クレジット
タイトル: SCP-2468-JP - うたかた
著者: fish_paste_slice fish_paste_slice
作成年: 2020
財団記録・情報セキュリティ管理局より通達
あなたが現在閲覧している文章は、参照のためにアーカイブされた過去版です。
この文書は1957年8月1日に編集されており、事実と異なる情報が含まれる可能性に注意して下さい。
— 財団記録・情報セキュリティ管理局
アイテム番号: SCP-2468-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2468-JP-1は死亡により無力化されています。死体のサンプルはサイト-81██の低温収容室で保管してください。SCP-2468-JP-2は標準的な人型生物収容房に収容され、常に2名のセキュリティスタッフが収容室を監視します。月に一度、サイト管理官の許可を得て、書籍等の娯楽品を提供することが認められています。実験でSCP-2468-JP-aを用いる場合は上限を400ccとし、実験後はただちに同量のA型の血液を輸血してください次の実験まで最低16週間の間隔を空けて下さい。SCP-2468-JP-2はナッツアレルギーを有しており、摂取した場合は重度のアナフィラキシーショックを引き起こすことに注意して下さい。
説明: SCP-2468-JPは異常な血液を有するモンゴロイドの女性の総称です。 これまでに2実体が収容され、それぞれSCP-2468-JP-1、SCP-2468-JP-2にナンバリングされています。また、SCP-2468-JP-1及び2は指紋が一致するとともに、同じ戸籍上の本名(█████)と生年月日(1940年██月██日)を主張しますが、身体的な特徴が異なり、その記憶にも齟齬が見られます。
SCP-2468-JP-1及びSCP-2468-JP-2は共通して以下の異常性を有します。この異常性を除き、同年代のヒトとの差異はありません。
- 血液が空気に触れた場合、紅葉したイロハモミジ(Acer palmatum)の葉(以下、SCP-2468-JP-aと呼称)に変化し傷口に覆い被さる形で付着します。体腔内で出血した場合も同様の異常性を発現しますが、皮下出血時には異常性は見られません。ヒトの血液を輸血した場合は問題なく機能し、体外に出た場合はSCP-2468-JP-aと同様の異常性を発現することが確認されています。エックス線回転横断撮影装置及びR/B多稼働体腔内カメラでは消化器・循環器に異常は見られず、体内においては非異常性の血液と同様の働きを持つと考えられます。
- 傷口に付着したSCP-2468-JP-aは軽微な止血効果を有し、傷口に付着した場合は通常よりも負傷が早く回復します。しかし多量の出血を伴う負傷に対しては傷口に付着できず、外科的な止血が必要となります。また、この止血効果はA型の人間であれば同様の効果を示します。止血が完了すると、SCP-2468-JP-aは自然に剥離し、その後は異常性を失い乾燥/腐敗します。
- SCP-2468-JP-aを用いて物質を覆い隠した場合、生物非生物を問わずその物質は消失します。この"覆い隠した"とは、直接的な接触の有無に関わらずSCP-2468-JP-aで物質の全面積が遮蔽された状態を指します。消失した物質は現在まで発見されておらず、小型無線送信装置を用いた実験では、消失後の信号は観測されていません。SCP-2468-JP-2の証言から、消失した物品は異常空間(SCP-2468-JP-bと呼称)へ転移していると考えられますが、この異空間の観測には成功していません。
- SCP-2468-JPの生命活動が停止した場合、体内に残された血液は全てSCP-2468-JP-aに変化し、大量のSCP-2468-JP-aが体内/体外に出現すると共に、堆積したSCP-2468-JP-aの内部から新たなSCP-2468-JP実体が出現します。この異常性はSCP-2468-JP-1でのみ確認されていますが、SCP-2468-JP-2も同様の異常性を有すると考えられます。
SCP-2468-JP-bはSCP-2468-JP-aにより消失した物品が転送されると考えられている異常空間です。空間内部を観測する試みは失敗しており、SCP-2468-JP-bに関する情報はSCP-2468-JP-2の証言から得られたもののみです。証言によればSCP-2468-JP-b内部は空間全体にSCP-2468-JP-aが堆積しており、SCP-2468-JP-a以外の存在は見られません。この空間は"堆積した落ち葉の中を潜るように"移動することが可能ですが、空間の広さに関する情報は得られていません。また、空間内を移動することでSCP-2468-JP-bから脱出できますが、その原理は解明されていません。SCP-2468-JP-2はSCP-2468-JP-1といくつかの点で差異が見られることから、SCP-2468-JP-bには更なる異常性が存在すると考えられます。
SCP-2468-JP-1は1945年██月██日、蒐集院より財団へ引き継がれました。蒐集院の記録によればSCP-2468-JP-1は194█年██月██日、██県██市が空襲時を受けた翌日、蒐集院により発見・確保されました。SCP-2468-JPの両親は空襲により死亡したと見られたため、SCP-2468-JP-1は戸籍上は死亡したと扱われています。当時の担当者であった笹舟研儀官が行った調査ではSCP-2468-JP-1の両親や親族に異常性は確認されませんでした。また呪術的・心霊的な痕跡も見られず、その異常性の起源は不明です。当初はSCP-2468-JPに指定されていましたが、1953年4月30日に死亡・無力化し、SCP-2468-JP-1に再分類されました。詳細はインシデントログ-2468-JP/1953/04/30を参照して下さい。
SCP-2468-JP-2はインシデント-2468-JP/1953/04/30によりSCP-2468-JP-1が死亡した直後、SCP-2468-JP-1の体内から出現した人型実体です。外観はSCP-2468-JP-1に酷似し、サウンドスペクトログラムを用いた検査では高い確率で声紋も一致しますが、初歩的な英語能力しか有さず、左腕を中心に広範囲の火傷跡を有する等いくつかの差異が見られます。また、SCP-2468-JP-2の証言には財団の記録と一致しない点が多々見られます。下記は差異のある記録の抜粋です。その他の記録については別資料2000JPdisを参照してください。事項 | 財団の有する記録 | SCP-2468-JP-2の証言 |
---|---|---|
収容以前の経緯 | 194█年██月██日、██県██市が空襲時を受けた翌日、蒐集院により発見・確保された。 | 194█年██月██日、██県██市が空襲時を受けた際に左腕を負傷、翌日蒐集院により発見・確保された。 |
研究担当者/蒐集院 | 笹舟次郎太研儀官 | 黒陶由倉研儀官 |
研究担当者/SCP財団 | ルーク・マクラージン博士 | ランドルフ・バクフ研究員 |
アイテム番号 | SCP-2468-JP | SCP-████-JP |
黒陶由倉研儀官は蒐集院解散後にエージェントとして財団に雇用されており、SCP-2468-JP-2については蒐集院時代にその存在を認知していたものの接触したことは無いと証言し、これは他の蒐集院関係者の証言や蒐集院の記録により裏付けられています。また、バクフ研究員はSCP-2468-JPに関する知識を有していません。しかし、ポリグラフ検査の結果はSCP-2468-JP-2の証言が虚偽である可能性は低いことを示しています。この矛盾点について、SCP-2468-JP-2の記憶の混濁/改変された可能性、SCP-2468-JP-2はSCP-2468-JP-1の二重存在ドッペルゲンガーである可能性、或いは時間異常による局所的な歴史改変が発生した可能性が指摘されていますが、詳細は不明です。
付記/1957/8/1: 定期健康診断の結果、SCP-2468-JP-2が黄疸の兆候を示し、更なる検査の結果肝炎を発症していることが確認されました。機動部隊員やDクラス職員等にも同様の症状の報告があることから、発症の原因は輸血である可能性が高いと考えられます。当面はSCP-2468-JP-2の治療が優先され、実験でSCP-2468-JP-aを用いた場合は輸血ではなく自然治癒により血液を回復させて下さい。SCP-2468-JP-2の治療にアノマリーを用いる申請については現在審議中です。
発生日時: 1953年04月30日
内容:
14時20分: SCP-2468-JPが突如意識を失い昏倒する。呼吸停止及び全身に発疹が見られ、ただちに医療チームが招集される。
14時28分: 医療チームが到着し治療が開始される。
17時43分: 症状は改善せず、SCP-2468-JPの心肺が停止する。直ちに蘇生措置が行われる。
18時30分 蘇生には至らず、担当研究者であるマクラージン博士により死亡及び無力化が宣言される。
18時40分: SCP-2468-JPの身体が膨張を開始し、口部等の開口部よりSCP-2468-JP-aが排出され始める。直ちにセキュリティチームが招集される。
18時52分: SCP-2468-JPは更に膨張を続け、18時52分に腹部が破裂し大量のSCP-2468-JP-aが出現する。腹部の破裂と共にSCP-2468-JPの膨張・SCP-2468-JP-aの排出が停止する。
18時56分: 出現したSCP-2468-JP-aの塊が崩れ、内部よりSCP-2468-JPに酷似した人型実体が出現する。人型実体は左腕を負傷しており、SCP-2468-JP-aに酷似したイロハモミジを傷口から排出している。また、実体は酷く混乱した様子が見られる。
18時58分: 出現した実体がセキュリティチームにより拘束され、鎮静剤を投与されるとともに負傷の治療が開始される。
付記:
後に行われた検査により、SCP-2468-JPの死亡は直前に提供された昼食に含まれていたカシューナッツにより、アナフィラキシーショックが引き起こされたことが原因だと考えられています。
対象: SCP-2468-JP-2
インタビュアー: マクラージン博士
付記: このインタビューはSCP-2468-JP-2の出現後に初めて行われたものである。また、インタビュー時点ではSCP-2468-JP-2へナンバリングはされていなかった。
<録音開始>
マクラージン博士: SCP-2468-JP, Are you calm?
SCP-2468-JP-2: [沈黙]
マクラージン博士: SCP-2468-JP?
SCP-2468-JP-2: あ...アイキャントスピーク、イングリッシュ...
マクラージン博士: hum?...アー、それでは、SCP-2468-JP、あなたへ日本語でインタビューを行います。あなたは落ち着いていますか?
SCP-2468-JP-2: 少し、混乱してます。SCP-2468-JPって私ですか?私は、SCP-████-JPではないのですか?
マクラージン博士: 発言の意味がわかりません。我々はずっとあなたをSCP-2468-JPと呼んでいます。
SCP-2468-JP-2: そんなはずありません。私はずっとSCP-████-JPと呼ばれていました。それに、何で今日はランドルフ先生がインタビューをしないんですか?
マクラージン博士: ランドルフ...ランドルフ・バクフ研究員ですか?なぜ彼の名前が出てくるのですか?
SCP-2468-JP-2: だって...これまで、こういうのとか実験とかは、ランドルフ先生がやってたじゃないですか。
マクラージン博士: hum...どうやら、我々の間には意見の食い違いがあるようですね。ひとまず、我々はあなたをSCP-2468-JPと呼びます。そしてSCP-2468-JP、あなたのことを我々に説明してください。
SCP-2468-JP-2: 私のことですか?
マクラージン博士: はい。一度情報を整理したい。あなたの生い立ちから、今日までのことを話してください。
SCP-2468-JP-2: ええと...まず...私は█████という名前です。1940年██月██日生まれです。██市の███ってところに住んでいましたが、小さい頃に空襲に遭って...父ちゃんと母ちゃんともはぐれて...怪我してたところで、蒐集院に助けられたんです。
マクラージン博士: 怪我というのは、その火傷の痕の事ですか?
SCP-2468-JP-2: ...はい。空襲の時に飛んできた火が服に燃え移って、こんな風になって...
マクラージン博士: 気分を悪くしてしまったなら申し訳ない。話を続けてください。
SCP-2468-JP-2: はい。蒐集院に助けられて、それからはずっとそこで過ごしていました。時々血を採られて、色々調べられて、私の血が普通じゃ無いことも教えられました。その頃私の面倒を見てくれたのは、黒陶さんです。そのうち、戦争が終わって、蒐集院がなくなって...黒陶さんがここ...財団に行って、私も財団に来ました。財団では、ランドルフ先生が担当になりました。コンクリートの部屋に入れられて、血を採られたり、検査をする時だけ外に出られました。それ以外は部屋の中でずっと本を読んでいました。
マクラージン博士: hum...あなたは、笹舟次郎太研儀官のことは知っていますか?
SCP-2468-JP-2: 知っています。でも、戦争中に亡くなったそうです。
マクラージン博士: なるほど。では、SCP-2468-JP、あなたがSCP-2468-JP-a...あなたの血液が変化したイロハモミジから出現した理由を話してください。
SCP-2468-JP-2: ええと...あの時、私は本を読んでいました。そうしたら、突然警報が鳴り響いて...
マクラージン博士: 警報?
SCP-2468-JP-2: はい、部屋の外が急に騒がしくなって、銃声や爆発音が聞こえてきて...外で誰かが、襲撃とかカオスとか叫ぶ声も聞こえました。空襲を思い出しました。扉が開かないから逃げられなくて、助けを呼んでも誰も来てくれなくて、でも爆発音や叫び声がどんどん大きくなっていって...いきなり、へ、部屋の壁が、爆発したんです。壁に大きな穴が空いて、コンクリートの破片が飛び散って、穴の向こうから、じ、銃を構えた人が見えて...
マクラージン博士: 顔色が悪いです。大丈夫ですか?
SCP-2468-JP-2: その人と、目が合いました。肩がいきなり熱くなって、血が...モミジが吹き出して、撃たれたんだと分かりました。肩が痛くて、モミジがどんどん出てきて、手で押さえても止まらなくて、床にモミジがどんどん積もって行っていきました。どうしたらいいか分からなくて、寒くなって...モミジの上に倒れていました。肩からはまだモミジが吹き出していて、モミジが私の上に積もって行きました...力が入らなくて、空襲を思い出して、ああ、これで死ぬんだと思いました。そして多分、気を失って...目が覚めると私は、ものすごくたくさんのモミジの中にいたんです。
マクラージン博士: たくさんの...モミジの中、ですか?
SCP-2468-JP-2: はい。上も下も前も後ろも、モミジでした。私はモミジに埋まっていました。肩からまだ血が出ていましたが、不思議と痛みはありませんでした。起き上がろうと手を動かしても、下にあるはずの床は無くて、モミジを掻き分けるだけでした。頭の上に積もったモミジも同じでした。いくらモミジを掻き分けても、モミジしかありませんでした。まるで水の中にいるみたいに。光はぼんやりと届いていて、モミジの赤い色は分かりました。息をするとモミジが鼻や口に入ってきましたが、苦しくはありませんでした。暖かくて、静かで、モミジしかないところでした。これまで私から出たモミジで消されたものは、ここに来たのかな、そんなことを考えていました。
マクラージン博士: どれほどの期間、そこにいましたか?
SCP-2468-JP-2: それほど長くはなかったと思います。1日も経っていないと思う。
マクラージン博士: どのようにそこから脱出しましたか?
SCP-2468-JP-2: モミジの中でぼんやりしていると、かすかに音が聞こえたんです。大勢の人が叫んでるような声が。それで、声の方に進んだんです。モミジを掻き分けていくと、声は大きくなっていきました。そうやって、声がすぐそこで聞こえるほど近くなったら、いきなりモミジの外に出られたんです。外の空気を吸ったら、肩がまた痛くなって、血が吹き出して、下を見たら、足下にはモミジと、グチャグチャになった人がいて、それは、わ、私と同じ、同じ顔をしていて...痛いし、モミジが出るし、何が何だか分からなくなって、機動部隊の人に押さえつけられました。
マクラージン博士: それが、昨日のことなのですね?
SCP-2468-JP-2: はい...
マクラージン博士: あなたはこれまでに、そのモミジしかない場所へ行ったことはありますか?
SCP-2468-JP-2: ありません。
マクラージン博士: そこで、モミジ以外に見たり、聞こえたものはありませんか?
SCP-2468-JP-2: ありませんでした。モミジの中に埋まっていたから、あったとしても、分からなかったと思います。
マクラージン博士: hum...なるほど、とても興味深いのですが...随分具合が悪く見えます。今日はこの辺にしましょう。
SCP-2468-JP-2: あ、あの。
マクラージン博士: 何でしょうか。
SCP-2468-JP-2: 私と同じ顔をしていたあの子...誰なんですか。え、SCP-2468-JPって、あの子のことじゃないですか?私は、あの子じゃないです...違いますよね?
マクラージン博士: ...それは、これから判断します。
<録音終了>
終了報告書: SCP-2468-JPと彼女の体内から出現した人型実体(仮にSCP-2468-JP-2と呼称します)は、SCP-2468-JPとは肉体的にはほぼ同一の存在と言えるでしょう。しかし、その記憶は我々の有する記録とは異なっています。この証言に偽りや誤りがないのならば―何らかの要因によりSCP-2468-JPの過去が改変され、局所的にその影響が現れたという可能性が考えられます。
――勿論、事態はもっと単純で、SCP-2468-JP-2は不明な原理で蘇生したSCP-2468-JPであり、その記憶に混濁が起きているだけなのかもしれません(寧ろこの可能性の方が高いでしょう)。いずれにせよ、我々はSCP-2468-JP-aについて再度調査を行う必要があります。
――オブジェクト担当主任 ルーク・マクラージン博士