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VOL.207 SEPTEMBER 2025
THE MUSICAL INSTRUMENTS AND MUSIC CULTURE OF JAPAN 歌舞伎の舞台に迫力を与える音の世界

獅子が親子で長い毛を振り舞う、歌舞伎舞踊「れん獅子じし」の様子。舞台上での長唄と鳴物の演奏。
Photo: 国立劇場

歌舞伎の舞台は、感情や場面の変化、自然の気配まで、歌や楽器などの生演奏で表現される。歌舞伎に欠かせない楽器や演奏者の役割など、音の演出について、歌舞伎を上演している国立劇場1を運営する独立行政法人日本芸術文化振興会の担当者に話を聴いた。

仮名手本かなでほん忠臣蔵ちゅうしんぐら」の舞台の様子。上手かみて2竹本たけもと3が見える。
Photo: 国立劇場

歌舞伎は、日本を代表する伝統芸能として400年以上の歴史をもち、音楽と踊り、演技が一体となった総合芸術である。2008年にはユネスコ無形文化遺産にも登録された。

「歌舞伎は、出雲阿国いずものおくにという女性が創始したかぶき踊りと呼ばれる芸能を起源とし、女性の役をつとめる俳優を「女方おんながた」、男性の役をつとめる俳優を「立役たちやく」と呼び、男性が全ての役を演じる演劇として発展してきました。美しい姿勢で静止して観客の注目を集める、や、独特の化粧法である隈取くまどり4、一瞬で衣裳を替える「早替り」など、独自の表現が特徴です。舞台では、こうした俳優の演技や所作、表現方法だけでなく、演奏者による音楽や音の演出が重要な役割を果たしています」と、日本芸術文化振興会(国立劇場)の担当者は語る。

歌舞伎の音楽は、大きく分けて唄物うたものと語り物に分けられる。唄物は、唄と三味線しゃみせん5による「長唄ながうた」という音楽がそれに当たるが、これに、小鼓こつづみ大鼓おおつづみ、太鼓、笛からなる「四拍子しびょうし」を中心として囃子はやしを担当する鳴物なりものの演奏が加わり、登場人物の感情や場面を音で引き立てている。語り物は浄瑠璃じょうるりとも言われ、三味線を伴って物語の内容を伝える音楽だ。代表的なものとして竹本たけもと3は多くの演目で芝居の進行を支えている。

これらはBGMとしての伴奏音楽のみならず、物語や舞踊の進行を支える音楽でもある。演奏形式は演目や場面によって異なるが、長唄と鳴物の場合は、芝居では下手のくろ御簾みす6と呼ばれるすだれ越しの小部屋で音を奏でる。舞踊では囃子ばやしといって舞台上に演奏者が姿を見せて演奏することもある。


下手のくろ御簾みす内部の様子。
Photo: 国立劇場

竹本。語りを担当する太夫たゆう(左)と三味線(右)。
Photo: 国立劇場

また、竹本の場合は、主に上手のゆかと呼ばれる一段高くなった台の上で語り(ナレーション)を担当する太夫たゆうと三味線がセットで姿を見せて演奏する。

鳴物の中には四拍子の他にも大太鼓をはじめ数十種類もの楽器があり、雨、風、雷や波の音などの自然描写でも活躍するほか、時を告げる鐘の音などの効果音も担う。


四拍子しびょうし。左手前から時計回りに笛、小鼓こつづみ大鼓おおつづみしめ太鼓だいこの一例。
Photo: ISHIZAWA Yoji 撮影協力: 国立劇場

「このほかにも、音響効果と言って貝殻の表面を擦ってカエルの声を表現したり、小豆あずきを入れた竹製のかごを動かして波の音を表現したりと、劇場の音響スタッフもいろいろな道具を活用して芝居を盛り上げています」。


竹製の笛など、効果音の道具の一例。
Photo: 国立劇場

小豆の入ったかごを動かして波の音を出す。
Photo: 国立劇場

演奏者の姿や、演技にぴたりと重なる音の表現に耳を澄ませば、これらの音楽が単なる背景ではなく、物語の世界観を描き出す大切な一部であることが感じられるだろう。

歌舞伎は東京都、大阪府、京都府などで定期的に上演する劇場があり、東京都にある国立劇場の主催公演でも鑑賞することができる。「言葉がわからなくても、音で伝わるものがあります。海外の方が鑑賞されると、俳優の独特のエモーショナルな演技や物語のテーマに感動した、衣裳やメイクなど視覚的に素晴らしい、生演奏の音楽を楽しんだ、など様々な感想をお寄せいただいています。生で演奏される音は雰囲気に迫力と臨場感をもたらします。耳からも歌舞伎を感じ、楽しんでほしいですね」

海外の方向けには、歌舞伎について8カ国語で解説されているサイトがあるほか、ほとんどの公演で英語のイヤホンガイドの貸し出しがある。こうした鑑賞サポートもぜひ利用するとよいだろう。

俳優と演奏者の稽古の様子を描いた当時の絵「さんやぐら稽古けいこ大会おおよせ」。
所蔵: 国立劇場

  • 1. 伝統芸能の保存・振興を担う国立の劇場(再整備等事業のため閉場中)。閉場期間中も東京近郊の劇場にて主催公演を行なっており、2025年9月の公演では、名作「仮名手本忠臣蔵」を新国立劇場(東京都渋谷区)で上演している。
  • 2. 舞台用語。観客から見て舞台の右手を上手かみて、左手を下手しもてという。
  • 3. 歌舞伎における語り物の音楽を担当。語り手の太夫たゆうと三味線演奏の三味線方で構成。
  • 4. 登場人物の性格や感情、役柄を象徴的に表すため、顔全体を一色で塗ったり潰した上から、鮮やかな色を用いて描く歌舞伎独特の化粧法。
  • 5. ばちで3本の弦を弾く日本の伝統的な弦楽器。棹の太さによって細棹・中棹・太棹に分類される。(参照:和楽器ユニットが切り拓く音の未来 | September 2025 | HIGHLIGHTING Japan)
  • 6. 細い竹や木の棒を並べて糸で編んだすだれがかかった、舞台下手に設けられた黒い小部屋。外側から中の様子は見えにくいが、黒御簾からは舞台がよく見え、芝居の進行に合わせて演奏ができる。

By TANAKA Nozomi
Photo: ISHIZAWA Yoji; National Theatre

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