一部の人間にオネイロイとして知られるその生き物は、湿った巣穴の中に潜んでいた。
油っぽい水たまりにうつ伏せに横たわり、触角を伸ばして感覚を頼りにその水面を調べて、探していた。待っていたのだ。その生き物がどれほど長い間待っていたのかは語りにくい。その間中その生き物は時間がほとんど知覚できない領域に住み着いており、総じてそれほど時間に興味を持っていなかったからだ。時間とは目的のある者が得るものであり、オネイロイとして知られるその生き物はそれを、もしくは少なくともあらゆる他の生物にそのように捉えられうる目的を欠いていた。その生き物の心を刺激し、そのような確固たる意図で以て静かに思考流域を注視させたものは...欲望だけだった。
恐怖の夢の香りが周囲に漂っており、オネイロイとして知られるその生き物は最初にその夢を捕まえるつもりだった。しばらく待ち続け、そして...波紋が水たまりに波打った。油の浮いた水面を大きく揺らしたのだ。1つの像、フラフラとした感情の一瞬の兆しが、落ち着かない眠りという麻痺に捕らわれていた。味や...それ以上のもののヒントだった。オネイロイとして知られるその生き物はユーモアも真の喜びも持ちえはしなかったが、にもかかわらずそれは次のことに気づいて満足感を見出したようだった。獲物は、闇の中を進む者たちの、その生き物に味わわせまいとする者たちの手中にあったのだ。その生き物はその者たちを嫌っていた。そのご馳走は、一口分でも彼らの手から直接盗めばますます甘く思えるだろう。
オネイロイとして知られるその生物は、思考流域から登ってきて準備のために自身の正面貯蔵庫へと後退した。思考流域のパターンから潜在的な標的について多くのことを知り、そうしてその生き物は自身の多くの節のある手足を正面貯蔵庫の柔らかい粘土に沈めて自身を形作り始め、目の前の仕事により適した形を取っていった。自身の欲望を満たそうとするオネイロイとして知られるその生き物がその欲望を満たせるように、その獲物にある感情の結合が促進され、信頼感を獲得した。潜在的な標的たちについて真に理解する感情能力を持っていないにもかかわらず、その生き物はなおもズル賢い存在であり獲物の振る舞いのパターンに詳しかった。
その生き物が取った形はこれをよく反映していた。触角は日焼けした表皮の層の下に覆われて消えた。がらんどうの眼球は温かなブラウンの目に置き換えられ、光に照らされて瞬くようにされていた。筋肉はまとめて一筋にされており、粘液状の透明な皮膜は骨と血管に置き換えられた。正面の貯蔵庫の粘土は、オネイロイとして知られる生き物のを人間のそれに変形させた。他人との嫉妬や競走にしばしば触発されるほどは若くなかった。年齢というものは尊敬か、少なくとも同情が求められるものだ。服装は単純だったがみすぼらしくなかった。直立姿勢であり、脅威的に見える点以外は自信ありげだった。その生き物は最後に最も重大なタッチとして、粘土の顔に優しく微笑みを作り、口や目じりに笑いじわを作って、思いやりのある思慮深いまなざしを目に込めた。その獲物は危うい位置にいただろうし、それを端に追いやるのに役立つのは、優しさを錯覚させること以上には無かっただろう。オネイロイとして知られるその生き物は、自身で生み出したその錯覚で満たされていることをぼんやりと誇らしく感じた。
自身の新たな姿に満足して、その生き物は思考流域に戻り触角(今は風にさらされて眉から落ちた細い銀の毛である)を自分の中に深く沈めた。流域に反映された例の夢の香りは...酔いしれそうなほどだった。苦い孤立と甘い恐怖、空しい希望の辛味と閉所恐怖症の刺激的な酸味。この恐怖の夢の全てが、その生き物自身の好みにピッタリ合っているように感じられた。オネイロイとして知られるその生き物はいつもならゴキブリほどに警戒心が強く、獲物にしたいものの精神を調べ感じ取ることに何日も費やしたであろうにもかかわらず、この夢の魅力は抗えないほどの程度を示していた。その生き物は、今夜それをいただこうと決めていた。
人間としての性質を積み重ねて、オネイロイとして知られるその生き物は自身を内側に折りたたみ始めた。肌は骨の中へ、髪は血の中へと。吐き気を催すほどのギシギシという音と共に、その生き物は自分の中に自分自身を何度も何度も押し込んでその姿をさらに小さくしていき、壊れてしまっていく間さえもそれに集中していた。その生き物が進んでいた夢路や夢見への道は、何の物理性質も許しはしなかったのだ。巡回する際は、その生き物の精神は自身を無傷のままに保たねばならなかった。この間の痛みは正気でなく筆舌にも尽くしがたかったが、オネイロイとして知られるその生き物は、その特質が渦巻いて眠りの狭き通路から滲み出るにつれ、すぐその価値を全て得られると考えていた。新鮮な精神を手に入れるチャンスと比較して、何が苦痛や分散なのだろうか?実に、全くもってそんなものは存在しなかった。全くもってだ。
その囚人は目覚めると灰色の風景に気が付いた。彼は最早この事態を不思議に思ってはいなかった、これが前回自分の夢で見た場所と同じだったからだ...彼は最早どれほど長く続いているか覚えていなかった。遠く離れた山々が雲に覆われた空を切り裂き、毛深い手が灰色の指で彼の世界の地平線を閉じていた。周辺環境をよく知っていたにも関わらずその囚人は諸々から離れ、歯をガタガタ鳴らして手を震わせた。この場所からは遥かな距離感や圧倒的な大きさが何とか感じ取れたが、こういった場所からも感じられるはずの解放的で自由な空気感はそこになかった。
その囚人はガックリ膝をつき手で頭を覆い、自分自身に見せないようにした。灰色の夢は具現化した抑圧であり、監禁が明確になった。彼にとって、その中でのことは起きている間の世界とまるで違わなかった。彼は少しの間だけ、何故捕獲者たちはここまで入念に彼の睡眠時間を覚醒時間と同じくらい支配下に置いたのか疑問に思ったが、一瞬のうちにこの思考は立ち消えた。本人は知らなかったが、彼にこういった類の熟考は許されていなかったのだ。しばらくの間、その囚人は幼稚に腹を立てて泣いたりその拳で乾いた地面を何度も殴る他に何もできず、運命の残酷さを嘆いた。その灰色の世界は、一切の関心なく彼が泣き叫びうめく声を受け入れていた。その囚人は、怒りのこもった非難や毒づいた罵倒を、空に、山に、ザラザラした灰色の地面に叫んだ。世界は関心さえ持っていなかった。その囚人は地面に小さな穴を掘り、乾いた地面の下に水分の手がかりがないか無意味に探した。もしこの世界があくびをしたり肩をすくめたりできたなら、きっとそうしていただろう。結局、その囚人はこんなことになる前に毎晩していたことを行い、ただどこへともなく徘徊をし始めた。何かを見つけられるとは全く期待していなかったが、それは避けられない目覚めまでの暇つぶしの仕方だった。しかし、今夜は違った。
灰色の小さい丘の上に男が立っていた。その背の高い体格は、何よりも純真に白いたなびく織物に身を包んでいた。優しく風にさらされた顔に深くはまった目は湿った地面の色をしており、温かく元気づけられるようで、光源のない光に瞬いていた。彼は年老いていたが華奢ではなく、その姿勢からは全くの自信が見せつけられるようだった。彼の立っていた地面は光り輝いており、光沢のない灰色が囚人のいた夢の中の刑務所の他の場所に溢れていたにもかかわらず、そこだけは鮮やかな暗灰色に置き換えられていた。その囚人には、男が見晴らしの良いところからゆっくり下り始めるのを、口をポカンと開けて見つめることしかできなかった。奇妙な男が囚人に近づく間、彼が裸足で踏みしめた地面の全ては金属質なオーロラ色に変えられた。彼が近づく間その微笑みは決して絶えず、囚人に近づいていく中で手を上げて挨拶までして、さながら2人は誰よりも旧知で親密な友人かのようだった。その囚人はその場で固まり、ついに男は彼のもとに辿り着いて気さくにその肩に手を置いた。それは正しいように感じられた。
「ああ、友よ。時間をかけすぎてしまったな。本当に長い時間を」
「俺は......いったい......」
「ハッ!いつもながら多弁で切れ者だな、全く!」
「あー。わ、悪いんだけど — アンタは誰だ?」
男はこの言葉に眉をひそめ、もたれかかって囚人の目をのぞき込んだ。どうやらその囚人がそこで見たものは何であれ彼を怖がらせたようであり、だから彼は首を振って素早くのけ反った。
「おや。かわいそうなやつだ。ヤツらは君に何をしたんだね?」その声には大いに悲しみがこもっていたが、驚いてはいないようだった。囚人は少しの間そのことについて考えたが、その疑念はすぐに男の愛想のいい笑みによってかき消された。彼は信頼できる友であった。実にそうだった。
「自分が誰だか思い出せるか、友よ?」
囚人はそれにどう返答すべきかわからなかった。彼は口を開いたが、その言葉は針の、繰り返し繰り返し天井のスピーカーから囁かれる命令の、そして目がくらむような閃光の煌めきに飲み込まれた。彼は代わりに黙ったままでい続けた。何はともあれその男は理解したようだった。
「落ち着け、なあ。ストレスを感じることはない。今は私がここにいる、私がここにいる間は何も君を傷つけには来ない」
囚人はこの言葉を信じる理由など持ち合わせていなかったが、自分が信じてしまっていることに気が付いた。「じゃあ、俺を助けてくれるのか?俺を......俺をここから出してくれるのか?」
男は首を振って、全身で悲し気にしつつ平静を保った。「やり直すことはできない。君にもわかっているだろう。君の肉体は...私の手の届かないところにある。ヤツらがそこまで低く沈むためには......」彼はそこで言葉を止めて、考えなおしたようだった。「できることはあるかもしれない、君が望むならな」
「何でもいい!頼む、何でもいいからここから出してくれ!灰色が、ここ全部のどんよりした雰囲気が、もう耐えられないんだよ!もう、もう —」
「落ち着け、落ち着くんだ。さっき私が言ったことは間違っていない。私は君をここから出してやれないんだ。そうしたとしても、君はなおヤツらの手中のままだろう。ヤツらはすぐに君を元の場所に投げ込んでしまうだろうよ」
「でも......あんたはできるって言ったじゃ —」
「できることというのは、もし君に代価を払う意志があるのならだが、『ここ』自体を変えてしまうことなんだ」
「どういうことだよ?」
男は一瞬周囲の灰色の世界を見て、ため息をつき、そして地面の座れる場所に腰を落とした。彼は囚人に同じようにするようジェスチャーで示した。「周りを見てみろ。何が見える?」
囚人は苛立った。「見えるもんなんてとっくに話しただろ。見えるもんなんて明らかだろうが、クソったれ!灰色と灰色とバカみてえな灰色だよ!」
男は微笑んで、悲し気に首を振った。「君は物事の表面を見ているにすぎない。ヤツらが君に見せているものだ、薬と心理学と拷問によってな。だが君は実状を見てはいないのだよ」
囚人は何も言わなかった。男は続けた。「私たちが座っている地面を見てみろ。周りにあるのとは別物だろう、違うか?」
確かに別物だった。先ほどまで男の足跡を取り囲んでいた光り輝く暗灰色は、今や丘全体を覆うように広がっていた。地面は触ると温かく、ほとんど展性があった。
「ここで見ているものこそが夢の真の土壌なのだ、お前を捕らえようとする者たちが作った偽の砂粒からあらわになった生の土壌だな。観察してみろ」
男は地面に手を下ろして、チラチラと光る土をこぶし大に掬い取った。彼はその土を親指と人差し指の間でこねくり回し、すぐに成形し始めた。金属質の地面がろくろの上の湿った粘土のように機能し...変形した。彼が手で最後のひと捻りを加えると、男は新たな創造物を見せた。今や、光り輝く紫色のプラムが手のひらの上に置かれていた。囚人はそれを信じられないという目で見つめていた。男は彼にそのプラムを手渡し、囚人はそれを受け取った。そのプラムは香しくて甘酸っぱく、彼がここ数か月で味わってきた何よりも素晴らしかった。男は地面から新たなこぶし大の土を取って話し続けた。
「この地形には無限の可能性が含まれている。もし自分が今みたいに投獄されていなければ何ができたか想像してみろ。今の苦境は唯一の問題ではないのだ、なあ。君の牢獄はコンクリートでも鎖でも人でもない。君は捕らわれているのだ、肉体に、飢餓と疲労に、罪にな。そういった全てから自由だったら何ができたか考えてみたまえ」男の手は話している間も動き続け、土をこねていた。
「今は最早何も考えるな、己自身から立ち去ってしまえ。夢の中に住むのだ、夢の中だけに」男は手を開き、明るい青色の鳥がそこから現れて飛び立った。「やるんだ」
囚人は、自分がこの意見に反対する意思を持っていないことに気づいた。彼は大して気にしていなかった。手のひら大の光り輝く土を手に取り、彼は自分の手を開いた。その土を流した。
そうだ......
オネイロイとして知られるその生き物は、まさに味わう寸前だった。ここまで簡単だとはその生物も想像していなかった。捕獲者たちは今回度を超してしまい、その囚人の命を耐えがたすぎるものにしてしまった。彼を自身の現実から切断するのはほとんど慈悲だった。その生き物には、どうして捕獲者たちが囚人たちを寝ている間苦しめたがるのか理解できなかった。それが捕食者たちについて知っていることによれば、普通は彼らが無意味に残酷な行為をしたりはしないのだ。恐らく、開かれていて弱い精神の香りがここまで美味そうなものでなければ、その生き物はそれ以上思案しただろう。恐らくもっと用心深かっただろう。だが、見せかけの人間の姿を振り払って不運な囚人に飛び掛かるほどに思案などしておらず、ボロボロで苦しんでいた彼を鉄ばさみで柔らかい皮を切り取るかのようにバラバラにした。最初に美味なひと噛みをして、下に置かれた罠が発動したのに気が付いてから、ようやく自身の失敗に気が付いた。その時には、最早手遅れだったのだ。
2人の人影が強化ガラス製のパネルの向こうから、その囚人のやつれて衰えた人影が身をよじり叫ぶのを眺めていた。その背の高い浅黒肌の女と背の低い青白肌の男は、その生き物が逃げようと無駄に足掻くのを平然と見つめていた。
「アイツ、罠にかかったわね。やってやったわ、私たち」女は、シャープな鼻にかけた細いメタルフレームの眼鏡をいじりながら言った。
「ああ、実験は完璧に成功だった。アレはもうホストの身体から離れられない」男は、小太りの体型の上に羽織った少々白すぎる白衣をはたきながら言った。
「それで、被験者は?」彼女は尋ねた。
「逝ってしまったんだろう。予測通りだな」
「私たちはもう一度世界を守ったわけだけど。でもコストはどれくらいになるの?」
「我々の任務にかかるコストなど大したものではない。我々はあの生物を確保し、今や収容している。我々は世界を保護したのだ。たったそれだけのことだ」
「これは人間だったのよ。私たちは自分たちを人間以下のものに変えているわね。化け物に」
男は女に振り返った。彼らの目が合った。
「もしまだ私が君を愛しているとしたら、我々が化け物であるはずはないだろう?」彼は、無表情のまま彼女に真剣なまなざしを向けながら尋ねた。
「前にも言ったけど、もうあなたを愛せはしないのよ。自分の悲しい過去がひどく怖くて仕方がないの」
「我々は自分たちの務めの中で実に多くを失ってしまったな」小太りの男のまぶたのすぐ下で、何かが痙攣した。彼の青白い顔にゆっくりと微笑みが作られた。
女は、自分自身で笑みを作って答えた。「難しい話よね、ずっと。人類は苦しんできた......あー。すごく苦しんできたのよ、ええ。私たちは保護しなければいけない。そうよ」
「確保・収容・保護だな。全てのためになる。犠牲とこういったことだ。プロトコルと残酷なこと。我々全員が感じてきたのは......己が運命の残酷さだったわけだ。ヒヒッ」
「ただでさえ酷いのに、もっと酷くなっていくものね。あなたが人生の中で悲しい出来事の惨い証を感じてきたのは知っているわ。あなたの妹さん、フフッ、異常なキツネザルに致命傷を負わされたりはしなかったのよね?」
「いいや、間違っていない。私の家族はこの事件から回復できなかった。父は、彼も研究者だったのだが、その日の後に、ヒヒヒ、いかにもな血の復讐をしたのだよ。彼は超自然的な起源の霊長類を根絶やしにすると誓ったのだ」
「ああ、そうだったわね」女は固まり、その後わざとらしく息をのんだ。「待って!今まで気づいてなかったのだけど!あなたのお父さん、ブフッ、あー、お父さんは68年縞尾血戦を引き起こした人だったわね!私があのアライグマ盗賊団のせいで夫を亡くしたのはあなたのせいだったのよ!」
「彼は私たちのためにやったのだ、リンダ!私たちのためにな!」
「私をリンダと呼ばないで、この — ブフッ、ハハハ!ああ全く、やめてよ、そのバカみたいな顔!」女は笑い、シリアスな雰囲気の痕跡は全部どこかに行ってしまった。彼女は男の肩を強く叩いた。
「おっと!ハハハ!ごめんよ、これ以上は自分じゃどうにもできなかったんだ!血にまみれた財団か、アイツらは一体どうやってこんなたわごとについていってるんだ?」
「私に訊かないでよ、ねえ。バカみたいに疲れる話に聞こえるわ。私たち、あの人たちをちょっと騙しちゃったんだと思わない?」
「知らんよ。多分違うんじゃないか?我々はそれについて明らかすぎる手段だったんだと思う、それで実際のものよりもくだらない茶番を演じたんだ」
「あー、そうね、とにかくねじれの1つとして数えられるとは思うわ。それが例の物を手に入れた財団で、その他もろもろでなかったと気づいていると彼らに思わせる。あれは重要な事例じゃないかしら?」
「フーム。実際、確信はない。確かめるのはきっと良いアイデアだろうな」
「それを困らせるだけじゃ傷つけることにはならないと思うのよね。結局、全部その目標のためなのよ。さあ、あなたにやらせてちょうだい。じっとしていてね」
そう言うと、女は自分の額が男のそれに当たるまで屈んだ。2人がそうすると、ほぼ全知の読者の目にさえ何が書いてあるか全く読めないほどのスピードで、彼らの間に書状が送られてきた。それでも、読者は満足感を得た。女はのけ反り、2人は互いの手をしっかりと握った。
「ああ!」彼女は言った。「あの共同独立体は幸せね、ヒヒ!私たちは事を面白くしたのよ!今や読者たちは注目するでしょうね」
「ああ、そしてその共同独立体とは我々のことさ!」
「いつか伝え合う日まで生き続けるわよ。興味がある限りはバカほどサイコーでいなくちゃ」
「フーム。君はあの生き物に何かできると思っているようだがね?そんなことをしても怒らせるだけでひどく無駄な気がするよ」
「まあ、ほんのちょこっと紫色だけれど、躾ならできるとは思うわよ」
「おー、目玉商品として使えるってわけか!それは良いだろうな」
「良いなんてもんじゃないわ。面白くなるわよ」
2人は一瞬沈黙したまま立ち、互いの満足を感じ合っていた。ついに、女は男の頭を軽く叩いた。「それじゃあここでの用事はおしまいね」
「つまり......」
「飲み会?」
「飲み会だな」
そう言って、2人は立ち去り始めた。そうして、彼らは白すぎる白衣を床に投げ捨てて元気よくそれを踏みつけた。まだ中で囚人が叫び続けているそのチャンバーを立ち去ると、男が尋ねた。
「アイツらは最初の取引に成功したと思うか?」
「えっ。彼らはいつでもただ足元を見ていられるじゃない」