アイテム番号: SCP-1500-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 蒐集院の総本部施設は、財団との併合後サイト-8181と指定され、蒐集院からSCP-1500-JPの収容手順が引き継がれました。SCP-1500-JPへの物理的アクセスはセキュリティクリアランス4以上の職員3名の許可を必要とします。SCP-1500-JPとサイト-8181で行われる慰労会との間に関係性はありません。これについて調査することは禁止されていませんが、行き過ぎた追及は例年行われている夏祭りなどの開催を見合わせる要因になります。
説明: SCP-1500-JPは[削除済]の地下に存在する石室から、毎日21時から翌2時までの5時間に、後述の手順(手順:1500に指定)を踏むことで侵入が可能な異常空間(SCP-1500-JP-Aに指定)で行われている、大規模な祭りです。石室は高さ1m83cm、横幅5m70cm、奥行5m81cmで、放射性炭素年代測定では████年前から存在していることと、後述の異常性を除けば特筆すべきものはありません。[削除済]にはかつて蒐集院の総本部施設が設置されており、蒐集院による封じ込め措置と保護が行われていました。
SCP-1500-JP-Aは石室の面積を無視した広大な空間で、半径約2kmの歪な円形をしており、空間の端には光を吸収する半透明の障壁が存在します。また、上空には常に満月が観測されます。Dクラスを用いた実験では、GPSの反応は石室から移動しないため、SCP-1500-JP-Aは基底世界内の空間であり、手順:1500により空間が歪んだ結果発生していると推測されます。SCP-1500-JP-A内では常に音源不明の祭囃子や歌声が響いていますが、環境音や後述する神輿エリアの喧騒により内容の判別は不可能です。また、SCP-1500-JP-A内の大気は気化したアルコールにより湿度が100%を超えており、侵入者は最長でも50分以内に酩酊状態に陥ります。酩酊状態に陥った侵入者はSCP-1500-JPの祭りを楽しもうと行動を開始します。
SCP-1500-JP-A内は中心から半径500mの地点を境に大きく二つに分かれており、外縁の屋台エリアと中央の神輿エリアに分別されます。SCP-1500-JP-A生成時、内部には常時████体以上の人型実体が存在します。人型実体は様々な年齢層の個体が存在しますが、一様にSCP-1500-JPについての質問には要領を得ない返答ばかりのため、オブジェクトの一部と考えられています。
手順:1500
SCP-1500-JP-Aは石室の入り口にSCP-233-JP-1を設置し、石室側へ扉を開くことによって発生します。石室内部に人物が留まったまま扉の設置と開閉を行った場合、及び上記の時間帯以外ではSCP-1500-JP-Aは発生しません。
屋台エリア
屋台エリアの様子
屋台エリアには確認されただけで600を超える出店屋台が出店しており、その内容は飲食や香具師のような娯楽、見世物芸など、一般的な祭りで見られるものばかりです。しかし、一部に日本の要注意団体と繋がりが疑われる物品が確認されています。
また屋台の業者らしき人型実体に対しては、商品を購入することに関してのみ会話が成立します。値引き交渉は3割引きまで成功したケースが報告されています。扱われている商品や備品などが補充されている様子も確認されていませんが、商品が無くなる兆候はありません。また、それら以外の人型実体は屋台エリア内の出店を利用しており、この時利用する貨幣は現代日本で使用されているものと同一のものです。このことと前述の要注意団体の関連が疑われる物品から、SCP-1500-JP-A内部と外部とは未知の物流ルートがあると推測されます。
関係が疑われる要注意団体 | 確認された物品 |
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日本生類創研 | 焼き鳥、イナゴの佃煮などを出店しているテントに同団体のロゴを確認。佃煮は実在した。 |
東弊重工 | SCP-012-JP SCP-166-JPに酷似した掌サイズの玩具を確認。自立行動などは行わない。 |
博士 | "博士の不思議見世物小屋"を確認。内容は[編集済] |
神輿エリア
神輿エリアの中心には全長11mほどのソメイヨシノ(Prunus x yedoensis)に酷似した樹木が、常に開花した状態で存在します。その四方には四神を模したと思われる全長約5mの祠が4宇あります。また、SCP-1500-JP-A内は常に無風であるにも関わらず、神輿エリア内では大量の桜の花弁が舞い散っており、視界は非常に不明瞭です。これらのオブジェクトには大量のSCP-052-JPが、樹木には規則正しく、祠には極めて乱雑に付着されており、外的存在である基底世界の人間は物理的接触が不可能です。また、カント計測器による測定では樹木、祠ともに基準値を大きく上回るヒューム値を検出しました。
SCP-1500-JP-A発生時、神輿エリアでは常に██基から███基の神輿を担いだ群衆が、雄叫びや掛け声をあげながら、樹木と祠を取り囲み、不規則に動き回ります。規則性のない動き、突然の進路変更、神輿同士の衝突に加え、時には神輿を投げ飛ばすため、人型実体は負傷し、個体によっては死亡するケースもあります。人型実体の死亡、神輿の破損などが生じても群衆に動揺はありません。また、SCP-1500-JP-A内に侵入した人物が騒動に巻き込まれ死亡した場合、SCP-1500-JPが終了した際に瞬時に蘇生され、石室内へ転移されます。
酸素ボンベを装備させた7名のDクラス職員にSCP-1500-JP-Aへ侵入、屋台、神輿の両エリアを調査させた結果、SCP-1500-JPには一定のスケジュールが存在することがわかりました。以下に推定されるタイムラインを添付します。
SCP-1500-JPタイムライン
時刻 | SCP-1500-JP-A内での出来事 |
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21:00 | SCP-1500-JP-Aに侵入可能に。侵入時点ですでに祭囃子や喧騒が聞こえる。神輿エリア内ではまだ神輿は担がれていない。群衆はアルコールらしき飲料を飲んでおり、このとき神輿エリア内の人型実体は成人男性と思われる個体のみ。 |
21:20頃 | 神輿エリア内にて群衆が神輿を担ぎ動き始める。 |
22:00〜23:30 | 屋台エリア内にて同時多発的、かつ連鎖的に喧嘩騒動が発生。この騒動は最大でも1時間程度で収束する。確認される騒動の件数は日によって完全に不定のため、必ず発生する現象ではないと思われる。 |
24:00頃 | 神輿エリア内で死人が出始める |
24:30頃 | 屋台エリアの人型実体が神輿エリア内で死亡した人型実体の代わりに神輿を担ぐ群衆に参入している様子が確認され始める。後からの参加者には女性型、子供型、老人型も存在する。 |
1:00頃 | 群衆が血に塗れた神輿を、次々と祠へ向けて衝突させる。このとき祠に付着しているSCP-052-JPの異常性が発揮されている様子は見られない。しかし祠への物理的ダメージも確認されていない。 |
1:40頃 | 上空に無数の花火があがる。祭囃子の調子もより力強くなり、群衆の喧騒は大合唱となる。このころには屋台エリアの通行人は全て神輿エリアへ移動しており、業者らしき人型実体は店仕舞いの仕草を見せる。 |
2:00 | 神輿の最後の一基が祠へ衝突したのと同時に、侵入していた人員は強制的に石室へ転移する。死亡していた人員はこのとき蘇生する。 |
対象: ██研儀官
インタビュアー: ██博士
付記: 蒐集院と財団の併合に伴い、蒐集院が確保していたオブジェクトに関する情報の引き継ぎが行われました。以下はその中からSCP-1500-JPに関する情報を抽出したものです。
<録音開始>
██博士: ではこれから、オブジェクトに関する情報の引き継ぎを行う。だがまずは、この建物の地下で行われている馬鹿騒ぎについてだ。
██研儀官: 馬鹿らしいと思うのは仕方ないが、あれはれっきとした祭りだ。あまり貶さないでくれ。
██博士: れっきとした、か。つまりあれは由緒あるのもなんだな?
██研儀官: 今のあり様はともかく、元はと言えばそうだ。桜主が宿った神木を祀り、彼女に「喜び」を捧げる儀式だ。
██博士: 桜主?
██研儀官: 本来日本国においては、菊の一族や日輪に匹敵する神聖な存在だった。蒐集院の手で情報は規制されたが、今でも桜は日本の実質的な国花になっている。だろう?
██博士: あぁ、だがソメイヨシノは江戸時代に入ってから作られた、比較的新しい品種のはずだが?
██研儀官: それは逆さ。あの美しい桜に近づけるため、学者達は品種改良をやってきたんだ。美しい桜が文化に根差し、人々に愛されてこそ、桜主の神格は保たれる。崇拝なんてあからさまな部分を省きながらも人々に愛される存在にするのはかなり骨が折れたそうだ。
██博士: さっきも「喜びを捧げる」と言っていたな。その異常性は、人の感情に関するものなのか。
██研儀官: どちらが先かはわからないが、桜主は人々の意志、感情を糧に存在している。それ故彼女は人々を守り、人々は彼女に喜びや、楽しさ、愛の感情を捧げた。
██博士: つまり、人類を守る存在ということか。一体なにから?
██研儀官: 言わずともわかっているだろう。異常な存在からだ。
██博士: [5秒沈黙]桜主に感情を捧げるとは?
██研儀官: 捧げると言っても、感情を失うとかそういうことはない。彼女が腰を下ろす神木の周りで、祭りを開き楽しく過ごすだけだ。
██博士: 楽しく、な。ではあの四宇の祠は?
██研儀官: 四神を象ったものは、そのままの意味だ。桜主と同様、人の心を糧に生きる神霊級の存在。
██博士: 一緒に祀っている、わけではないな、あのお札の張り方を見れば[3秒沈黙]あれは封じ込めか。
██研儀官: その通りだ。当初は桜主と一緒に祀り和魂にする目的だったが四神は抑え込められなかった。だから桜主に教えを乞うた、荒魂を封じ込める術を。蒐集し、解明し、抵抗する術。つまり、神事と、化学と、科学だ。
██博士: 蒐集院の口から「かがく」の文字が聞けるとはな。それで、封じ込められたのか?
██研儀官: おおむね成功したと言っていいな。財団の言う封じ込めほど決定的ではないが、青龍の魂はもろいガラクタの身体に封じ込め、ヒトの手で壊せるようになった。朱雀も魂だけの存在になって、今では人々の無意識の中でしか生きられない。白虎は西の果ての大穴に突き落とされ、最後に玄武は桜主と身内になった。おおむね、全て丸く収まっていると伝えられているよ。私は担当じゃないが、蒐集物として番号も振られているから、詳細は担当の奴に聞いてくれ。
██博士: [10秒沈黙]そういえば、「元はと言えば」と言っていたな。元はまじめに楽しんでいた祭りが、あんな馬鹿騒ぎになった切っ掛けがあるのか?
██研儀官:ん? あぁ、そうだ。神木の花びらが散っているだろう? 元々は散ることもなかったそうだ。散り始めたら、お前ならどう思う?██博士: [5秒沈黙]弱っているということか。
██研儀官: 当時の者もそう考えた。そこであの無限に行われる祭りの仕組みを作った。白虎を落とした大穴を参考に時空物理学とやらの研究をしていた学者を中心に、時間も空間も捻じ曲げて、桜主と祭り、ひいては世界を永遠に守ろうとした。そのときに異物がな。██博士: 異物?
██研儀官: 妙な男が祭りに混じっていた。祭りを楽しむ役として多くの人柱が必要だったから、それがわかったのは事が終わってからだった。妙な屋台に妙な見世物。神聖な祭りの空気に悪い酒を撒きやがって、酔っぱらった人柱たちもそれを楽しんじまってる。本来花見の場所だった広間は、どこから持ってきたのか神輿をぶつけ合って、今や喧嘩祭り会場になってる。一番おっかないのは、桜主までそれで笑ってるらしいことだな。
[以下、インタビュー終了まで会話を記録する]
<録音終了>
補遺: 解析の結果、祭囃子の歌詞が部分的に解読されました。以下に内容を記載します。内容は解読が進み次第更新されます。
木と花と[未解読] ふして見下ろす[未解読]よ
子らが見上げるわが眼 笑みをたたえる われをたたえる[未解読部過多につき中略]
懐かしき玩具よ 心地よき青い春よ
[未解読]を紡ぎ ハレをわたす
没す日輪 寄ろう月輪
常世にたたえる [未解読]が統べる楽しもうぞ 和の魂とともに