1.原子力を取り巻く環境
原子力を取り巻く環境
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故(福島第一事故)を受け、全国の原子力発電所が停止するとともに、2012年9月、国の規制機関である原子力安全・保安院に代わり、独立して権限を行使することができる原子力規制委員会が設置され、規制の強化が図られた。2013年7月、同委員会は、福島第一事故の教訓や海外の規制動向を踏まえ、これまでの事故発生防止対策に加え、新たに、重大事故発生時の対策、火山・竜巻等の自然現象、テロリズムへの対策を含めた世界最高水準の「新規制基準」を施行した。
これにより、全国の原子力発電所は、再稼働の条件となる新規制基準への適合性を求められた中、川内原子力発電所1号機は、全国に先駆けて、同基準に適合した。また、再稼働にあたっては、地元自治体の理解を得るために、地元説明会や社長による周辺市町首長との対話などプロセスを踏み、薩摩川内市議会及び市長の判断、並びに鹿児島県議会及び県知事の判断をいただき、2015年8月、全国初となる再稼働を果たした。福島第一事故から10年が経過したが、再稼働したのは、PWRプラント9基(川内1、2号機、玄海3、4号機、高浜3、4号機、大飯3、4号機、伊方3号機)にすぎず、残りのPWRプラント及びBWRプラントは再稼働に至っていない。
一方で、原子力発電の依存度低減の議論や古い原子力発電所の新規制基準へ適合するための追加安全対策への投資回収性等を背景に、全国で廃止措置に移行するプラントが増加した。当社においても、玄海原子力発電所1、2号機の廃止を決定し、現在、廃止措置を実施中である。
防災面においても強化が図られ、原子力防災対策指針で、防災対策を講じる重点区域の範囲が、原子力発電所の半径約8〜10kmから、概ね30kmに拡大され、その範囲内の関係自治体では、地域防災計画(原子力災害対策編)を策定することが義務付けられた。
一方で、福島第一事故以降、全国で運転差止めを求める民事訴訟や設置許可の取消しを求める行政訴訟が提起され、他電力では、敗訴に伴い運転の停止を命じられた事例もある。当社においても複数の訴訟が提起されているが、2021年4月現在、既に判決が出た訴訟については、いずれも勝訴している。
我が国の重要なエネルギー政策である核燃料サイクルに目を向けると、六ケ所再処理工場、MOX加工工場においても、2022年度上期、2024年度上期のしゅん工を目指し、日本原燃は、新規制基準への適合に向け、国の審査に鋭意対応中である。
福島第一事故を受けた原子力産業界全体の取組みとしては、自主的・継続的な安全性向上を図るため、2012年11月に原子力安全推進協会(JANSI)、2014年10月に電力中央研究所 原子力リスク研究センター(NRRC)、2018年6月に原子力エネルギー協議会(ATENA)が設立された。
近年、世界的に地球温暖化が深刻化し、主要各国においては、温室効果ガス削減の取組みが加速しており、我が国としても、2020年10月、首相が「2050年カーボンニュートラル(2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)」を宣言した。この実現に向け、温室効果ガスを排出しない安定的な電源として、原子力発電への期待が高まっている。