アイテム番号: SCP-619-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-619-JPに指定される区域への立ち入りは管理者の許可を得た上で行われます。現在停止されています。エリア上空への一般航空機及び飛行機器の侵入を防ぎ、区域内の視覚情報の流出を防いでください。自治体などの外部からの情報提供の要請には虚偽のデータが使用されます。
説明: SCP-619-JPは長野県山間部、███市と██市の境界線上に存在する半径600m程の区域です。区域内は未整備林地帯となっており、平坦な土地であるもののこれまで人が住んだ記録は残されていません。目視ではこの場所の異常性は確認できませんが、この区域内を何らかの手段により映像記録として観測した場合、そこには現実のSCP-619-JPとは異なる光景が映し出されます。これをSCP-619-JP-Aと指定します。
SCP-619-JP-Aは外見上寂れた小規模山間集落であるように見え、区域正面を通る未舗装道路と、その片側に沿って並ぶ小規模商店街の形態を成した家屋群が観測されています。家屋の多くは明りがついており、なおかつ壁面やポール・広場に存在する簡易ステージといった建造物を繋ぐように点灯された提灯コードが掛けられています。SCP-619-JP-Aの光景は実際の気候や時間帯に依らず、常時12月31日の夜間とみられる環境を維持していると考えられます。
SCP-619-JP-A内部には、行動能力を持った人型の実体(SCP-619-JP-1と指定)が存在します。SCP-619-JP-1は現在約400体の存在が確認されており、そのほとんどは主に中高年から老年とみられる男女の姿をしていますが、現在これらの人物の特定には至っていません。これらの存在はSCP-619-JP-A範囲内においては現行人類と同様の行動が可能であると判明しています。SCP-619-JP-1との意思疎通は、映像機器による撮影時に使用者が口頭で発話する事により、録音音声を仲介して行う事が可能です。SCP-619-JP-1はこちらからのコンタクトには友好的に応じるものの、自発的に探索者への接触を行う事はありません。詳細は以下の資料を参照してください。
探査ログ:619-JP-α-5
対象:SCP-619-JP-A
探査者:D-18925
担当者:千賀博士
日時:2013/06/██
付記: D-18925にはビデオカメラを所持させ、映像・音声をリアルタイムに視聴させる。担当者の指示は通信機により行われ、映像・音声データは探査担当班に常時送信される。
<記録開始>
D-18925: おい、電源入れたぞ。どうすりゃいいの、これ。
千賀博士: カメラを構えて記録を開始してください。
D-18925: あいよ...って、...は?なんだこれ。真っ暗じゃねえか。しかも奥にボロ屋がある。どうなってんだよ。(D-18925はカメラと風景を繰り返し交互に眺める)
千賀博士: そのまま撮影を続けてください。
D-18925: ...なんか誰かいるぞ。映像の方。ちっこい婆さんが歩いて...あ、家の戸が開いて爺さんが出てきた。ああ、向こうにも少し歩いてる。おっさんっぽいのと、小さい子供が一人だけ。なんだこりゃ、村か何かか?
千賀博士: もっと彼らに近づけますか?
D-18925: やってみる...はいいとして、ややこしいな。映像じゃ砂利道が写ってるけど、実際足元は倒木と雑草と岩だらけじゃん。転びそうだよ。
D-18925: ついたぞ。建物がいっぱい...て程でもないけど、何軒か続いてる。"██酒店"、奥のは"金具屋██"て、看板とこボヤけてるが書いてあるな。小さいけど商店街みたいな感じか。電柱とか家に長いコードで電球がぶら下がってる。祭りで提灯代わりにぶら下がってるようなのだな。周りは...何人か歩いてるな。爺さん婆さんばっかりだけど。気味が悪ぃ。
千賀博士: 彼らはあなたに何らかの反応を見せていますか?
D-18925: いや何にも。てか、この映像そっちで見てんなら分かるだろ。声掛けてみるか?
千賀博士: まだ結構です。そのまま道に沿って建物や周囲の様子を撮影してください。
D-18925: はいはい...商店街の後ろ、奥の方にもいくつか平屋?があるな。ど田舎の農家が住んでるようなの。畑や...多分田んぼもある。建物は電気が点いてるのが多いな。そっちもちらほら人がいる。
千賀博士: 何か気になる事はありますか?
D-18925: そうだな...道とか屋根とかに雪が残ってるな。歩いてる奴らもみんな着込んでる。こいつらの世界は冬なのか?千賀博士: 興味深いです。
D-18925: あ、ハカセ、なんか広場みたいなのがある。真ん中に鉄パイプのステージがあって、その周りにかなり人がいる。話してたり、座ってボーっとしてたり。"███村公民館"て奥の建物に書いてあるな。壁の時計は...11時50分。その下の掛け看板は...「ようこそ2000年」「新生███村に関する公表会」...あと、あちこちに「あけましておめでとう」って書いてある。辰の置物に、門松まであら。なんだありゃ。千賀博士: 周辺のものを、できるかぎり鮮明に撮影してください。
(D-18925は周囲を撮影しつつ、ステージ横のテントに近づく)
D-18925: ...なんか机に資料みたいなのが置いてあるな。さわ...れねぇ。手がカメラには映るけど通り抜けちまう。1枚目だけだけど、見えるか?千賀博士: 少しそのままお待ちください...ありがとうございます(※(注記)記録資料619-JP-β-21を参照)
D-18925: で、どうすればいい?目に映るもんは粗方撮ったぞ。千賀博士: では、SCP-619-JP-1との接触に入ってください。誰でもいいので、映像に映る人物に話しかけてみてください。
D-18925: じゃあ...おい、婆さん。(D-18925は映像内近辺に存在したSCP-619-JP-1実体に接近する)
SCP-619-JP-1: ええ?あぁ、おめでとうございますぅ。
D-18925: は?あ、ああ、おめでとう。SCP-619-JP-1: 見覚えないけど、麓の若いのかや?
D-18925: ええっと...どうすりゃいい。千賀博士: 会話を続けてください。
D-18925: えっとな、近くの人間じゃないんだけど、ちょっと用があって来てるんだ。SCP-619-JP-1: まぁまぁ、こんな何も無い村にそんな寒い姿ではるばると...せっかくの大晦日なんだから、公民館で酒でも飲んでゆっくり暖まっていってくださいな。もうすぐ、村長さんがそこの舞台でお話しくださるの。
D-18925: 村長?SCP-619-JP-1: ほら、そこの白い上着の色男。ちょっと頭が寒いけど。アヒャヒャ...
D-18925: ...どうする?千賀博士: 接触を行ってください。
(D-18925は指された先の実体に接近する)D-18925: おい、あなたが村長さん?
SCP-619-JP-1: ...え、ああ!すみません、ちょっと原稿読んでたもので...
D-18925: ...何か、話すんでしたっけ?SCP-619-JP-1: ええ、あと10分、12時ちょうどに大発表ですよ...ところで、あなたは?
D-18925: あ、ちょっと用があって立ち寄ったって言うか。SCP-619-JP-1: そりゃいい!公民館で酒と年越し蕎麦を配ってるんで、どうぞゆっくりなさってください。せっかくの大晦日、最後の1900年代なんですもの、楽しみましょう!
D-18925: え...まあいいけど。ところで、何の大発表があるんです?SCP-619-JP-1: こんな寂れた村で名所もなく、若者はみんな麓や都会に行っちゃいました。もうすぐここも廃村か、という所で助けてくれた方々がいるんです。「███村を永遠に残る思い出の場所へ!」って再興計画を立てて頂いたんですよ。しかもボランティア!もういらっしゃるはずなんですが...
D-18925: 姿が見えない?SCP-619-JP-1: まぁあと10分ありますし、ギリギリでいらっしゃるでしょう。
D-18925: ...気になってたんだけど、さっきからずっとあの壁の時計"11時50分"のまんまだよ。壊れてんじゃないの。SCP-619-JP-1: まさか!あれはこの村で一番新しい電波時計ですよ。それにほら、私の腕時計だって。
D-18925: ...その時計、秒針が同じ所を行ったり来たりしてるぞ。(対象が口ごもる。千賀博士以下の担当職員はこの異変を察知しコンタクトへの介入を協議する)
D-18925:そもそも今2013年だし。おたくらいつの人間?
千賀博士: 会話内容を自重してください。
D-18925: え、ああ。じゃあ、そのボランティアの人たちって、どんなひと?SCP-619-JP-1: ...。
D-18925: おい。
SCP-619-JP-1: 20...13年。
D-18925: は?SCP-619-JP-1: そうだ。...ずっと...昨日も。一昨日も。13年。何度も待ってた。
D-18925: どうした、急に、SCP-619-JP-1: あの人たちは...来なかった。あと10分で、10分経っても、いや経たなかった。忘れてた。私は...ずっとスピーチ台の前で...
D-18925: おいSCP-619-JP-1: 忘れてた。みんな、忘れてた。あまりにも長すぎた。気づけなかった。いや気づいていた。わからなくなっていた。
(映像内周辺にSCP-619-JP-1が集まって来ている事にD-18925が気づく)SCP-619-JP-1: 永遠だった。ここは永遠だ、そういう事か。再興なんかじゃない。こういう事だったんだ。わからなかった。あいつらは、
D-18925: おい!何だよおっさん、あ、え、さっきの婆さん なんでみんなこっちに来るんだよ!...何で見てるんだよ!SCP-619-JP-1: あんたは違う。私たちが違う。消えている。あんたの身体、私たちには、たすけてくれ、つれてってくれ、ここは違う、この村は、もう、ない、わたしたちも
(硬直するD-18925の持つ映像画面にSCP-619-JP-1が張り付く)
SCP-619-JP-1: ここから出してくれ。
<記録終了>
終了報告書: D-18925は映像機器を放棄して逃走。間もなく確保されました。検査の結果身体的異常は見られませんでしたが、精神面に本件が起因と思われる錯乱と一種のパラノイアと考えられる症状が見られました。記録のためD-18925の様子を機器により撮影したところ、歪な姿をした存在がその身体に「抱きつくように」半ば溶け込んで映し出されました。未知のミーム的影響を考慮し、D-18925は閉鎖空間での短期間の追加試験の後終了されました。放棄された映像機器には、逃亡するD-18925を凝視するSCP-619-JP-1群が機器が回収されるまでの間記録されていました。
補遺:後日別のDクラス職員を用いたSCP-619-JP内追探査が行われましたが、前探査時とは異なり、SCP-619-JP-1群は撮影開始とともに探査者を知覚。無言で探査者の元へと接近する姿が確認されたため追探査は中断されました。再開の程は未定です。
記録資料619-JP-β-21
以下は探査ログ:619-JP-α-5内にて映像記録から解析された資料の一文です。
平成11年12月31日
█████村長及び███村の皆様へ
有限会社 如月工務店
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、この記念すべき区切りとなる時に███村の皆様との貴重な絆を結ぶに至りました事、大変喜ばしく思います。
この時代、地方村落の過疎化は全国的に憂うべき問題でございます。人々と自然が調和し、伝統を重ね永くの時を共にしたこのような集落はまさに人々の心の故郷であり、財産であり、永遠に守るべき大切な宝のような存在です。この度皆様のご依頼でありました「永遠に残る███村」のご希望に沿う為、弊社一同心を込めて全力で向かわせていただきました。
本日深夜、記念すべきミレニアムの瞬間に、私達は皆様に「永遠の███村」をご披露致しましょう。
微力ではありますが、笑顔溢れる皆様の助力となれました事、大変嬉しく また誇りに思います。
この笑顔の村が終わりなく続く事を祈り、締めの言葉とさせていただきます。皆様の今後より一層のご発展を、心より祈念申し上げます。
謹白