読書ガイドのコーナー
この読書ガイドは、5月に行なわれたPD会議で、現在の生存学ホームページにおける書誌情報をもっと体系化して初学者に優しいページを目指そうという試みとして、作ることが決定されたものです。
意見がしばしば食い違う個性溢れるPDの面々が全会一致で採択したという意味では、おそらく生存学ホームページにとっても有意義なものになるであろうことを信じております。
なお作成者(坂本 徳仁)の専攻する経済学とはほとんど関係のない読書案内になっておりますのでご了承(ご安心?)ください。
1.経済学のことを紹介しても先端研にやりたい人がいないから無意味。
2.経済学を独りで学ぶのは不可能に近いし、危険ですらある。
という理由から本格的な経済学は紹介しないことにしました。
以下で案内する文献は全て、
1.「科学的に分析する、考える力を付ける」のに適したもの。
2.「自分の分野の欠陥は何か、どこが批判されるべきなのか」を考えさせてくれるもの。
3.「自分の研究をより魅力的にするにはどうしたらよいのか」方向性を示してくれるもの。
という教育的配慮から選んだつもりです。
■しかくでは、まず思想系の方にオススメの本。
◆だいやまーくハリー・フランクファート
『ウンコな議論』
◆だいやまーくソーカル&ブリクモン
『「知」の欺瞞』
◆だいやまーく稲葉・松尾・吉原
『マルクスの使いみち』
◆だいやまーくウィル・キムリッカ
『新版 現代政治理論』
◆だいやまーくジョン・ロールズ(ハーマン編)
『ロールズ哲学史講義』
◆だいやまーくJohn Rawls, ed. by S. Freeman,
Lectures on the History of Political Philosophy
上の本はどれも非常に面白いのですが、きっちり勉強したい方にはキムリッカとロールズの本をすすめます。哲学の勉強を進める際は、たくさんの本を濫読するよりも、読む価値のある本を一文一文じっくり丹念に気を長くして挫けそうなときにも雨の降るときにも風の吹くときにも槍の降ってくるときにも諦めず頑張って読むことの方が大事だと思います。頑張ってください。
余談ですが、『ロールズ哲学史講義』はカントを中心とした「道徳哲学」の歴史に関するテキスト、
Lectures on the History of Political Philosophyは西洋の政治哲学(主に社会契約論)の歴史に関するテキスト、
キムリッカ『新版 現代政治理論』はロールズ以降の現代政治哲学に関するテキストになっており、各々が思想案内として非常に役立ちます。
■しかく続いて質的調査を行なう方にオススメな本。
◆だいやまーくロバート・アーリック
『トンデモ科学の見分けかた』
◆だいやまーくレビット&ダブナー
『ヤバい経済学(増補改訂版)』
◆だいやまーくイアン・エアーズ
『その数学が戦略を決める』
◆だいやまーくビョルン・ロンボルグ
『環境危機をあおってはいけない』
質的調査をやる研究者が何人か知り合いにいますが、気になる傾向がいくつかあります。特に大きな問題として感じられるのは、
1.データに基づく分析に対する無知・軽視の傾向。
2.乱暴な一般化の傾向、及び他の事例・計量研究との整合性や体系性に対する考慮の無さ。
3.データ化不可能なものは質的調査に頼る他ないという信念。
4.客観的知見の構築ではなくイデオロギー的信念の叙述に堕してしまう傾向。
の4点です。
このような問題を意識的に排除して誠実に研究をされている方もいらっしゃいますが、そうなるためにも上の本は様々な視点を提供してくれるはずです。
■しかくフェミニズム系の方にオススメな本
◆だいやまーくスティーヴィン・ピンカー
『人間の本性を考える』
◆だいやまーくソーンヒル&パーマー 『人はなぜレイプするのか』
◆だいやまーくディリー&ウィルソン
『人が人を殺すとき』
◆だいやまーくBlau, Ferber & Winkler,
The Economics of Women, Men, and Work, 5th ed.
◆だいやまーくジャレド・ダイアモンド
『銃・病原菌・鉄』
フェミニズム系の方々で気になるのは、全ての問題を「何某かの脱構築」に還元しようとする傾向性です。また、ポスモダの悪しき伝統も重なって歴史的事実や資料、既存の理論に対する丁寧な調査・検証・分析も行わずに極端な結論を導きだそうとすることにも他分野の研究者はウンザリさせられています。男女がともに豊かな生を享受できるような社会を作っていくためにも地道で真に分析的な研究が求められています。そのためにも、フェミ系の方々には上述の本を読むことをおすすめします。
■しかく貧困問題系の方にオススメな本
◆だいやまーくアマルティア・セン 『自由と経済開発』
◆だいやまーくジェフリー・サックス
『貧困の終焉』
◆だいやまーくウィリアム・イースタリー
『エコノミスト 南の貧困と戦う』
◆だいやまーくWilliam Earsterly,
The White Man's Burden
途上国の貧困問題に関する分析は、残念ながらマルクスやその後の潮流を組む分析が一部横行していて、あまり生産的ではない議論も見受けられます。また、開発学系の研究も残念ながら、あまり意味のない反省会チックなものが多く、分析的かつ実証的な研究が強く求められています。
(例えば、「途上国のあなたと先進国のわたしが互いに理解しあえるように頑張る!」的な分析は、貧しい人々にとってはどうでもいい問題です。そんなことより「金くれよ」が彼・彼女らの本音でしょう。他にも「ドナーの資金獲得手続きがめんどいぜ」や「NPOの内部事情・けんか話」的なものは貧困問題にとって何ら本質的なものではありません。NPOのNPOによるNPOのための研究でしかないのです。)そんなところで悶々としている方には上の本がおすすめかと思います。
*作成:
坂本 徳仁