草原の恵みおよび伝統的な放牧による
持続的な利用
コラム1
乾燥または半乾燥の気候によって形成された草原は、決して生産力が高いとは言えず、かつ冬の凍害(モンゴル語:ゾド)や夏の干害(モンゴル語:ガン)といった自然災害の影響を受けやすい地域です。このように非常に不安定な草原地域に、地球の約1/3の人々が居住し、草原の恵み(写真1)を支えに暮らしています。そのため、草原の保全と持続的利用は、地球環境・食糧問題への対処という観点からも極めて重要な課題です。
草原で暮らしている人々が、様々なリスクをなるべく低減させ、厳しい環境に適応するため、千年以上にわたり営々と継承してきた放牧の方法に遊牧があります。遊牧とは、自然の草と水を求めて家畜の群れを連れて各地に移動しながら放牧する方法です。紀元前9〜10世紀にユーラシア大陸およびアフリカの草原地帯で生まれ進化してきたもので、自然資源の有効利用と管理形態の知恵の結晶と言われています。
遊牧は、無計画かつ不規則な方法ではなく、独自の畜産技術や移動方法、相互扶助システム等に基づいて合理的に行われています。このような形態を遊牧民は「適地適種」の考え方に基づき、各地域の環境に適した複数の家畜種を組み合わせて飼育してきました。例えば、羊とヤギは摂取できる植物種が多いため、広範囲で飼育されていますが、牛は湿潤な土壌に生える背丈の長い草を好むため、河川、渓流の近くで飼育されています。一方で、ラクダは塩性植物を好むため、乾燥草原で飼育されています。
また、遊牧民は、移動式住居である「ゲル」を生活拠点として周囲の草原で放牧を行い、季節や年度ごとに住居を移動することによって、草原を効率的・合理的に利用してきました。伝統的な遊牧は、基本的には家族単位で経営されていますが、厳しい自然条件に対処しつつ効率的・合理的な遊牧を行うために、「ホト・アイル」(宿営地集団)という相互扶助の慣習があります。その形態や規模は、共同作業の内容によって異なりますが、小さいものでは数世帯から、大きいものでは十数世帯の親類や仲間によって構成される場合もあります。
目次
- No.83表紙 草原との共生を目指して 〜モンゴルにおける牧草地の脆弱性評価〜環境儀 No.83
- インタビューのバナー モンゴルの草原と人々の生活を守るためにInterview研究者に聞く
- コラム2のバナー 急増する草原への攪乱 過放牧・都市化・鉱山開発コラム2
- コラム3のバナー 牧草地の牧養力およびその脆弱性の定量化コラム3
- サマリーのバナー 気候変動および人為的攪乱による草原生態系への影響評価Summary
-
研究をめぐってのバナー
草原生態系の回復力強化および
適応性向上に関する研究研究をめぐって - 国立環境研究所における 「草原生態系の脆弱性評価に関する研究」のあゆみ
- 過去の環境儀から
- No.83表紙 PDFファイル環境儀 NO.83 [18.6MB]
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