唐辛子
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唐辛子(とうがらし、唐芥子、蕃椒)は、ナス科 トウガラシ属 (Capsicum) の栽培種の果実から得られる辛味のある香辛料。野生種を含むこともある。
広義にはピーマン、シシトウ、パプリカなど辛味がないかほとんどない品種(甘唐辛子)も含むが、ここでは辛味のある品種について述べる。
分類学的位置づけ
トウガラシ属には数十種が属するが、そのうち栽培種は次の5種である。
- C. annuum (トウガラシ)
- C. baccatum (アヒ・アマリージョなど)
- C. chinense (シネンセ種。ハバネロ、ブート・ジョロキアなど)
- C. frutescens (キダチトウガラシ)
- C. pubescens (ロコト)
日本で栽培されているのは主にトウガラシだが、沖縄ではキダチトウガラシの品種の島唐辛子が栽培されている。
トウガラシ属が自生している南米では、ウルピカなどの野生種も香辛料として使われる。
名称
「唐辛子」は「唐」から伝わった「辛子」の意味である。ただし、「唐」はばくぜんと「外国」を指す言葉である(実際の伝来経路については伝来史で)。同様に南蛮辛子(なんばんがらし)や、それを略した南蛮という呼び方もある。
九州の一部では唐辛子を「胡椒」と呼ぶことがある(「柚子胡椒」の「胡椒」も唐辛子のことである)。これは南蛮胡椒、または後述する高麗胡椒の略と思われる。「普通の胡椒」は九州の一部では「洋胡椒」と呼ぶことがある。高麗胡椒の沖縄方言読みがコーレーグースであるが、これは今日では島唐辛子を用いた調味料を指す。
唐辛子の総称として鷹の爪を使う者もいるが、これは誤用である。正確には「鷹の爪」は唐辛子(トウガラシ)の1品種である。
用途
胡椒などの他の香辛料と同様、料理に辛みをつけるために使われる。また、健胃薬、凍瘡・凍傷の治療、育毛など薬としても利用される。
果実は緑のままでも食べることが出来る。一般に、緑色のものは青唐辛子、熟した赤いものは赤唐辛子と呼ばれる。
ビタミンAとビタミンCが豊富なことから、夏バテの防止に効果が高く、また殺菌作用があり食中毒を防ぐとも言われるので、特に暑い地域で多く使われている。殺菌のほかに除虫の効果もあり、園芸では他の作物と共に植えて虫害を減らす目的で栽培されたり、食物の保存に利用される事もある。果実を鑑賞するためのトウガラシの品種もある。
生のまま食べる場合と、乾燥した後に使う場合とがある。チポトレのように燻煙してから使う場合もある。生の緑色の唐辛子の方が身体には良いという意見もある[要出典 ]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。。一般的に日本国内で入手できる青唐辛子は生のものを加熱することで辛味が甘味に変化し、乾燥した唐辛子では加熱すると辛味が増す傾向にある。
唐辛子の辛味成分はカプサイシンである。この辛さは刺激が強く人により好みがある。唐辛子によって辛みをつけた料理を好む人は多く、また食べたあと胃腸に問題を起こすことも少ない。ただし日本で料理に唐辛子が多く使われるようになったのは比較的最近のことである。1980年代以降、韓国料理やエスニック料理が浸透し、「激辛ブーム」などが起こる以前は、せいぜい薬味や香り付けに一味唐辛子や日本特有の七味唐辛子が少量使われる程度であったし、市販のカレーでさえ現在ほど辛口の商品が多くはなかった。今も年配の層には唐辛子の辛味を苦手とする人は多い。
インドやタイ、韓国などの唐辛子が日常的に使われる国・地方では、小さい子供の頃から徐々に辛い味に慣らして行き、胃腸を刺激に対して強くしている。一方で日常的に使う習慣のない場合は、味覚としての辛味というよりも「痛み」として認識され、敬遠される。実際、カプサイシン受容体TRPV1は痛み関連受容体に分類されており[1] 、唐辛子の辛味は口内の「痛覚」である。このことからも、痛みを味覚として好むということ自体、多分に社会 文化的条件付けによるものと言える。尚、これらの国が唐辛子を積極的に摂取するのは、メキシコやタイ、四川省など暑い地域では発汗を促すため、韓国など冬に寒冷な地域(韓国も大陸性の気候の影響が強く夏は暑い)では退化しがちな汗腺を開くためで、いずれも発汗による体温調節が目的であるとされる。
フィリピン、中国などアジアでは葉を青菜と同様に炒めて食べたり、汁物の実とすることもある。日本では佃煮も一般的である。
なお、唐辛子の過剰摂取と発癌性の関連性が指摘されており、唐辛子を多く摂る国は胃癌や食道癌の発癌率が高いと言われている。[2] [3] [4] [5] [6]
伝来史
現在世界中の国で多く使われているが、アメリカ大陸以外においては歴史的に新しい物である。クリストファー・コロンブスが1493年にスペインへ最初の唐辛子を持ち帰った。唐辛子の伝播は各地の食文化に大きな影響を与えた。
ヨーロッパでは、純輸入品の胡椒に代わる自給可能な香辛料として南欧を中心に広まった。16世紀にはインドにも伝来し、様々な料理に香辛料として用いられるようになった。バルカン半島周辺やハンガリーには、オスマン帝国を経由して16世紀に伝播した。
日本への伝来に関する諸説
日本への伝来は、1542年にポルトガル人宣教師が大友義鎮に献上したとの記録がある[要出典 ]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。が諸説ある。南蛮胡椒と呼ばれていたのはこのためであるとされる。日本では最初、食用とはならず、観賞用や毒薬として用いられた。
一方、朝鮮から日本へ伝来したとする説もある。九州地方と朝鮮の間での貿易により伝わったとする説では、その後、朝鮮出兵で連れ帰った陶工が唐人と呼ばれ(福岡市には「唐人町」と言う街名がある)、彼らが栽培していたので「唐辛子」と呼ばれるようになったと言うものである。高麗胡椒と呼ばれていたのはこのためであるとされる。
現在では、伝来した時期や経路は、複数あったものと考えられている。
朝鮮への伝来に関する諸説
日本から朝鮮へ伝来したとする説が有力である。一説には朝鮮出兵のとき武器(目潰しや毒薬)または血流増進作用による凍傷予防薬として日本からの兵(加藤清正?)が持ち込んだと言われている。また、江戸時代になって朝鮮通信使が日本から持ち帰ったという説もある。
「大和本草」(貝原益軒著)には蕃椒の記事に「昔は日本に無く、秀吉公の朝鮮伐の時、彼の国より種子を取り来る故に俗に高麗胡椒と云う」と書かれている。これは一見相反するが、日本に伝わった当初、国内にあまり広まらなかったまま、唐辛子が朝鮮にも伝来したためである、という説がある。なお、同時代に朝鮮では倭辛子と呼ばれていたが、これは日本から伝わったためであると考えられている。現在も日本から伝わったことが韓国では定説になっている。
唐辛子を利用した製品
- 七味唐辛子
- 一味唐辛子
- かんずり(新潟県 妙高市で作られる調味料)
- 柚子胡椒(九州)
- コーレーグース(沖縄県)
- キムチ(韓国、北朝鮮)
- コチュジャン(韓国、北朝鮮)
- 豆板醤
- 辣椒醤(ラージャオジャン)
- ラー油
- チリパウダー
- チリソース
- ホットソース
- ハリッサ(アリサ、アリッサとも言う。北アフリカ・マグリブ地方の調味料。マグリブはフランスの植民地であったため、フランス語でHの発音が黙字化することによりアリサの別名がある)
- 何種類かのサルサ
- ペッパーソース(商品名としてタバスコなど)
- 唐辛子飲料: 唐辛子を漬けた飲料としてセラノペッパー種を用いたチリビールなどの唐辛子ビール、薬用酒としても利用されるペルツォフカなどの唐辛子ウォッカがある。
- トウガラシチンキ(医薬品)
- 蕃椒: 唐辛子の生薬名を蕃椒(ばんしょう)という。健胃、発汗作用などがある。また外用薬として末梢血管を拡張し血行を良くする効果があり、温湿布などに使われる。寒冷地では靴の中に入れて足先の血行を促し、しもやけや凍傷の予防につかう場合がある。
- トウガラシスプレー
- 朝鮮半島では、男児が誕生すると縄に唐辛子をはさんで戸口に掲げる習慣がある。
- 乾燥させた唐辛子は、室内外の装飾にも使われる。
世界各地での唐辛子の利用
南北アメリカ
- メキシコ
- トウガラシの原産国で、栽培される種類も多く、生のまま、乾燥させたもの、燻製にしたものなど様々な使い方がされている。有名なのは「ハラペーニョ」や「ハバネロ」と云う品種。メキシコ料理#唐辛子(チレ chiles)も参照。
- ボリビア
- ボリビアの食卓にはロコトやアヒ・アマリージョを使ったヤホァというサルサ(ソース)が置かれているのが普通である。ウルピカも食用とされる。
- ペルー
- サルサやパパ・アラワンカイナなど料理の味付けおよび色付けにアヒ・アマリージョが多用される。ロコトにファルスを詰めた料理もある。
- アメリカ合衆国
- 旧メキシコ領であったアメリカ合衆国南西部では、テクス・メクス料理などメキシコ系の料理にトウガラシがよく用いられる。西アフリカの料理の影響を受けたルイジアナ州のクレオール料理やケイジャン料理も同様で、赤いタバスコペッパー(キダチトウガラシの一種)やハラペーニョから作ったタバスコソースは同州の特産である。
- ハイチ
- ハイチ料理には、シネンセ種の一種ピーマン・ブークを他の野菜と一緒に酢漬けにしたものが調味料としてよく使われる。
ヨーロッパ
- イタリア
- イタリア料理(主に南イタリア)で使われることが多い。砕いた赤い唐辛子を使用するのが普通。基本的なスパゲッティ(またはパスタ一般)の料理法である「アーリオ・オリオ・ペペロンチーノ」のペペロンチーノは唐辛子の意味。オリーブオイルに唐辛子や各種ハーブなどで香りづけしペペロンチーニと呼ばれる香草オイルがある。
- ギリシャ
- 砕いた赤唐辛子を家庭の野菜料理によく用いる。
- ハンガリー
- 熟したパプリカを乾燥させて粉にしたものをグヤーシュやパプリカーシュなどの煮込み料理に用いる。
- イベリア半島
- パプリカに似た粉唐辛子をソーセージ(チョリソなど)の調味や煮込み料理に用いる。ポルトガルでは、キダチトウガラシの一種で辛味の強いピリピリも用いられる。
- バスク地方
- エスプレットという品種が有名。
アジア
- 日本
- 料理や漬物に薬味として多少使われる程度であるが、日本の唐辛子(鷹の爪が一般的)は韓国のそれよりかなり辛い。そば屋の店頭には、七味唐辛子、一味唐辛子などがテーブルに置かれ、各自の好みにより料理に加えることができる。沖縄そばにはコーレーグースが欠かせない。
- 韓国
- キムチ、チゲなど、唐辛子を使った料理が多い。唐辛子が伝わる以前には、山椒の実がよく使われていた。キムチに使われる唐辛子は、韓国特有の辛みが少ない大きめの唐辛子で、ほんのりと甘みがある。コチュジャンも味付けに利用される。
- 中国
- 中国では西南地方で多用される。四川料理は唐辛子と「花椒」と呼ばれる山椒の一種を多用する。湖南料理は唐辛子と酢で、酸味のある辛さを特徴としている。もっとも唐辛子の味を強く出しているのは、貴州料理と雲南料理で、とりわけ雲南のタイ族などの少数民族料理がもっとも辛さを強調した料理を特徴としている。他にもミャオ族、ヤオ族なども唐辛子を多用している。広東料理は、さほど唐辛子を使わないが、「野山椒」と呼ばれる青唐辛子の酢漬けを好む人もいる。杭州ではししとうに似た「杭椒」をピーマンのように炒め物に使う。
- タイ
- タイ料理にはトムヤムクン(スープ)やグリーンカレーなど、唐辛子をたくさん使った辛い料理が多い。唐辛子が伝わる前は胡椒(タイ語でプリッタイと呼ばれる)が用いられていた。「プリッキーヌー」は小粒で非常に辛い品種で、通常は青いまま使われる。
- ブータン
- 非常に辛い味付けをすることで知られている。唐辛子が伝る以前には、山椒の実が使われていた。
- インド、バングラデシュ
- 香辛料を使った料理の歴史が長い。地方によって辛みを出すのに唐辛子を多く使う地域とそれ以外の香辛料を多く使う地域がある。また一般に野菜よりも肉を使った料理に唐辛子を多用する傾向がある。唐辛子の漬物(アツァール)も作られる。ギネスブックに世界一辛い唐辛子と認定された「ブート・ジョロキア 」はアッサム地方原産である。
- スリランカ
- スリランカ料理は、インド料理と同様に唐辛子により辛みをつけることが多い。
- トルコ 、アルメニア
- パプリカに似た粉唐辛子を煮込み料理に用いる。
アフリカ
脚註
- ^ [1]
- ^ 新宿健康塾ニュース10月号「味覚障害」【Health Index】FINE-club〜健康で元気な暮らし情報
- ^ Mathew A, Gangadharan P, Varghese C, Nair MK (2000). "Diet and stomach cancer: a case-control study in South India". Eur. J. Cancer Prev. 9 (2): 89–97. doi:10.1097/00008469-200004000-00004. PMID 10830575.
- ^ López-Carrillo L, López-Cervantes M, Robles-Díaz G, et al (2003). "Capsaicin consumption, Helicobacter pylori positivity and gastric cancer in Mexico". Int. J. Cancer 106 (2): 277–82. doi:10.1002/ijc.11195. PMID 12800206.
- ^ Archer VE, Jones DW (2002). "Capsaicin pepper, cancer and ethnicity". Med. Hypotheses 59 (4): 450–7. doi:10.1016/S0306-9877(02)00152-4. PMID 12208187.
- ^ López-Carrillo L, Hernández Avila M, Dubrow R (1994). "Chili pepper consumption and gastric cancer in Mexico: a case-control study". Am. J. Epidemiol. 139 (3): 263–71. PMID 8116601.