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'''地球寒冷化'''(ちきゅうかんれいか、{{lang-en-short|Global cooling}})とは、狭義では地球が冷えていく現象のことを指し、広義では、地球表面及び大気の温度が下がっていき、寒冷化すると言う説の事を言う。また、小氷期の始まりだとする場合もある。ここでいう小氷期とは、氷期(十二万年周期で訪れている気温が現在よりも5度から10度低い時代)でも氷河時代(百万年位前から始まり現在も継続中の、北極南極に極冠がある地球全体が寒い時代)でもなく、数百年ごとに訪れる現在より気温が0.5度ほど低い時代のことである。
'''地球寒冷化'''(ちきゅうかんれいか、{{lang-en-short|Global cooling}})とは、狭義では地球が冷えていく現象のことを指し、広義では、地球表面及び大気の温度が下がっていき、寒冷化すると言う説の事を言う。また、小氷期の始まりだとする場合もある。ここでいう小氷期とは、氷期(十二万年周期で訪れている気温が現在よりも5度から10度低い時代)でも氷河時代(百万年位前から始まり現在も継続中の、北極南極に極冠がある地球全体が寒い時代)でもなく、数百年ごとに訪れる現在より気温が0.5度ほど低い時代のことである。
当初、この仮説は科学的に強い支持をされたものではなかったが、[[氷河期]]の周期性と、1940年代から1970年代の前半にかけての気温の低下の理解を進める上で、良い材料として新聞に報告されたため、人々の関心を一時的に集めた。上記の三十年間にはそれ以前の時代と比べ人工的な二酸化炭素の放出は増えた時代であったが、気温の低下がおこったためである。しかし近年の科学的かつ世界的に広く認められた複数の調査結果により、長期的には寒冷化ではなく、[[地球温暖化]]が進行していると結論づけ(削除) られ (削除ここまで)ている(右図)<ref name="AR4SYR_JP">[http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/ar4syr.pdf IPCC第4次評価報告書 統合報告書 概要(公式版)]</ref><ref name="Science_Jouzel">[http://dx.doi.org/10.1126/science.1141038 J. Jouzel, V. Masson-Delmotte, O. Cattani, G. Dreyfus, S. Falourd, G. Hoffmann, B. Minster, J. Nouet, J. M. Barnola, J. Chappellaz, H. Fischer, J. C. Gallet, S. Johnsen, M. Leuenberger, L. Loulergue, D. Luethi, H. Oerter, F. Parrenin, G. Raisbeck, D. Raynaud, A. Schilt, J. Schwander, E. Selmo, R. Souchez, R. Spahni, B. Stauffer, J. P. Steffensen, B. Stenni, T. F. Stocker, J. L. Tison, M. Werner and E. W. Wolff,Orbital and Millennial Antarctic Climate Variability over the Past 800,000 Years, Science 10 August 2007, Vol. 317 no. 5839 pp. 793-796.]</ref><ref name="PNAS_Mann">[http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0805721105 Michael E. Mann, Zhihua Zhang, Malcolm K. Hughes, Raymond S. Bradley, Sonya K. Miller, Scott Rutherford and Fenbiao Ni, Proxy-based reconstructions of hemispheric and global surface temperature variations over the past two millennia, Proceedings of the National Academy of Science(PNAS), September 2, 2008, vol. 105, no. 36, 13252-13257.]</ref><ref name="Kishouchou_WorldTemp">[http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/an_wld.html 世界の年平均気温の偏差の経年変化(気象庁)]</ref><ref name="Berkeley">[http://berkeleyearth.org/analysis.php Berkeley Earth Sruface Project](温暖化に懐疑的立場より資金提供を受けて行われたプロジェクト)</ref>。また[[IPCC第4次評価報告書]]にて評価された全ての気候モデルにおいて、近い将来に寒冷化が始まる可能性が否定されている<ref name="AR4_10.ES"/><ref name="Koko">[http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/24/24-2/qa_24-2-j.html ココが知りたい温暖化:寒冷期と温暖期の繰り返し]([[独立行政法人国立環境研究所|地球環境研究センター]]による解説)</ref>。
当初、この仮説は科学的に強い支持をされたものではなかったが、[[氷河期]]の周期性と、1940年代から1970年代の前半にかけての気温の低下の理解を進める上で、良い材料として新聞に報告されたため、人々の関心を一時的に集めた。上記の三十年間にはそれ以前の時代と比べ人工的な二酸化炭素の放出は増えた時代であったが、気温の低下がおこったためである。しかし(追記) IPCC等は、 (追記ここまで)近年の科学的かつ世界的に広く認められた複数の調査結果により、長期的には寒冷化ではなく、[[地球温暖化]]が進行していると結論づけている(右図)<ref name="AR4SYR_JP">[http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/ar4syr.pdf IPCC第4次評価報告書 統合報告書 概要(公式版)]</ref><ref name="Science_Jouzel">[http://dx.doi.org/10.1126/science.1141038 J. Jouzel, V. Masson-Delmotte, O. Cattani, G. Dreyfus, S. Falourd, G. Hoffmann, B. Minster, J. Nouet, J. M. Barnola, J. Chappellaz, H. Fischer, J. C. Gallet, S. Johnsen, M. Leuenberger, L. Loulergue, D. Luethi, H. Oerter, F. Parrenin, G. Raisbeck, D. Raynaud, A. Schilt, J. Schwander, E. Selmo, R. Souchez, R. Spahni, B. Stauffer, J. P. Steffensen, B. Stenni, T. F. Stocker, J. L. Tison, M. Werner and E. W. Wolff,Orbital and Millennial Antarctic Climate Variability over the Past 800,000 Years, Science 10 August 2007, Vol. 317 no. 5839 pp. 793-796.]</ref><ref name="PNAS_Mann">[http://dx.doi.org/10.1073/pnas.0805721105 Michael E. Mann, Zhihua Zhang, Malcolm K. Hughes, Raymond S. Bradley, Sonya K. Miller, Scott Rutherford and Fenbiao Ni, Proxy-based reconstructions of hemispheric and global surface temperature variations over the past two millennia, Proceedings of the National Academy of Science(PNAS), September 2, 2008, vol. 105, no. 36, 13252-13257.]</ref><ref name="Kishouchou_WorldTemp">[http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/an_wld.html 世界の年平均気温の偏差の経年変化(気象庁)]</ref><ref name="Berkeley">[http://berkeleyearth.org/analysis.php Berkeley Earth Sruface Project](温暖化に懐疑的立場より資金提供を受けて行われたプロジェクト)</ref>。また[[IPCC第4次評価報告書]]にて評価された全ての気候モデルにおいて、近い将来に寒冷化が始まる可能性が否定されている<ref name="AR4_10.ES"/><ref name="Koko">[http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/24/24-2/qa_24-2-j.html ココが知りたい温暖化:寒冷期と温暖期の繰り返し]([[独立行政法人国立環境研究所|地球環境研究センター]]による解説)</ref>。


[[File:Global Cooling Map.png|thumb|250px|1937年 - 1946年の平均気温に対する、1965年 - 1975年の平均気温の変化。]]
[[File:Global Cooling Map.png|thumb|250px|1937年 - 1946年の平均気温に対する、1965年 - 1975年の平均気温の変化。]]

2012年2月23日 (木) 13:05時点における版

地球寒冷化(ちきゅうかんれいか、: Global cooling)とは、狭義では地球が冷えていく現象のことを指し、広義では、地球表面及び大気の温度が下がっていき、寒冷化すると言う説の事を言う。また、小氷期の始まりだとする場合もある。ここでいう小氷期とは、氷期(十二万年周期で訪れている気温が現在よりも5度から10度低い時代)でも氷河時代(百万年位前から始まり現在も継続中の、北極南極に極冠がある地球全体が寒い時代)でもなく、数百年ごとに訪れる現在より気温が0.5度ほど低い時代のことである。 当初、この仮説は科学的に強い支持をされたものではなかったが、氷河期の周期性と、1940年代から1970年代の前半にかけての気温の低下の理解を進める上で、良い材料として新聞に報告されたため、人々の関心を一時的に集めた。上記の三十年間にはそれ以前の時代と比べ人工的な二酸化炭素の放出は増えた時代であったが、気温の低下がおこったためである。しかしIPCC等は、近年の科学的かつ世界的に広く認められた複数の調査結果により、長期的には寒冷化ではなく、地球温暖化が進行していると結論づけている(右図)[1] [2] [3] [4] [5] 。またIPCC第4次評価報告書にて評価された全ての気候モデルにおいて、近い将来に寒冷化が始まる可能性が否定されている[6] [7]

1937年 - 1946年の平均気温に対する、1965年 - 1975年の平均気温の変化。
世界の年平均気温の偏差の経年変化(1891〜2010年)[8]

総説

1970年代には、全球平均気温が1945年から下がってきているとの認識があった。21世紀を通じての気候の傾向に関する学術論文の殆どが将来の気温上昇を予測しているなかで、1割が気温の下降を予測していた[9] 。世間では二酸化炭素が気候に及ぼす影響を殆ど認識してこなかったが、1959年のScience Newsでは、1850年から2000年の150年間で大気中の二酸化炭素が25%増加し、その結果としての気温上昇を予測している[10] [11] 。1968年にはが温室効果ガスによる気候の変化について触れている[12] 。地球寒冷化説が大衆紙で扱われた1970年代半ばには、気温の下降は止まりつつあり、気候学者の間では二酸化炭素の温室効果に関心が払われていた[13] 。これらの報文を受けて、世界気象機関は「とても顕著な全球規模の温暖化」が起こりうる(probable)とした[14] 。現在では、熱塩循環が減少もしくは停止することによる地域的な寒冷化の可能性にもいくらか関心が払われている。これは氷河の融解に伴い、北大西洋に塩分濃度の低い水が大量に流入することによって起きると言われる。これが生じる可能性は非常に低く、IPCCは「熱塩循環が弱まるモデルにおいても、ヨーロッパ全域にわたり気温は上昇する」と報告している。たとえば、放射強制力が増加する全球気候モデル (AOGCM) を総合すると、北西ヨーロッパの温度変化は正となる[15]

物理的メカニズム

気温の低下期間は、硫酸塩エアロゾルの効果を入れた全球気候モデル によって1999年時点でよく再現され、現在では20世紀半ばの寒冷化の主要な要因はエアロゾルの効果によると認識されている。当時は、エアロゾルと軌道強制力、ふたつの最も理解の進んだ物理的メカニズムがあった。

エアロゾル

主に化石燃料の燃焼で発生する副次的な生成物や、一部では土地利用の変化などの人間活動によって大気中の微粒子(エアロゾル)の量が増加する。エアロゾルには、地球のアルベドを増やすことで地球を寒冷化させる「直接的効果」と、凝結核として雲の生成を促進する「間接的効果」がある。1970年代前半には、エアロゾルの寒冷化効果はCO2排出による温暖化の結果を左右する、という予測もあった[16] (詳細は、以下のラソールとシュナイダー (1971) の議論を参照)。理論の発展と実際の気温上昇を踏まえ、地球寒冷化のメカニズムにより予測された気温の低下は今では棄却されている。その一方で、温室効果ガスの増加に劣っているが、エアロゾルは寒冷化の傾向に寄与し、地球薄暮化に寄与していると考えられている。

軌道強制力

その他のメカニズムには軌道強制力(ミランコビッチ・サイクル)がある。この軌道強制力とは、惑星の中心軸の傾きの変化と、軌道の形によって、地球に届く日光の総量が変化することを示すものである。このメカニズムは氷河期周期が来るタイミングを示すものとして信頼性があるとされており、1970年代半ばにそれに対する理解が急激に深まっていった。

ハイス (Hays) とインブリー (Imbrie) とシャクルトン (Shackleton) の公演の論文「地球軌道の変化、氷河期の決定要素」では 「予測は2つの方法で適用されなくてはならない。第一に、この予測は将来の気候の傾向における、自然による変化要素にのみ適用する。従って、化石燃料の燃焼の様な人類の活動による影響は含まない。第二に、予測は非常に長い期間の傾向のみを示す。なぜなら、2万年周期の起動の変化に関連しており、それより短い期間での気候の振動は予測できない。その結果、この先2万年の長期の気候の傾向は、北半球の広範囲の凍結と気温の低下を示している[1]」と述べられている。

氷河期の周期が予測可能であるとする考えは、次の氷河期が「すぐに」来るという考えにつながった。おそらく、この理由はこの手の研究をする人の多くは「すぐに」という言葉を数万年かそれ以上先の期間を表す言葉として使っていたことだろう。最も早い軌道期間でも20,000年だから、ミランコビッチ説を厳密に適応すれば、「急速に」氷河期になるという予想はありえない(「急速に」とは1,2世紀以内でのこと)。また、この分野に対してナイジェル・コールダーのスノーブリッツ論に代表されるような、創造的な手法がいくつか発見されたが、これらの考えは広い支持は得られなかった。

南極大陸のボストーク氷床コアより測定した、CO2、温度、空気中の塵の濃度

現在の間氷期における、気温がピークを迎える期間の長さは、前の間氷期(サンガモン/エーミアン (Sangamon/Eemian))における、気温がピークを迎える期間の長さとほぼ等しいと考えることができ、現在の温暖期は終わりが近いと結論付けるのが普通である。しかしその結論は誤解が存在している。第一に、これまでの間氷期の長さは、正確には規則的なものではない。これは付図を参照。ペティット (Petit) らは、「MIS5.5の間氷期とMIS9.3の間氷期は沖積世とは異なるものではあるが、期間や状態そして規模といった点では似てはいる[17] 。これら2つの時期のそれぞれの期間中には4,000年の温暖期があり、その後に比較的はやい寒冷化が起こる」と指摘している。第二に、今後の軌道変化は過去のものと酷似することはないためである。

20世紀半ばの状況

以下の章は、様々な化学者の論文やその他の資料についての議論である。これらの資料は、1970年代におけるこの学説に対する興味の高まりと衰退を辿るためのものである。

1970年代以前

1965年 コロラド州 ボールダーで開かれた会議で、予測される太陽光の小さな変化が、どのようにして氷河期を引き起こすのかに関する憶測を、ミランコビッチサイクルを支持する証拠が招いてしまった。また1966年にはチェーザレ・エミリアーニ (Cesare Emiliani) は「新しい氷河期が2、3千年以内に始まるだろう」と予測していた。さらに1968年にはポール・R・エールリッヒは自らの著書「人口爆弾 (PopulatioBomb)」の中でこのように書いている「二酸化炭素の量が大変に多くなることによって、現在温室効果が高まっているという。...しかし、その効果は、飛行機雲や塵やその他の汚染物質によって生み出される雲の量が減ることで打ち消される。...そのとき、私たちが大気をごみ廃棄場のように使ってきたことが、全体にどんな気候的結果をもたらすかを私たちは予測できない[12] 」。

1970年代の認識

1975年における温度の記録。次の図と比較せよ。
地球全体の平均気温の記録

寒冷化の懸念は1970年代前半がピークとなった。これは、寒冷化の傾向が明確であった点(1945年から寒冷期が始まり、寒冷期の20年は、何十年かの温暖期の後に最低気温に達することを示していた)や、世界の気候や氷河期が起こる原因に関して知識が無かった点が原因である。寒冷化の傾向があったにもかかわらず、気候学者はこの傾向にも続いた予測が不可能であることを完全に承知していたことに気がつくべきであった。なぜなら、この傾向はあまり研究されておらず理解もされていなかったためである(例:[18] を参照)。しかし、一般紙においては、寒冷化の可能性が科学者の報告による注意なしに報道されていた。

地球寒冷化の用語は地球温暖化 の語が一般に広まるまでは、氷河期の危機への懸念と結びついたものにはなっていなかった。1970年代に地球半分もしくは全体の気温の記録の統計が始まった。

地球温暖化の発見の歴史では、以下のように述べている。「科学者も大衆も、1970年代には地球が温暖化するか寒冷化するか分かっていなかった。しかし、人々は、地球の気候が変化しつつあり、それが少しの幅ではないということを徐々に信じるようになってきた[19] 」。

1972年、エミリアーニは次の様に警告した。「人々の活動は新たな氷河期の発生を早めるか、冠氷の相当な量あるいは全てを溶かす状態になるだろう[20] 」。1972年に、氷河期に関するエキスパートの集団の会議において過半数が、「温暖期の終わりは間違いなく近い」と合意した[21] 。しかし、この会議における第四紀の研究報告では、「この部会における議論の基本的な結論として、気候の変化のメカニズムを理解するために必要な知識が残念なことに不十分である」と述べている。将来の人間の活動によるインパクトがあっても、致命的な寒冷期が「次の数百年もしくは数世紀必ず訪れる」と考えていた。しかし、他の多数の科学者はこの結論を疑っていた[22] [23]

1970年のSCEPの報告

1970年に報告された「危機的環境諸問題の研究[24] 」は、二酸化炭素の増加による温暖化の可能性を報告したが、寒冷化に関する懸念は報告されず、「地球寒冷化」に対する興味の始まりに低い関心を示した。

1971年の温暖化と寒冷化の要因に関する論文

1971年7月、S・イチティアク・ラスール (S.Ichtiaque Rasool) とスティーブン・H・シュナイダーによる論文が、雑誌「サイエンス」で発表された。この論文は「大気中の二酸化炭素とエアロゾル:大きく増加する地球的気候への影響」と銘打たれ、将来起こり得る二つのタイプの人間の環境における排出物の影響を模索している。

  1. 二酸化炭素などの温室効果ガス。
  2. スモッグなどの微粒子による汚染。それらの一部はエアロゾルとして数年間大気中に浮遊する。

温室効果ガスは、地球温暖化を促進する本当の要因と考えられそうだが、一方で微粒子による汚染は太陽光をさえぎり、寒冷化を進める。論文において、ラスールと シュレイダーは、予測可能な未来においてエアロゾルは、温室効果ガスよりも気候変動に影響しやすい、と言う説を立て、エアロゾルが四倍になれば、「(地球の)平均気温が3.5°Cも下がりうるだろう。もしこれが何年間か続いたら、このような気温低下は氷河期を引き起こすのには十分なものになりうるだろう」と明言した。 この一節が示すように、ラスールとシュナイダーは地球寒冷化を、将来起こりうる筋書きと考えていたが、寒冷化の「予測」までは行っていなかった。

1974年及び1972年の科学委員会

ワシントン・ポストに発言の一部が掲載された中に、後のエネルギー省長官のジェームス・シュレジンガーは、1974年に米国科学審議会において、米国科学財団の理事会が次の様に明言したことを記している[25]

「過去20年から30年の間、地球の気温は下がってきており(1974年現在)、それも最初は不規則的だったが、ここ十年間ではっきりしてきている」

この内容は正しいものだが(過去の気温変化を参照)、ワシントン・ポストは、この意見に賛成ではなかった。ワシントン・ポストは、審議会がその時よりも二年前に次のようなことを、すでに認識していたと述べた。

「過去の間氷期の記録から判断すると、今の気温の高い時代は終焉を迎えるはずで、(省略)次の氷河期に向かっていくだろう」

しかし、この文章は前後関係を無視した引用で、誤解を生じさせるものであった。完全な文章は以下の通りであった。

「過去の間氷期の記録から判断すると、今の気温の高い時代は終焉を迎えるはずで、(省略)次の氷河期に向かっていくだろう。だがしかし、人間による干渉が環境を変える可能性よりも、気候パターンが予想と違う軌道を描く可能性の方が高く、そうなりやすいとさえ言える(後略)」

1975年の全米科学アカデミーの報告

全米科学アカデミー (NAS) による、更に研究が必要な問題に関しての報告があった[26] 。これは、気候が変化すると言う事実に対して興味を向けた。1975年、NASによる「気候変化の理解。問題と対策」と言う題名の報告は予測を行っておらず、次の事実を述べていた。「我々は、気候のメカニズムや、何が気候の変化を決めているかの定量的な理解がされていない。基礎的な理解を行わずに、気候を予測することは不可能であると考えられる」。その「計画とやるべきこと」は、「気候変動の定量的評価に必要な情報を収集し、十分に調整され期待できる数値モデルの使用することである」ため、更なる研究を単に呼びかけた。

その報告は、更に次のように述べていた。

「地球の気候は常に変化しており、将来もこの変化は間違いなく続く。将来これらの変化がどれだけ大きく、どれだけ広く、どれだけ急速に生じても、我々は知ることはできない」

これは、科学及び環境政策プロジェクト (Science & Environmental Policy Project、SEPP) による発言、「NASの『エキスパート』は、1975年の報告で恐怖で取り乱している」と対立していた[27]

1975年のニューズウィークの記事

これらの議論が科学者の集まりで行われている間、一般メディアではさらに劇的な事態が生じていた。1975年4月28日、ニューズウィークマガジン[28] の「寒冷化する世界」と言う題名の記事が、「地球の気候パターンが変化しつつあると言う不吉な前兆」と言う点や、「1945年から1968年の間の北半球の平均気温が華氏温度で半分になった」と言う点を指摘した。この記事は「これらの(地球寒冷化の)予測を裏付ける証拠は、それを集めるために気象学者が大変な状況になるくらい、現在大量に収集が始まっている」と述べた。「ニューズウィーク」の記事は寒冷化の原因については述べていなかった。ただ、「氷河期の大小の要因が何かと言うのは謎である。」と述べ、NASの結論「基本的な科学的な疑問はほとんど回答できない。ほとんどの場合、我々は根本的な問題に焦点を当てるほど知識が無いのだ。」と言う文章を引用した。

その記事では、「黒いすすに覆われ氷河が解けるか、氷河の進路を変えるか」の2者択一の解を示していた。しかし、これらは実現可能なものではなかった。「ニューズウィーク」の記事は、次の様に政府の指導者を非難する形でまとめていた。「しかし、どこかの政府の指導者が単に食料の備蓄を行うとか、将来の食糧供給の経済的な見通しに気候の不確かの要素を導入するなどの一部の兆しを、科学者は見ている...。もはや計画に(政治家たちに)猶予は無い。気候の変化に対して対抗することが難しいことに気がついた時には、結果は残酷な現実となる」記事は、「飢饉が破滅的に訪れる」、「干ばつと荒地」、「記録上最大規模の竜巻の発生」、「干ばつ、洪水、乾季が延び、長い氷期、雨季の遅れ」、「食料不足で移動もできない」、「惑星が第6番目の氷河期に向かおうとしている」等の扇情的に強調され、出典のない記載であふれていた。

2006年10月23日、ニューズウィークは元の記事から31年たって、訂正記事をまとめた。それは、「近い将来に関して、大きく誤ってしまった」と言う記載から始まる記事であった(編集者のジェリー・アドラーは、「話は『誤って』いなかった、編集者の感覚では『不正確』であった」[29] と述べている)。

1980年のカール・セーガン「コスモス」の放送

科学番組のコスモスの中で、天文学者のカール・セーガンは、森林の焼失と伐採による劇的な寒冷化を警告した。彼は、地球の表面のアルベドが増加することにより、次の氷河期が訪れると主張した。彼は、これは温室効果ガスの放出による効果を打ち消し、逆にそれを越えるものであると述べた。「コスモス」はテレビ放送で有名なシリーズであり、アメリカ合衆国における小中高校生が良く見ていた番組であった[30]

他の1970年代の作品

1970年代後半に、この題材に関していくつかの有名で(ドラマ風の)本が出版された。その一つが「気象に関わる陰謀。次の氷河期がやってくる」(The Weather Conspiracy: The Coming of the New Ice Age)[31] である。

1979年のWMOの会議

10年後(1979年)のWMOの会議において、F・K・ハーレ (F.K.Hare) が以下の様な報告を行った。

「図8は、(中略)、1938年が最も暖かった年であることを示している。『気温』はその後、0.4°C低下した。最終的に、低下は1964年頃に終わり、その後気温は反転した」
「図9は気温の低下が終わりを示し(中略)、明らかに、証拠を今日まで寒冷化よりに重み付けており(中略)、しかし、指摘の点は世界の気温の毎年の変化が傾向より高くなっており(中略)、本当の傾向を見るのは難しい(後略)」
「更に疑問なのは、この傾向が本当に地球規模なのかと言う点である。陸地の面積が1943年から1975年の間の一般的な気温の上昇に関連があるか見るために南半球全体の5年平均の気温の変化を計算した。1960 - 64年の期間は、強く上昇しており(中略)、1938年からの地球規模の寒冷化が続いていると言う仮説に反する南半球のデータが得られた(p.65)[32]

地球寒冷化に伴うその他の影響

1980年代初頭ころから、いくつかのレポートにおいて核の冬について論及されるようになった。また、同様の推測・憶測が天体との衝突やカルデラ火山の破局噴火といった破局的災害の結果としても語られるようになってきた(ただし、クウェート 油田火災が気象に対して重大な効果をもたらすだろう、という推測は間違っていた)。地球温暖化の結果、地球寒冷化が起こると言う考えは、既に1990年代に提唱されていた[33] 。 『スーパーストーム 世界が氷に覆われる日』(アート・ベル & ホイットリー・ストリーバー著)を元に製作されたパニック映画、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)では、地球温暖化による海流の変化が原因で急速な寒冷化が起こる様子(ヤンガードリアス期に起きたとされる出来事に基いたものだが、進行速度などがかなり誇張されている)を映像で表現して注目を集めた。2004年のペンタゴンによる秘密報告書は様々な災害を検討していた[34] [35]

現在の議論と知識の水準

30年後の今(21世紀初頭)では、気温が低下し続け、それが加速するかもしれないという説は誤っていたと見られている。

Thomas C. Petersonらは1975年の寒冷化の主張は科学的に立証されていないと指摘している[9]

今の間氷期の終焉の見込みについていえば(人類による活動が無い場合にのみ有効)、間氷期はかつて10,000年ほどしか続かなかったというのは正しくない。またミランコビッチモデルを用いると、現在の間氷期はおそらく数万年間続くと予想できる[36] 。別の予想(ルートルとベルガーの軌道計算に基づいて)では、現在の間氷期は外乱が無い場合5万年の長さとされている[37]

1900年以降は、火山の噴火や太陽からの輻射といった自然のサイクルによる気温の変化よりも、人為的要因による気温上昇幅の方が大きい[38] 。人類の活動による影響が無ければ現在の世界の平均気温は1950年代以下であったと見られるが[39] 、実際には世界の平均気温は上昇を続けている[39] [4] 。 また今後の変化についても、主要な気候モデルの全てにおいて、少なくとも今後100年程度のスケールでは気温の上昇が続くと見込まれている[6] [7]

懐疑論

丸山茂徳槌田敦らは長期的には寒冷化が続いていると主張している[40] [要検証 ノート ]が、彼ら自身のインパクトファクターが付与されるような学術論文が論拠として示されている訳ではない。また上記のような近年の科学的結論によって否定されている[1] [2] [3] [4] [6] [7] 地球温暖化に対する懐疑論も参照のこと。

地球寒冷化をテーマにした作品

脚注

  1. ^ a b IPCC第4次評価報告書 統合報告書 概要(公式版)
  2. ^ a b J. Jouzel, V. Masson-Delmotte, O. Cattani, G. Dreyfus, S. Falourd, G. Hoffmann, B. Minster, J. Nouet, J. M. Barnola, J. Chappellaz, H. Fischer, J. C. Gallet, S. Johnsen, M. Leuenberger, L. Loulergue, D. Luethi, H. Oerter, F. Parrenin, G. Raisbeck, D. Raynaud, A. Schilt, J. Schwander, E. Selmo, R. Souchez, R. Spahni, B. Stauffer, J. P. Steffensen, B. Stenni, T. F. Stocker, J. L. Tison, M. Werner and E. W. Wolff,Orbital and Millennial Antarctic Climate Variability over the Past 800,000 Years, Science 10 August 2007, Vol. 317 no. 5839 pp. 793-796.
  3. ^ a b Michael E. Mann, Zhihua Zhang, Malcolm K. Hughes, Raymond S. Bradley, Sonya K. Miller, Scott Rutherford and Fenbiao Ni, Proxy-based reconstructions of hemispheric and global surface temperature variations over the past two millennia, Proceedings of the National Academy of Science(PNAS), September 2, 2008, vol. 105, no. 36, 13252-13257.
  4. ^ a b c 世界の年平均気温の偏差の経年変化(気象庁)
  5. ^ Berkeley Earth Sruface Project(温暖化に懐疑的立場より資金提供を受けて行われたプロジェクト)
  6. ^ a b c Climate Change 2007: Working Group I: The Physical Science Basis, 10.ES, Mean Temperature, IPCC AR4
  7. ^ a b c ココが知りたい温暖化:寒冷期と温暖期の繰り返し(地球環境研究センターによる解説)
  8. ^ 世界の年平均気温の偏差の経年変化、気象庁
  9. ^ a b Peterson, Thomas & Connolley, William. "The Myth of the 1970s Global Cooling Scientific Consensus(1970年代の地球寒冷化の科学的な一致に関する伝説)". American Meteorological Society. 2008年4月12日閲覧。
  10. ^ "Science Past from the issue of May 9, 1959". Science News: p. 30. (May 9, 2009). http://www.sciencenews.org/view/generic/id/43155/title/Science_Past_from_the_issue_of_May_9%2C_1959  
  11. ^ その期間の実際の二酸化炭素増加量は29%である
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関連項目

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参考文献

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外部リンク

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