第7次エネルギー基本計画を受けて、政府に対し、改めて脱原発のエネルギー政策を求める会長声明


政府は、2025年2月18日、第7次エネルギー基本計画を閣議決定した。第7次エネルギー基本計画においては、2021年の第6次エネルギー基本計画に記載された「可能な限り原発依存度を低減する」との文言が削除され、「原子力」についても「最大限活用していくことが極めて重要となる」との記載が加わった。また、2040年度の電源構成に占める原子力の割合について「2割程度」とされており、既存の原子力発電所(以下「原発」という。)及び建設中の原発が全て稼働することが前提とされている。さらには、既存の原発の積極的な活用だけでなく新たな炉の設置など、建て替えについても具体的に進めていくとしている。


以上のような第7次エネルギー基本計画は、原発回帰のエネルギー政策であると言わざるを得ない。


政府は、第6次エネルギー基本計画策定以降の状況変化として、経済安全保障上の要請の高まり、電力需要の増加の可能性及び脱炭素化などを指摘している。しかし、日本が地震多発国であることや福島第一原子力発電所事故(以下「福島原発事故」という。)の被害の甚大さなどを考慮すれば、このような政府の指摘は原発回帰のエネルギー政策を正当化しうるものではない。脱炭素化については再生可能エネルギーを積極的に活用することで実現すべきである。


日本は福島原発事故を経験したが、同事故から14年経過した今も、多くの住民が避難生活を余儀なくされるなど、被害は続いている。福島原発事故後、新規制基準が制定されたが、当該基準を満たすことが原発の安全性を担保するものではないことは、原子力規制委員会も認めているところである。また、福島原発事故の際に多くの被害者が直面した避難の問題については、多くの原発において、避難計画の不備や実効性のある避難計画の策定自体が極めて困難であることが指摘されている。


加えて、原子力は決してクリーンなエネルギーではない。原発は、運転時にCO2を排出しないと言われるが、ウラン原料の採掘・製錬・転換・濃縮工程を経て、発電に使用できるウラン燃料へと加工するまでの電力消費や、運搬時のCO2排出量、さらには廃炉や再処理、放射性廃棄物の処分・管理までのライフサイクル全体で評価すれば相当程度のCO2を排出する。また、言うまでもなく、原発の運転により発生する高レベル放射性廃棄物は極めて有害であり、ひとたび事故が発生した際の放射能による汚染は広域かつ長期にわたることからも、原発の環境負荷は極めて大きい。


そもそも、日本における原発稼働の前提とされている核燃料サイクルは、その中核となる高速増殖炉「もんじゅ」の廃止措置計画が2018年3月に認可され、六ヶ所再処理工場も稼働できない状況にあり、既に破綻している。使用済み核燃料の再処理技術、再処理後に残る高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の処分方法もいまだ確立されていないのである。


政府及び原子力発電環境整備機構(以下「NUMO」という。)は、高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設地選定のための調査を進めているが、現時点では概要調査も行われておらず、既に文献調査を受け入れた自治体についても地域住民や近隣自治体からの反対があり、最終的に処分場建設地が選定されるかどうかは全くの未定である。


また、高レベル放射性廃棄物は長い期間にわたって強い放射線を出し続け、原料のウラン鉱石と同程度の放射能レベルに低下するまでに約10万年を要する。高レベル放射性廃棄物は、既に膨大な量に達しており、それを無害化する現実的な技術はない。政府及びNUMOは地層処分とする方針であるが、世界有数の地殻変動帯に位置する日本において、放射能レベルが十分に低下するまで安全かつ地層深くに隔離できる場所があるかどうかは極めて疑問である。少なくとも現在の科学的・技術的知見では数万年にもわたる安全性を確認できる状況にはなく、今の世代だけではなく将来の世代の生命、身体及び健康の安全を守ることを第一に考えれば地層処分の方針は撤回すべきである。


当連合会は、2013年10月4日付け「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」、2021年6月18日付け「原子力に依存しない2050年脱炭素の実現に向けての意見書」、2021年9月29日付け「第6次エネルギー基本計画(案)に対する意見書」及び2022年9月30日付け「高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める決議」を公表し、エネルギー政策において原子力に依存することに反対し、核燃料サイクルからの撤退を求めてきた。


しかしながら、政府は上述のとおり、今も続く福島原発事故の被害や原子力発電の危険性に十分に目を向けないままに、原発を積極的に活用する方針へ転換しようとしている。


当連合会は、第7次エネルギー基本計画が策定されたことを受けて、改めて政府に対し、原発の再稼働及び新増設を行わないこと並びに既存原発をできる限り速やかに廃止することを求める。



2025年(令和7年)3月27日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子

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