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2.耳川流域の対応

災害に強い耳川流域の創出を目指した取組み

耳川水系には、8つのダムと7水力発電所があり、出力・発電量ともに九州電力の一般水力の20%以上を担う主要電源である。20059月の台風14号襲来時には、記録的な豪雨とそれに伴う大小約500カ所の斜面崩壊の発生(図‐1)により、流域全域で土砂災害や多くの浸水被害(約400戸)が発生した。九州電力の設備も西郷、山須原、塚原、上椎葉の4発電所が浸水した。洪水に加え河川やダム貯水池に大量の土砂・流木が流れ込んだことで、被害が大きくなった。

[画像:ダム下流での山腹崩壊状況の写真]

図‐1 ダム下流での山腹崩壊状況

災害後、九州電力は、復旧対応を進める傍ら調査、解析、実験などを踏まえた技術検討により災害発生要因を分析し、ダムのみでなく山地・森林を含む流域全体を視野に入れた抜本的対策が不可欠であることが判明したことから、河川管理者(宮崎県)に提案した。
宮崎県は、抜本的対策の大きな要素となる流域全体の土砂に起因する様々な問題・課題の解決に向け、地元自治体や流域住民、九州電力など関係者との議論を重ね、2011年、土砂の適切な管理による河川の安全確保と環境保全実現などを目的とした「耳川水系総合土砂管理計画」を策定した。この中で、ダム設置者である九州電力は、ダム貯水池へ流入する土砂を下流に通過させる「ダム通砂運用」を実施することとし、中核的な事業として位置付けられている。「総合土砂管理計画」の進捗は、宮崎県主催で、学識者、行政、利水者、流域住民などから構成される「評価・改善委員会」で毎年、確認、議論され、達成に向けて継続的かつ着実に管理されている。
ダム通砂運用は、台風接近により、ある規模の出水(注1)が予想される際に事前にダム貯水池の水位を下げ、本来の河川の状態に近づけることでダム貯水池に流れ込む土砂を下流に流下させる運用である。(図‐2)

(注1)山須原ダム地点で河川流量700m3/s以上(貯水池内全体の土砂が大きく動く流量)

本運用によって、ダム上流では、洪水時に土砂が溜まりにくくなるため、洪水時の水位上昇を抑制でき、地域防災に大きく寄与できる。(図‐2)
ダム下流では、これまでにダム貯水池に貯まっていた土砂が、下流域に供給されることで、河床が石・礫・砂など様々な大きさの材料に変わり、砂州の拡大や明瞭な瀬・渕の形成により、自然本来の姿に近づく。さらに、魚の餌となる新鮮な藻類が増加するなど、多様な生物生息環境が再生する環境面での効果が期待される。(図‐3)
運用の方法については、現地の状況やシミュレーション結果を踏まえ、通砂の効果や影響、護岸を含む河川や道路の安全、更には運用による減電を総合的に勘案して決定した。

[画像:ダム通砂運用のイメージ]

‐2 ダム通砂運用のイメージ

[画像:ダム通砂運用による環境改善のイメージ]図‐3 ダム通砂運用による環境改善のイメージ

西郷ダムと山須原ダムは既設ダムの構造では、ダム通砂運用ができなかったことから、国内初の既設ダムの切り下げ工事を2011年に開始した。西郷ダムの主要工事が完了した2017年度からは西郷と大内原の2ダム連携での通砂運用を実施した。(図‐4)また、山須原ダムの主要工事が完了する2021年度からは山須原、西郷、大内原の3ダム連携での通砂運用を実施予定である。なお、大内原ダムは現行設備のままダム通砂運用が可能であったため、改造は実施しなかった。

[画像:ダム改造の状況の写真]

‐4 ダム改造の状況

通砂運用は、2017年から2020年までの間に3回実施した。(図‐5)調査・評価が完了した過去2回の通砂運用では、ダム上流で土砂堆積が抑制されるなど、治水安全度の維持・向上が確認された。また、西郷ダム下流では礫・石などの比較的粒径の大きい土砂が供給され、瀬が増加するなど河川環境の改善が確認された。これらの土砂は、出水の度に少しずつ下流に移動している。このため、大内原ダム下流にはまだ礫・石がとどいていないが、砂の供給が増えたことから、アユの産卵に適した河床が増加し河川環境改善の兆候が確認されている。今後も評価と計画は、学識者等で構成する社内委員会で行い、その結果を「評価・改善委員会」へ提示し、流域関係者の理解と協力を得ながらより良い運用を目指している。

[画像:西郷ダム通砂運用実施状況写真]

‐5 西郷ダム通砂運用実施状況写真(2017年度)

通砂運用開始にあたっては、運用方法や効果について、流域自治体の首長や担当者・議員の方々に説明後、流域住民の方々にも正確に理解していただくため、休日・夜間に公民館で対話型の説明会を実施した。この説明会をはじめ流域住民の方々を招いた工事見学会や流域イベントである耳川フェスティバル(宮崎県主催)などにおいて、映像や一般向けの図・画像をフル活用し理解活動を重ね、ダム通砂運用に対して概ね流域全体の理解を得るまでに至った。
また、これまでのダム通砂運用の理解活動で構築された地域との信頼関係を基に、地域と協働でダムカードの配布やダムカレーの普及を行うとともに、ダムを観光資源とした地域共生活動を推進した。今後も当取組みを継続し、更なる理解促進と信頼関係の向上に努めていきたい。

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