障害認定基準等を見直し、障害年金について公平な制度の構築を求める会長声明


2024年度に障害年金の不支給が増加した問題に関し、厚生労働省年金局は、本年6月11日付けで「令和6年度の障害年金の認定状況についての調査報告書」を公表した。これによると、2024年度の新規請求のうち非該当割合は13.0%と過去最高の水準であり、とりわけ、精神障害の非該当割合は、2023年度が6.4%であることに対して、2024年度は12.1%と約2倍の水準になっている。さらには、「精神障害事案の国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(以下「精神ガイドライン」という。)における障害等級の目安よりも下位に認定された割合は、2023年度が44.7%であるのに対し、2024年度は75.3%に急増している。このことから、2024年度では不適切な判定がなされていたことが疑われる。


上記調査報告書は、2024年度以降の不支給事案について点検をし、必要な場合は処分を取り消し、改めて支給決定を行うとしている。当連合会は、国に対し、国民年金・厚生年金保険障害認定基準(以下「障害認定基準」という。)及び精神ガイドラインに照らして不適切な判定がなされている事案について、徹底した救済を行うことを求める。


そもそも、今回のような恣意的な不支給であると疑われる事象が発生した根本的な要因の一つは、医学モデルに依拠し、障害者の生活実態からかけ離れた障害認定基準にある。国が年金改革を2025年に実施する方針を打ち出したことを踏まえ、当連合会は、2024年4月19日付けで「障害年金制度の認定基準に係る早急な見直しを求める意見書」を公表した。そこでは、障害年金が重要な社会保障上の権利であるにもかかわらず、本来受給権を有する者の受給権が不当に侵害されている現状を早急に改善するよう求めたところである。


ところが、2025年の年金改革の在り方を議論した厚生労働省の社会保障審議会年金部会において、24回の会議のうち、障害年金制度の改革について触れたのは、わずか2回程度であった。その結果、2024年12月25日に公表された「社会保障審議会年金部会における議論の整理」では、障害年金については論点の指摘がなされ、「様々な課題について引き続き検討するべきである」とされるにとどまった。


その後、2025年6月13日に国民年金法等の一部を改正する等の法律が成立したが、障害年金については触れられず、「恣意的な判定がなされないよう透明性を確保するための検討を行い必要な措置を講ずる」、「医学モデルのみならず社会モデルも踏まえて、機能障害のみならず、日常生活の状況等を把握した上で障害等級の認定を行う」等の附帯決議が採択されただけであった。


このような状況を踏まえ、当連合会は、少なくともこれらの附帯決議を直ちに実施するべく、国に対し、厚生労働省内に障害認定基準等の様々な課題について検討する専門家検討会等を設置し、具体的な期限を設けた上で障害認定の在り方を見直し、障害年金の判定の透明性が確保され、支給・不支給が恣意的判断に委ねられることなく、障害年金の受給権が不当に侵害されることのない公平な制度を構築することを強く求める。



2025年(令和7年)7月10日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子

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