Research Results 研究成果

新規スピントロニクス材料の大面積成膜技術を開発

高速動作スキルミオン及びスピンデバイスの基盤技術 2024年01月11日
研究成果MaterialsTechnology

ポイント

  • 高速制御可能なスピントロニクス材料の大面積作製手法を開発。
  • ツリウム鉄ガーネット薄膜をオンアクシススパッタリング法により作製する際、スパッタ原子の広がり角の違いが薄膜の磁気異方性を変化させることを解明した。
  • 高速磁壁移動デバイスおよびスキルミオンデバイスへの応用に期待。

概要

2012 年に日本で発見された絶縁体の垂直磁化膜((注記)1)であるツリウム鉄ガーネット(TmIG)は、高速磁壁移動およびスキルミオン((注記)2)の輸送が可能のため、新たなメモリー、およびコンピューターを実現する材料として注目を集めています。従来はパルスレーザー堆積法が一般的に用いられており、オンアクシススパッタリング((注記)3)による大面積での作製が難しいと考えられていました。
九州大学大学院システム情報科学府のMarlis Nurut Agusutrisno さん、システム情報科学研究院の山下尚人助教、University of Leeds のChristopher Marrows 教授らの国際共同研究グループは、オンアクシススパッタリングにより、TmIG の垂直磁化膜を作製することに成功しました。この手法は大面積の太陽光パネルや液晶ディスプレイ用の電極作製に用いられており、産業応用上重要な大面積の薄膜を作製することができます。
オンアクシススパッタリングの場合、成膜中に高エネルギーのイオンが膜に衝突するため、磁気特性が劣化すると考えられていました。しかし、当該共同研究グループは実験による試行錯誤を重ねた結果、垂直磁気異方性を有するTmIG 薄膜を実証しました。さらに、画像解析を含む最先端の磁気特性評価を行い、従来手法で作製した場合と同程度の特性を持つことを確認しました。
TmIG を用いた高速動作磁壁移動デバイスおよびスキルミオンデバイスの産業応用に向けて、その量産可能性を示す結果です。
本研究成果は「Thin Solid Films」誌に2023 年12 月15 日(現地時間)にオンライン掲載されました。

(オンアクシススパッタリングのイメージ図)大きなカソードを用いることで、大面積薄膜の作製が可能な手法です。

用語解説

((注記)1) 垂直磁化膜
薄膜の膜厚方向に磁化しやすい性質を持つ強磁性体の薄膜のこと。メモリーやコンピューティングデバイスの集積化のために必要な特性の一つです。
((注記)2)スキルミオン
電子スピンの渦構造からなる準粒子のこと。微弱電流により動かすことができるため、新しい情報担体としての応用が期待されています。
((注記)3) オンアクシススパッタリング
半導体デバイスやスピントロニクスデバイスの作製に一般的に用いられる方法で、大型の液晶ディスプレイや太陽光パネル生産にも用いられます。

論文情報

掲載誌: Thin Solid Films
タイトル: On-axis sputtering fabrication of Tm3Fe5O12 film with perpendicular magnetic anisotropy
著者名:Marlis Nurut Agusutrisno, Christopher H. Marrows, Kunihiro Kamataki, Takamasa Okumura, Naho Itagaki, Kazunori Koga, Masaharu Shiratani, Naoto Yamashita
DOI:10.1016/j.tsf.2023.140176

研究に関するお問い合わせ先

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