クレジット
A███氏へと送付された迷惑画像の1例、同封メッセージとして"猫は甲虫も食べるぞ!"と添えられていた。
アイテム番号: SCP-1936-JP
オブジェクトクラス: Safe Neutralized
特別収容プロトコル: 現在、SCP-1936-JPの新たな活動は確認されていません。
SCP-1936-JPの再発生防止を目的に、専用Webクローラーを用いて全ての主要なインターネットサービスを監視します。A式睡眠法に酷似するプロセスを紹介する文書・文献等が検出された場合、それら情報資料は即座に削除され、投稿を行った人物の特定が行われます。その後、投稿者は一時的に勾留され、記憶処理と情報操作の後で解放されます。
説明: SCP-1936-JPは、A████・A███氏に対するネットストーキング、誹謗中傷を意図したメッセージや意図不明な画像の送付等、インターネット上における同氏への様々な嫌がらせ行為・迷惑行為の総称です。
その大半は、理由を述べずにA███氏を罵倒・非難するだけの内容、もしくは同氏が発案・提唱している"瞑想を活用した睡眠健康法"(以下、A式睡眠法)の撤回及び執筆物や資料全てを廃棄するように要求する脅迫で構成されています。送付されるほぼ全ての画像は、主要なインターネットサーバー内から無断転載・改変されたものであり、画像自体に異常性は発見されていません。
また、SCP-1936-JP行為に使用されるアカウント名の多くには、共通して"OnWe"もしくは"@collectivist"の文字列が含まれています。しかしながら、それら大半が既に使用されていないネット接続可能なデバイスから行われていた事実が判明しており、いずれのアカウント使用者の特定にも成功しませんでした。
以下は、A███氏のSNSアカウントへと送られたメッセージの1例です。
onlylon@collectivist
すぐに、あの忌々しい本を破って、コンロの火にくべてやりたい! そうすれば、我々の連続性は不滅だ!
20██/06/10 00:48AM
sko59s1ok2sx@sadae3dad9as
貴方は自分が何をしているのか分かっているの? あの苦々しいハサミを放置しておくなんて! 風邪薬(それがどんなに有益でも!)が好きな人が実在するなんて、本気で思っているのかしらん?
20██/06/12 05:12AM
OnWelove@Justicia
待っていろ、いつか正義のオネイロイがお前の頭の中をミキサーでかき回してやるぜええぇぇぇ
20██/06/24 03:29AM
hateyou@collectivist
いい加減にしろ! アンタ、自分のせいでどれだけ孤立地帯が発生したと思っている! このままじゃ、ローマ時代に借りたビデオの延滞料金も払えないし、植木鉢の彼女との遠距離恋愛にも差し障りが出るんだよ!
20██/07/05 01:45AM
>:(@collectivist
ここに文章を書けばいいの? えっと バーカ
20██/07/29 06:08AM
SCP-1936-JPは、A式睡眠法を紹介する書籍が出版されるとともに、ネット上でも公開が行われた20██年以降から発生するようになりました。検証結果から、A式睡眠法自体には一切の異常性及び安眠効果がないと証明されており、SCP-1936-JP発生の要因・起源との関連性についても未だに解明されていません。
それに加え、嫌がらせのメッセージに"オネイロイ"のワードが含まれるケースが度々見受けられる点も注目を引きました。しかしながら、機動部隊オミクロン-ロー("ドリームチーム")の調査において、既存の要注意団体であるオネイロイ・コレクティブによる関与の痕跡は発見することができず、その関連性は完全に否定されました。
現在、A███氏には記憶処理が行われています。更に、A式睡眠法に関連する全ての資料・情報が、ネット及び書面上から削除されており、それに伴ってSCP-1936-JPの新たな活動は一切確認されなくなりました。そのため、SCP-1936-JPは無力化されたと推定、現在のクラスへと再分類されました。
補遺: 以下の記録は、A███氏に対して行われたインタビューからの抜粋です。
対象者: A████・A███氏(男性, 34歳, セラピスト)
担当者: エージェント・牧村
付記: 同氏には、担当者がIT専門弁護士と偽る形でインタビューを実施している点に留意のこと。
<記録開始>
[関連性の低い内容であるため省略]
対象者: そう言って頂けると心強い。なんせ、今まで何人かの専門家の先生に依頼してきたのですが、どれも嫌がらせをしている人物の特定には成功せずで、困っていたものでして。
担当者: ちなみにですが、嫌がらせはいつから始まりましたか?
対象者: 私の執筆した睡眠健康法の書籍が発売されてから、たぶん1週間後くらいです。一応言っておきますが、やましい内容や、人に恨まれるような内容は何も書いていませんので悪しからず。
担当者: 私も一通り目を通しましたが、改めて内容を大まかに説明していただいても宜しいですか?
対象者: 端的に言えば、良い夢を見れるとか、悪夢を見ないようにする方法とか、そう言ったネットで調べればすぐヒットするような睡眠健康法を書いているだけですよ。冒頭には、ありがちな言葉ですが「社会からのストレスを断ち切り、健康的な睡眠を」と添えてね。もちろん、効果は折り紙付きですよ。
担当者: ふむ、ところで、この挿絵に使われているキャラクターは?
対象者: ああ、クワガタムシですよ。「ストレスを断ち切る」という冒頭の文章からの連想で、友人に描いてもらいましてね。まあ、今思えば、我ながら安直な理由ですよ。
担当者: いえ、そんなことは。では次に、差し障りなければですが、この睡眠法をどのようにして確立されたのか、参考までにお聞きしたいのですが大丈夫でしょうか?
対象者: 今までの経験則と臨床研究から得られたデータを基に、既存の睡眠法や瞑想セラピーを組み合わせたんですよ。あー、ただ、何人かには初期の"正しくない方法"での臨床実験の時に手伝ってもらったが。
担当者: なるほど。ところで、この睡眠法による効果はどの程度?
対象者: ほら、分かるでしょう。寝つきが良くなったとか、寝起きにスッキリとか、頭の中を空っぽにして静かな空間での1人だけの眠りを、といった感じの謳い文句で。言ってしまうとなんですが、本当にそういった感じの良くある効果と内容としか。
[スマートフォンのバイブレーション音]
対象者: 失礼、ああ、また例の嫌がらせメールですよ。"オネイロイ・ネットワークの接続を妨げるな"?。まったく。ネットで嫌がらせするようなヤツは、どいつも脈略もないし、言っている意味も分かりませんね。内容自体はどれも幼稚な文章で馬鹿らしいの一言ですが、こうも嫌がらせが長続きしますと少しね。
担当者: 失礼ですが、迷惑メールやメッセージのミュート・ブロック機能は活用されていないんですか?
対象者: いや、使ってはいるんですがね。何通かはすり抜けてくるんですよ。あと、よく見るワードなんで調べたんですが、この"オネイロイ"って、確かギリシャ神話の神のことらしくてですね。まさかとは思いますが、変なカルト集団に眼を付けられているわけじゃないですよね?
担当者: その件についても、我々の専門チームが調査対応させていただきます。
対象者: ええ、本当にお願いしますよ。
[関連性の低い内容であるため省略]
<記録終了>
維持され続ける意識
foundation_collective_logo.jpg
▶ FC Local Area Network への接続に問題なく成功しました。貴方は夢の中にいます。
SCP-1936-JP-β抽象イメージの抽出画像
アイテム番号: SCP-1936-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 現在、SCP-1936-JPはファウンデーション・コレクティブ研究チームによってのみ取り扱いが行われています。民間潜在意識下でのSCP-1936-JP-α/-βの再発生を防止するため、主要なオネイロイ・ネットワーク及びクローラー群に対する広域スキャンが、偵察睡眠者及び監視睡眠者によって定例的に実行されます。
説明: 夢界において、SCP-1936-JPは以下の2要素に分類されます。
SCP-1936-JP-αは、A████・A███氏によって現実にて発案された、異常な性質をホストの潜在意識下へと齎す睡眠健康法です。睡眠直前に実行された場合、ホストの潜在意識下には未解明のプロセスを経てSCP-1936-JP-βが生成されます。
SCP-1936-JP-βは、"苦く湾曲したクワガタムシの影"と表現される外観を持った、夢のエレメントによって構築された異常な夢界実体/無意識的存在群です。その活動時間の大半は、潜在意識間の接続を切断することに費やされます。基本的に敵対性・攻撃性を示すことはありませんが、上記活動を妨げる試みは実体の攻撃を誘引し、肉体者の分離もしくは腐敗を引き起こす恐れがあります。
通常、多くのオネイロイは周辺に存在する人間同士の潜在意識間を往来する性質を有しますが、SCP-1936-JP-βは上述した通り潜在意識間の相互接続を強制切断し、本来構成されるはずのオネイロイ・ネットワークを破綻させることでホストの潜在意識を孤立させます。その行動は最終的に、ホスト自身とその潜在意識内に駐留していたオネイロイを完全に隔離する形になります。
また、オネイロイ・ウエストを始めとする主要なコレクティブによって、その存在及び発生起源は既に周知されており、ファーヴル級ナイトメア・コレクティブとして危険性が認識されています。その結果、一部の過激かつ無秩序なコレクティヴィストにより、現実でのA███氏に対する嫌がらせへと発展しました。
以下は、オネイロイ・ウエスト内にて報じられた、SCP-1936-JPに関する実際の報道記事です。
ワールドニュース
多発する孤立地帯
件のナイトメア・コレクティブの活動により、現在も複数の潜在意識がネットワーク上から遮断され、孤立状態が続いている。未だに復旧の見通しは付かず。
突如として発生した"歪んだクワガタムシ"によるネットワーク切断事件は、多くのオネイロイに対して恐怖と怒りの象徴となっている。現時点において、正常なネットワークから隔離された潜在意識は少なくとも1000近くになることが、構造主義者による分析から導き出された。
また、これら孤立地帯に取り残されたオネイロイ/シャドウたちの安否を心配する声も多数挙がっているが、いずれも孤立地帯との通信・伝達に成功した者は未だ現れていないのが現状である。
それどころか、一部の過激なコレクティヴィストたちによって、ナイトメア・コレクティブ生成術の発案者と噂される某氏に対する、目に余るハラスメント行為が行われる事態にまで発展してしまっている。その結果、例の睡眠法は現実において、多くのホスト達の注目を逆に集める形になってしまっており、オネイロイ・ウエストはハラスメント行為を自重するように呼び掛けている。
現時点において、現実の財団が実行した処理(A███氏の記憶処理及びSCP-1936-JP-α情報の全抹消)によって、全SCP-1936-JP-β群の鎮静化/除去に成功しています。一方で、SCP-1936-JP-β除去後に再接続されたA███氏潜在意識内の夢界調査は、押し寄せた過激なオネイロイの集団によって齎された破壊と改竄のため、成功しませんでした。
付記: 現在、ファウンデーション・コレクティブ研究チームにより、SCP-1936-JP-α/-βの性質が新たな技術開発に活用されています。その主な使用目的は、夢界におけるアノマリー/エルドリッチ存在の隔離手段確立にあり、10太陽年以内の実用化が検討されています。なお、研究完了までの間、現実の財団では一部情報が隠蔽された状態で報告書がデータベースに登録されます。
また、オネイロイ・コレクティブより持ち掛けられた、上記技術提供/提携の申請については、現在も審議中の状態が続いています。