西郷隆盛書簡 1巻
近・現代
(さいごうたかもり しょかん) 個人蔵
法量 縦 15.8cm ×ばつ 横 475.0 cm
薩摩藩(現:鹿児島県)出身の西郷隆盛(1823〜1877)は、江戸幕府を倒し、明治維新を成し遂げた中心人物として有名です。大久保利通・木戸孝充とともに「維新の三傑」と呼ばれ、幕末から明治の歴史を学ぶ時には、必ずと言っていいほど登場する人物です。
本書簡には、年次記載や宛名はありませんが「西郷吉之助」の自筆署名があり、明治5年(1872)岩倉具視や大久保利通らの政府高官が欧米に大規模な外遊を行った際、「留守政府」首班として日本の政治を守っていた西郷から在米の大久保へ出されたものと考えられます。
内容は、主として大久保出発後の国内状況や島津家の内情などを報告するもので、尚々書き(追伸)に大久保の肖像写真について「醜体」と批判する記述もあり、西郷の写真嫌いを象徴する発言としてしばしば引用されてきました。昭和2年(1972)刊行の『大西郷全集』第2巻に写真図版付きで紹介され、豊富な情報を伝える一級史料として知られますが、その後原本の所在が不明となっていました。
令和5年(2023)9月、新しく大津市の個人から当館に寄託を受けた文化財の中に、本書簡が含まれていました。『大西郷全集』所収の写真と比較したところ全く同じものであり、均一の行間で書かれるなど筆跡の特徴が一致し、西郷自筆の原本であることが確認できました。
※(注記)写真をクリックすると、拡大画像を見ることができます。
また実弟の西郷従道が書いた、兄の真筆に疑いないとする「鑑定書」が同一巻子の中に表具され、保存箱の中には京都府の政治家・坪田光蔵から服部岩吉(1885〜1965・滋賀県民選初代知事などを歴任した政治家)へ寄贈する旨の書簡が附属しています。それらのことにより、所在不明であった間の文化財の伝来過程についても知ることができます。
約100年ぶりに滋賀で再発見された西郷隆盛書簡。真作かつ正本(自筆原本)であり、内容的にも日本近代史研究上の一級史料として紛れなき逸品です。
( 井上 優 )
【掲載】滋賀県立琵琶湖文化館 研究紀要第40号 「再発見した西郷隆盛書簡とその伝来について」井上優
※(注記)「西郷隆盛書簡」は、
〇令和6年(2024)5月27日〜9月26日 会場:滋賀県立公文書館
「幕末を生きた人々の残像〜公文書に残る直筆書簡〜」
〇令和6年(2024)9月21日〜11月24日 会場:(公財)日本習字教育財団観峰館
「滋賀限定!近江ゆかりの書画-古写経から近代の書まで-」
に出展しました。