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== 日本における歴史 ==
== 日本における歴史 ==
[[唐]]代の字体の規範を記述した字典([[字様書]])に『[[干禄字書]]』があり、[[異体字]]を並べそれぞれに「正」「俗」「通」を記述している。「干禄」とは「禄を干(もと)む」の意であり、[[科挙]]の試験の基準を示したものとされる。日本の字書にもこれは反映されており、『[[類聚名義抄]]』をはじめ多くの漢字・漢語辞書に「正」「俗」「通」あるいは「古」等の字体注記が見られる。[[清]]朝に編纂された『[[康煕字典]]』に採用された字体<ref>なお、康煕事典には正字の他、「古文」と称する字も記載されている。『標註訂正[[康熙字典]]』[[渡部温]]・校訂、講談社、1977年復刻(原著は1716年(康煕55年))より。</ref>は漢字文化圏全体に広まり、字体の標準となっていった。[[明治]]以降の日本で[[活字]]の標準となった字体(爲、圖、遙など)は、基本的に『康煕字典』の字体を基にしているが、完全に一致するわけではない<ref>例えば「強」の「ム」の部分が「口」になったもの(『康煕字典』も「ム」である)や、「辻」は[[国字]]なので『康煕字典』には載っていないが、「二点しんにょう」の字体が「いわゆる康煕字典体」とされる。その他、字画が接触する・しない、出る・出ない、はねる・はねない等の細かな違いは少なくなく、日本の活字フォント間の相違、『康煕字典』のテキスト間の相違もある。</ref>。そのためこうした日本の字体のことを「いわゆる康煕字典体」と呼ぶことがある。こうして日本では「いわゆる康煕字典体」のことを「'''正字'''」ないし「'''正字体'''」と言う場合が少なくない。<small>[[字体#正字体]]も参照のこと。</small>
[[唐]]代の字体の規範を記述した字典([[字様書]])に『[[干禄字書]]』があり、[[異体字]]を並べそれぞれに「正」「俗」「通」を記述している。「干禄」とは「禄を干(もと)む」の意であり、[[科挙]]の試験の基準を示したものとされる。日本の字書にもこれは反映されており、『[[類聚名義抄]]』をはじめ多くの漢字・漢語辞書に「正」「俗」「通」あるいは「古」等の字体注記が見られる。[[清]]朝に編纂された『[[康煕字典]]』に採用された字体<ref>なお、康煕事典には正字の他、「(追記) [[ (追記ここまで)古文(追記) ]] (追記ここまで)」と称する字も記載されている。『標註訂正[[康熙字典]]』[[渡部温]]・校訂、講談社、1977年復刻(原著は1716年(康煕55年))より。</ref>は漢字文化圏全体に広まり、字体の標準となっていった。[[明治]]以降の日本で[[活字]]の標準となった字体(爲、圖、遙など)は、基本的に『康煕字典』の字体を基にしているが、完全に一致するわけではない<ref>例えば「強」の「ム」の部分が「口」になったもの(『康煕字典』も「ム」である)や、「辻」は[[国字]]なので『康煕字典』には載っていないが、「二点しんにょう」の字体が「いわゆる康煕字典体」とされる。その他、字画が接触する・しない、出る・出ない、はねる・はねない等の細かな違いは少なくなく、日本の活字フォント間の相違、『康煕字典』のテキスト間の相違もある。</ref>。そのためこうした日本の字体のことを「いわゆる康煕字典体」と呼ぶことがある。こうして日本では「いわゆる康煕字典体」のことを「'''正字'''」ないし「'''正字体'''」と言う場合が少なくない。<small>[[字体#正字体]]も参照のこと。</small>


しかし[[第二次世界大戦|第二次大戦]]後の[[当用漢字]]、[[常用漢字]]の制定・公布に従って日本では従来「俗字」や「略字」とされてきた字体を正式な字体として採用したものが多数存在する(一般に「新字体」という<ref>なお常用漢字や[[人名用漢字]]に採用されなかった漢字には「新字体」は存在せず、「いわゆる康煕字典体」を用いることになるが、新聞社や[[JIS漢字コード]]に示された字体の一部には「いわゆる康煕字典体」と異なる[[拡張新字体]]が用いられているものがある。</ref>)。そのため、「いわゆる康煕字典体」はもはや「正字」ではなく「[[旧字体|旧字(体)]]」「本字」あるいは「繁体字」であり<ref>笹原宏之「字体・書体」『朝倉漢字講座2 漢字のはたらき』朝倉書店、2006年、105-107頁。</ref>、「[[新字体]]」の方が「正字」であるとする立場もある<ref><!--『漢字講座』。-->伊藤英俊「漢字の工業規格」『朝倉漢字講座4 漢字と社会』朝倉書店、2005年、59-60頁。野村雅昭「漢字に未来はあるか」『朝倉漢字講座5 漢字の未来』朝倉書店、2004年、226頁。</ref>。
しかし[[第二次世界大戦|第二次大戦]]後の[[当用漢字]]、[[常用漢字]]の制定・公布に従って日本では従来「俗字」や「略字」とされてきた字体を正式な字体として採用したものが多数存在する(一般に「新字体」という<ref>なお常用漢字や[[人名用漢字]]に採用されなかった漢字には「新字体」は存在せず、「いわゆる康煕字典体」を用いることになるが、新聞社や[[JIS漢字コード]]に示された字体の一部には「いわゆる康煕字典体」と異なる[[拡張新字体]]が用いられているものがある。</ref>)。そのため、「いわゆる康煕字典体」はもはや「正字」ではなく「[[旧字体|旧字(体)]]」「本字」あるいは「繁体字」であり<ref>笹原宏之「字体・書体」『朝倉漢字講座2 漢字のはたらき』朝倉書店、2006年、105-107頁。</ref>、「[[新字体]]」の方が「正字」であるとする立場もある<ref><!--『漢字講座』。-->伊藤英俊「漢字の工業規格」『朝倉漢字講座4 漢字と社会』朝倉書店、2005年、59-60頁。野村雅昭「漢字に未来はあるか」『朝倉漢字講座5 漢字の未来』朝倉書店、2004年、226頁。</ref>。

2013年2月11日 (月) 00:39時点における版

曖昧さ回避 この項目では、文字の概念の正字について説明しています。在留カード及び特別永住者証明書における正字については「在留カード及び特別永住者証明書における正字」をご覧ください。
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(2013年2月)

正字(せいじ)とは、正統な(正規の)文字のことである。正しい文字のことではない。正字体、時に正体ともいう。

概要

正しい文字という概念があるが、その反対概念は「誤字」である。これは一般に通用していないものであり、例えば「軍」のワかんむりをウかんむりで書いたら誤字であり、「恋」と書くつもりで「変」と書いてしまうような取り違えも誤字と呼ばれる。

一方、正統な(正規の)文字という概念があるが、その反対概念は「俗字」「略字」などである。例えば「働」を「仂」と書いたり、「寮」を「ウかんむりにR」と書いたり、「職」を「耳偏にム」と書いたりする類である。このような「俗字」「略字」などに対して、正統な(正規の)文字が正字である。

常用漢字のうち新字体のもの(「台」「国」「灯」「証」など)は、正しい字であるが、正字ではない(旧字体の「臺」「國」「燈」「證」が正字)。

どれが正字であり、どれが略字・俗字・誤字であるかは、慣習によって決められることが多いが、政治権力や学術的な権威などによって決められることもある。正書法という概念も参照。

日本における歴史

代の字体の規範を記述した字典(字様書)に『干禄字書』があり、異体字を並べそれぞれに「正」「俗」「通」を記述している。「干禄」とは「禄を干(もと)む」の意であり、科挙の試験の基準を示したものとされる。日本の字書にもこれは反映されており、『類聚名義抄』をはじめ多くの漢字・漢語辞書に「正」「俗」「通」あるいは「古」等の字体注記が見られる。朝に編纂された『康煕字典』に採用された字体[1] は漢字文化圏全体に広まり、字体の標準となっていった。明治以降の日本で活字の標準となった字体(爲、圖、遙など)は、基本的に『康煕字典』の字体を基にしているが、完全に一致するわけではない[2] 。そのためこうした日本の字体のことを「いわゆる康煕字典体」と呼ぶことがある。こうして日本では「いわゆる康煕字典体」のことを「正字」ないし「正字体」と言う場合が少なくない。字体#正字体も参照のこと。

しかし第二次大戦後の当用漢字常用漢字の制定・公布に従って日本では従来「俗字」や「略字」とされてきた字体を正式な字体として採用したものが多数存在する(一般に「新字体」という[3] )。そのため、「いわゆる康煕字典体」はもはや「正字」ではなく「旧字(体)」「本字」あるいは「繁体字」であり[4] 、「新字体」の方が「正字」であるとする立場もある[5]

「正しい字」という語義

文字の正誤を論じる場(文字の採点や校正をする場)で用いられるときには、「正しい字」という語義で「正字」という言葉が用いられることもある。国語辞典にも、きちんと掲載されている。ただし今日では、そのような語義で「正字」という言葉を用いることは、稀である。

字体を論じる場で用いられるときには、「俗字・略字でないもの」という意味で正字という言葉が用いられる。

「正しい字」という語義で用いられる「正字」と、「俗字・略字でないもの」という意味で用いられる「正字」とは、まったく別の意味をもつ。

脚注

  1. ^ なお、康煕事典には正字の他、「古文」と称する字も記載されている。『標註訂正康熙字典渡部温・校訂、講談社、1977年復刻(原著は1716年(康煕55年))より。
  2. ^ 例えば「強」の「ム」の部分が「口」になったもの(『康煕字典』も「ム」である)や、「辻」は国字なので『康煕字典』には載っていないが、「二点しんにょう」の字体が「いわゆる康煕字典体」とされる。その他、字画が接触する・しない、出る・出ない、はねる・はねない等の細かな違いは少なくなく、日本の活字フォント間の相違、『康煕字典』のテキスト間の相違もある。
  3. ^ なお常用漢字や人名用漢字に採用されなかった漢字には「新字体」は存在せず、「いわゆる康煕字典体」を用いることになるが、新聞社やJIS漢字コードに示された字体の一部には「いわゆる康煕字典体」と異なる拡張新字体が用いられているものがある。
  4. ^ 笹原宏之「字体・書体」『朝倉漢字講座2 漢字のはたらき』朝倉書店、2006年、105-107頁。
  5. ^ 伊藤英俊「漢字の工業規格」『朝倉漢字講座4 漢字と社会』朝倉書店、2005年、59-60頁。野村雅昭「漢字に未来はあるか」『朝倉漢字講座5 漢字の未来』朝倉書店、2004年、226頁。

関連項目

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