秘教技術の科学的転用・汎用化に関する研究に協力しています。ここに座っている皆さんの中にも、彼らのようにたぐいまれな霊的才能を持っているためにウチのセクションに来た方が居るでしょう。
実践的な業務の話をしましょう。我々はオカルト的手法による他セクションの業務遂行補助を行っていますが、その中でも多いのが"除霊"と"憑き物落とし"です。前者は敵対的な霊的実体の鎮圧、といっても最近では十円玉が多いですが......を指し、後者は霊的実体に意識的侵襲を受けた職員の治療を指しています。ええはい、いわゆる憑依現象ですね。こういう立地ですとどうしても多くなります。
"除霊"については後で実地訓練を行いますが、"憑き物落とし"についてはそうもいきませんので、これから過去に実施された映像を見ていただきます。慣れていない方は今のうちに心の準備をしておいてください。どちらかというと『エクソシスト』に近いことが起きているので。
情報技術セクション または、ITエンジニアが落ちるタイプの地獄
よく来たな、もう逃げられないぞ。
霊的実体が電子機器に干渉できる理由はわかっていない。一説によれば、死の際に二進数と同様の形式に意識が変換されるからじゃないかと言われている。生前持っていたアイデンティティが"遺留子"として情報記録されるプロセスでは阿霊荷(陽)・吽霊荷(陰)の2値量子化に基づく特定の霊子配列に変換されるそうなんだが、いわゆる走馬灯と言われる現象はこの霊子による2値量子化のエンコード処理中に発生するらしい。まったく興味深いね。
だがまあ、そんな理屈は重要じゃないんだ。俺たち情報技術セクションにとって問題なのは、霊的実体どもが自由自在にシステムへアクセスしてOS内を引っ掻き回すことができるという忌々しい事実そのものだ。お前には、組んでいたプログラムが一瞬目を離していただけで"4"を出力するだけのスパゲティコードにされていた時の俺の気持ちがわかるか?
こういう事例を俺たちは"システム霊障"と呼んでいる。防霊エクトプルーフ技術が発展するまでの間、ありえない数の幽霊が徘徊しているこのサイトではコンピューターどころか電卓すらまともに扱えなかった。現代では幾分かマシになっているが、程度がマシになっただけで今でも頻発することに変わりはない。このセクションには大量の塩と聖水、そしてファブリーズが常備してあるから好きに使ってくれ。
業務内容? システム開発と保守だ。最近は応用秘儀セクションと共同開発した、コード上に「ABRACADABRAアブラカダブラ」の魔除け呪文を唱え続けてくれるBotが完成した。ソフト面からシステム霊障対策をしてくれると思ったんだが、そのうち「私が言ったものは破壊されるアバダ・ケダブラ」と唱えるようになったから廃棄されたよ。目新しいことはその程度かな、他は殆ど他のサイトでやってることと変わらない。
ああそうだ、ここでの過労死だけは本当に避けてくれよ。研究・開発セクションの連中は、ずいぶん前からエンジニアの霊的実体を探しているんだ。死後も筐体の中でファイアウォールを守る仕事を続けたくないなら、しっかり休息を取ることをお勧めする。取れるかどうかは別としてな。
連繋・外交セクション または、このサイトが青森県にあることを恨んでいる人々
まずはこちらを見てもらおうか。地図上の青い点は、東北地方に所在しているそれぞれの財団施設を表している。いくつか紹介すると、宮城県の石巻市にあるこの大きい点がサイト-8189。東北地方における最大級の財団施設だ。岩手県のここには遠野妖怪保護区にほど近いサイト-8103があり、そして地図の端、青森県にあるこの小さな点が、今僕たちが居るこのサイト-81UOを示している。
では次にこちらの地図を見てみよう。うん。先ほどの青い点を超える数の赤い点があちこちに存在するね。この赤い点、実は全て世界オカルト連合極東部門のステーション施設なんだ。こうして視覚的に示せば一目でわかる通り、首都圏から北は財団よりGOCの勢力が大きい地域でもある。これには戦後における蒐集院資産の継承過程だとか、いろいろな背景があるのだけど......ここでは割愛しよう。
ここで覚えておいてほしいのは、このひときわ大きい赤い点、極東部門の本部であるメインステーション-FE-392が、青森県の八甲田山に位置しているということなんだ。サイト-81UOと同じ、青森県にね。
僕たち連繋・外交セクションはこの地理的要素をうまく利用して立ち回っている。極東部門にとって81UOは目の上のタンコブのようなものであり、財団施設がここで見張りを利かせているという事実が組織間勢力均衡のバランスを保ち、実質的に彼らの活動を制限することに繋がっているというわけだ。東北でうかつに大きなことを起こせないのはこちらも同じだけどね。
このセクションは要注意団体との折衝を行うのが主な業務だけど、そういうわけでメールフォルダの80%近くはGOC極東部門との間でやり取りをしている。残りの12%は日本超常組織平和友好条約機構(JAGPATO)の十和田八幡平非公開オフィス宛てで、後の8%はGOCの108評議会加盟組織の1つ、国際統一奇跡論研究センター(ICSUT)の恐山キャンパスだ。
うん。あの悪名高い近代魔術大学、ICSUTさ。知らない人は『ハリー・ポッター』のホグワーツ魔法魔術学校を想像してみてくれ。想像できた? じゃあハリーたちを髭の生えた大学生どもに取り換えて、彼らが箒と杖の代わりに掃除機に跨ってチャッカマンからエクスプロイトの火花を放出するところを想像してみようか。
難しいだろ? そういうふざけた魔法使い連中と、真面目な顔で会話しなくちゃいけないのが僕たちの仕事なんだ。
人事管理セクション または、墓場の人材
81UOでは以前から死亡した財団職員の死後再雇用を推進してきました。言うまでもなく財団職員の業務中死亡率は高く、彼らの霊的実体がこのNx-54に流れ着くことも多かったためです。
その甲斐あって、死後再雇用エージェントの優秀さは徐々に認められてきています。霊体としての非実体性・不可視性を活かした諜報能力もさることながら、Nx-54内には調査すべき霊的実体のコミュニティが複数存在するという点も大きく関連するでしょう。彼らは財団を認識しており恐れてもいるため、同じ霊的実体であれば警戒を解きやすいのです。
お察しの通り、皆さんの目の前に居る私も死後再雇用された財団職員です。現在は人事管理セクションで死後再雇用職員のモデルケースとして管理業務を任されています。ここに集められた霊的実体の皆さんも、私と同じく死後も世界に奉仕する気高い精神を持っているはずで
え?給料?死んでるんだから貰ってませんよ。腹も空かないし使い道無いじゃないですか。休暇?死んでから疲労を感じなくなったので取ってないですね。昼夜を問わず財団のために働けてうれしい限りです。
ゴホン。改めて、それでは皆さんも死後再雇用職員として え、あっちょっ、出ていかないで!
「何がマズかったと思う? "根本的なアイデア"というのは無しな」
「うーん......案内役の人選かな」
「俺はベーグルの代わりに線香の煙を出してたことだと思う」
公衆虚偽セクション または、無理難題を背負い続ける部署
あの世に最も近い町へようこそ。......ただの比喩ではないぞ。このサイトで働いている奴の大半は、あちこちの幽霊がこのNx-54に行きついてくる理由をこう考えている 町全体があの世と重なっちまっているから、ってな。
冗談は置いておいて、幽霊が無限に湧いて出てくる町が異常だってことを隠すのは至難の業だ。いくら幽霊が目に見えないからって、奴らはポルターガイストで物を動かすし、写真を撮れば心霊写真として映り込んでくる。事実、四十八町民の74%は日常の中で奇妙で不可解な感覚に襲われたと証言しているんだ。シャンプーをしていて後ろに気配を感じるってレベルじゃない。
だから俺たち公衆虚偽セクションは、そうした奇妙さを町の外に漏らさせないようにする。うわさ話にはアレンジを加えつまらないものにし、カバーストーリーでさらに興味を無くさせる。情報技術セクションの協力でWebクローラがネットを検閲し、幽霊に関する体験談を外に出させない。こうすれば、心霊現象のことを気にしているのは当の町民だけってことになるわけだ。
その点、四十八町が地方のとるに足らない小さな町であることは有利に働いている。懲りずにオカルト現象で町おこしを狙ってる町役場以外は、この町をただの辺鄙な町として扱うことに誰も文句はなかったしな。
だが......最近は懸念点が1つある。ここ数年、四十八町を含む近隣市町村の人の流れとモノの流れが増えだしたことだ。調べてみると隣町にある西文大学で急に入学者数が増えてきてることがわかった。つまらん理由だが、変化の少ないこの町にとっては一大事だ。
昨日も俺は墓場に忍び込んで幽霊に祟られた"卒塔婆スキー同好会"の連中を記憶処理してきたところだ。これは凶兆に他ならないだろうな。あの世に最も近い町に前途ある若者たちが入ってくるなんて、ジョークにもなりゃしない。
ネクサス監視セクション または、町の便利屋
呪術の本場は近畿かもしれませんが、首都が京都であった時代から怪奇の本場は東北でした。このセクションでは異常領域学ネクソロジーに基づいて、サイト-81UOが管理しているNx-54の見張り番としての役割を......。うん、長々と真面目ぶるのはやめよう。自分でも読んでいてうんざりする原稿だ。
えー、こんにちは。エージェント・八谷です。実際のところネクサス学がどうとか言ったけど、平たく言えばやるべきなのは地元の人に触れて話を聞き出すことだね。このサイトのカバーストーリーとして採用している佐原文化保存財団(Sabara Cultural Preservation Foundation)は、そういうフィールドワークをやっていても怪しまれないってことが利点で選ばれたわけ。
私たちフィールドエージェントはその口コミをもとに町内を巡回して、異常が無いかを聞きまわるのが仕事。収容した方がいいものは見つけ次第回収するし、危険がなさそうなただの霊的実体であれば放っておく。以上。とにかく自分のことを何でも屋だと思って、地域コミュニティでの信頼を勝ち取ることを目標にやっていこう。
じゃあオリエンテーションは終わり。実地訓練を始めようか。何をするかって? まずは近所のおばあちゃんたちの肩でも揉んできて。