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1.電力システムの抜本的見直し

第1次電気事業制度改革(1995年)

1993年12月、国の総合エネルギー調査会(基本政策小委員会)において、発電部門への市場原理導入が提言され、これを受け1995年4月に電気事業法が一部改正、同年12月に施行された。
この規制緩和によって、電力会社以外の事業者(独立系発電事業者(IPP)という)が、電力会社に電気を売ること(卸売)が認められ、一般電気事業者の電源調達の際に入札制度が創設されることにより、発電部門に競争原理が導入された。

第2次電気事業制度改革(1999年)

1997年5月、「経済構造の変革と創造のための行動計画」が閣議決定され、電気事業については国際的に遜色のないコスト水準を目指すことが示された。
これを受け1999年5月に電気事業法が一部改正、2000年3月に施行され、電気の契約容量が原則2000kW以上の特別高圧(受電電圧2万ボルト以上)の需要家を対象に、電力会社以外の事業者(特定規模電気事業者(PPS)という)が電気を供給できるようになり、小売部門の部分自由化が導入された。

第3次電気事業制度改革(2003年)

200110月、電気事業分科会は、経済産業大臣からの「我が国経済活動及び国民生活の基盤となる電力の安定供給を効率的に達成しうる公正かつ実効性のあるシステムの構築に向けて、今後の電気事業制度はいかにあるべきか」との諮問に基づき、電気事業制度にかかわる審議を開始し、2003年2月に答申「今後の望ましい電気事業制度の骨格について」を取りまとめた。これを受け、同年6月に電気事業法が改正された。

小売自由化範囲の拡大

改正電気事業法の一部施行(2004年4月)により、小売自由化範囲は電気の契約容量が原則500kW以上の高圧需要家に拡大され、わが国の販売電力量の約4割が自由化対象となった。また、2005年4月からの全面施行により、小売自由化範囲はすべての高圧需要家(50kW以上)にまで拡大され、わが国の販売電力量の約6割が自由化対象となった。
小売自由化範囲のさらなる拡大の是非については、今回の制度改革による需要家選択肢の拡大状況などを判断する必要があるため、2年程度経過した2007年4月ごろを目途に検討することが適当であるとされた。

行為規制の導入

小売自由化範囲の拡大により、電力会社が管理・運営する送配電ネットワークは、新規参入者など多数の事業者が利用する「公共インフラ」としての性格がより一層強まることから、送配電ネットワーク利用の公平性・透明性の確保が重要とされた。
具体的には、「情報の目的外利用の禁止」「内部相互補助の禁止」「差別的取り扱いの禁止」の3点の確実な担保が必要であり、これらを達成する手法として「行為規制」と「構造規制」が検討された。
その結果、送配電部門を組織上分離する構造規制を取らなくても、これまで電力会社の自主的な取り組みに委ねられていた3点を電気事業法に法定化するとともに、行政の事後チェック機能を整備すれば、行為規制によって送配電部門の公平性・透明性は担保できるとの結論に達した。

1情報の目的外利用の禁止 送配電部門が託送業務において知り得た情報を、本来の目的以外に利用しないことを電気事業法において担保(法第24条の6)
2内部相互補助の禁止 託送などの業務により送配電部門で生じた利益が、他の部門で使われていないことを監視するために、送配電部門の収支計算書などの作成および公表を電気事業法により義務づけ(法第24条の5)
3差別的取り扱いの禁止 送配電部門の託送に係る業務において、特定の電気事業者に対して、不当に差別的な取り扱いをしないことを電気事業法において担保(法第24条の6)

中立機関(送配電等業務支援機関)の創設

送配電ネットワークの公平性・透明性・中立性を確保するため、送配電ネットワークの利用などに関する「ルールの策定」、「ルールの監視」および系統利用者と一般電気事業者(送配電部門)との間における紛争の「斡旋調停」を主たる業務とする中立機関の設立が決定された。これを受け、2004年2月に送配電等業務支援機関として「電力系統利用協議会(Electric Power System Council of Japan:ESCJ)」が設立され、2005年4月から運用を開始した。

振替供給料金(パンケーキ)の廃止

電力会社の供給区域を越えて電気を供給する場合の系統利用料金については、通過する区域ごとに「振替供給料金」が課金される仕組みで、料金を積み重ねていくことから、枚数を重ねていくパンケーキ(ホットケーキ)になぞらえて「パンケーキ」方式と呼ばれていたが、広域的な電力流通の活性化を図るためには、この制度を見直すことが適当とされた。これを受け、従来の「振替供給料金」は廃止され、電気の供給にあたっての系統利用料金は、供給区域内外の取引を問わず各供給区域における「託送供給料金」に一本化された。

全国規模の卸電力取引市場の整備

小売自由化範囲が拡大されるなかで、電源開発に関する投資の判断材料となる指標価格の形成や需給ミスマッチ時における電力の販売・調達手段の充実など、事業者のリスクマネジメント機能の強化が必要とされ、全国規模の卸電力取引市場が整備されることとなった。これを受け、2003年11月に私設・任意の卸電力取引市場として「日本卸電力取引所(Japan Electric Power Exchange:JEPX)」が設立され、2005年4月から運用を開始した。

第4次電気事業制度改革(2008年)

さらなる小売自由化範囲の拡大の検討

先の答申のとおり、2007年4月から小売自由化範囲の拡大の是非について電気事業分科会で検討が行われた。そのなかで、小売自由化範囲の拡大には相当規模の追加的費用が発生すると見込まれる一方、効率化効果がどの程度実現しうるかは不確実であり、家庭部門の需要家に自由化のメリットがもたらされない可能性があること、既自由化範囲において需要家選択肢が十分確保されていると評価できず、小売自由化範囲拡大の前提条件が整っていないことなどが指摘された。こうした検討をふまえ、2008年3月に基本答申「今後の望ましい電気事業の在り方について」が取りまとめられ、現時点において小売自由化範囲の拡大を行うことは適切でなく、まずは既自由化範囲において、競争環境整備に資する制度改革を実施すべきとされた。ただし、当該制度改革が実施された後、定期的に改革の効果を検証し、5年後の2013年を目途に、既自由化範囲における需要家選択肢の確保状況などについて再度検証を行い、その結果をふまえて小売自由化範囲の拡大の是非について改めて検討を行うべきとされた。

競争環境の整備

卸電力市場における流動性向上・競争活性化が、小売市場の活性化をもたらすことなどから、卸電力取引所の取引活性化策を中心に検討が行われた。

1時間前市場の創設 発電不調や需要急増などにより不測の需給ミスマッチが生じた場合、発電事業者や特定規模電気事業者(Power Producer and Supplier:PPS)が市場を通じて電源を調達することができないため、これらの事業者の事業リスク低減に資する市場として、「時間前市場(現物受け渡しの一定時間前に電気の取り引きを行う市場)」を創設することとされ、2009年9月から取り引きが開始された。

2インバランス料金の見直し 電気の供給にあたっては、瞬時瞬時の需要と供給を一致させる必要があり、PPSの発電不足分に対しては一般電気事業者が補給することとなるが、その際に適用される料金(インバランス料金)については、公平性・透明性の確保の観点から、算定方法の見直しが行われた。これにより、すべてのPPSでインバランス料金負担は軽減されることとなった。

安定供給の確保

自由化された市場における安定供給確保の観点から、供給区域ごとに、一般電気事業者およびPPSの供給力確保の状況と需要を把握し、需給バランスを公表することとなった。

環境適合

地球温暖化対策の重要性が高まるなか、事業者の取り組みを円滑に進めるため、京都メカニズムクレジットを事業者別CO2排出係数へ反映することが可能となった。また、卸電力取引所での実験的取り組みとして、CO2排出係数がゼロの電気(CO2フリー電気)や京都メカニズムクレジットの取り引きが導入された。

電力システム改革(2013年〜)

20113月の東日本大震災による原子力発電所の事故やその後の電力需給のひっ迫を契機として、電気料金の最大限の抑制や需給ひっ迫下での需給調整、再生可能エネルギーをはじめとした多様な電源の活用などが求められるようになり、これまでの電力システムを見直し、様々な事業者の参入や競争の促進、全国レベルでの供給力の活用、お客さまの選択によるスマートな電力消費など、より柔軟なシステムによって電力の低廉かつ安定的な供給を一層進めることへの社会的要請が高まった。
こうした情勢変化を受け、20122月、国は総合資源エネルギー調査会(経済産業大臣の諮問機関)の下に「電力システム改革専門委員会」を設置し計12回の議論を経て、20132月に今後の電気事業制度に関する「電力システム改革専門委員会報告書」を公表した。20134月、報告書を踏まえ「電力システムに関する改革方針」を閣議決定し、電力システム改革のための電気事業法改正が2013年から3段階に分けて行われた。電力システムに関する改革方針では、「安定供給の確保」「電気料金の最大限の抑制」「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」を改革の目的とし、この目的の下、1広域系統運用の拡大(電力広域的運営推進機関の設立)、2小売および発電の全面自由化、3法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保、の3段階からなる改革の全体像が示され、各段階で十分な検証を行い、必要な措置を講じながら進めることとなった。

電力広域的運営推進機関(広域機関)の設立:第1段階

電力システム改革の第1段階として、20154月に広域機関が設立され、全ての電気事業者(発電事業者、送配電事業者、小売電気事業者等)が広域機関の会員になることが義務づけられた。広域機関では、国全体の需給計画や供給計画を取りまとめ、電源の広域的な活用に必要な送電網の整備を進めるとともに、平常時・緊急時の需給調整機能を全国規模で強化して、中長期的な安定供給の実現を図ることとなった。具体的には、需給を安定させるため需給ひっ迫が見込まれる際に電力会社が広域機関に融通を依頼し、他の電力へ広域機関から融通を指示して安定供給を確保することとした。この他に、系統の公平な利用環境の整備などにも取り組むこととなった。

電力の小売全面自由化:第2段階

これまで段階的に電力の自由化が進められてきたが、電力システム改革の第2段階として、20164月、一般家庭を含めた全てのお客さまが自由に電力会社を選択できるようになった。これに伴い、旧一般電気事業者の供給義務が撤廃され、従来の事業者概念から、発電・送配電・小売の事業類型別に義務などを課す制度に移行した。なお、お客さま保護の観点から、小売電気事業所間の適正な競争が確保されるまでの間、旧一般電気事業者に低圧需要に対する規制料金での供給を義務づける経過措置が講じられた。

送配電部門の一層の中立化:第3段階

電力市場における活発な競争を実現する上で、誰でも自由かつ公平・平等に送配電ネットワークを利用できるようにするため、送配電事業の一層の中立性を確保する必要性が増した。このため、電力システム改革の第3段階として、20204月、発電・小売事業と送配電事業の兼業を原則禁止とする、送配電部門の法的分離が実施された。法的分離の方式としては、自らは電気事業を行わない持株会社の下に発電会社・送配電会社・小売会社を設置する「持株会社方式」と、発電会社・小売会社の下に送配電会社を設置する「発電・小売親会社方式」があり、当社は後者を採用し、発電・小売部門を有する九州電力のもと、送配電部門を「九州電力送配電」として分社化した。

更なる競争活性化等に向けた環境整備(市場の整備)(2016年〜)

電力システム改革を推進するにあたり、公正・公平な競争環境の整備のため、20169月、国は総合資源エネルギー調査会に「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」を設置した。2017年の中間取りまとめにて、卸電力取引市場をはじめとした既存市場の活性化および、自由化の下での公益的課題(環境、再エネ導入、安定供給等)への対応として、これまでになかった新たな市場を創設することにより、新たな価値を顕在化・流動化させていくことが示された。具体的な制度設計については、同調査会の下に「電力・ガス基本政策小委員会/制度検討作業部会」等が設置されて議論が進められており、20207月に第3次中間取りまとめが整理されている。
こうした中、20197月、新電力によるベースロード電源(石炭火力、大型水力、原子力等)へのアクセスを容易にすることで、小売競争及び卸電力市場を活性化させるための「ベースロード市場」が創設された。20207月には、需要のピーク時に電気を確実に供給できる能力を広域機関が確保して発電事業者に費用を支払うことにより、投資の予見性を高め、適切な発電投資を促す「容量市場」のメインオークションが実施され、2024年度から容量確保・金銭授受が開始されることとなった。この他、電気の持つ非化石価値を顕在化し証書化することで、非化石電源の開発・維持インセンティブを与える「非化石価値取引市場」の創設(FIT電源については20185月に取引開始、大型水力や原子力等の非FIT電源については202011月に初回オークション)や、一般送配電事業者が周波数調整や需給調整を行うための調整力を調達する「需給調整市場」の創設(20214月)など、新市場の整備が進められている。

電力インフラのレジリエンス強化(エネルギー供給強靱化法の成立)(2020年〜)

2018年の台風21号・24号や北海道胆振東部地震、2019年の台風15号・18号など、自然災害の激甚化、被災範囲の広域化を受け、安定供給確保のための電力インフラのレジリエンス(強靱性)の向上について社会的要請が高まった。
また、中東等の国際エネルギー情勢の緊迫化に加え、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた環境整備として、分散型ネットワークの形成やAI・IoT等の新技術の進化など、急激な環境変化にも対応できる電力システムの構築が求められた。
こうした事業変化を受け、201911月、国は総合資源エネルギー調査会(経済産業大臣の諮問機関)の下に「持続可能な電力システム構築小委員会」、「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会」を設置し、レジリエンス強化に向けた具体策や強靱かつ持続可能な電力の安定供給体制を確保するための制度改革について議論がなされ、20202月に中間とりまとめを報告した。国は、報告を踏まえて「エネルギー供給強靱化法」を閣議決定し、国会審議を経て20206月に成立した。
この法律は、「電気事業法」と「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法)」、「独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法(JOGMEC法)」の3つの法律を改正する、束ね法案であり、電力会社間の災害時の連携強化や災害に強い分散型電力システムに加え、再生可能エネルギーの導入支援に向けた電力市場と連動した支援制度の新設、送配電網のポテンシャルを最大限活用するための系統整備、送配電網の強靱化に向けた必要な投資の確保とコスト効率化の両立を促す託送料金制度などが新たに盛り込まれた。

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