コンテンツにスキップ
Wikipedia

二項級数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
印刷用ページはサポート対象外です。表示エラーが発生する可能性があります。ブラウザーのブックマークを更新し、印刷にはブラウザーの印刷機能を使用してください。
下記テーマに関する記事の一部
解析学
その他

数学の特に初等解析学における二項級数(にこうきゅうすう、: binomial series)は二項式 (べき)マクローリン級数を言う。

定義

具体的に、α を任意の複素数として、函数 ff(x) = (1 + x)α で与えられるとき、マクローリン展開

( 1 + x ) α = k = 0 ( α k ) x k = 1 + α x + α ( α 1 ) 2 ! x 2 + α ( α 1 ) ( α 2 ) 3 ! x 3 + {\displaystyle {\begin{aligned}(1+x)^{\alpha }&=\sum _{k=0}^{\infty }\;{\alpha \choose k}\;x^{k}\\&=1+\alpha x+{\frac {\alpha (\alpha -1)}{2!}}x^{2}+{\frac {\alpha (\alpha -1)(\alpha -2)}{3!}}x^{3}+\cdots \end{aligned}}} {\displaystyle {\begin{aligned}(1+x)^{\alpha }&=\sum _{k=0}^{\infty }\;{\alpha \choose k}\;x^{k}\\&=1+\alpha x+{\frac {\alpha (\alpha -1)}{2!}}x^{2}+{\frac {\alpha (\alpha -1)(\alpha -2)}{3!}}x^{3}+\cdots \end{aligned}}}
(1)

の右辺に現れる冪級数二項級数と言う。ここで、上の式は一般二項係数

( α k ) := α ( α 1 ) ( α 2 ) ( α k + 1 ) k ! {\displaystyle {\alpha \choose k}:={\frac {\alpha (\alpha -1)(\alpha -2)\cdots (\alpha -k+1)}{k!}}} {\displaystyle {\alpha \choose k}:={\frac {\alpha (\alpha -1)(\alpha -2)\cdots (\alpha -k+1)}{k!}}}

が用いられている。

  • 冪指数 α が自然数 n のときは、上記の級数の n + 2 番目以降の項はすべて零になる(明らかに、各項の因子に nn が現れる)から、このとき級数は有限和であって、代数的な二項定理が導出される。
  • 任意の複素数 β に対して、二項級数を
1 ( 1 z ) β + 1 = k = 0 ( k + β k ) z k {\displaystyle {\frac {1}{(1-z)^{\beta +1}}}=\sum _{k=0}^{\infty }{k+\beta \choose k}z^{k}} {\displaystyle {\frac {1}{(1-z)^{\beta +1}}}=\sum _{k=0}^{\infty }{k+\beta \choose k}z^{k}}

なる形に書くことができるが、これは特に 1 において負の整数冪を扱う際に有用である。この式自体は 1 において x = −z を代入して、二項係数の等式 ( β 1 k ) = ( 1 ) k ( k + β k ) {\displaystyle {\tbinom {-\beta -1}{k}}=(-1)^{k}{\tbinom {k+\beta }{k}}} {\displaystyle {\tbinom {-\beta -1}{k}}=(-1)^{k}{\tbinom {k+\beta }{k}}} を適用すれば導出される。

収束性

級数 1 の収束は冪指数 α と変数 x の値に依存する。より具体的に、

  1. |x| < 1 ならば、任意の α に対して絶対収束する。
  2. x = −1 ならば、絶対収束する必要十分条件Re(α) > 0 または α = 0 の何れかが成り立つことである。
  3. |x| = 1 かつ x ≠ −1 ならば、収束の必要十分条件は Re(α) > −1 なることである。
  4. |x| > 1 のときには、α が非負整数(級数が有限和となる)場合を除けば、発散する。

いま α は非負整数ではないとし、|x| = 1 の場合を考えると、上で述べたことから次のことが追加で言える:

  • Re(α) > 0 ならば絶対収束する。
  • −1 < Re(α) ≦ 0 ならば、x ≠ −1 では条件収束し、x = −1 では発散する。
  • Re(α) ≦ −1 ならば発散する。

二項級数の和の計算について通常の論法は以下のようにする: 二項級数を収束円板 |x| < 1 内で項別微分して式 1 を用いれば、この級数の和が常微分方程式 (1 + x)u′(x) = αu(x) を初期値 u(0) = 1 のもとで解いた解析函数解であることが知れる。この初期値問題の唯一の解は u(x) = (1 + x)α であり、それはつまり(少なくとも |x| < 1 において)二項級数の和である。級数が収束する限りにおいて、この等式を |x| = 1 にまで延長できることは、アーベルの連続性定理(1 + x)α の連続性に基づいて適用した帰結である。

歴史

自然数冪以外の二項級数に関する結果が初めて得られたのは、アイザック・ニュートンによる、ある種の曲線の下に囲われる面積の研究においてであった。この結果を m が有理数であるところの y = (1 − x2)m の形の式として利用して、ジョン・ウォリスは(現代的な記法で書けば)後続する (−x2)k の係数列 ck は先行する係数に(自然数冪のときと同様に)m − (k − 1)/k を掛けることで求められることを発見した。これは二項係数に関する公式を陰伏的に与えたに等しい。ウォリスは以下の実例を陽に記している[1]

  • ( 1 x 2 ) 1 2 = 1 x 2 2 x 4 8 x 6 16 {\displaystyle (1-x^{2})^{\frac {1}{2}}=1-{\frac {x^{2}}{2}}-{\frac {x^{4}}{8}}-{\frac {x^{6}}{16}}\cdots } {\displaystyle (1-x^{2})^{\frac {1}{2}}=1-{\frac {x^{2}}{2}}-{\frac {x^{4}}{8}}-{\frac {x^{6}}{16}}\cdots }
  • ( 1 x 2 ) 3 2 = 1 3 x 2 2 + 3 x 4 8 + x 6 16 {\displaystyle (1-x^{2})^{\frac {3}{2}}=1-{\frac {3x^{2}}{2}}+{\frac {3x^{4}}{8}}+{\frac {x^{6}}{16}}\cdots } {\displaystyle (1-x^{2})^{\frac {3}{2}}=1-{\frac {3x^{2}}{2}}+{\frac {3x^{4}}{8}}+{\frac {x^{6}}{16}}\cdots }
  • ( 1 x 2 ) 1 3 = 1 x 2 3 x 4 9 5 x 6 81 {\displaystyle (1-x^{2})^{\frac {1}{3}}=1-{\frac {x^{2}}{3}}-{\frac {x^{4}}{9}}-{\frac {5x^{6}}{81}}\cdots } {\displaystyle (1-x^{2})^{\frac {1}{3}}=1-{\frac {x^{2}}{3}}-{\frac {x^{4}}{9}}-{\frac {5x^{6}}{81}}\cdots }

それゆえに、二項級数はニュートンの(一般)二項定理とも呼ばれる。のちにニールス・アーベルは1826年に『クレレ誌』に掲載された論文においてこの主題を取り上げ、特筆すべき収束問題として扱っている[2]

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 実は出典において負符号を持つ任意の非定数項が与えられていて、それは第二の式に対しては正しくない(転記ミスと思われる)。

出典

参考文献

外部リンク

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /