2.IPP事業への積極的展開
メキシコ・トゥクスパン2・5号
九州電力初の海外発電事業となったトゥクスパン2号プロジェクトは、メキシコ・トゥクスパン地区に建設され、2001年12月に運転を開始した。出力は49万5000kWで、メキシコ電力庁(CFE)から天然ガスの燃料供給を受け、25年間にわたってCFEに対して電力を供給する事業である。
このプロジェクトは、九州電力が初めて海外での独立系発電事業者(Independent Power Producer:IPP)の技術面に関与する案件であったため、予備知識や経験不足が原因による設計不備や施工不良などの不具合が発生したが、建設期間中、最大時9人の社員を派遣し、粘り強く対処することで竣工に至った。
トゥクスパン2号の運転開始から5年後の2006年9月、隣接する土地にトゥクスパン5号が運転を始め、2号と合わせた出力は99万kWとなった。トゥクスパン5号の建設期間中、最大時12人の社員を派遣した。
その後、2号・5号とも順調に安定運転を継続しており、トゥクスパン2号におけるさまざまな経験は、トゥクスパン5号をはじめ、その後のプロジェクトの建設・運転に受け継がれることとなった。
フィリピン・イリハン
トゥクスパン2号に次いで2番目に運転開始したIPP案件がフィリピンのイリハン・プロジェクトである。フィリピン産天然ガスを燃料として使用する出力120万kWの同国最大の発電所として、2002年6月に運転を開始した。
発電した電力は全量をフィリピン電力公社(NPC)に卸供給しており、燃料となる天然ガスもNPCが供給している。
2001年4月から2004年1月にかけて九州電力から現地発電所に社員(技術系1人、事務系1人)を派遣した。また、プロジェクトへの出資にあたり、現地持株会社であるキューデン・イリハン・ホールディング・コーポレーション(Kyuden Ilijan Holding Corporation:KIHC)を設立した。
ベトナム・フーミー3号
九州電力として、3番目の海外プロジェクトであるフーミー3号プロジェクトは、ベトナム国内で初めての外資によるIPP事業として、2004年3月に運転を始めた。出力71万6800kWの天然ガス複合発電設備で発電した電力は20年間にわたりベトナム電力公社(EVN)に卸供給することとなった。
建設期間中から九州電力社員およびグループ会社社員を含めて積極的にプロジェクト会社への支援を実施しており、九州電力グループのノウハウを発電所建設や設備管理、事業運営に生かすことで、発電所の安定運転に寄与した。
フーミー3号プロジェクトでの九州電力グループの技術的貢献は他のスポンサーから高い評価を得ている。
中国・内蒙古風力発電事業
2004年から1年間にわたり、グループ会社の西日本環境エネルギーが、中国・内蒙古自治区赤峰市で風況調査を実施した結果、年平均風速約10m/sという風力発電にとって非常に恵まれた条件であることが判明した。
それを受けて翌年、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「CDM/JI推進基礎調査事業」の一つとして実現可能性調査(FS)を実施した。事業化を図るために、中国・大唐集団公司、住友商事との間で「再生可能エネルギー協力枠組協定」を締結して共同検討を進め、2007年11月に事業会社「大唐中日(赤峰)新能源有限公司」を設立した。
その後、融資や風車機器の選定などの作業を進め、2009年4月に現地工事を開始し、試運転・調整を経て、同年9月に営業運転を開始した。
発電所の規模は、合計出力5万kWであり、約12k平方メートルの敷地内に建設した2000kWの風車25機による年間売電量は約1億2000万kWhである。事業期間は、合弁会社設立から25年間で、発電した電力は地元の送電会社である内蒙古東部電力有限公司に売電するものである。
このプロジェクトは、日中合弁による初の風力発電プロジェクトであり、電力不足問題を抱える中国への貢献に加え、年間14万トンのCO2削減を行うという環境面での貢献もあり、社会的にも意義の高いプロジェクトである。
シンガポール・セノコ・パワー買収
2008年7月、セノコ・パワー(現セノコ・エナジー)に関する入札の公示があり、社内で検討した結果、シンガポールという安定した事業環境のもと、十分な収益性が期待できること、シンガポールを東南アジア諸国や豪州を含む地域統括の拠点とすることができること、自由化市場のノウハウ取得が可能なことなどから、優良な案件と判断し、入札に参加することとした。
同年8月の一次入札通過を経て9月、丸紅、GDFスエズ(フランス)、関西電力、九州電力、国際協力銀行の5社で組成したコンソーシアムが、セノコ・パワーの100%株式売却に関する国際入札を落札、全株式を保有するテマセック・ホールディングスとの間で株式売買契約を締結した。
セノコ・パワー社はシンガポールの発電設備容量の約3割にあたる330万kWの発電資産を保有するシンガポール国内最大の電力会社であり、同社株式を取得することにより、電力の安定供給を通じたシンガポール全体への貢献も目指している。
また、2009年12月には既設の石油火力発電設備を廃止し、天然ガス複合発電への燃料転換を行うリパワリング工事に着手(2012年9月運転開始予定)し、九州電力の知見を生かしながら、環境に配慮した事業への技術的貢献をおこなっている。
台湾・新桃電力股份有限公司の株式取得
2010年10月、新桃電力股份有限公司株式の一部(33.2%)を台湾の現地持株会社として設立した九電新桃投資股份有限公司を通じ、丸紅から取得した。
新桃電力股份有限公司は、1995年に台湾電力が実施した第2次IPP入札により開発が進められた出力60万kWの天然ガス複合発電所の事業会社である。発電所は台湾北部の新竹県に位置し、2003年3月に運転を開始した。発電した電気は全量を公営の台湾電力公司に売電している。
台湾は親日的で九州にも地理的に近接しており、カントリーリスクも低く、IPP制度も整備されている。これを足がかりに、将来の事業展開を目指していく考えである。
インドネシア・サルーラ地熱の運転開始
2013年10月、伊藤忠商事、インドネシアの(PT Medco Power Indonesia)、米国のオーマット(Ormat Technologies, Inc.)とともに、事業会社サルーラ・オペレーションズ(Sarulla Operations Ltd.)を通じて、インドネシア国有電力会社(以下「PLN」)およびインドネシア国有石油会社の子会社であるプルタミナ地熱との間で売電契約を締結した。
本契約は、インドネシア スマトラ島の北スマトラ州サルーラ地区にプルタミナ地熱が保有する地熱鉱区で、出力約33万kWの地熱発電所を建設し、PLNへ30年間にわたり売電するものである。
本プロジェクトは、単一開発契約としては世界最大級規模の地熱IPP事業であり、2017年3月以降、順次営業運転を開始し、2018年5月には、3号機(出力10.9万kW)が営業運転を開始したことにより、本プロジェクトの全号機が営業運転を開始した。
米国バーズボローガス火力発電事業への参画(初の米国事業)
2017年12月、米国ペンシルバニア州において建設中のバーズボローガス火力発電所(出力48.8万kW)の持分11.1%を取得し、当社として初となる米国での発電事業に参画した。
本案件は、ペンシルバニア州バーズボロー地区に、最新鋭の性能を持つ高効率ガスタービンを採用したコンバインドサイクル発電方式で発電・売電するもので、2019年5月の運転開始後は、米国における卸電力市場の一つであるPJMを通して米国北東部に電力を供給している。
米国クリーンエナジーガス火力発電事業への参画
2018年5月、米国コネチカット州において発電事業をおこなっているクリーンエナジーガス火力発電所(出力62万kW)を運営するクリーン・エナジー・ホールディングス(Kleen Energy Holdings, LLC)の持分20.25%をアレス・イーアイエフ(Ares EIF)グループが運営する投資ファンドから取得した。
本案件は、同州ミドルタウン市において、高効率ガスタービンを採用したコンバインドサイクル発電方式で発電・売電するもので、米国北東部6州からなる卸電力市場ISO-NEを通して米国北東部に電力を供給している。
米国サウスフィールドエナジーガス火力発電事業への参画
2018年8月、米国オハイオ州においてアドバンスドパワー(Advanced Power)社が保有する米国サウスフィールドエナジーガス火力発電事業(出力118.2万kW)の持分18.1%を取得した。
本案件は、オハイオ州コロンビアナ郡において、高効率ガスタービンを採用したコンバインドサイクル発電方式の発電所を新設して発電事業を運営するもので、運転開始後は米国における卸電力市場の一つであるPJMを通して米国北東部に電力を供給していく。本事業は2021年10月5日に営業運転を開始営業運転を開始した。
タイ大手発電事業者「EGCO社」への経営参画
2019年5月、タイ王国の大手発電事業者である「エレクトリシティ・ジェネレーティング・パブリック・カンパニー社(Electricity Generating Public Company Limited)の株式の約24%を保有するテプディア・ジェネレーティング社(TEPDIA Generating B.V.)の持分25%を三菱商事から取得することにより、EGCO社の株式の約6%を間接的に取得し、同社の経営に参画した。
EGCO社は、タイを中心に多数の発電資産を保有しており、アジアでも有数の成長企業のひとつである。また、大型火力に加え、水力、太陽光、風力、地熱等の再生可能エネルギーの開発にも力を入れており、持続可能な社会の実現に向け取り組んでいる。当社は、これまで国内外で培った当社技術・ノウハウを活かし、三菱商事及びJERAとともに、EGCO社の更なる成長並びにアジアの電気事業の発展に貢献していく。
米国ウエストモアランドガス火力発電事業への参画
2019年11月、米国ペンシルバニア州ウエストモアランド郡においてウエストモアランドガス火力発電事業(出力 94.0万kW)を運営するテナスカ・ペンシルバニア・パートナーズ社(Tenaska Pennsylvania Partners, LLC)の権益12.5%相当を、Diamond Generating LLCから取得した。
本案件事業は、高効率ガスタービンを採用したコンバインドサイクル発電方式で発電・売電するもので、米国における卸電力市場の一つであるPJMを通じて米国北東部に電力を供給している。今回の参画により、米国における発電事業は4件目となった。
中東における初の発電造水事業への参画
2019年12月、アラブ首長国連邦(UAE)においてタウィーラB(Taweelah B)発電造水事業を運営する事業会社の持分6%相当及び運転保守会社の持分15%相当を、日揮ホールディングスから取得する株式購入契約を締結した。
本案件事業は、UAEアブダビ首長国タウィーラ地区において、総出力200万kWの天然ガス火力発電設備、及び日量73万トンの海水淡水化設備を保有・運転し、エミレーツ水・電力公社に対して長期契約に基づき電力・水を供給している。
中東地域では、電力・水需要が増加しており、今後も民間企業を活用した発電造水事業の入札が実施される予定で、今回の参画を契機に、アジアや米国に加え、欧州・中東・アフリカ地域へも海外事業の開発エリアを拡大していく。
バーレーン王国 アルドゥール1発電造水事業への参画
2021年8月、バーレーン王国においてアルドゥール1(Al Dur 1)発電造水事業を運営する事業会社の持分19.8%相当を取得した。
本事業は、バーレーン王国アルドゥール地区において、総出力123万kW(持分出力24万kW)の天然ガス火力発電設備、及び日量約22万トン(持分約4万トン)の海水淡水化設備を保有・運転し、バーレーン電力・水庁に対して長期契約に基づき電力・水を供給している事業で、2020年に参画したアラブ首長国連邦・タウィーラB発電造水事業に続き、九電グループ2件目の中東における発電造水事業となった。
ウズベキスタン ガス火力発電事業への参画
2022年3月、フランス電力(EDF)、カタール国ネブラスパワー、双日と共同で、中央アジアのウズベキスタン共和国において、ガス火力発電事業へ参画した。
本事業は、ウズベキスタン共和国シルダリヤ地区において、総出力約160万kW(持分出力約23万kW)の天然ガス火力発電設備を新設し、25年間にわたり電力を発電・供給するもの。
これにより、温室効果ガス排出削減目標達成に向け、老朽発電設備を高効率ガス火力に置き換える同国の方針に貢献する。
また、本事業は、九電グループ初の中央アジアにおける電力事業となった。
フィリピン共和国の再生可能エネルギー開発事業者「ペトログリーン社」への出資
2022年10月、フィリピン共和国の再生可能エネルギー開発事業者である「ペトログリーン社」(PetroGreen Energy Corporation:PG)への出資をおこなった。フィリピン共和国は、経済成長に伴い増加する電力需要に対して十分な供給力を確保するため、電源開発を推進するとともに、再生可能エネルギーへの移行により、再生可能エネルギーの割合を現在の20%から2030年までに35%、2040年までに50%へ拡大する目標を掲げ、電源の低・脱炭素化を目指している。
PG社は、金融・エネルギー事業等を展開するユーチェンコグループの傘下で、再生可能エネルギーの開発・運営を手掛けており、同国で地熱・風力・太陽光等の発電事業を実施している。
同社は、今後も洋上風力等を含む再生可能エネルギーの開発を、積極的に展開していく方針。