公益通報者保護法の一部を改正する法律の成立に対する会長声明
2025年6月4日、公益通報者保護法の一部を改正する法律が参議院本会議で可決され、成立した。本改正には、公益通報を理由とする解雇及び懲戒処分に対する刑事罰の導入、通報後1年以内の解雇又は懲戒について公益通報を理由としてされたものと推定する制度の導入、保護すべき「公益通報者」の範囲拡大(フリーランスの追加)、従事者指定義務違反への是正命令及び同命令違反時の刑事罰の導入、公益通報者を探索する行為及び公益通報を妨害する行為の禁止、一般職の国家公務員等について公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱いの禁止及びこれに違反して分限免職又は懲戒処分をした者に対する直罰制度の新設等、本法の実効性を高めるために必要な内容が盛り込まれており、これらの点については高く評価するものである。民間事業者、国・地方自治体においては、本改正を踏まえ、実効的な公益通報者保護がなされるよう体制整備を行うことが急務である。なお、法案審議中の2025年5月22日、消費者庁は、各地方自治体の長に対し、地方自治体における公益通報者保護法に係る対応の徹底について、地方自治法第245条の4に基づく「技術的助言」としての通知を行い、外部通報者を含めて公益通報者の保護に必要な措置をとることが求められていることを明らかにするなど、本法の解釈をより一層明確にしており、その内容も参考にすべきである。
他方で、今回の改正においても、1配置転換や人事権行使としての降格について公益通報を理由としてされたものと推定する立証責任転換の規定、2公益通報をするために必要な資料収集や持出行為に対する民事・刑事上の免責規定、3解雇・懲戒処分以外の不利益取扱いに対する刑事罰の導入、4従事者指定義務以外の体制整備義務違反に対する是正命令及び同命令違反時の刑事罰の導入、及び5フリーランス以外の取引先事業者等を保護すべき「公益通報者」に加える規定等が盛り込まれておらず、公益通報者保護制度としてはいまだ不十分な内容であると言わざるを得ない。また、公益通報者に過度に負担が偏った状態を是正するため、補償制度や報奨金制度等、公益通報者の経済的負担を解消し、インセンティブを付与する制度を導入することの検討も必要である。
よって、当連合会は、施行後3年を目途として行われる見直しの際に、本改正に盛り込まれなかった上記の点について更に議論を深めた上で、これらを実現することを求める。
2025年(令和7年)6月19日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子