Research Results 研究成果

⻘色LED を高エネルギーなUVB 光へと変換する色素材料を開発

〜サステイナブルな光エネルギー変換、殺菌、排水処理へ道〜 2022年12月01日
研究成果Technology

ポイント

  • 従来、UVB 光(波⻑280~315 nm)を人工的に生成するには水銀灯など効率の悪い光源を使用する必要があった。
  • UVB 光は光エネルギー変換、殺菌、廃水処理など、さまざまな光化学反応に有用。
  • 重金属を用いずに⻘色LED 光をUVB 光へとアップコンバージョンすることを可能に。

概要

紫外光のうち波⻑ 280~315 nm のUVB 光は、光エネルギー変換、殺菌、排水処理といった幅広い応用に不可欠な光です。一方で、太陽光に含まれるUVB 光の割合は非常に低く、UVB 光を人工的に生成するには水銀灯など効率の悪い光源を使用する必要がありました。
本研究で、九州大学大学院工学研究院の楊井伸浩准教授、Bibhisan Roy 博士研究員、同大学大学院工学府の宇治雅記大学院生は、ヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(JGU)のChristoph Kerzig ジュニア教授、Till J. B. Zähringer 大学院生、Julian A. Moghtader 大学院生(二大学間の学生交換プロジェクトにより九州大学に短期滞在中)、Maria-Sophie Bertrams 大学院生との国際共同研究により、⻘色LED 光をUVB 光へとアップコンバージョンする色素材料を発見しました。加えて本系では、従来系の多くで用いられてきたイリジウムや白金といった重金属を用いずにこのアップコンバージョンを達成したことから、低コストかつ高い持続可能性が期待されます。三重項−三重項消滅(TTA)*1,2を用いたフォトン・アップコンバージョン(UC)*3により、安価な⻘色LED や太陽光に多く含まれる波⻑ 400nm 以上の可視光を高効率でUVB 光へと変換することができれば、クリーンな有用化合物製造や高効率な殺菌、排水処理システムが実現できると期待されます。
本研究成果は、2022年11月18日(金)にドイツの国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。

⻘色LED をUVB 光へとアップコンバージョンする色素材料

楊井准教授からひとこと

我々の研究室では可視光を紫外光へとアップコンバージョンする色素の開発に注力しており、今回の国際共同研究により紫外光の中でも高エネルギーなUVB 領域にまで到達しました。アップコンバージョンが身の回りに溢れる世界の実現を目指して今後も精力的に研究を進めていきます。

用語解説

*1)三重項
分子の状態の一つで、スピン多重度 2S + 1 = 3 となるような、スピン量子数 S = 1 の状態(基底状態と励起状態の電子スピンが打ち消しあわない状態(図3)を指します。励起三重項状態(T1)から基底一重項状態(S0)への失活はスピン禁制遷移であるためとても遅く、近くの分子にエネルギーを受け渡すことができます。
*2)三重項−三重項消滅(triplet-triplet annihilation, TTA)
二つの励起三重項状態(T1)の分子が衝突することで、一方のエネルギーが他方に移り、エネルギー的により高い励起状態が生成する過程を指します。ここで、T1の分子二つの持つエネルギーが一つの分子の励起一重項状態(S1)の持つエネルギーより大きいとき(2xET1> ES1)、TTA を経た後に S1の一分子が効率よく生成されます。
TTA を起こす発光色素(アクセプター分子)と T1を効率的に生成する増感剤(ドナー分子)を組み合わせ、フォトン・アップコンバージョンを起こす方法が TTA-UC と呼ばれています。一般的な TTAUCでは、まずドナー分子が光を吸収し、項間交差(intersystem crossing, ISC)を経て、T1を生成します。その後、ドナーからアクセプターへの三重項エネルギー移動(triplet energy transfer, TET)により、アクセプターの T1が生成されます。二分子のアクセプター T1が拡散・衝突して TTA を起こすことで、ドナー S1より高いエネルギーを持つアクセプター S1が生じ、UC 発光が得られます(図4)。
*3)フォトン・アップコンバージョン(photon upconversion, UC)
低いエネルギーを持つ光を高いエネルギーを持つ光に変換する方法論です。古典的には、第二次・第三次高調波発生、多光子吸収などの非線形光学現象が用いられてきました。近年では希土類元素の多段階励起も多く報告されていますが、高い励起光強度の光が必要となるため、適応範囲が限られています。そこで近年、太陽光程度の弱い光でも駆動しうる三重項−三重項消滅(TTA)に基づく UC 機構が注目を集めています。

図3. 基底一重項状態(S0)、励起一重項状態(S1)、励起三重項状態(T1)の電子配置

図4.(a)ISC を経由する一般的な TTA-UC のメカニズムおよび(b)代表的な TTA-UC 色素である 白金オクタエチルポルフィリンと9,10-ジフェニルアントラセン溶液による緑―⻘ TTA-UC の様子

論文情報

掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
タイトル:Blue-to-UVB Upconversion, Solvent Sensitization and Challenging Bond Activation Enabled by a Benzene-Based Annihilator
(ベンゼンを基盤とするアニレーターが可能にする⻘色からUVB へのアップコンバージョン、溶媒増感、挑戦的な結合活性化)
著者名:Till J. B. Zähringer, Julian A. Moghtader, Maria-Sophie Bertrams, Bibhisan Roy, Masanori Uji, Nobuhiro Yanai, and Christoph Kerzig
(Till J. B. Zähringer, Julian A. Moghtader, Maria-Sophie Bertrams, Bibhisan Roy, 宇治雅記, 楊井伸浩, Christoph Kerzig)
DOI:10.1002/anie.202215340

研究に関するお問い合わせ先

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /