すらりとした細身の体躯に、目鼻立ちの大きな頭部を表しており、まるで童子を思わせるかわいらしい観音像です。丸く立ち上がりの低い宝髻を表し、その周囲に頭上面を配しています。しかし頭上面は全て後補のものに変わっており、また後方の二面を失っているため、現在は仏面を含めて九面のみが残されています。板状の耳には、鬢髪が二条渡っており、その髪を耳前方で束ねるようにみせる表現が特徴です。
体部はすっきりとした細身で、右足をやや前に出し、腰を僅かに左方にひねって優美な姿勢で立っています。両肩から下がる天衣や、条帛、腰布には直線的な衣文が刻まれ、条帛の先端や裙の折り返し部などには波打つような衣文が刻まれ、リズム感のある表現になっています。
髻から像底までを通し、両上膊を含んで木心を後方に外した縦木一材より彫出しており、内刳りは施していません。そのため、表面にはやや干割れの跡が見られます。また、像の表面には、かなりの部分に火を受けた痕跡があり、特に像の正面下方に顕著に見られます。往事、寺院に火災があり、助け出された際に受けたものと考えられます。
抑揚の押さえられた表現や、体奥の薄い表現など、平安時代後期の要素が見られますが、耳の造形や、着衣のあっさりとした表現など、やや古様な表現もみられ、おおよそ制作年代は11世紀の半ばごろと考えられます。
もっとも近江らしい仏像の一つといえる十一面観音像にあって、本像にはやや地方的な影響が強くあり、在地の仏師によって造像されたことが予想されます。近江における十一面観音信仰の広がりを知る上でも貴重な仏像です。
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Wood
Heian period (11th century)
Height 107.6cm
Chouhuku-ji,Hino,Shiga