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1980年代のあゆみ

総合地域産業としての基盤強化

日本経済は、1975年代後半の景気回復から一転、円高不況に見舞われるが、それも1年ほどで終焉した。
1986年後半からは内需主導型の経済政策が奏功し、いざなぎ景気以来の好景気に突入した。
九州電力は、原子力中心の電源開発や50万ボルト送電設備の増強などで、安定供給を達成し、信頼性の向上を図った。
さらに、総合地域産業として経営基盤の強化に取り組むとともに長期経営ビジョンを策定した。

時代背景

円高不況から景気拡大へ

世界は米国の景気回復に牽引されて、長引く同時不況から脱却したが、その米国は貿易収支の赤字を抱え、ドル高の是正による輸入の圧縮、輸出の刺激を強く主張した。このため、1985年9月、主要国の中央銀行はG5(主要5か国蔵相・中央銀行総裁会議)の合意、いわゆる「プラザ合意」を受けて大規模な協調介入を実施した。また、1986年初めの原油価格の急落も加わり、円高ドル安が急速に進行した。
円高は、輸出の伸び悩みと輸出企業の収益悪化、設備投資の減退、雇用調整などを引き起こして、景気全体の足を引っ張る形となった。しかし、日本国内では円高による物価安定、実質所得の向上と1986年9月の総合経済対策の効果で内需が拡大し、製造業の不調、非製造業の好調という二面性はあったものの、いざなぎ景気に次ぐ戦後第二の長期となる好況、バブル景気へと突入した。

一般需要の増加とピークの先鋭化

この10年間の電力需要は、前半は比較的低い伸びであったが、1987年度以降は、内需を中心とした景気の拡大もあって順調な伸びを示し、販売電力量の年平均伸び率は3.9%となった。
この間の特色としては、電力多消費型の素材型産業の低迷から大口電力需要の伸びが1.6%と鈍化したのに対し、電灯需要が5.1%、業務用電力が8.4%と高い伸びを示すようになった。これはアメニティー指向を反映した家電機器の多様化・大型化、余暇活動の充実などライフスタイルの変化による影響が大きかったことによる。
また、このような傾向は冷暖房の増加となって、最大電力の夏季ピークの先鋭化および冬季ピークの増加という一面もみせることとなった。最大電力の年平均伸び率は販売電力量の伸び率を上回る5.1%となった。

電源の多様化と設備の高度化

電源のベストミックスの推進

九州電力は、各種電源の供給安定性、経済性、環境特性および運転特性などを総合的に勘案した電源ベストミックスの達成を目指し、適正な電源開発計画を策定した。これに基づき、九州電力は川内原子力発電所1・2号機(各89万kW)をはじめ、大型揚水の天山発電所1・2号機(各30万kW)、LNG使用で熱効率の優れたコンバインドサイクルを導入した新大分発電所1号系列(69万kW)、地熱発電の八丁原発電所2号機(5万5000kW)など石油代替電源を1983年から1991年にかけて次々と開発した。
その結果、原子力の総発電電力量に占める割合は、1980年度の15%から1990年度には33%へと大幅に上昇する一方、石油火力の占める割合は38%から17%へと大幅に低下するなど、電源のベストミックスが進んだ。

50万ボルト系統の完成と基幹系統の拡充

1983年5月には川内原子力発電所1号機の運転開始に合わせ、50万ボルト川内原子力線が運用を開始した。また、1985年4月には、22万ボルトで運用していた豊前火力線、豊前西幹線、新熊本幹線および南九州幹線の4線路約280kmを50万ボルトに昇圧した。
これにより、すでに50万ボルトで運用していた佐賀幹線と合わせて、九州を西部から北東部に横断し、さらにそれから分岐して南部に至るT宇型の50万ボルト基幹系統が完成した。
また、1988年6月には、九州電力の松浦発電所および電源開発松浦火力発電所の電力輸送対策として、松浦火力線が運用を開始した。
この結果、50万ボルト送電線は1980年度の73kmに対し、1990年度末には441kmと大幅に拡充・強化された。

配電線自動制御システム、無停電工法の導入

配電線の制御については、遠隔表示装置・遠隔測定装置と開閉器遠方制御装置に電子計算機を組み合わせた自動制御システムの開発に取り組み、長崎および佐賀営業所における試験導入を経て、1986年3月に福岡営業所においてわが国初の本格導入をおこなった。
このシステムの導入により配電線や変電所の停電事故時に健全区間への短時間融通送電が可能となるとともに、開閉器操作業務の省力化にもつながった。
また、配電作業を無停電で行うため、マニピュレーターで作業をロボット化する「機動車工法」をはじめ、工事用ケーブルや移動変圧器車を使用する「バイパス工法」、配電線末端などでの作業時に仮送電する「発電機工法」などの無停電工法を全国に先駆けて開発・導入した。
この結果、年間の作業停電回数は1985年度には全国平均の1.5倍と全国で最も多かったが、その後は急激に減少し、1988年度には高圧線作業でゼロ、1989年度には低圧線作業でもゼロとなった。

経営効率化と新しい九州電力づくり

料金値下げの実施

この10年間の経営環境は比較的好条件に恵まれ、収支は安定した状態であった。一方、日本経済は、輸出の不振、鉄鋼・石炭など素材型産業の構造的不況により、非常に厳しい局面を迎えていた。
九州電力はこのような情勢を勘案し、1986年6月に6.5%、1987年1月に10%と2度の電気料金の暫定値下げを実施した。
さらに、原油価格が安定して推移したことや円高の継続などにより、1988年1月には15.15%値下げの本格的料金改定、1989年4月には消費税導入に合わせて3.02%の値下げをおこなった。

経営効率新展開運動の推進

第2次石油危機以降、九州電力をめぐる経営環境も一段と厳しさを増していったため、全社的な経営効率化による経営基盤の確立を目指し、経営効率新展開運動を開始するとともに、1982年5月、社長を本部長とする経営効率新展開運動本部のもとに業務効率委員会、地域振興委員会、活性化対策委員会を設置した。
この運動は、全員参加の日常業務見直しによる効率化と徹底したコスト削減、地域社会の共感と信頼を得るための地域振興への協力、全従業員の意欲・活力の発揮による経営の活性化という三つの目標からなり、業務の総点検・提言活動、本店全室部に対する経営層による総合診断、経営幹部と現場社員との対話、資料半減運動などに全社を挙げて取り組んだ。

「新しい九州電力づくリ」の推進

1988年4月、九州電力は電気事業の基本的使命の完遂と豊かな地域社会の実現に貢献する総合地域産業を目指して、中長期的な観点から「新しい九州電力づくり(クリエイト九電)」を推進することにした。推進にあたっては経営の効率化と経営基盤の強化、総合的な需要開発の推進、経営多角化の推進と地域活性化への協力、企業イメージ向上への新たな取り組み、意識改革の促進と企業活力の高揚を検討項目に掲げ、業務運営委員会および企業イメージ委員会を新設して具体的な活動をおこなった。
また、1988年10月には「ヒューマンな九州を創る企業体」を企業理念に定めるとともに、シンボルマーク、新しいスローガン、従業員の行動規範としての「私たちのちかい」を制定するなど、新しい九州電力づくりに取り組んだ。

地域との協調とお客さまサービス

地域発展への取り組み

地域活性化に対する協力としては、九州電力の保有する経営資源を有効活用し、地域発展に貢献するため、1987年度に九州通信ネットワークなどの電気通信事業3社を設立、1990年度には熱供給事業への本格的参入のため、福岡エネルギーサービスを設立した。また、企業誘致や地場産業振興への協力、さらに、1989年に福岡市で開催されたアジア太平洋博覧会(よかトピア)への協力、ふれあいコンサートの実施など地域文化振興活動にも積極的に取り組み、一定の成果をあげることができた。

お客さまサービスの多角的展開

高齢化社会への移行、女性の社会進出、ゆとりと豊かさのある生活指向など、経済社会の変化にともない、安全・便利でクリーンな電気エネルギーの利用が高まるとともに、九州電力に対するニーズも高度化・多様化してきた。
このような環境のなかで、九州電力は電気の利用に関する情報提供サービスおよびお客さまとのコミュニケーション活動の推進、コミュニティプラザ・イリスの出店、営業所窓口におけるお客さまサービスの充実などに積極的に取り組んだ。
なかでも、イリスは、生活に豊かさを演出するニューライフの情報発信基地として、また、お客さまに主体的に参加・体験していただける知的・文化的なふれあいの広場として、1989年4月から福岡を皮切りに支店所在の主要都市に出店を始めたもので、九州電力の新しいコミュニケーション拠点となった。

原子力PAの展開

チェルノブイリ事故による反原発運動の高まりにともない、1988年4月に原子力広報活動の推進機関として、原子力広報会議を設置し、新たな広聴・広報活動として原子力PAの展開を開始した。活動内容は従来のパンフレットや資料の配布から、新聞・テレビなどのマスコミ媒体の活用や講演会の開催に重点を移した。さらにお客さまと幅広く対話を行うため、発電所見学会の拡大や対応の充実、ホームサービス制度を利用した原子力ミニ講座の開催、ミニコミ誌や地方紙の活用などもおこなった。
また、原子力体験研修、広報マン・ウーマン育成のためのコミュニケーター研修、原子力PA講座、原子力壁新聞の発行などで、社員の原子力PAに対する意識の高揚と質的向上を図った。

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