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世界国尽

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
世界国尽
(せかいくにづくし)
頭書大全 世界國盡
著者 福澤諭吉
発行日 1869年(明治2年)の初冬[1]
発行元 慶應義塾
ジャンル 地誌
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 和装本(木版半紙判6冊本)[1]
ページ数 巻の一は、序文4丁、凡例3丁、目録2丁、本文17丁、折込附図2面。
巻の二は本文16丁、巻末に亜非利加洲全図折込。
巻の三は本文33丁、巻末に欧羅巴洲全図折込。
巻の四は本文24丁、巻末に北亜米利加洲全図折込。
巻の五は本文19丁、巻末に南亜米利加洲全図と大洋洲全図との2面を折込。
巻の六は本文22丁[1]
公式サイト dcollections.lib.keio.ac.jp/en/fukuzawa/a13/34
コード ISBN 978-4-7664-0878-2
ISBN 978-4-623-07828-8
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『世界国尽』(せかいくにづくし)は、福澤諭吉の著書のひとつ。正式名称は、『世界國盡』1869年(明治2年)の初冬に発行された。世界地理の入門書である。地理以外に、その国の歴史を説明している箇所もある。

内容

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以下、原文の引用[2] を含む。

一の巻(亜細亜洲)

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序文で、本書の発行の目的は子供や女性に世界の形勢を理解させることであると記している。さらに、「合衆国ニウヨルク州のワルプランク氏」の文章を飜訳して序文に代えている。

発端において、冒頭で

「世界は広し万国は、おほしといへど大凡(おおおよそ)(いつつ)に分けし名目(みようもく)は、亜細亜(アジア)阿弗利加(アフリカ)欧羅巴(ヨーロツパ)、北と南の亜米利加(アメリカ)に、(さかい)かぎりて五大洲、太洋洲は別にまた、南の島の名称(となえ)なり」

と述べているように、一の巻はアジア、二の巻はアフリカ、三の巻はヨーロッパ、四の巻は北アメリカ、五の巻は南アメリカと太平洋諸島およびオーストラリア、そして六の巻は附録(地理学の総論)のように構成されている。全巻にわたって、ほとんど全てのページに図が添えられていて、地理案内の図解のように構成されている。また、一の巻から五の巻までの最初と最後には、それぞれの「洲」の着色地図が添えられている。六の巻では地学を天文・自然・人間の3つのカテゴリーに分けて説明している。

そして、本文においては、例えば一の巻(アジアの巻)では、地理の説明以外に阿片戦争の歴史を説明している。

二の巻(阿非利加洲)

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二の巻(アフリカの巻)では、アフリカ洲の一大国として「衛士府都」(エジプト)を取り上げて、特に「比羅三井天」(ピラミイデ)を説明している。

三の巻(欧羅巴洲)

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また、三の巻(ヨーロッパの巻)では、当時の5大国として、「魯西亜」(ロシア)、「普魯士」(プロシヤ)、「墺地利」(オウストリヤ)、「英吉利」(英国)、「仏蘭西」(フランス)をあげて、文明開化の中心地と説明している。そして、ヨーロッパの説明では

「土地の広袤(ひろさ)(くらぶ)れば、五大洲の末なれど、狭き国土に空地(あきち)なく、人民(つね)の産を得て、富国強兵天下一、文明開化の中心と、名のみにあらず其実(そのじつ)は、人の教の行届き、徳誼(とくぎ)を修め知を開き、文学技芸美を尽し、都鄙(みやこいなか)差別(しやべつ)なく、諸方に(たつ)る学問所、幾千万の数知らず。」

と述べて、その繁栄ぶりを強調している。さらに、説明を続けて

()産業(すぎわい)の安くして、(かの)商売の繁昌し、兵備整ひ武器足りて、世界に誇る泰平の、その源を(たずぬ)るに、(もと)(つとむ)る学問の、枝に咲きたる花ならん。花みて花を(うらや)むな、本なき枝に花はなし。一身(ひとり)の学に急ぐこそ、進歩(あゆみ)はかどる紆路(まわりみち)、共に辿(たど)りて西洋の、道に(さかゆ)る花をみん」

と述べて、文明開化を進めるには学問が根本にあるとして「学問のすすめ」を説いている。

四の巻(北亜米利加洲)

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また、四の巻(北アメリカの巻)では、地理の説明以外にアメリカ独立戦争の歴史を説明している。さらに、アメリカ独立宣言を踏まえて「ひとにも貸さじ(わが)自由、天の道理に(もとづき)て、国に報ゆる丹心(たんしん)の、誠にいでし一国の、不羈(ふき)独立の勢は、(とめ)んとすれど(とどま)らず」と説明している。

五の巻(南亜米利加洲・太洋洲)

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五の巻(南アメリカ)では、一帝国として「武良尻」(ブラジリ)をあげている。

六の巻(付録)

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最期に、六の巻(付録)では、地学を天文・自然・人間の3つの章に分けて説明している。天文の章では、地球が丸いことや磁石が南北を指すこと、経度緯度などを説明している。自然の章では、地形の説明として、半島地峡火山砂漠大洋湖水、入海()、瀬戸(海峡)、などを説明している。人間の章では、文明の発達段階として4段階があることをあげて、第1段階を「渾沌」、第2段階を「蛮野」、第3段階を「未開又は半開」、第4段階を「文明開化」と説明している。また、政府の体裁に3種類があることをあげて、第1は「モナルキ」(立君政治)、第2は「貴族合議」、第3は「共和政治、或は合衆政治」であると説明している。

特徴

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本書の特徴は、本文が七五調で統一されているところにある。『福澤全集緒言』の解説によると、日本国中の老若男女に世界地理を知らしめるため、江戸の地理案内書を購入して暗誦し、地理案内書にそっくりの七五調で書くことにしたとの事である[注釈 1]

その他

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『世界国尽』の復刻版

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1968年(昭和43年)に、日本近代文学館から「名著複刻全集近代文学館 明治前期 1-1〜6」として、6冊からなる『世界国尽』の復刻版が発行されている。[4]

『世界国尽』の歌

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『世界国尽』の本文を歌詞に編集し、曲をつけて、歌にしたものである。慶應義塾の創立90周年の1958年(昭和33年)、塾員の上田寿四郎が本文を編集し、橋本国彦が作曲して成立した。その歌詞を1972年(昭和47年)に桑原三郎が上田の許可を得て、小学生向きに改編して完成した。第26番まで歌詞があり、全曲を歌うと世界一周できるようになっている。[5]

『世界国尽』の模倣作品

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仮名垣魯文は『世界国尽』を模倣した『首書絵入世界都路』という作品を発表している。七五調の7冊からなる本である。[6]

脚注

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注釈

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  1. ^ 福澤は『福澤全集緒言』において『世界国尽』について以下のように説明をしている。
    世界国尽
    幾千百年来蟄居(ちつきよ)の人民が(にわか)に国を(ひらい)世界(せかい)(まじわ)らんとするには、()ずその世界(せかい)何物(なにもの)にして(いず)れの方角(ほうがく)に位するやを知り、その地名(ちめい)を知りその遠近(えんきん)を知るは最も大切(たいせつ)なることにして、前年は唐天竺(からてんじく)とて世界の末端(はて)と心得たりしに、今は唐天竺(からてんじく)(ほか)欧羅巴(ヨーロツパ)亜米利加(アメリカ)等も出現(しゆつげん)し来り、(したがつ)て人の眼界(がんかい)は旧時に幾倍(いくばい)して広からざるを得ず。眼界(がんかい)の広きは()りも(なお)さず世界を(せま)く思うことなれば、()(かく)全国民(ぜんこくみん)をして世界(せかい)()ること日本国内を()ると同様(どうよう)ならしめんと欲し、(これ)(つい)ては江戸の各処(かくしよ)に在る寺小屋(てらこや)手本(てほん)に、江戸方角(ほうがく)又は都路(みやこじ)とて、府下東西南北の方角(ほうがく)地名(ちめい)等を記し、東海道五十三(つぎ)順序(じゆんじよ)を五字七字の口調(くちよう)もて面白(おもしろ)書綴(かきつづ)り、児童(じどう)をしてその手本(てほん)の文字を手習(てならい)すると共にその文句(もんく)暗誦(あんしよう)して自然(しぜん)地理(ちり)を覚えしむるの慣行(かんこう)にして、江戸方角(ほうがく)都路(みやこじ)と云えば江戸中の貴賤貧富(きせんひんぷ)(かかわ)らず毎戸毎人(まいこまいひと)これを知らざる者なき程の次第なれば、余は之を見て(ひと)首肯(うなず)き、よし〱日本国中の老若男女(ろうにやくなんによ)をして世界の地理風俗(ちりふうぞく)を知ること江戸の方角地名(ほうがくちめい)、東海道の五十三(つぎ)暗誦(あんしよう)するが(ごと)くならしめんとの一案を起し、(にわか)書林(しよりん)に就て江戸方角、都路の版本(はんぽん)を求め、幾度(いくど)も之を熟読暗誦(じゆくどくあんしよう)して、(すなわ)ちその口調(くちよう)(なら)うて(つづ)りたるものは世界国尽(せかいくにづくし)なり。本文(ほんもん)のみにては尽さゞるが故に頭書(かしらがき)を加えて、(およ)そ各地の風俗歴史(ふうぞくれきし)等の荒増(あらま)しを記したれども、文章(ぶんしよう)(きわ)めて通俗(つうぞく)を主として(いやしく)難字(なんじ)を用いず、(まぎ)れもなき寺小屋流(てらこやりゆう)体裁(ていさい)なりと信ず。 — 福澤諭吉、『福澤全集緒言』、79-80頁[3]

出典

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  1. ^ a b c "デジタルで読む福澤諭吉 世界国盡. 一". 慶應義塾大学メディアセンター. 2017年8月25日閲覧。
  2. ^ 福沢 1981, pp. 103–186。
  3. ^ 『福澤全集緒言』、79-80頁
  4. ^ 桑原 1979, pp. 89–90を参照。
  5. ^ 桑原 1979, pp. 89–117を参照。特に、94 - 95頁に楽譜が掲載されている。96 - 100頁に第1番から第26番までの歌詞が収録されている。
  6. ^ 桑原 1979, pp. 114–115を参照。特に、115頁には『首書絵入世界都路』の序文の一部が掲載されている。

書誌情報

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  • 福澤諭吉 訳述『頭書大全(かしらがきたいぜん/とうしょたいぜん) 世界國盡』(初版)慶應義塾、1869年8月。NDLJP:761278  - 初版木版半紙判6冊本。
    • 福澤諭吉 訳述『頭書大全(かしらがきたいぜん/とうしょたいぜん) 世界國盡』(2版)慶應義塾、1871年12月。NDLJP:993092  - 再版木版半紙判合綴3冊本。
    • 福澤諭吉『素本(そほん) 世界國盡』内田晋斎 書、慶應義塾、1872年。  - 小型3冊本。
    • 福澤諭吉『真字素本(まなそほん) 世界國盡』(新刻福澤氏版)福澤諭吉、1875年3月。NDLJP:993277  - 木版半紙判1冊本。
  • 福澤諭吉「世界國盡」『福澤全集』 第2巻、時事新報社、1898年2月5日。NDLJP:898728/303 
  • 福澤諭吉 著「世界國盡」、石河幹明 編『福澤全集』 第2巻、國民圖書、1926年5月31日、679-792頁。NDLJP:979052/372 
  • 福澤諭吉 著「世界國盡」、富田正文土橋俊一 編『福澤諭吉全集』 第2巻(再版)、岩波書店、1969年11月13日(原著1959年2月1日)、579-668頁。 
  • 福沢諭吉 訳述『世界国尽』日本近代文学館〈近代文学館 名著複刻全集 明治前期 1-1〜6〉、1968年12月。  - 和装6冊。初版(福澤 1869)の復刻。
  • 福沢諭吉「世界国尽」『福沢諭吉選集』 第2巻、芳賀徹 解説、岩波書店、1981年2月25日、103-186頁。ISBN 4-00-100672-3  - 新字旧仮名版。
  • 福沢諭吉『福沢諭吉教育論集』山住正己 編、岩波書店〈岩波文庫〉、1991年3月18日。ISBN 4-00-331024-1  - 235 - 269頁に、付録として、『世界国尽』の抄文が収録されている。抄文のため、序文と亜細亜洲、北亜米利加洲の部分のみが収められている。
  • 福澤諭吉「世界国尽」『福澤諭吉著作集』 第2巻 世界国尽 窮理図解、中川眞弥 編・解説、慶應義塾大学出版会、2002年3月15日、63-160頁。ISBN 978-4-7664-0878-2  - 新字新仮名版。
  • 齋藤秀彦白井敦子坂戸宏太 編著『福澤諭吉の『世界国尽』で世界を学ぶ 七五調でうたっておぼえる世界の地理と歴史』ミネルヴァ書房、2017年4月20日。ISBN 978-4-623-07828-8  - 福沢 (1968)福澤 (2002)を底本とし、本文は原文のままで、その他の部分は現代語訳を収録。

参考文献

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関連事項

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外部リンク

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