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アウストラロスクス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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アウストラロスクス
Australosuchus clarkaeのホロタイプ標本 QMF16788
地質時代
古第三紀 漸新世 - 新第三紀 中新世
分類
階級なし : 偽鰐類 Pseudosuchia
階級なし : 新鰐類 Neosuchia
: アウストラロスクス Australosuchus
学名
Australosuchus Willis & Molnar, 1991
  • Australosuchus clarkae Willis & Molnar, 1991

アウストラロスクス(学名:Australosuchus)[1] は、単一の種のみを含む、メコスクス類 (英語版)に属す絶滅したワニ。タイプ種アウストラロスクス・クラルカエ(Australosuchus clarkae)は古第三紀の後期漸新世から新第三紀の前期中新世にかけて生息しており、オーストラリアエア湖盆地 (英語版)から化石が産出している。南オーストラリア州で発見された標本に基づき、1991年にポール・ウィリスとラルフ・モルナーが記載した。

アウストラロスクスは南緯27度以南とメコスクス類のうち最も南に分布した属であり、「南のワニ」を意味する属名の由来にもなっている。この分布域は特殊であり、ワニの多様性が高いことで知られる北のどの産地からも本種は産出していない。また南方の産地でもワニの化石はよく発見されているが、それらの化石は全てアウストラロスクス属のものであるようであり、リバースレー世界遺産地域 (英語版)のような地域にいる種は見られない。ある説によれば、アウストラロサクスはバル (英語版)のような同時代の属種に比べて特に寒冷に強く、そのため近縁属にとって寒冷のため生息不可能であった淡水域にも生息することができたとされる。

発見と命名

バル (英語版)の発表の直後、1991年にアウストラロスクスが命名された。本属はメコスクス類の中で四番目に早く記載され、オーストラリア固有の新生代のワニとして最初に記載されたものの1つとなった。他のメコスクス類と同様に、本属の化石は発見から命名までに長い時間を要しており、化石が最初に論文中で言及されたのは1968年のことであった。1975年に収集されたホロタイプ標本 QM F16788 はほぼ完全な頭蓋骨と下顎、複数の椎骨、前肢の一部、背側の皮骨板が保存されていた。産出層準は南オーストラリア州に分布するEtadunna層であった。加えて上部漸新統から下部中新統にかけてのEtadunna層からは多数の追加の化石が産出しており、Namba層やWipijiri Formation層からも産出した。一部の化石については後期鮮新世から前期更新世と解釈されているMampuwordu砂丘から産出したものであると当初記載されていたが、これはエタドゥナ層の下部の層準から産出して再堆積したことが提唱されている[2] [3] [4]

属名はラテン語の"australis"とギリシア語の"suchus"に由来し、組み合わせて「南のワニ」を意味する。種小名は調査プロジェクトを支持したエレイン・クラークを讃えたものである[2]

特徴

Australosuchusの復元頭蓋骨

アウストラロスクスは中型のワニであり、その頭部は中程度に幅広くかつ平坦であった[2] 。鼻孔は標本によって円形から卵型で、僅かに隆起する。左右の前上顎骨には5本の歯が並び、また生存時には下顎の歯を収容していたであろう窪みも見られる。これらの窪みは上顎の歯の僅かに内側かあるいは上顎の歯の間に位置する。最前側の窪みは特に1対目の歯と2対目の歯の間に位置しており、それらと噛み合っている。アウストラロスクスの標本のいくつかではこれらの歯が頭蓋骨の背側面を貫通しており、標本の背側からでも歯を受容する孔を見て取ることができる。前上顎骨と上顎骨が接する地点は、下顎に生えた大型の第四歯の位置と一致する。多くのワニ類と同様に上顎骨はこの第四歯を収容する形態をなすが、大半の属においては吻部が顕著に狭窄しているのに対し、アウストラロスクスは左右の歯骨が半分閉じた穴の中に滑り込むように収容される。このためアウストラロスクスは顎を閉じると第四歯が見えにくくなるため、外見はクロコダイルよりもアリゲーターに類似した。上顎骨はやや幅広かつ平坦で、左右それぞれに14本の歯が存在し、前側の6本は歯槽突起に沿って生える。上顎の歯列は偽異歯性(pseudoheterodont)で、切断の機能を持つ先端部は発達しているものの鋸歯を持たない。歯槽は吻部先端で丸く、後側で卵型となる。歯の大きさのパターンは典型的なワニと同じであり、最大の上顎骨歯が前側から5番目に位置しており、その後側の歯は単調に小型化する。前上顎骨と同様に、大半の歯骨歯を受け止める窪みは上顎の歯列の僅かに内側に存在する。これにより下顎の歯は口の外縁から排除されており、歯は噛み合うものの完全に噛み合うわけではないことが示唆される[2]

鼻骨は保存が悪いものの、化石証拠からは外鼻孔の縁まで伸びていたことが示唆される頬骨は細長く、方形頬骨は幅広かつ厚い。涙骨は細長く、眼窩の最前側の先端部を形成する。前前頭骨は涙骨から直接接続しており、鼻骨や前頭骨の前側突起と共にW字型の縫合線をなす。前頭骨は他のクロコダイルと同様に前側領域と後側領域に区分することができる。アウストラロスクスの前側突起は特に細長く、2個の鼻骨の間に伸びる。後側領域は頑強であり、眼窩が隆起しているため窪んでいる。頭蓋天井は台形で、大型かつ円形の上側頭窓を伴う[2]

上顎の歯と同様に下顎の歯も偽異歯性であり、またその歯は歯槽突起に沿って第14歯まで配列する。しかし、これらの特徴は年齢に依存する可能性があり、若い個体では顕著ではないようである。下顎には標本によって16 - 17本の歯が生えており、歯の大きさのパターンは典型的なワニのものと同様で、第1歯と第4歯が最大である。歯骨が癒合する部位である下顎結合は、標本によって第4 - 5歯骨歯まで伸びる。また結合部は幅広であり、同体格のイリエワニよりも広がっており、特に上向きでもある。顎の前側の歯槽は断面がより丸みを帯びており、顎の後側の歯槽の断面は卵型である。歯骨歯の歯冠は少数が保存されており、1対目の歯の歯冠は細長くかつ反り返っており、近心と遠心に切断に適した縁を持つ。第2 - 5歯の歯冠はこれらの縁が共通しており、また外側に圧縮されているように見える。第11歯に代表されるような後側の歯冠はカリナと圧縮を示すが、これらは前側の歯と比較して弱い[2]

記載された最大のアウストラロスクスとヒトの大きさ比較

多くの標本で体骨格が見られるが、これらの体骨格は一般に保存が良くなく、また詳細な記載もなされていない。一般に、アウストラロスクスの体骨格はオーストラリアで見られる現生のワニに類似すると記載されている。痕跡器官となった第5趾は他のワニよりも頑丈で太い[2] 。アウストラロスクスは中型のワニであり、ウィリスはその全長を3メートルと推定している[4]

系統

アウストラロスクスはメコスクス類の研究が進む初期段階で記載されており、当時はオーストラリア固有のワニの拡散が提唱されたばかりであった。本属の記載に際して系統解析は実施されなかったが、クロコダイル科アリゲーター科の両方に類似することや、そのため共有原始形質の状態にある可能性があることは指摘されていた[2] 。後の研究では、本属は一般的にメコスクス類に位置付けられている。形態・分子・層序情報を組み込んだ2018年の研究では、本属はメコスクス類の最も基盤的な位置に置かれた。Ristevski et al. (2023)の系統解析では本属は系統樹上の様々な位置に置かれたが、いずれにおいてもメコスクス類に置かれた。中にはカルティフロンス (英語版)をメコスクス類のうち最も基盤的な位置に置く樹形もあったが、8個の系統樹のうち4個ではアウストラロスクスがその位置を占めた[5] [3]

Mekosuchinae

Australosuchus

   
   

Baru Alcoota

       

Bullock Creek taxon

   

Volia

Quinkana

                 

Longirostres

   
Crocodyloidea
Mekosuchinae
   

Australosuchus clarkae

           

Baru spp.

             

Crocodylidae

       

ただし、他の類縁関係を支持する研究もある。Rio and Mannion (2021)の分子系統解析では、アウストラロスクスはクロコダイル科の姉妹群としてメコスクス類から除外された。Ristevski et al. (2023)の解析で実施された系統解析の大半では上に示すようにメコスクス類が単系統として得られたが、彼らの結果のうち2つは従来の系統樹と大きく離れており, Rio and Mannionの結果に近いものになった。これら2つではアウストラロスクスはロンギロストレス類 (英語版)の分岐群に置かれ、カンバラと共にクロコダイル科に近づく位置に置かれた。しかし、両解析の結果はいずれもこれまでに得られた系統樹の樹形と大きく異なっている。さらに、Rio and Mannionの研究は純粋に形態的特徴に制限されたものであり、またRistevskiらの結果は彼ら自身の論文中で十分な裏付けがないことが言及されている[6] [3]

       
   
           

Australosuchus clarkae

Crocodylidae
Crocodylinae

Quinkana

   

Crocodylus

         
ワニ
Mekosuchinae

Baru spp.

       
Orientalosuchina
       
             
   
  ロンギロストレス類

Australosuchus clarkae

     

クロコダイル科

                 

古生物学

外側に圧縮された鋭利で鋸歯を伴う歯や吻部の長い頭蓋骨といった特殊化した適応を持たないため、アウストラロスクスはメコスクス類の中では一般的な属であったと見られる[2]

Baru wickeniとアウストラロスクスの分布域の比較

アウストラロスクスは既知のメコスクス類の中では最も南の属である。このため、当時オーストラリアのより北部で見られた多様なワニ相からは本属は比較的隔離されており、特にもう1つの半水棲のジェネラリストであったバルが生息したリバースレー世界遺産地域からも隔絶されている。南オーストラリア州はアウストラロスクスの化石が豊富であるが、本属の化石は北部地域では発見されておらず、同様にバルもノーザンテリトリークイーンズランド州で多産するものの南部では見られない。これらの生態系は同時代のものであった。1997年にポール・ウィリスは両属が半水棲であるためアウストラロスクスはエア湖盆地、バルはカルンバ盆地を必要とし、その生息域における大規模な河川に縛られていたことを提唱した[4] 。しかし、この見解は後にアダム・イエーツによるPwerte Marnte Martre堆積層からのバルの化石の発見により否定された。これらの堆積層はエア湖盆地の北端に分布しており、バルとアウストラロスクスは地理的に隔離されていたとはいえ同時期に同一の盆地に出入りしていたことを示している。イェーツはさらに、この2つの盆地の間には淡水の河川が豊富に存在し、理論的には半水棲の形態でも2つの盆地を往来できたことを主張した[7]

アウストラロスクスと他のメコスクス類の生息域が重なっていないように見えることについて、イェーツは緯度で理由付けをした。両属とも同一の流域に生息しているが、アウストラロスクスの化石記録はすべて南緯27度以南のもので、南緯25度以南ではバルは発見されていない。ピンパ湖での化石の産出を踏まえると、アウストラロスクスの生息範囲は南緯31 - 27度となり、漸新世では南緯45 - 50度に相当する。イェーツはこの範囲を2つの意味で重要だと強調している。一つは現生のワニの北限である北緯36度を超過する緯度に本属の分布域が存在した点であり、もう一つは漸新世のオーストラリアが現代よりも寒冷であったことを指摘し、アウストラロスクスの生息域の異常性を強調している。このため、アウストラロスクスは強い耐寒性を持ち、他の同時代のメコスクス類の生息できない気温条件下で繁栄していたことが示唆される[7] [3]

出典

  1. ^ 小林快次『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』北海道大学出版会、2013年7月25日、37頁。ISBN 978-4-8329-1398-1 
  2. ^ a b c d e f g h i Willis, P.M.A. & Molnar, R.E. (1991). "A new middle Tertiary crocodile from Lake Palankarinna, South Australia". Records of the South Australian Museum 25 (1): 39–55. https://www.biodiversitylibrary.org/page/40724793#page/42/mode/1up . 
  3. ^ a b c d Ristevski, J.; Willis, P.M.A.; Yates, A.M.; White, M.A.; Hart, L.J.; Stein, M.D.; Price, G.J.; Salisbury, S.W. (2023). "Migrations, diversifications and extinctions: the evolutionary history of crocodyliforms in Australasia". Alcheringa: An Australasian Journal of Palaeontology: 1–46. doi:10.1080/03115518.2023.2201319. 
  4. ^ a b c Willis, P. M. A. (1997). "Review of fossil crocodilians from Australasia.". Australian Zoologist 30 (3): 287–298. doi:10.7882/AZ.1997.004 . https://meridian.allenpress.com/australian-zoologist/article/30/3/287/134518/Review-of-fossil-crocodilians-from-Australasia . 
  5. ^ Michael S. Y. Lee; Adam M. Yates (27 June 2018). "Tip-dating and homoplasy: reconciling the shallow molecular divergences of modern gharials with their long fossil". Proceedings of the Royal Society B 285 (1881). doi:10.1098/rspb.2018.1071. PMC 6030529. PMID 30051855 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6030529/ . 
  6. ^ Rio, Jonathan P.; Mannion, Philip D. (6 September 2021). "Phylogenetic analysis of a new morphological dataset elucidates the evolutionary history of Crocodylia and resolves the long-standing gharial problem". PeerJ 9: e12094. doi:10.7717/peerj.12094. PMC 8428266. PMID 34567843 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8428266/ . 
  7. ^ a b Yates, A.M. (2017). "The biochronology and palaeobiogeography of Baru (Crocodylia: Mekosuchinae) based on new specimens from the Northern Territory and Queensland, Australia.". PeerJ 5: e3458. doi:10.7717/peerj.3458. PMC 5482264. PMID 28649471 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5482264/ . 

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