細部まで精巧に作られた各地の地ダイコンのレプリカ(国立科学博物館蔵)
特別展「和食 〜日本の自然、人々の知恵〜」(朝日新聞社など主催)が京都文化博物館(京都市中京区)で7月6日(日)まで開かれています(熊本、静岡へも巡回)。
身近な「和食」について科学や歴史などから多角的に迫る全国巡回展で、食の大切さが見直される今、どの世代の方にも見ていただきたい内容です。食材や料理のレプリカも満載で、見ているうちにおなかがすくこと間違いなし。見どころのいくつかを、担当者らの思いも添えてお伝えします。(撮影した展覧会場は京都文化博物館。写真は記載のあるものを除き、福野聡子撮影)
●くろまる京の味、展覧会ビジュアルにも
和食を代表する食材の一つ、ダイコン。日本に約800品種あると言われています。会場でも、全国の地ダイコンの実物大レプリカ展示が人気です。丸々とした聖護院(しょうごいん)大根、ゴボウのように細長い守口大根、人の顔より大きい桜島大根など、特色ある25種が並んでいます。
実は聖護院大根は、京都会場のチラシ・会場看板などのビジュアルとしても活躍中。巡回展で他会場のチラシなども日本の様々な食材・料理をあしらったデザインですが、京都会場では、地元産の京野菜と京都の白味噌(みそ)丸餅雑煮を加えました。
●くろまる京野菜を捜せ!
京都会場用に京野菜を撮影するため、2024年秋から準備をはじめました。夏の名残で、万願寺とうがらしはすぐ入手できましたが、難航したのは聖護院大根。まずは試しにと、自分の家庭菜園で種をまいて育ててみることにしましたが、実がふくらんできたところで、けものにやられ全滅。
店で購入することにし、スーパーなどに行きましたが、多くは葉を切り落とされており、すべての葉っぱが付いたものは見つかりません。さらに、カブの一種「すぐき」は、そもそも漬物用のため簡単に出会えません。
最後は、京都市の市街地北部にある上賀茂の農家の方にお願いし、完全な形の聖護院大根と「すぐき」を農地から抜いてもらいました。対応くださった農家さんには感謝しかありません。
●くろまる野菜だって植物
さて、特別展「和食」の展示の大きな特徴は、水、キノコ、魚介、海藻、発酵、だしなどについて、自然科学の観点からアプローチしていること。「野菜の標本」もその一つで、普段食べている野菜を植物として実感してもらうのが狙いです。ミニトマト、ブロッコリー、ニガウリ、キャベツなど身近な野菜16種を花が咲いた状態で標本にし、展示しています。
監修者の1人で国立科学博物館植物研究部の国府方(こくぶがた)吾郎さん によると、標本にする際、厚みのあるダイコンを薄く切ったり、ナスの実の軸をきれいに残したりするのがなかなか難しかったそうです。
主な野菜の渡来時期を示すパネルも。今日本で食べている野菜のほとんどは、原産地が海外ですが、国府方さんは「ハクサイ(結球品種)も明治時代に日本に入ってきて、代表的な和食の野菜となりました。海外のものをうまく取り入れるのは、日本文化の誇りうるところです」と話していました。
●くろまる清少納言に思いはせ
奈良時代には食べられていたという古代の甘味料・甘葛煎(あまづらせん)。平安時代の清少納言の「枕草子」にも「削り氷(ひ)にあまづら入れて」という記述で登場します 。会場には、その甘葛煎の再現品展示があります。
出品した奈良女子大学協力研究員、前川佳代さんらは、甘葛煎は厳冬期のナツヅタの樹液を煮詰めて作られたと考えています。古代の甘味をよみがえらせようと、ナツヅタの樹液を採取して再現実験を重ねていて、今年1月にも、丹波国が甘葛の献納国だったことにちなみ、京都府京丹波町で採取・再現。今回の展示にも出品しています。
展示にちなみ、会場内特設ショップでは、カキタンニンで同様の味わいを出したという「甘葛風シロップ」(税込み1500円)を販売中(完売・欠品になる場合があります)。
これからの季節、清少納言気分でかき氷にかけて味わうのも楽しそうです。
会場では、天武天皇の孫の長屋王(ながやおう)の食卓や、織田信長による徳川家康への饗応(きょうおう)膳など、歴史上の偉人らの食事をはじめ、各時代の料理を再現模型などで紹介。スイーツ好きの方は、そちらの甘味にもご注目ください。
●くろまる「将軍御膳」、学生たちの協力で再現
京都といえば祇園祭。会場では、約500年前、室町幕府12代将軍の足利義晴が祇園祭の山鉾(やまほこ)巡行を観覧しながら食べた御膳を、京都府立大学と大和(たいわ)学園京都調理師専門学校の協力で一部再現し、その模型を展示しています。
京都会場のみの企画で、 2023年秋から、両校の学生計23人がかかわって実現しました。古文書に残る料理名の記録を手がかりに、大学側でまず室町時代の食文化を学び、史料の読み解きをしてから、両校で復元レシピを検討し料理を試作。完成した料理は1月に模型化され、展示にこぎつけました。
御膳を食べた足利義晴はこのとき、まだ10代の少年。幼い将軍がどのように祇園祭を見たのか、約500年前の情景を想像する手助けにもなればと思います。
●くろまる忘れられない和食、あなたは?
会場の最後に、来場者が「忘れられない和食」を付箋(ふせん)で貼るコーナーがあります。付箋に書かれた料理名には、家族やふるさとへの思い、旅の思い出があふれていて、目立つのはやっぱり「おにぎり」でしょうか。
観覧に先日ご招待したXで人気の「日本推しラトビア人」アルトゥル・ガラタさんにも書いていただきました。「カニみそ軍艦」で、8年前、初来日した時に友人と行った回転ずしの店で出会ったそう。「一見セメントのような見た目のインパクト、そして食べてみたら、もう『愛』だと。ずっと大好きなままです」とにっこり。
「忘れられない和食」、皆さんなら、どんな料理を選びますか。
【開催概要】
特別展「和食 〜日本の自然、人々の知恵〜」
●くろまる会期:開催中〜7月6日(日)まで
●くろまる会場:京都文化博物館(075ー222ー0888)
●くろまる開室時間:午前10時〜午後6時(金曜は午後7時30分まで)。入場は閉室の30分前まで。月曜休館
●くろまる観覧料:一般1800円、大学・高校生1400円、中学・小学生600円
●くろまる主催:京都府、京都文化博物館、朝日新聞社、MBSテレビ
●くろまる後援:文化庁、農林水産省、和食文化学会、和食文化国民会議、京都府観光連盟、京都市観光協会、KBS京都、エフエム京都
●くろまる協賛:キッコーマン、三和酒類
●くろまる特別協力:国立科学博物館
●くろまる協力:クックパッド、京都府立大学京都和食文化研究センター、大和学園 京都調理師専門学校
◆だいやまーく京都の後、熊本、静岡にも巡回します(展示・グッズの一部に変更があります)
(文:朝日新聞社 メディア事業本部 大阪事業部 福野聡子:記者職や編集者職を経て、現在は展覧会を企画・運営する部で勤務。「和食」京都会場では、広報の一部を担当)
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