半世紀ぶりの政策転換の"チャンス"を確実に活かすために(後編)
氏家憲章
3.ベルギーの「病院改革」
「病院改革」は政策転換時の「経営問題」と「雇用問題」を解決する政策です。
(1)「病院改革」のポイント
在院患者を地域に移す(政策転換)には、地域の受け入れ態勢の整備など年単位の時間が必要です。ベルギーは日本と同様に病院への支払いは「出来高制」(患者数に合わせて入院料を支払う)です。在院患者減に伴う長期間の入院収入の減収は、病院経営に大きな影響を与えるため、病院経営者は政策転換を理解しても躊躇します。「病院改革」はこの問題を解決する政策です。精神病院が国の政策転換の方針に従って病床を削減する時、1国は、病院へ廃止する病棟の定床分の入院料全額を5年間補償します。病棟の患者が"減ってもゼロになっても"定床数の入院料を全額支払います。入院料補償は5年でなくなりますが、6年目からは「アウトリーチ(ベルギーでは「モバイルチーム」)の取り組みに"入院料補償分"全額が支払われます。病院にとっては、入院料収入が外来収入(アウトリーチの取り組み)に替わることです。国の精神医療費総額は変わりません。お金の使い方を変えたのです。2病院は廃止する病棟の職員で「アウトリーチ」を設置します。発病から1か月間毎日訪問する「急性期のチーム」と1ヶ月以降も支援が必要な人には週に2〜3回訪問する「慢性期のチーム」です。精神病院が数万人の人口のキャッチメントエリア(責任地域)の精神医療に責任を持って対応します。精神病院が入院中心から地域ケア中心へ機能転換です。病院職員は「アウトリーチチーム」に移っても、職員の身分も待遇も精神病院のままです。アウトリーチチームに移る職員には、安心して地域で働けるように年間7千万円(日本の人口換算で)使用し研修をしています。
(2)「別の道」を知っていたベルギーの医療労働者
ベルキー視察時、私はベルギーの医療労働組合の役員と懇談しました。組合役員は『ベルギーは日本と同様に、精神医療政策も精神医療の実態も入院中心の精神医療です。しかし、私たちは30年前から"地域ケア中心の精神医療"を願っていた。その思いは年々高まっていた。ベルギー政府が2010年からの「病院改革」を発表した時、「私たちの思いが実現した」と思った』と語りました。また『ベルギーは首都のブリュッセルからパリやベルリンには日帰りで行ける。イギリスには飛行機で2時間、EUには国境がないので自由に行き来できる。そのためあらゆる情報は自然に入ってくる。精神医療も同じ、私達は30年前から地域ケア中心の精神医療の認識ができていた』と語ったことに驚きました。日本では、精神医療関係者だけでなく、日本の社会も、地域ケア中心の精神医療について認識の共有ができていません。この違いは、半世紀前から地域ケア中心の精神医療へ転換した周辺国があるベルギー、周辺国がないため情報が入らない日本と、地域性の違いを痛感しました...
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