安保法制の成立後10年に当たっての会長談話
集団的自衛権の行使等を容認する安全保障法制関連法(以下「安保法制」という。)が2015年9月19日に成立してから10年が経過した。
当連合会は、集団的自衛権の行使等を容認する安保法制及びこれに先立つ2014年7月1日の閣議決定に対し、政府が長年にわたって確立してきた憲法第9条の解釈を変更し、法律や閣議決定によってその行使等を容認することは、憲法の立憲主義の基本理念、恒久平和主義及び国民主権の基本原理に反することを、繰り返し指摘した。また、後方支援の拡大や武器使用の拡大等の立法も、自衛隊が海外において武力の行使に至る危険性を高めるものとして、同じく憲法に違反することを指摘し続けた。
当時、当連合会や全国の弁護士会、弁護士会連合会のみならず、多くの憲法学者、歴代の内閣法制局長官、さらには元最高裁判所長官を含む最高裁判所判事経験者が安保法制の違憲性を指摘し、また、多くの人々がデモや集会に参加するなど、安保法制に反対する動きは全国的に大きく広がった。しかしながら、こうした民意を無視し、審議を尽くさないまま、採決が強行され、安保法制が制定されてしまった。
そして、政府はこの安保法制を前提として、2022年12月に、新たな国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画を閣議決定し、敵基地攻撃能力ないし反撃能力の保有に向けた取組を進めた。更に、防衛装備移転三原則及びその運用方針を大きく改正して、ミサイルや戦闘機など殺傷能力を有するものを含めた武器の輸出を大幅に拡大するなどしてきている。当連合会は、これらについても反対の意見等を表明してきたところである。
世界に目を向けると、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻、2023年10月からのハマス等とイスラエルとの間における紛争など、各地で深刻な武力紛争が生じている。そこでは、核兵器の保有を背景とした威嚇も行われており、核兵器使用のリスクも高まりつつある。
軍事力の行使によって世界に混乱、不安が生じている今こそ、日本政府は軍事力に依拠するのではなく、世界において先駆的意義を有する日本国憲法が掲げる恒久平和主義、法の支配、国際協調主義の原理に基づき、国際平和の維持のために最大限の外交努力を尽くすべきである。
安保法制が成立して10年を迎えるにあたり、当連合会は、改めて、安保法制が憲法の基本理念と基本原理に違反するものであることを表明し、その適用・運用に反対し、その廃止・改正を求めるとともに、今後も、立憲主義及び民主主義の下、平和を実現するための取組を市民と共に進めていくことを決意するものである。
2025年(令和7年)9月29日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子